ペルー政治情勢 2009年

6月の内政と外交


1 概要

(1)内政面では、アマゾン地域において、警察及び市民の死者を伴う抗議運動が発生した。政府の対応に反対して、女性社会開発大臣が辞任した他、首相及び内相が議会の喚問に召集された。

(2)常陸宮同妃両殿下が日本人ペルー移住110周年のためにペルーを御訪問された。

(3)フジモリ元大統領に対する第二の案件の公判開始日が決定した。また、同元大統領の兄弟に対する身柄拘束令が新たに発出された。

 

2 内政

(1)アマゾン地域における抗議運動

5日、アマソナス州バグアにて抗議運動のため、10日前よりフェルナンド・ベラウンデ高速道路の封鎖を行っていた2,000名以上の住民と、右道路封鎖の解除に向かった警察の間で衝突があり、警察官10名以上及び住民数名に死者が出たと報道された。

また、同日午後、バグア近郊にあるペルー北部石油パイプラインの第6ステーションに配備されていた38名の警察官が武装した住民に襲われ、10名が殺害され、残りは身柄を拘束された。後に救出部隊により警察官26名は救出されたが、それ以外の警官は死体となって発見され、または行方不明となった。同地域近辺には5月10日から非常事態宣言が出されていたが、5日付で対象地域が拡大されると同時に、暴力事件の起きた2つの郡に夜間外出禁止令が出された。9日、人民擁護局は警察官25名、民間人9名が死亡したと発表した。

アマゾン地域の先住民のリーダーであったピサンゴ「ペルーアマゾン地帯開発インターエスニック協会(AIDESEP)」会長は、本件をガルシア大統領の責任であると発言し、先住民との対話に努めようとしていたシモン首相及びカバニーリャス内相の辞任を要請した。これに対し、ガルシア大統領は抗議運動を煽った同AIDESEP会長とペルー国民主義党(PNP)に本件の責任があるとした。

6日、同AIDESEP会長に対し、蜂起及び反逆の容疑で身柄拘束令が出されたが、5日より同AIDESEP会長は行方をくらまし、8日夜、同AIDESEP会長は駐ペルー・ニカラグア大使館に亡命を求め、9日午後、ニカラグア政府は同AIDESEP会長の政治亡命を認めた。

7日、アレキパ州及びクスコ州では、先住民の抗議活動を支持する抗議運動が建設労働者等により行われ、先住民の抗議活動を支持するデモが全国各地に拡大した。また、11日には、全国各地でアマゾン地域における抗議運動を支持するデモが行われたが、大規模な衝突事件の発生には到らなかった。

16日、ピサンゴAIDESEP元会長は、ペルー政府により渡航書(salvoconducto)の発行をうけ、17日、ニカラグアへ向け出国した。

 

(2)アマゾンの暴力事件を巡る政府及び議会の反応

8日、シモン首相及びカバニーリャス内務大臣は議会の国防委員会の喚問を受け、政府の対応について説明した。同内務大臣が、バグアで発生した暴力行為の責任は警察にないと主張したのに対し、ビルドソ女性社会開発大臣は、今般の暴力行為に政府の責任があるとして、8日午後、辞表を提出した。

10日、議会はアマゾン地域の住民が廃止を求めていた法律第1090号(森林資源の利用に関する法律)及び1064号(農地利用のための土地の法的性格を定める法律)の無期限効力停止を賛成57票、反対47票で決定した。

PNP議員は、停止ではなく廃止を求め、本会議場内にてプラカードを掲げながら居座り、これを受け、11日、議会は議会本会議にて議事進行の妨害をした責任により、7名の議員に対する120日の議員資格停止の戒告処分を下した。

11日、政府は行政府代表4名、州知事5名及び先住民の代表10名からなるアマゾン地域発展のための全国調整委員会を設置する大統領決議を公布した。

18日、アマゾン地域の住民が廃止を求めて抗議運動を展開していた法律第1090号及び第1064号の廃止が、議会本会議にて賛成82票、反対12票で決定された。

 

(3)新住宅上下水道建設大臣の就任

11日、アマゾンで起きた暴力事件に対する政府の対応に反対して辞任したビルドソ女性社会開発大臣の後任に、ビルチェス住宅建設上下水道大臣が就任し、ビルチェス大臣の後任にアリソン・リマ市マグダレナ区長が住宅建設上下水道大臣として就任した。

 

(4)大統領による国民へのメッセージ

17日、ガルシア大統領は国民へのメッセージを発表し、全てのテレビ局が生放送した。メッセージの中で、アマゾン地域の先住民の反対により廃止した法が、違法な森林伐採、麻薬密売、違法な鉱山事業等を取り締まる目的で作られたものであり、先住民の土地は守られることを改めて主張すると同時に、法の作成時に地域住民と対話する機会を設けなかったことを認めた。また、国民に落ち着きと信頼を求め、平常と和平のために呼びかけた。

 

(5)アンドラデ議員(元リマ市長)の逝去

19日、アルベルト・アンドラデ議員(議員連盟、ソモス・ペルー党首、1990年−95年リマ市長〔二期〕)が、米国の入院先の病院にて肺線維症により65歳で逝去した。

 

(6)シモン首相及びカバニーリャス内相に対する喚問

25日、議会はシモン首相及びカバニーリャス内相を喚問し、アマソナス州バグアにおける先住民と警官隊の衝突等に関して、その責任を追及した。

シモン首相は、事件に先立つ閣議において、先住民側との交渉は暗礁に乗り上げており、国民は秩序を望んでいたことから治安回復への努力を行うべき旨合意されたことを明らかにしたが、死者が出たことについての政府の責任は否定し、真実を究明する委員会の設立を提案した。

