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ペルー政治情勢 2008年
3月の内政と外交
1 概要
(1)内政面ではフニン州、アヤクチョ州において警察に対するテログループによる待ち伏せ攻撃が行われ、警官が死亡する事件が起きた他、プノ州知事を巡る問題が騒がれる等、地方における問題が目立った。また、オリャンタ・ウマラPNP党首の弟であるアンタウロ・ウマラ退役軍人を首謀者とするアンダワイラス事件で、170名以上を被告とする大型裁判が開始された。
(2)外交面では、ガルシア大統領の日本・中国訪問が行われ、国内では実りある外国訪問であったと肯定的な評価が多かった。
(3)フジモリ元大統領に関する裁判では、公判中に同元大統領が眠るなど体調をくずし、健康上の問題が心配されたが、医師による診断の結果、健康状態は良好であるとされた。略式裁判で扱われている案件の第二審で、法廷による案件の検討が行われた。
2 内政
(1)B型肝炎の予防接種、全国キャンペーン
2日、ガリド・レッカ保健大臣は、2歳から19歳の計1千万人を対象に無料でB型肝炎の予防接種を実行する旨発表した。
(2)警察に対する待ち伏せ攻撃
5日、フニン州チャンチャマヨ郡サン・ルイス・デ・シュアロ町に本部を置くペルー国家警察道路安全局に所属する警察官が、ワヌコ州ビリャ・リカ地区に通じる街道において、麻薬と関連したテログループによる待ち伏せ攻撃を受け、2名が死亡した。
23日には、アヤクチョ州ワマンガ郡キヌア町にてペルー国家警察麻薬取締局(PIRANDRO)の隊員14人が乗車していた警察車両をテロリストが銃撃し、女性警察官のマリリー・ソリエル・ガヴィラン氏が殺害された。犯人は、アプリマク川・エネ川渓谷(VRAE)の麻薬テロリスト集団で、少なくとも30人以上であったとみられている。
(3)教員採用試験実施
9日、全国で教員採用試験が実施された。14点以上を得た教員を対象に採用するとしていたが、結果は、試験を受けた約18万人中、151名のみが14点以上を得た。そのため、11点以上13点以下の成績の教員も採用対象とすることとなった。
(4)プノ州知事を巡る動勢
18日、エルナン・フエンテス・プノ州知事は、プノ州を連邦州として独立することを提案した。これを受け、デル・カスティーリョ首相は、国家主権に反する罪で禁錮15年を命じられる可能性を指摘した。また、プノ州によるトラックの購入に関して不正行為の容疑があるため検察による同州知事の告発、もしくは身柄拘束令を申請することとなり、25日、同知事は、様々な告発は中央政府による政治的迫害としてボリビアかベネズエラに亡命を希望する可能性を示唆した。
(5)リマ市内の区に道路修繕費の移譲
22日、ガルシア大統領は、リマ市内の29の区に対して道路の修繕・維持費として利用するための1億ソルの移譲を開始した。
(6)バリェ・リエストラ議員の辞任希望
25日、バリェ・リエストラ議員(アプラ党)は議員職を辞任したいとする意向を表明し、辞表を提出した。同議員は77歳で、健康に問題はないが、1979年憲法回帰を望んでいたにもかかわらず実現しないため、議員職を全うする気を失ったと説明している。現在、憲法第95条により議員は自らの意志で辞任できないため、議会は憲法の一部改正を検討することとした。
(7)ルス・ロアイサ検事
26日、リマ第46刑事法廷は、ルス・ロアイサ検事による最高検委員会に対する人身保護令を却下し、マイナスに戻るべきと判断した。同検事の弁護を担当するアニバル・キロガ弁護士は、リマ高裁第一刑事法廷に控訴する意向を示した。
(8)8月15日地震被災地域復興基金(FORSUR)理事の辞任
26日、ファブレFORSUR理事他理事会のメンバーが辞任を表明したが、31日まで任務を続けた。ファブレ理事は、同基金が政治的指導力を有し権力と良い関係にある大臣に指揮されることにより、被災地の復興が促進されると述べた。また、辞任の理由を、自らの企業家としての活動と家庭の事情によると説明した。
(9)車検
27日、議会本会議にて、運輸通信省の管理下にて全国車両技術点検システムを設立する法案が承認された。他方、31日、リデルコン社による申請を受けていたリマ商工会議所調停裁判所は、リマ市内における車検の再開を命じた。同社は15〜20日以内に車検場を再開する用意が出来ている旨発表したが、リマ市は、2月中旬の契約失効は有効であるとし、主張が対立している。
(10)アンダワイラス事件の公判開始
28日、ルリガンチョ刑務所にて、2005年1月に起きたアプリマック州アンダワイラスの警察署襲撃事件の公判が開始された。アンタウロ・ウマラ(オリャンタ・ウマラPNP党首の弟)他170名以上の被告が、反逆罪、殺人罪、誘拐罪、器物破損罪等に問われている。オリャンタ・ウマラPNP党首も被告として出廷を求められていたが、人身保護令を請求しており、出廷しなかった。(注:4月14日、同党首の人身保護令は承認され、同裁判には証人として参加することとなった。)
(11)教育学部新設の中断
30日、ガルシア大統領とチャン教育大臣は、大学における教育学部の新設を中断すると発表した。また、通信教育における教育関係のコースへの新規登録等も中断したと発表した。同時に、教育省は教育学に関する資格・証明書等を授与する機関に対する許可を与える3機関に対し、90日以内に教育課程の評価基準を発表する旨命じる省令を発出した。
(12)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
今回 前回(08年2月)
支持 28% 31%
不支持 68% 64%
わからない・無回答 4% 5%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈2月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
