ペルー政治情勢 2008年

5月の内政と外交


1 概要
(1)内政面では、環境省が新たに設立され、ブラック環境大臣が就任した。また、貧困率が1年で5ポイント削減し、40%を下回ったという発表がされる等、ペルーの環境問題への取組、順調な経済による貧困削減といったポジティブな話題が目立つ一月であった。
(2)今年の目玉の一つである中南米EUサミットが開催され、60ヶ国から参加者が集まり、ガルシア大統領は議長として上手く議事を進行させた。成果として発表した「リマ宣言」も、一定の評価を受ける他、心配された人民サミットやストライキは平穏に実施された。同大統領の支持率も先月に比較し9ポイント上昇した。
(3)フジモリ元大統領は、舌に白板症が見られると診断され、手術を受けることとなった。また、同元大統領の収容施設が、敷地内で別の建物へ移動した。

2.内政
(1)冷害対策
 10日、ガルシア大統領は、ペルー南部の山間部の深刻な冷害が始まりつつある地域を対象とした、374トンに及ぶ人道援助の送付を開始した。一部寄付されたものを含む援助物資は、コート、毛布、ベッドマット、食糧、建材道具等からなり、クスコ、アプリマック、アレキパ、プノ、ワンカーヨ、パスコの6州に向けて送られた。

(2)環境省の設立
 13日、大統領府にて環境省設立のための法律に署名が行われた。16日には、アントニオ・ブラック氏が環境大臣に任命され、中南米EUサミットの会場にて、宣誓式が行われた。

(3)新離婚法の公布
 16日、区役所及び公証役場にて離婚が可能となる法律が公布された。新制度の下で離婚が成立するためには、双方が離婚に合意しており未成年の子供や障害を抱える子供を有していない等複数の条件がある。新法により申請から15日程度で離婚が成立することになり、従来の司法裁判を経る形式に比べて手続きが簡素かつ迅速になった。

(4)貧困率の削減
 26日、国家統計院(INEI)は、2007年の貧困率が、前年より5.2ポイント下がり、39.3%になったと発表した。ガルシア大統領は、経済政策の成果と評価し、2015年には貧困率を10%まで削減し、第三世界から脱却できると述べた。世銀のハラミーリョ・ボリビア・エクアドル・ペルー・ベネズエラ地域局長は、ペルーの経済成長が投資を拡大につながり、雇用と収入の増加をもたらし貧困削減につながったと評価した。

(5)2020年オリンピック候補地への立候補
 28日、ガルシア大統領は大統領府にて、ペルーは2020年のオリンピック開催地として立候補すると明らかにした。また、ペルーにおけるオリンピック開催に関して悲観的な意見があることから、ペルー人であることに自信をもって、ひるまずに立候補すべきとの意図を述べた。
 しかし、ペルーオリンピック委員会のホルヘ・リバ副委員長は、ペルーが2020年のオリンピック開催地となる可能性は皆無に等しいと述べる他、オリンピック開催の話には懐疑的な見方が強い。

(6)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
            今回        前回(08年4月)
支持          35%       26%
不支持         61%       70%
わからない・無回答    4%        4%

(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈4月〉)
 リマ      北部     中央部     南部    アマゾン
 42%     40%     28%     16%    13%
(33%)   (24%)   (20%)   (14%)  (11%)

3 外交
(1)ブラジル国防大臣のペルー訪問
 5日、ネルソン・ジョビン・ブラジル国防大臣がペルーを訪問し、大統領府にてガルシア大統領及びフローレス・アラオス国防大臣と会談した。右会談では、23日の南米諸国連合(UNASUR)首脳会合で検討される南米防衛理事会の構想について意見交換が行われた。

(2)イスラエル建国60周年
 6日、大統領府にて、イスラエルの建国60周年を祝うレセプションが開催された。ガルシア大統領は、ペルーとイスラエルは独立以来、友好関係を築き上げていることや、国内におけるイスラエル移民の業績を讃えた。マンスール駐ペルー・イスラエル大使は、ペレス・イスラエル大統領がペルーとの長い友好関係に感謝している旨伝えた。

