ペルー政治情勢 2010年

5月の内政と外交

 

1 概要

(1)内政面では,MRTAとテロ行為を画策していたとして禁錮20年の有罪判決を受けていた米国籍のロリー・ベレンソンが,15年の服役を経て,仮釈放された。
 与党アプラ党の幹事長2名が,違法行為に関与していた疑惑により,調査が続けられる間,党幹事長職を休職することとなった。
(2)外交面では,ガルシア大統領が中南米EUサミットに出席するため,スペインを訪問した。ピニェラ・チリ大統領と会談し,二国間関係の雪解け及び強化で合意した。
(3)26日,フジモリ元大統領の第二審が行われていなかった残り2つの裁判案件(「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問に対する1,500万ドルの慰労金支払い」及び「盗聴,マスコミ及び野党議員買収事件」)の第二審が行われる予定であったが,ナカサキ弁護士が担当法廷の判事に対する忌避請求を行ったため,延期された。

2 内政
(1)アプラ党幹部の党幹部職休職
 3日,デル・カスティーリョ・アプラ党幹事長は,アプラ党党首であるガルシア大統領及び党幹部と相談した後,違法な行為に関与していたとされる疑惑が盗聴テープにより発生しているため,身の潔白を晴らすため,不正行為の調査が行われる期間として当面45日間,幹事長職を休職する旨,政党に申し出て受理された。同党幹事長は,2008年初頭に友人であるフリオ・ベラ・グティエレス氏のモンテリコ石油会社に便宜を図るような法を推進したとされる疑惑において調査される。
 8日には,ケサダ・アプラ党機関幹事長に対しても,幹事長職を休職することが決定された。

(2)結核対策
 6日,ガルシア大統領は,2010−2019年に適用される予定の全国規模の結核対策のための戦略計画を定めた大統領令に署名した。同大統領令は,国防省,法務省,労働雇用促進省,女性社会開発省,保健省等,複数の省庁が共同で,結核の防止及びコントロールに取り組むための法的枠組みを確立した。

(3)人質救出作戦の映画化及びテレビドラマ化
 3日より,5チャンネル(パナメリカナ放送)にて,「救出作戦(Operacion Rescate)」と題する日本大使公邸占拠事件を題材とするテレビドラマの放映が開始された。リマ市チョリーリョス区にある公邸レプリカにて撮影され,ペルー軍が撮影支援を行った。

(4)カミセア・ガス田
 カミセアガス田の天然ガスを,メキシコ等に輸出することにより,国内需要に対応できなくなるとの不安が高まり,輸出に反対する声が高まった。しかし,エネルギー鉱山省は,十分な埋蔵量があるとして,メキシコ等へ輸出しても国内供給分に不足は生じないとして,供給を保証した。

(5)COFOPRI一部機能の州政府への委譲
 7日,ガルシア大統領は,地方分権化の一環として,幹部複数名が土地の違法販売に関与していたとされた不法占拠地正常化庁(COFOPRI)の一部の機能を州政府へ委譲する意向を,州知事との会合にて発表した。大統領は,人員の交代だけではなく,COFOPRIの組織自体を変更する必要性及び地方分権によるペルーの強化を主張した。
 14日,ガルシア大統領は,COFOPRIの土地の所有権返還の役割の州政府への委譲を実施する大統領令に署名を行い,90日間で,委譲手続が進められることとなった。

(6)ロリー・ベレンソンに対する仮釈放
 25日,レオン判事は,MRTAのメンバーと共に共和国議会への攻撃を計画したテロ罪にて,1995年に禁錮20年の判決を受けて服役していた米国籍ロリー・ベレンソンの仮釈放を認めた。検察及びテロ対策国家訴訟代理人は,同決定を不服として控訴した。
 ベレンソンは,2015年の刑の終了まで国外に出ることは禁止されたが,ガルシア・トマ法務相は,大統領により減刑された場合は,同人を国外追放できると提案し,大統領に判断を委ねた。
 ベレンソンは,服役中に,MRTAと関係があったとして有罪判決を受けたペルー人と結婚して子供を設け,ペルー国籍の子の母となっている。

(7)ピサンゴ元AIDESEP会長の帰国
 26日,ピサンゴ元ペルーアマゾン地帯開発インターエスニック協会(AIDESEP)会長は,2009年6月17日以降亡命していたニカラグアからぺルーに帰国した。同元会長は,昨年6月5日,アマソナス州バグアで発生した市民及び警官30名以上の犠牲を伴った事件の責任を問われて身柄拘束令が出ていたため,空港にて身柄を拘束され,警察の施設にて一晩を過ごし,27日,リマ第37刑事法廷に出廷し,同元会長に対する身柄拘束令が解除され,制限付き出廷命令となった。

