|
ペルー政治情勢 2008年
4月の内政と外交
1 概要
(1)内政面では、議員の本会議における欠席が多いとの批判や重要な法案が出席議員不足で投票数が不足した等の問題から、議長が欠席・遅刻者の名前と罰金を公表する旨決定した。また、物資銀行の汚職スキャンダルが明らかになり、公的機関に対する批判が強まった。
(2)外交関係では、欧州議会においてMRTAをテロ組織リストに加える提案が却下されたとして、国内で論争を呼んだ。また、中南米EU議会(EUROLAT)が開催されたが、国内で関心の高かったMRTAに関しては触れられなかった。
(3)フジモリ元大統領に関しては、略式裁判で扱われていた「モンテシノス元国家情報局顧問の妻自宅の違法な家宅捜査」の二審判決が出された。一審判決を支持する形で禁錮6年の有罪判決となった。
2 内政
(1)パンド議員に対する憲法弾劾却下
3日、顧問不正雇用問題により憲法弾劾をするか問われていたパンド議員(フジモリ派)に関して、議会は同議員に対する憲法弾劾の理由はないと投票の結果判断した。
(2)新聞記者に対する盗聴
6日、エル・コメルシオ紙のフアン・パレデス・カストロ政治部長の自宅から400メートルの位置に盗聴器が仕掛けられていたことが発覚した。盗聴器は、パレデス氏の自宅の電話番号に合わせてあり、自宅電話の発着信が行われると、自動的に会話内容をラジオ無線にて10〜600メートル先まで届くよう送信する設定がされていた。
ガルシア大統領は、政府は本件を徹底的に調査すると述べ、プライバシーの保護を再確認した。デル・カスティーリョ首相は、政府は盗聴行為に一切関与していないとした上で、同行為は市民の権利の侵害であるため、専門家による調査グループを形成した旨発表した。また、アルバ・カストロ内務大臣、フローレス・アラオス国防大臣も、真相究明に努めると述べた。
(3)ラ・カントゥータ事件に関する有罪判決
8日、リマ高裁第一反汚職法廷は、1992年に起きたラ・カントゥータ事件に関与した元軍人に対する判決を下した。
フリオ・サラサル・モンロエ元国家情報局(SIN)長官に殺人罪、誘拐罪及び強制失踪罪の間接正犯(autor mediato)で禁錮35年、実行部隊とされるコリーナ・グループの元構成員、ホセ・アラルコン・ゴンサレス、フェルナンド・レッカ・エスケン、オルランド・ベラ・ナバレテに対して同罪共謀犯として禁錮15年が言い渡された。また、アキリノ・ポルテリャ、フリオ・ロドリゲス・コルドバ、カルロス・ミランダ・バラレソ、ビクトル・イノホサの4名に対しては無罪判決が出された。有罪判決を受けた4名は控訴をしたため、最高裁にて第二審が扱われることとなった。
同法廷のイネス・ビリャ・ボニーリャ裁判長他判事は、コリーナ・グループが陸軍の組織に組み込まれていたことを認め、同グループが最高指令部により反逆者を一掃するために形成されたと判断した。また、SINを通じてフジモリ元大統領が命令系統の頂点にいたとした。
(4)議会による欠席議員に関する対処
9日、議員による本会議等への欠席が著しく、法案審議に影響を及ぼしていることから、ゴンサレス・ポサダ議長は、毎週月曜日、前週に欠席もしくは遅刻した議員の名前を、議会のホームページ上で公表することを発表した。また、名前の公表と同時に1日当たりの議員給料の20〜50%が罰金として差し引かれ、月末に罰金の額も発表されることとなった。
(5)フジモリ派元議員の身柄引渡
10日、エチャイス検事総長は、米国国務省が、オスカル・エリセオ・メデリウス・ロドリゲス元議員(フジモリ派)のペルーへの身柄引渡を許可した旨発表した。同元議員の身柄引渡請求は、リマ高裁第六特別刑事法廷より出されていた。同元議員は、2000年のフジモリ大統領(当時)の再選にむけ、ペルー2000党登録の際に、大量の署名の偽造を行った容疑で共同謀議罪、書類偽造、公金横領罪等に問われている。
同元議員は、米国ノースカロライナ州ウィルミングトンにてプエルトリコ出身の不動産業者として身分を偽って働いていたところ、2006年2月7日に身柄を拘束された。
(6)エチャイス検事総長の任命
14日、元検事総長アデライダ・ボリバル氏死去後から、臨時検事総長職に就いていたグラディス・エチャイス・ラモス氏が、ペルー最高検察庁適性審査会全員の同意を得て、正式に検事総長に任命された。任期は2011年まで。(5月12日、同検事総長の就任宣誓式が行われた。)
(7)物資銀行におけるスキャンダル
13日、テレビ番組により、物資銀行(注:住宅建設上下水道省に属する国営企業。低所得者層を対象に住宅建設・改築等のための融資を行う。)の行員78名が、低所得者層向けの住宅建設融資プログラムを利用してマンションを購入していたことが発覚した。右プログラムは、一般の住宅融資システムにアクセスできない人々を対象にし、持ち家がないことや収入制限が条件となっていたが、行員は条件に該当しないにもかかわらず、不正に同銀行が提供する融資システムを利用していた。
14日、アパリシオ総裁は辞表を提出し、管理職に就いていた8名が免職された他、恩恵を受けた行員が汚職容疑で告発されることとなった。
(8)人質解放作戦(チャビン・デ・ワンタル作戦)記念式典の開催
22日、リマ市チョリーリョス区の陸軍特別部隊第一団の敷地内にある日本大使公邸レプリカにて、11年前に起きた在ペルー日本大使公邸占拠事件の人質解放作戦(チャビン・デ・ワンタル作戦)記念式典が行われ、フローレス・アラオス国防大臣等が出席した。また、同救出作戦の際に命を落としたバレル大佐、ヒメネス大尉、ジュスティ判事への追悼も行われた。