(3)中南米EUサミット
 13〜16日、リマにて「貧困撲滅、不平等、統合」及び「持続可能な開発:環境、気候変動、エネルギー」をテーマとする中南米EUサミットが開催された。16日の首脳会合では、サミットの成果としてラテンアメリカ・カリブとヨーロッパ両地域のより一層の統合を目指すための方策と、2つの課題(貧困撲滅及び持続可能な開発)に関する具体的目標等を定めたリマ・アジェンダを定めたリマ宣言が発表された。
 首脳会合前後には、二国間会談が行われ、14日には、ペルーを公式訪問したバローゾ欧州委員長及びトゥスク・ポーランド首相、15日はメルケル独首相、17日にはルーラ・ブラジル大統領とガルシア大統領が会談した。
 他にも、ヤンシャ・スロベニア首相、サパテロ・スペイン首相、カルデロン・メキシコ大統領、ヴァンハネン・フィンランド首相、コロン・グアテマラ大統領、グーゼンバウアー・オーストリア首相、フィリョン・フランス首相、ルテルム・ベルギー首相、ウリベ・コロンビア大統領と会談した。
 並行して、12〜13日に先住民サミット、12〜16日に人民サミットが中南米EUサミットに対抗して開催された。大きな混乱はなく、人民のサミットの成果として、自由貿易協定や自由経済政策に反対する宣言が発表された。

(4)エクアドルとの国境地帯における地雷撤去のための会合
 8〜9日、エクアドルとペルー国境地帯における地雷撤去作業の促進のため、エクアドル地雷撤去センターの代表者及びペルー反地雷活動センターの代表者が第一回会合を設けた。同会合は、今年2月に開催された、両国の「2+2」会合(外相+国防相)で定められた枠組みにて開催された。両国の軍隊は2002年以来、地雷の撤去活動に従事してきている。

(5)UNASUR臨時首脳会合
 23日、ブラジリアにて南米諸国連合(UNASUR)の臨時首脳会合が開催され、ガルシア大統領が出席した。同会合では、UNASUR設立条約が署名され、同大統領は、将来的にUNASURが一つの市民及び独自の通貨を有し、国際場裡で共同の行動をとる南米連合(Union Suramericana)になるであろうと述べた。

(6)カナダ及びシンガポールとの自由貿易協定署名
 29日、大統領府にて、カナダとの自由貿易協定に署名が行われ、ガルシア大統領の臨席の下、ヘレナ・ガーギス・カナダ外務・国際貿易・スポーツ担当閣外相とアラオス通商観光大臣が署名を行った。また、労働協力合意も署名され、ジャン・ピエール・ブラックバーン・カナダ労働大臣とパスコ労働雇用促進大臣が署名を行った。さらに、環境に関する合意には、ガーギス・カナダ外務閣外相とブラック環境大臣が署名した。
 同日、シンガポールとの自由貿易協定の締結が大統領府にて行われ、ガルシア大統領の立会のもと、リム・フンキャン・シンガポール貿易産業大臣とアラオス通商観光大臣が署名した。

4 フジモリ元大統領に対する裁判
(1)新たな収容施設への移動
 2日、官報に国家刑務庁(INPE)が臨時刑務所として利用するよう土地の使用に関する内務省の省令が公布された。現在フジモリ元大統領が収容中の国家警察特殊部隊の施設(DIROES)の敷地内にて、同元大統領は、より設備の整った別の施設に移動されることとなり、27日に移動した。

(2)フジモリ元大統領の公判
 週3日、人権問題案件の公判が続けられている中、14日午後、フジモリ元大統領は胃の不調を訴え、医師のチェックを受けた後、公判が中断された。20日、娘のケイコ議員がラジオ番組の電話インタビューにて、同元大統領の舌に癌の可能性もある白板症が見られると述べ、法医学局は生検を行うことを決定した。23日の公判では、国立ガン研究所による早期の手術が勧告されたため、27日、手術のために必要な19の医療検査が行われた。

(3)ナカサキ弁護士の資格停止
 29日、リマ弁護士協会(CAL)の倫理委員会は、ナカサキ弁護士の資格を2年間停止する旨決定した。2005年、司法官管理局(OCMA)は、ナカサキ弁護士が、フジモリ元大統領に依頼される前に自分が同元大統領の弁護士であるとした発言、また、担当ではないのに関係文書を入手したとの発言をマスコミに対して行ったこと、さらに、右事実を説明するためにOCMAが召集した際に出席しなかったことを理由に同弁護士を訴えたことを理由とし、倫理委員会は、弁護士に相応しくないと判断した。

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