34% 29% 16% 16% 15%
(38%) (29%) (30%) (16%) (22%)
3 外交
(1)エクアドル・コロンビア国境問題
3日、コロンビア国軍によるエクアドル領土におけるFARC構成員に対する攻撃を受けて、ガルシア大統領は米州機構(OEA)の緊急会議を開催するよう提案した。4日、コレア・エクアドル大統領がペルーを訪問し、ガルシア大統領と会談した。右会談で、ガルシア大統領はウリベ・コロンビア大統領に対し、エクアドル領土への侵入に対する償いを促すと共に、本件は2カ国間の問題であり、第3国の介入は好ましくなく、ベネズエラ政府は火に油を注ぐようなことは行わないよう求めた。また、コロンビア国内の事情は理解するが、本事件は国際法に反すると指摘した。さらに同大統領は、OASだけでなく、南米連合、リオ・グループ等が南米地域諸国の穏和な関係構築のために有益である旨主張した。
(2)在名古屋ペルー総領事の任命
13日付官報は、在名古屋ペルー総領事の解任・任命する大統領決議を公告した。エドゥアルド・マヌエル・アルフレド・リョサ・ララブレ在名古屋ペルー総領事の任務を終了するものとし、ルイス・ヒルベルト・メンディビル・カナレス大使を、在名古屋ペルー総領事として任命した。
(3)ガルシア大統領の訪日
16日から、ガルシア大統領は日本・中国公式訪問を行い、ガルシア・ベラウンデ外相、アラオス通商観光相、ベナビデス農相、バルディビア・エネルギー鉱山相、コルネホ住宅建設上下水道相が同行した。
日本では、天皇陛下との御会見、福田総理との会談の他、日秘経済協議会(CEPEJA)のメンバーとの会合、企業関係者、JBIC総裁、JETRO理事長、JICA副理事長との会談等を行った。首脳会談では環境に関する共同声明に署名した他、高村外相との会談では日本政府からペルーに対する総額約221億円の借款供与が発表された。
中国においては、胡錦濤(HU Jintao)国家主席、温家宝(Wen Jiabao)首相、呉邦国(Wu Bangguo)全国人民代表大会常務委員会委員長等と会談した。ガルシア大統領は中国がペルーの第一の戦略的パートナーとなるよう協調することを提案した他、胡錦涛国家主席と民事・商務司法共助条約、経済技術協力協定、衛生・検疫に関する覚書・文化交流に関する覚書等に署名を行った。
(4)ウルグアイとの刑事事件に関する法的相互扶助条約の署名
28日、ガルシア・ベラウンデ外相とアルテアガ駐ペルー・ウルグアイ大使は、刑事事件に関する司法共助条約に署名した。南アメリカ地域における組織犯罪、麻薬の密輸、人身売買等に関する対処を強化する目的でペルーはこれまでに同様の協定をアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、パラグアイと結んでいる。
(5)スロベニア大統領のペルー訪問
31日、EU議長国であるテゥルク・スロベニア大統領がペルーを訪問した。ガルシア大統領と会談し、中南米EUサミットや、アンデス共同体(CAN)とEUの連携協定に関して意見交換がされた。テゥルク大統領は、ペルー、ラテンアメリカを訪問した初めてのスロベニア大統領。
4 フジモリ元大統領に対する裁判等
(1)資産差し押さえ命令
11日、サキクライ反汚職判事は、フジモリ元大統領に対し、4万ソル(約1万3千米ドル)の資産差し押さえを命じた。右差し押さえは、2000年の大統領選挙の際に、再々選を狙う同元大統領が公金から3万米ドルをチクラヨ郡ナイランプのバイクタクシー業者に渡して、選挙活動に利用したとされる容疑によるもの。
(2)新政党「フエルサ(Fuerza)2011」の動向
11日、ケイコ・フジモリ議員は、新政党「フエルサ(Fuerza)2011」は、既に17万人分の署名を集めたため、選挙管理委員会(JNE)に政党として登録できると発表した。しかし、100万人分の署名を集めることを決定したと述べた。また、30日には、フジモリ元大統領の長男ケンジ氏がウカヤリ州プカルパにて署名集めキャンペーンを行い、集まった署名は23万5千人分になったとされる。
(3)略式裁判における案件(第二審)
25日、最高裁第二特別刑事法廷は、フジモリ元大統領弁護側から提出された「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問妻宅の違法な家宅捜査」(allanamiento)に係る控訴の内容を法廷にて検討した。同元大統領の弁護側は、職権侵害罪として禁錮6年の有罪判決と国家に対する40万ソル(約13万米ドル)の賠償金支払いを不服として控訴していた。(注:15日、最高裁は一審の判定を二審でも確定したと発表した。)
(4)引渡事由拡大の承認
24日、最高裁常設刑事法廷は、フジモリ元大統領に関して、アルフレド・サナッティ氏に対して国庫から賄賂を渡していた容疑でチリに対して引渡事由の拡大を行う要請を承認した。同元大統領は、企業家であるサナッティ氏に、ガルシア現大統領が第一次政権期に鉄道建設の入札に関して賄賂を受け取っていたとの虚偽の発言により、同大統領を告訴するよう働きかけ、その際に国庫から資金を調達していたとして公金横領の疑いがかけられている。
(5)人権問題に関する公判
週に3日、公判が開催され、フアン・リベロ・ラソ元陸軍情報局(DINTE)局長等陸軍幹部やウンベルト・ハラ記者が証人として出廷した。24日には、フジモリ元大統領が疲労により公判中に眠るなど体調をくずし、次回の26日には公判開始前に医師による健康診断が行われ、軽度の足のむくみが確認されたが、健康状態は良好であり、公判への出廷は問題ないと判断された。
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