ペルー政治情勢 2008年

2月の内政と外交


1 概要
(1)内政面では、教員採用方法を巡る中央政府と地方政府の対立、肥料の値上げへの対応を要求する農業関係者による死傷者を伴う大規模デモ、法律を巡るクスコ州における抗議、クスコ州のAPEC開催地からの除外決定等、事件の多い一ヶ月であった。
(2)外相がアルゼンチン、パラグアイを訪問し、南米諸国とアラブ諸国の関係強化他、ペルーとの二国間関係強化に努めた。対日関係では、在名古屋ペルー領事館が正式に開館した他、国立図書館への視聴機器機材整備計画への署名式が行われた。
(3)フジモリ元大統領に対する裁判は、週3日、大きな障害も無く行われており、証人による証言が続いている。

2 内政
(1)フジモリ政権期の閣僚に対する有罪判決
 5日、リマ高裁第二反汚職法廷は、フジモリ政権期のホルヘ・バカ・カンポドニコ元経済相に対し、執行猶予付禁錮4年の判決を言い渡した。さらに、国家に対する賠償金1万ソル(約3千米ドル)、国税庁に対する賠償金1万ソル(約3千米ドル)、3年間の公職禁止、罰金270日分を命じた。

(2)車検の中止
 6日、カスタニェダ・リマ市長は、車検を委託していたリデルコン社との契約失効を理由に、リマ市内で実施されていた車検の中止を発表した。昨年9月に開始した車検システムは、半年で終了することとなった。

(3)官公庁の休日発表
 7日付官報は、官公庁の休日を定めた大統領令を公布した。5月2日と12月26日を全国規模の公官庁の休みと定めた他、5月15〜17日、11月20〜22日は、中南米EUサミットとAPEC首脳会議に合わせ、リマ市とカリャオ市は、公的部門だけでなく一般企業も併せて休日とする旨定めた。

(4)アルベルト・ブスタマンテ元首相の死去
 7日、アルベルト・ブスタマンテ元首相が、議会の外務委員会における顧問職の勤務中に心臓麻痺により58歳で亡くなった。同元首相は、フジモリ政権第二期に首相兼法務大臣を務めた。また、2004年にモンテシノス元国家情報局(SIN)顧問の自宅の違法な家宅捜査(allanamiento)の件で、事実隠蔽の罪で執行猶予付禁錮2年、賠償金5万ソル(約1万7千米ドル)支払いを命じられた。

(5)教員雇用を巡る中央政府と地方政府の対立
 大統領令No.004-2008-ED(雇用する教員を大学教育学部等の成績の上位3分の1に限定)を巡り、地方政府と中央政府で意見の対立があった。デル・カスティーリョ首相は、州知事等との対話の機会を設けて、同令の正当性を主張した。後に、補足案として教員能力採用試験にて成績が20点満点中14点以上の場合は、採用、また11点以上の場合も、採用の対象となるよう譲歩した。(3月9日、教員能力評価採用試験が実施された結果、約18万人が試験を受け、151名のみが14点以上を得た。)

(6)クスコ住民の法律に反対する抗議運動
 6日、議会の常任委員会にて法律第29164号(文化遺産における持続的観光開発促進法)を廃止する第一回目の投票が行われた結果、廃止への賛成票が多数となった。しかし、7日、クスコ住民は、廃止に向けた意思表示のため、道路封鎖等の抗議運動を行った。13日にも無期限ストライキ(抗議運動)を予定していたが、同日の第二回目の投票同日の2回目の投票結果待ちとなった。第2回投票の結果、廃止反対が多数を上回り、右法は廃止されないことが決定された。その結果、18日、農民によるデモに合わせて抗議運動を実施し、空港閉鎖、マチュピチュへの鉄道封鎖、道路封鎖等で、観光客約1000名に影響を及ぼした。また、22日にもクスコ市内の遺跡における抗議運動が実施された。
 これを受けて、27日、大統領府はプレスリリースを発出し、APEC開催地からクスコ州を除外する旨発表した。右決定は、クスコ州にて行われた抗議運動が及ぼした影響を考慮したものである。(4月に予定されていた観光担当大臣会合はカリャオ市にて開催されることとなった。)

(7)ロアイサ検事を巡る問題
 麻薬密輸業者逮捕を巡り、生命が危機にさらされているとして、勤務地であったマイナス郡(ロレト州に所属し州都イキトス市がある)を離れていたルス・ロアイサ検事に対し、2月26日までにマイナス郡に戻るよう最高検委員会は警告した。また、復職しない場合は「職務放棄」とすることも合わせて忠告した。しかし、ロアイサ検事は新たに3月7日までの医師による休職証明書を提出。他方、一旦は拒否された人身保護令請求の再検討が行われるため、取りあえずはリマに滞在を続けることとなった。

