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ペルー政治情勢 2008年
6月の内政と外交
1 概要
(1)内政面では、モケグア州住民が、鉱山カノンの分配を不満として、道路封鎖を伴う抗議運動を展開した。事態の収拾に向かった警官を人質にとる等過激な行動に発展したが、首相と地方自治地の代表者が対話の結果合意に達し取りあえず事態は収束した。7月に向け抗議運動の活発化が懸念された。
(2)外交面では、モラレス・ボリビア大統領が、ペルーの自由貿易協定を促進する姿勢を批判し、さらに、ペルー国内に米国基地があるとして、国民に抗議運動をするよう呼びかけたこと等により両国関係が緊張した。また、欧州との関係では、欧州議会における移民に対する指針を不服として、地域での対応を検討するため、ペルー政府は米州機構(OAS)の緊急会合を提案した。
(3)フジモリ元大統領に対する裁判では、白板症の手術のため裁判が1週間中断された。また、術後しばらくの公判は、体調回復を考慮して半日で終了した。30日には、モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問が証人として出廷し、証言を始めたが途中で突如黙秘権を行使した。
2 内政
(1)フジモリ政権下の議員買収に関する16名の元議員に対する判決
3日、最高裁特別刑事法廷は、4名の元議員に対して、フジモリ派となるためにモンテシノス元国家情報局(SIN)顧問より賄賂を受け取ったとする件で、国家侮辱罪及び収賄罪により、執行猶予付禁錮4年の刑を言い渡した。また、4名に計10万ソル(約3万ドル)の国家に対する賠償金支払い及び3年間の公民権剥奪も命じた。有罪判決を受けた元議員は、ワルド・リオス・サルセド、ロヘル・カセレス・ペレス、グレゴリオ・ティコナ、アントニオ・パロモ・オレフィセの4名。また、他の12名の議員に関しては証拠不十分として無罪判決を言い渡した。
(2)議員の資格停止
4日、隣家の犬を殺害した行為を議会倫理委員会に問われていたミロ・ルイス議員(PNP)は、100日間の資格停止を勧告された。他にも、義理の娘を雇用していたホセ・ベガ議員(UPP)に90日間の資格停止、恋人等を含む不正な雇用をしていたヤネス・カハワンカ議員(PNP)に120日の資格停止が議論されていたが、本会議による最終決定は7月28日以降の来期に持ち越されることになった。
(3)モケグア州及びタクナ州における抗議運動
4日、モケグア州の住民が、モケグア州及びタクナ州で銅の採掘を行っているサザンカッパー社(メキシコ資本)による鉱山カノンのモケグア州への配分を生産量に応じて引き上げるよう要求し、道路封鎖を伴う48時間の抗議行動を開始した。9日にエネルギー鉱山大臣及び経済財政大臣と鉱山カノンの分配を検討する条件として一旦道路封鎖は解除されたが、10日、首相との対話が合意に達しないことから、州知事、郡長等の支援を受け住民団体の「モケグア防衛戦線」の指揮で1万5千人の住民が、再度、道路封鎖を伴う無期抗議行動を開始した。
封鎖されたモンタルボ橋は、モケグア州とタクナ州を結ぶ唯一の幹線道路上にあるため、タクナ州への食糧及び燃料供給に支障をきたし始め、同州では物価の上昇を伴う物不足が生じた。16日、事態の収拾を図ろうと警官隊がモンタルボ橋に向かい、橋のコントロールを奪回しようと試みたが、1万5千人以上の住民が警官と対面し40名以上が怪我、住民によりアルベルト・ホルダン国家警察第11管区司令官を含む約70名の警官が人質として教会に軟禁された。
16日、首相府にて、ロドリゲス・モケグア州知事、郡長及びモケグア州選出議員と首相は対話を行い、部分的な合意に達した。17日には、警官が全員解放され、19日には対話の結果、モケグア州への8千2百万ソルの鉱山カノンの追加配分やサザンカッパー社がタクナ州とモケグア州の鉱山の売り上げを別々に計上すること等を含む8つの点で合意に達し、道路封鎖も解かれた。
(4)全国の電化及び灌漑整備
11〜14日を電化週間とし、ガルシア大統領は、ピウラ州、ラ・リベルタ州、ワンカベリカ州、フニン州、クスコ州等を訪問、電化整備事業の開始を祝した。21日からは灌漑整備週間として、ガルシア大統領は、23日、プノ州を訪問し、灌漑整備工事開始に立ち会った。24日はラ・リベルタ州、26日はワンカベリカ州を訪問し、同様に灌漑整備に取り組む国の姿勢をアピールした。
(5)パンアメリカン競技大会の開催地立候補
13日、閣議でリマを2015年のパンアメリカン競技大会の開催地として立候補することを表明した大統領令が承認された。体育庁、リマ市、オリンピック委員会が、パンアメリカン開催委員会に立候補をする予定。