同日、リマ市スルコ区では、同作戦のモニュメント前で記念式典が行われ、人質でもあったジャンピエトリ第一副大統領が参加した。
(9)ガルシア大統領の支持率(08年4月)
(イ)全国
今回 前回(08年3月)
支持 26% 28%
不支持 70% 68%
わからない・無回答 4% 4%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈3月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
33% 24% 20% 14% 11%
(34%) (29%) (16%) (16%) (15%)
(ハ)支持理由
海外におけるペルーのイメージ改善 38%
前政権期の過ちを犯していない 34%
教育の質の改善に取り組んでいる 30%
民間投資の促進 25%
(ニ)不支持理由
物価の上昇 57%
公約の不履行 41%
雇用不足 37%
経済政策の誤り 34%
3 外交
(1)チリとの領海境界線画定問題(報告書提出期限)
1日、国際司法裁判所(ICJ)は、領海境界線画定問題に関し、ペルーに対し、同政府の主張する法的・歴史的根拠等をまとめた報告書の提出期限は2009年3月20日である旨発表した。チリに対しては、右報告書を受けて反論をまとめた報告書の提出期限を2010年3月9日と定めた。
同問題に関して、ペルーは、チリとの間に領海境界線を定めた条約はないとし、国際司法裁判所に領海境界線の確定を申請した。他方、チリは、1952年のサンティアゴ宣言、1954年の領海線特別水域協定により領海境界線は確定しており、問題はないと主張している。
(2)外相のグアテマラ訪問
11日、ガルシア・ベラウンデ外相は、両国の外交関係を強化する目的でグアテマラを公式訪問した。同外相は、コロン・グアテマラ大統領と会談し、中米地域とペルー間の自由貿易協定に向けた交渉の可能性等に関して話し合った。また、グアテマラ外相とは、地域統合、文化協力、領事協力、麻薬対策等について意見交換を行った。両外相の間で、環境に関する協力協定に署名が行われた。
(3)太平洋の弧大臣会合
14日、ガルシア・ベラウンデ外相とアラオス通商観光大臣は、メキシコのカンクンで開催された太平洋の弧大臣会合に参加した。右会合には、コロンビア、コスタリカ、チリ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、ペルーの大臣の他、インスルサOAS事務局長が参加した。
(4)欧州議会におけるMRTAに関する投票
24日、欧州議会にて、中南米EUサミットの決議案の修正案の中で、MRTAをテロ組織として認定するよう欧州理事会に提案するという文が盛り込まれたが、投票の結果、賛成271票、反対275票となり却下された。右申請は、ホセ・イグナシオ・サラフランカ欧州議会議員(スペイン)、フェルナンド・フェルナンデス欧州議会議員(スペイン)(両者ともヨーロッパ人民党:PPE)によりなされていた。
右結果を受け、ペルー国内では、様々な反発があった。また、人権擁護協会(Aprodeh)により欧州議員に送られた、MRTAは既に活動をしていない団体であるとの書簡が反対票の増加の要因であるとする見方が強く、人権団体に対する批判が高まった。
25日、大統領府はプレスリリースを発出し、人権擁護協会の行動を国に対する裏切り行為と批判した上で、議会に対して、ペルーにおけるMRTAの犯罪行為について具体的に報告するため欧州に超党派の委員会を派遣するよう要請した。
(5)スペイン外相のペルー訪問
26日、モラティノス・スペイン外相がペルーを公式訪問し、ガルシア大統領、ガルシア・ベラウンデ外相等と会談した。
(6)中南米EU議会
29日より5月1日まで、リマにて中南米EU議会(EUROLAT)が開催され、欧州議員、アンデス評議会議員、中南米議員等、約120名が参加した。
インスルサ米州機構(OAS)事務局長より、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ間の危機に関する報告がなされた他、複数の委員会が会合を行った。総会の閉会にあたり、5月13日から開催される中南米EUサミットに向けたメッセージが承認された。
4 フジモリ元大統領に対する裁判
(1)略式裁判における第二審判決
15日、ギリェン最高検検事補佐は、モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問自宅の違法な家宅捜査(allanamiento)案件に関し、第二審を担当する最高裁第二特別刑事法廷は、一審判決の禁錮6年を認めたとラジオ番組で発言した。また、国家に対する40万ソル(約13万米ドル)の賠償金支払いも認められたと述べた。同日、最高裁はプレスリリースを発出し、右内容が確認された。
(2)人権問題に関する裁判
週に3日、公判が行われ、軍の元幹部等が証人として出廷した。4日には、フジモリ元大統領を検査した医師団の報告書が読まれ、健康状態には問題がなく、公判への参加には支障がないことが発表された。しかし、2時間に1回、20分程度の軽度の運動を推奨されたことから、サン・マルティン判事長は、公判を9時から11時として休憩20分をはさみ後に1時まで、午後は3時から5時までとし、5時以降まで延長しないこととした。
|