(8)農業関係者の無期限スト
 18日、国内6州を中心に、肥料の値上げに対する政府の対応を不満とする農業従事者による大規模な無期限ストが実施され、主要幹線道路の封鎖や投石などが行われた。アヤクチョ州で2名、アレキパ州で1名、リマ州バランカ郡にて1名が頭に銃弾を受けて死亡した。同日、非常事態宣言が発出され、陸軍が事態収拾に対応した。

(9)内務大臣の議会における喚問
 27日、アルバ・カストロ内務大臣は、農業従事者によるストにおける死傷者の発生に関して説明するため、議会常設委員会にて喚問に答えた。内務大臣は死亡した農民に発された銃弾が警察の銃からでは無い旨明らかにした。アブガタス議員(PNP)とレオン議員(UPP)は、同内務大臣を不信任決議にかける意図を示した。他方、調査委員会の設立を提案する議員もいた。(3月13日、議会本会議は、アルバ・カストロ内相に対する不信任決議を実施するか否かの投票を実施し、32票賛成、52票反対で、必要な61票に到達せず、実施はされないこととなった。)

(10)大雨被害の深刻化
28日付官報は、大雨による被害に襲われているトゥンベス州、ピウラ州、ランバイェケ州、ウカヤリ州の4州について、60日間の非常事態宣言を発令した。

3 外交
(1)在名古屋ペルー領事館の開館
 1日、在名古屋ペルー領事館が正式に開館した。同館は、日本の中部、南部に居住するペルー人により良いサービスを提供する目的で開設され、最も近代的なシステムを備えている。

(2)米州機構(OAS)におけるサバラ・ペルー代表の就任
 6日、サバラ元法務相が、OASにおけるペルー代表として就任した。サバラ代表は、民主主義の促進、テロ対策、OAS平和ミッションや反汚職対策、麻薬の密輸に対するペルーの惜しまない努力を約束した。

(3)韓国からパトロールカーの寄付
 13日、韓国から100台の警備車両がペルー国家警察に寄付された。同寄付は、昨年、ガルシア大統領とノ・ムヒョン韓国大統領がシドニーAPECの際に会談し、その結果として韓国から提供されたもの。

(4)国立図書館への日本政府の協力
 15日、国立図書館視聴覚機材整備計画のE/N署名式が行われ、ガルシア・ベラウンデ外相と石田在ペルー日本大使が署名した。

(5)ガルシア・ベラウンデ外相の南米諸国訪問
 20〜21日、アルゼンチンにて、南米アラブ諸国外相会議(ASPA)に参加した。同会議では、科学技術文化協力促進、貿易・投資拡大を内容とするブエノス・アイレス宣言が発表された。22日、ペルーとの外交樹立150周年を祝福するため、パラグアイを公式訪問した。同外相は、ドゥアルテ・パラグアイ大統領、ラミレス外相と会談を行った。

(6)コソボ独立の承認
 22日、外務省はコソボの独立を承認する旨のコミュニケを発表した。ペルーは常に当事者間の直接交渉による解決を促進しており、旧ユーゴスラビアの解体からくる必然的な状況が生じたと考え、承認に至った。ペルーは、コソボ独立のプロセスが国連憲章にある国際法の規則及び原則を尊重した形で進められるよう努力を続けていく。

(7)ボリビア・エクアドルへの人道援助送付
 25日、大雨洪水被害が深刻なボリビアに対し、長靴、折りたたみ式ベッド、毛布等を含む9トン以上の人道援助を送った。
 26日、洪水被害に襲われているエクアドルに対し、同様の10トン以上の人道援助物資を提供した。

(8)外務副大臣のアルゼンチン訪問
 26日、グティエレス外務副大臣はアルゼンチンを訪問し、第3回アルゼンチン・ペルー統合政治調整一般委員会の調整委員会会合に出席した。

(9)ATPDEA延長
 27日、米国議会下院において、28日には上院において、ペルー、コロンビア、ボリビア、エクアドルの4カ国に対し、2008年12月31日まで10ヶ月に及ぶアンデス特恵関税麻薬取締協定(ATPDEA)延長が承認された。

4 フジモリ元大統領に対する裁判
(1)人権問題に関する公判
 月、水、金の週3日、朝9時より公判が行われ、検察側、弁護側の証人が証言を行った。コリーナ・グループと呼ばれる部隊の元構成員とされる軍人や記者が証人として出廷した他、コリーナ・グループのリーダーと見られているマルティン・リバス元陸軍少佐やロドリゲス・サバルベアスコア元大佐(黙秘権行使)等も出廷した。

(2)モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問妻宅の違法な家宅捜査
 27日付最高裁ホームページは、3月25日午後1時より、同件の第二審を担当する最高裁第二特別刑事法廷による本件の検討を行う旨発表した。

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