(8)全国世論調査結果:ガルシア大統領の支持率(アポヨ社)
ア 全国
         今回  前回(4月)
支持       26% 27%
不支持      69% 67%
わからない・無回答 5%  6%
イ 地域別支持率(下段括弧内、前回〈4月〉)
 リマ    北部    中央部   南部    アマゾン
 32%   26%   20%   19%   14%
(32%) (27%) (24%) (21%) (15%)

3 外交
(1)ガルシア・ベラウンデ外相のUNASUR臨時首脳会議出席
 3〜4日,ガルシア・ベラウンデ外相はアルゼンチンで開催されたUNASUR臨時首脳会議に出席した。同会議では,キルチネル元アルゼンチン大統領が事務局長に任命された。また,ガルシア・ベラウンデ外相は,モレノ・チリ外相と会談し,二国間関係について協議した。

(2)ペルー・スイス政策協議第1回会合の実施
 5日,リマにて,ペルー・スイス政策協議第1回会合が実施され,ヘルグ・スイス外務次官が,ポポリシオ外務副大臣と,司法協力等の二国間関係及びペルーとEFTA間のFTA署名について協議した。

(3)ポーランド外相のペルー訪問
 5日,シコルスキ・ポーランド外相がペルーを訪問し,ガルシア・ベラウンデ外相及びレイ国防大臣と会合を行った。同外相は,カチンスキ大統領の死亡事故に関し,ペルー政府の弔意を示した他,6月20日に開催される選挙の成功を願う旨述べた。また,両者は,共通の関心である,両国関係の緊密化及び政治対話の強化等について協議した。

(4)麻生前総理のペルー訪問
7日,麻生前総理(当時)ペルーを訪問し,ガルシア大統領と会談した。

(5)国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)追加派遣
 10日,ハイチに国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)に参加する50名が,17日,第2団として100名が6ヶ月の期間で派遣された。150名の内訳は陸軍90名,海軍30名,空軍30名からなる。

(6)ガルシア・ベラウンデ外相の訪米
 11〜12日,ガルシア・ベラウンデ外相は,ワシントンを訪れ,バレンズエラ外務次官補及びレストレポ国家安全保障会議(NSC)西半球担当上級部長等と会談した他,カウンシルCouncil of the Americasの第40回会合に出席した。また,ペルー外交官学校とアメリカン大学との間で交換留学生の協定に署名した。

(7)南米諸国連合(UNASUR)の基本条約の承認
6日,ガルシア大統領は,南米諸国連合(UNASUR)の基本条約(Tratado Constitutivo)を承認する法律に署名し,7日付官報にて公布された。同条約は,加盟国間の政治対話の強化を目標とし,平等及び参加を伴う社会開発,非識字撲滅,教育の普及,金融統合,資源の持続可能な利用のためのエネルギー統合,貿易分野での協力から成る。ペルーは,ボリビア,エクアドル,ガイアナ,ベネズエラに次いで5番目に同基本条約を承認した国となった。

(8)パティーニョ・エクアドル外相のペルー訪問
 10日,ペルーを訪れたパティーニョ・エクアドル外相は,ガルシア大統領及びガルシア・ベラウンデ外相と会談した。同エクアドル外相は,6月9日に予定されるコレア・エクアドル大統領のペルー国賓訪問は,両国の友好協力関係を強化すると述べた。また,ペルーが南米諸国連合(UNASUR)の基本条約を承認したことを歓迎した。
 同エクアドル外相は,国際司法裁判所で行われているペルー及びチリの領海境界線画定問題において,エクアドルはまだ態度を決めていないと述べた。

(9)ガルシア大統領の中南米EUサミット参加
 15〜18日,ガルシア大統領は,第6回中南米EUサミットに出席するため,スペインを訪問した。同大統領は,同サミットへの出席に加え,ピニェラ・チリ大統領,ファン・ロンパウ欧州理事会議長,パパンドレウ・ギリシャ首相と会談し,企業関係会合,アンデス共同体・EUサミットにも出席した他,ペルー・EU・FTAの交渉完了を確認する文書への署名式に立ち会った。
 同大統領は,ピニェラ・チリ大統領との会談では,二国間関係の強化・再活性化の意思を確認した他,EU諸国の首脳に対し,武器の売却を制限するよう要請した。