他方、34名の命が失われた事実にもかかわらず、カバニーリャス内相は、上記の閣議における決定により警察が排除開始の日時を決定したのであり、自分(内相)には責任はないとした。また、外国による介入を示唆し、調査を要請した。

両閣僚の説明は、辞任を要求する野党を説得することはできず、ペルー国民主義党(PNP)、フジモリ派、議員連盟(AP)、人民ブロック(BP)及び国民団結連盟(UN)の議員が、両名の不信任決議案に署名をした。30日、議会本会議において、両閣僚に対する不信任決議案に関する審議、投票が行われたが、必要な賛成票に届かず、否決された。

 

(7)インフルエンザ

リマだけで確認されていた患者が地方でも確認され、1日で100名以上の感染が確認されるようになり、月末までに500名を超える感染者が確認された。

 

(8)ガルシア大統領の支持率(アポヨ社による全国世論調査結果)

(イ)全国

          今回  前回(5月)

支持        21% 30%

不支持       76% 62%

わからない・無回答  3%  8%

(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈5月〉)

 リマ    北部    中央部   南部   アマゾン

 26%   23%    8%   12%   10%

(38%) (28%) (19%) (16%) (23%)

(ハ)支持理由

海外におけるペルーのイメージ改善 38%

前政権の過ちを繰り返していない 35%

公共事業の実施 27%

(ニ)不支持理由

前政権と同じ過ち物価の上昇 37%

アマゾン地域の抗議行動に対する対応の悪さ 37%

インフレ 36%

 

3 外交

(1)アラブ首長国連邦外相のペルー公式訪問

4日、アンワル・モハメッド・ガーガシュ・アラブ首長国連邦外相が訪問し、ガルシア・ベラウンデ外相と二国間計の緊密化のための協議を行った。

 

(2)常陸宮両殿下のペルー御訪問

12〜15日、常陸宮同妃両殿下が日本人ペルー移住110周年のためにペルーを御訪問された。13日、大統領府にてガルシア大統領と会談され、ガルシア・ベラウンデ外相及びベレバン外務省アジア局長が同席した。また、妃殿下はピラール・ノレス大統領夫人と会談された。大統領及び両殿下は、エチャイス検事総長、シプリアーニ枢機卿他、ペルー三権関係者、外交団等と挨拶をされた後、大統領主催夕食会にご参加された。

14日には、日秘文化会館で行われた移住110周年記念式典にご出席された。同式典にはペルー側からはジャンピエトリ第一副大統領が参列した他、日系人約600名が出席した。

 

(3)メキシコ環境大臣のペルー訪問

18日、エルビラ・ケサダ・メキシコ環境自然資源大臣がペルーを訪問し、大統領府にてガルシア大統領と会談した。

 

(4)欧州委員会外交局長のペルー公式訪問

22〜24日、サンニノ欧州委員会外交局長がペルーを公式訪問し、シモン首相、ガルシア・ベラウンデ外相、アラオス通商観光相等と会談した。

 

(5)カラルの世界遺産登録

28日、UNESCOは、カラル遺跡を世界遺産リストに登録することを決定した。リマ州バランカ郡スペの北部に位置するカラルは紀元前3000年から1800年頃に文明が発達し、アメリカ大陸で最古の文明遺跡だとされる。これでペルー国内の世界遺産に登録されている箇所は11カ所となった。

 

(6)対ボリビア関係

16日、ガルシア・ベラウンデ外相は、モラレス・ボリビア大統領による内政干渉に対して正式な抗議を行ったと発表した。また、同外相は、ロハス駐ボリビア・ペルー大使を召還し、無期限でリマに留まると述べた。大使の召還は、不快感の表明であり、モラレス・ボリビア大統領による介入への拒絶であると説明した。

同外相は、これはモラレス・ボリビア大統領がペルーのアンデス系先住民に対し反逆と革命を呼びかけたことに起因すると述べ、同大統領の態度は、アンデス系先住民の権利との連帯や共鳴を超えたものであるとした。また、同大統領が望むのは、ペルーの成長と繁栄のモデルの失敗であるとした。同外相は、ボリビア国民がペルー国内で暴力行為を引き起こそうとしているが、ペルーではボリビアのように政府が倒れることはないと主張した。

 

4 フジモリ元大統領に対する裁判

(1)フジモリ元大統領による忌避請求

「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問に対する1500万ドルの慰労金支払い」におけるサン・マルティン判事及びプラド判事に対する忌避請求が却下されたことに対し、フジモリ元大統領側は忌避請求を上訴していたところ、最高裁は、22日付で同上訴も退ける決定を下した。今回の決定においてもプリンシペ判事に対する忌避は認められたため、最高裁は24日付で、プリンシペ判事に代わりソクラテス・セパリョス・ソト判事を担当判事に任命した。また、本件事件に関する公判は7月13日9時に公判を開始することが決定された。

 

(2)フジモリ元大統領の兄弟姉妹に対する身柄拘束令の発出

リマ高裁第二汚職法廷は、現在日本に在住する(注:報道のまま)フアナ、ロサ及びペドロのフジモリ元大統領の3名の兄弟及びアリトミ元在京大使に対する身柄拘束命令を更新した。右4名は、90年代に日本からの寄付の受取団体として同元大統領の家族により作られたNGOアペンカイによる約2千万ドルの不正使用に問われている。

第二汚職法廷は、最高裁第一臨時刑事法廷の無罪判決取り消し判断に従い、10月14日に同元大統領の兄弟に対する共同謀議罪における新たな公判を開始することを決定した。



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