(6)議会における憲法改正の論議
10日、議会の本会議にて、二院制、議員の辞職、司法改革等に関する憲法改正について扱われたが、一部のアプラ党議員及びPNPの議員が現行憲法の改革ではなく1979年憲法への回帰を打ち出し、暴力行為を伴う激しい議論となった。11日、議会は今期における憲法改革の検討を中断する旨決定したと発表した。12日、議会は会期を終了し、ゴンサレス・ポサダ議長は憲法改革による議論が引き起こした騒動に対する謝罪の意を国に示した。
(7)寒波による非常事態宣言の発令
19日付官報は、寒波による影響を受けている40郡に対する60日間の非常事態宣言を発令した(大統領令:DS No.041-2008-PCM)。対象となっているのは、アプリマック州、アレキパ州、アヤクチョ州、クスコ州、ワンカベリカ州、フニン州、リマ州、モケグア州、パスコ州、プノ州及びタクナ州の11州のうち、標高4000メートル以上の地域を抱える40郡。右40郡では、寒波により例年以上に気温の冷え込みが厳しく、人命その他に影響を及ぼしているため、国家防災庁(INDECI)を始めとして、関係機関の迅速な対応が求められている。
(8)ペルーへの投資の誘致
23日、ガルシア大統領は、国家元首として、ペルーに投資する利点を世界に対して説明することとして、ラテンアメリカ、米国、ヨーロッパ、アジアの600以上の企業に対する書簡を送付した旨発表した。日本や韓国企業にも案内が送られた。
(9)MRTAのリーダー、ビクトル・ポライ他に対する最終審の判決
24日、最高裁常設刑事法廷は、MRTAのリーダー、ビクトル・ポライ・カンポス及びミゲル・リンコン・リンコンに対する刑罰を禁錮32年から35年に引き上げる判決を、5名の判事の全員一致で下した。また、ルセロ・クンパ・ミランダは禁錮28年から30年に、アルベルト・ガルベス・オラエチェアは禁錮23年が24年となった。同法廷は、ペテル・カルデナス・シュルテの禁錮25年他、7名のMRTA構成員に対して出されていた刑を確定した。
同法廷は、ポライ・カンポス、リンコン・リンコン、クンパ・ミランダ、ガルベス・オラエチェア、カルデナス・シュルテの5名に、国家に対する計5千万ソル(約1600万ドル)の賠償金支払いを命じた。右5名以外には、計1万ソル(約3千ドル)の国家に対する賠償金支払いを命じた。
(10)米国との自由貿易協定に伴う多数の国内法整備
28日までに、政府は米国との自由貿易協定の発効と国家の近代化に向け、零細及び小企業に務める労働者の権利の整備等を含む100以上の法律を公布した。
(11)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
今回 前回(08年5月)
支持 30% 35%
不支持 67% 61%
わからない・無回答 3% 4%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈5月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
39% 26% 30% 7% 11%
(42%) (40%) (28%) (16%) (13%)
3 外交
(1)モラレス・ボリビア大統領との関係
3日、モラレス・ボリビア大統領は、ガルシア大統領と知り合った際は「もっと痩せていて、反帝国主義者であった。」と述べ、ペルーが各国との自由貿易協定を盛んに締結していることを批判した。また、8日、モラレス大統領は、自由貿易協定に関して議論するのではなく、両国の友好関係を求めるため、ガルシア大統領をボリビアへ招待すると述べた。9日、ガルシア大統領は、対話は、相違を乗り越え相互理解には最も優れた方法であるとした上で、モラレス大統領と対話の場を設ける用意が出来ている旨明らかにした。
28日には、モラレス大統領がペルー国内に米軍基地があると批判し、ペルー国民に対する抗議運動を呼びかけたとして、30日、外務省は、右発言に対する抗議をコミュニケにて発表し、駐ボリビア・ペルー大使を事実関係確認のため帰国させた。
(2)外相のエクアドル訪問
12日、ガルシア・ベラウンデ外相は、エクアドルを公式訪問した。同外相は、サルバドール・エクアドル外相と会談し、ペルー・エクアドル国境地帯における移民労働状況制定合意に署名した。また、コレア・エクアドル大統領とも会談し、二国間関係の更なる発展に関して意見交換が行われた。
(3)チリ下院議員によるペルーとの第1国境境界標訪問