(10)韓国哨戒艦沈没に関する調査結果に係るコミュニケ
 24日,ペルー外務省は,韓国哨戒艦沈没に関する調査結果に懸念を示し,朝鮮半島の安定及び安全の保証を可能とする対話の進展を呼びかける公式コミュニケを発出した。

(11)ロボ・ホンジュラス大統領のペルー訪問
 26日,ロボ・ホンジュラス大統領がペルーを訪問し,ガルシア大統領と会談した。ガルシア大統領は,ロボ大統領が民主的過程により選ばれたとして歓迎し,ロボ政権を認めるべきと述べた。両大統領は両国外相による複数の協定への署名式に立ち会った。

(12)ストロスカーンIMF専務理事のペルー訪問
 27日,ストロスカーンIMF専務理事がペルーを訪問し,ガルシア大統領と会談した。同IMF専務理事は,ペルーは成長の模範であるとして,経済目標を達成しており,適切な経済政策が適用されていると評価し,ペルーの外貨準備高の高さ,貧困削減,及び金融危機への対応を強調した他,ペルーが現在の経済政策を今後5年維持した場合には,大きな変化を遂げると述べた。

(13)外務副大臣の韓国訪問
 25〜27日,ポポリシオ外務副大臣は,韓国ラテンアメリカ・カリブ・ハイレベル・フォーラムに参加するため韓国を訪問した。同外務副大臣は,Shin Kak-soo韓国第一外務通商副大臣と会談し,FTA等二国間の関心のある案件について協議した。Shin韓国副大臣は,様々な課題についいて協力する意向を述べた他,「天安」艦に対する攻撃に関するペルーの発表に関し感謝した。

(14)レイ国防相のチリ訪問
 28日,レイ国防相は,ラビネ・チリ国防相の招待でチリを公式訪問し,ピニェラ・チリ大統領及びラビネ・チリ国防相と会談した。

4 フジモリ元大統領関連
(1)面会制度に対する批判
 13日発行のカレタス誌は,フジモリ元大統領を訪れる数多くの面会者の写真入り記事を掲載が余りに多いとして批判した。20日には,同元大統領が,収監施設がある国家警察特殊部隊(DIROES)の施設内で,工事担当者に指示している姿を示し,収監体制の管理を問う記事を掲載した。
 14日,ガルシア大統領は,フジモリ元大統領の収監体制に「更なる慎重さ」を適用するよう指示を出すと発表した他,収監体制を変更するような濫用を行わないよう要請した。
 カレタス誌の記事を受け,ロドリゲス国家刑務庁(INPE)長官は,面会者の総数に制限を設けておらず,同元大統領が1日で最高180名の面会者を受け入れたことを明らかにしたが,一度に会える人数は15名であると述べ,規則違反は行なわれてないと述べた。同長官は,辞表を提出した。
 ケイコ・フジモリ議員は,父親である同元大統領は,法や規則に反しておらず,収監先がキャンペーンの場所になっていることは誤りであり,人々は連帯を示すために同元大統領を訪れていると述べた。
 ガルシア・トマ法務相は,INPE長官を支持し,15日,同元大統領への一日あたりの面会者の上限を定める可能性を述べた。他方,同元大統領の弁護を担当するナカサキ弁護士は,収監体制の規則には,面会日及び時間のみが規定されているだけであり,面会者数の制限は設けられていないため,面会者数を制限することはできないと主張した。
 21日,ガルシア・トマ法務相は,フジモリ元大統領への面会制度について行き過ぎのあった点を修正したと述べた。

(2)「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問に対する1,500万ドルの慰労金支払い」及び「盗聴,マスコミ及び野党議員買収事件」における第二審
 14日,最高裁は,最高裁臨時第一刑事法廷は,5月26日にフジモリ元大統領の弁護人により控訴された「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問に対する1,500万ドルの慰労金支払い」及び「盗聴,マスコミ及び野党議員買収事件」案件の公判を実施するとのプレスリリースを発出した。
 第一審公判において,「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問に対する1,500万ドルの慰労金支払い」では,横領及び公文書偽造罪にて禁錮7年6ヶ月,「盗聴,マスコミ及び野党議員買収事件」では,横領、贈賄及び通信秘密の漏洩(盗聴)罪にて禁錮6年の有罪判決を受けた。
 ナカサキ弁護士が,第二審を担当する最高裁臨時第一刑事法廷の判事に対する忌避請求を行ったため,26日に予定されていた公判は延期された。

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