13日、チリ下院議員で外務委員会と国防委員会の9名の委員が、ペルーとの国境で、チリ側が領海境界線の基点と主張する境界標1を訪問した。ただ、事前に両国の外務省の間で、境界標から100メートル以内には近づかないという合意に達したため大きな問題とならなかった。また、ガルシア・ベラウンデ外相は、右訪問をメディアに対する行為に過ぎないとして、重要性はないとする見方を示した。
(4)ガレ・アルゼンチン国防大臣のペルー訪問
16日、ガレ・アルゼンチン国防大臣がペルーを公式訪問した。同国防大臣は、アンテロ・フローレス国防大臣と会談し、国連の平和維持活動への女性隊員の積極的参加や、新たな協力分野に関して意見交換を行った。両大臣は、国防面における二国間関係を強化することで合意した。
(5)欧州議会の移民対策指針に対するペルー政府の対応
18日に欧州議会で承認された不法滞在移民の送還指針に対し、ペルー外務省は20日、同方針は基本的人権の原則と合致せず、移民に関する統合的かつ理解ある対話の必要性に言及した第5回EU中南米サミットの声明及びアンデス共同体及びEU首脳共同コミュニケに相反するものとして、右指針を憂慮するコミュニケを発出した。また、23日には、同指針に関する地域としての対応を検討するため6月26日に米州機構(OEA)外相会合を開催するよう要請した旨伝えるプレスリリースを発出した。
(6)モレノ・エクアドル副大統領のペルー訪問
23日、モレノ・エクアドル副大統領はペルーを訪問し、大統領府にてガルシア大統領と会談した。右会談で、モレノ副大統領は、エクアドルとペルーが、欧州による移民に対する対策を遺憾とすることで一致していることを指摘した他、良好な二国間関係を評価した。
4 フジモリ元大統領に対する裁判
(1)白板症摘出手術
4日、半日の公判後、フジモリ元大統領は拘留中の国家警察特別部隊の施設(DIROES)から国立がん研究所(INEN)へ移動し、5日朝、全身麻酔による手術が行われた。当初の予定より患部が大きくなっており、3cm×5cmにわたる切除が行われたが、無事に終了。6日、フジモリ元大統領の娘であるケイコ議員は、5日に手術で取り除かれた白板症は、悪性であったと明らかにした。
(2)人権問題に関する公判
フジモリ元大統領の手術後、11日に公判が再開され、13日までは午前中までのみであり、フリオ・サラサル・モンロエ元国家情報局(SIN)局長に対する証言が続いた。16日は、午後まで公判が続いたが、同元大統領が体調を崩したことがあり、ナカサキ弁護士からの要請もあり、20〜23日までは午前中のみ公判が行われることとなった。
30日には、モンテシノス元SIN顧問が証人として出廷し、8年振りに顔を合わせたフジモリ元大統領と笑みを交わすような光景が見られた。冒頭、サン・マルティン裁判長より、証言をするか黙秘権を行使するかにつき聞かれたのに対し、本件裁判の対象となっている事件においてフジモリ元大統領の責任はない旨を示すために証言すると述べた。しかし、検察による質問の途中であった午後1時過ぎに、同顧問は突然「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件については、証言はこの場(注:フジモリ元大統領を被告とする特別刑事法廷)ではなく、自分(同元顧問)が被告となっている法廷でする。これ以上は、証言しない。」と述べ、黙秘権の行使が認められた。
(3)引渡事案拡大の要請却下
19日付官報は、リマ高裁第4反汚職法廷から請求されていた、チリに対するフジモリ元大統領の引渡事由の案件拡大を、問われている公金横領罪がチリ刑法では禁錮罪が適用されないことからチリ・ペルー間の引渡条約に合致せず、チリ側の右請求却下が予測できるために却下する大統領決議を公布した。同件は、アラン・ガルシア現大統領が第一次政権期に鉄道建設の入札に関して賄賂を受け取っていたとの虚偽の発言をすることにより、同大統領を告訴するよう企業家のアルフレド・サナッティ氏に働きかけたとされる事件。
(4)日本大使公邸占拠事件の救出作戦に関する新たな証言
22日、クアルト・ポデール(注:アメリカ・テレビジョンにて毎週日曜日に放映されている報道番組)は、チャビン・デ・ワンタル救出作戦の際に、軍によるMRTAメンバーの違法な殺害があったとする特集を放映し、テオドリコ・トレス及びラウル・ロブレス国家情報局(SIN)元構成員が、MRTAのメンバーであったエドゥアルド・クルス・サンチェスの殺害に関して証言した。2名の元構成員は、ティトが人質グループの中に紛れ込んだが拘束され、後に、突入の際の攻撃で死亡したように死体となって現れたと述べた。
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