ペルー政治情勢 2012年
6月の内政と外交
1 概要
(1)クスコ州エスピナル郡で,銅鉱山のロイヤリティー引き上げを求める抗議運動が暴力化し,郡長の身柄が拘束されたが,プルガル環境大臣が政府代表として対話を行い,合意に達した。 (2)世界薬物問題国際会議が2日間にわたりリマで開催され,60ヶ国以上から閣僚級他の出席者が参加した。 (3)ウマラ大統領は,チリ(太平洋同盟首脳会合),欧州(フランス,スイス,ドイツ,ベルギー),ブラジル(リオ+20)及びアルゼンチン(南米諸国連合(UNASUR)臨時首脳会合)を訪問した。 (4)パラグアイのルゴ大統領罷免に伴い,UNASUR臨時首脳会合にて,パラグアイから5ヶ月前倒しでペルーが議長国を引き継いだ。
2 内政
(1)ティンタヤ銅鉱山における抗議運動 5月末より,クスコ州エスピナル郡で,ティンタヤ銅鉱山のロイヤリティー引き上げを求める抗議運動が行われており,死者を含め多数の怪我人が発生したことを受け,5月29日に30日間の非常事態宣言が発令された。また,モリョワンカ・エスピナル郡長の身柄が拘束された。 21日,プルガル環境大臣が政府代表として,現地にて対話の場を設け,身柄拘束が解かれたモリョワンカ・エスピナル郡長他と合意に達し,解決の方向に向かった。
(2)クスコ州における天然ガス関係企業従業員の一時身柄拘束 6日,クスコ州ラ・コンベンシオン郡クンピルシアト町ポモレニ区(4月9日に誘拐事件が発生したケパシアトの北東約20km)にて,センデロ・ルミノソ(SL)と見られる武装集団が,天然ガス関係の従業員18名の身柄を一時拘束した。犯行グループは,軍によるパイプラインの警備の増強は,自ら(SL)に対する攻撃だとして,軍の警備中止を要請する文書を残し,従業員の身柄を解放した。
(3)クスコにおけるヘリコプター墜落事故 7日,韓国人8名を含む企業関係者等計14人を乗せクスコに向け飛行していたヘリコプターが消息を絶ち,9日にアンデス山中のキスピカンチ郡にて墜落が確認され,10日には全員の死亡が確認された。
(4)国会議員の会派脱退 ア 7日,ルベン・コア議員(勝利するペルー,クスコ州選出)は,ペルー国民主義党及び国会の勝利するペルー会派から離脱する旨発表した。離脱の理由として,国の運命が導かれていくやり方に対する憤りと失望,並びに,変革と大革命に投票した国民の主要な要望へ対応がされていないことを挙げた。 イ 12日,アレハンドロ・ヨベラ議員(フエルサ2011党,ワヌコ州選出)は,国会コミュニケにて,フエルサ2011党の会派を離脱する旨発表した。同議員は,会派内に民主性が欠けていること,倫理委員会にて自身の経歴詐称が問われた際に,同会派の議員が支援をしなかったことを離脱理由とした。
(5)チャビン・デ・ワンタル救出作戦に係る裁判 13日,アドリアンセン国防省訴訟代理人は,第3刑事清算法廷において,スペイン人のカルタヘナ専門家による(処刑はなかったとする)ペルー国家の立場を補強する報告書を基に,バライバル法医学人類学者率いるチームによる2001年の報告書の信憑性を疑問視した。トゥリアテ最高検事補及び被害者側弁護士は,証拠提出期限が過ぎているため,(カルタヘナ専門家による)同報告書の裁判への導入に疑問を呈した。 22日,第3刑事清算法廷は,スペイン人のカルタヘナ専門家による,報告書を,「鑑定書」ではなく,「例証資料」として裁判で扱うことを決定した。 カルタヘナ専門家は,日本大使公邸で死亡した14名のMRTAメンバー全てについての報告書を作成し,同報告書はカテリアノ国家訴訟代理人により米州人権裁判所に提出される予定。
(6)大統領の支持率(括弧内前回5月) ア ダトゥム社:8〜11日実施,全国(対象:1,216名) 支持 43%(55%) 不支持 49%(37%) イ アポヨ社:12〜14日実施,全国(対象:1,207名) 支持 45%(51%) 不支持 48%(40%)
3 外交
(1)エスピノサ・メキシコ外相のペルー訪問
1日,エスピノサ・メキシコ外相は,ペルーを訪問し,ウマラ大統領への表敬及びロンカリオロ外相との会談を行った。両外相は,双方の関心の分野において協力を深化する意志を強化する二国間アジェンダに関して再検討した他,太平洋同盟の重要性につき確認した。また,麻薬問題での協力等につき協議した。
(2)EU,コロンビア及びペルーのFTA署名
1日,EU評議会は,コロンビア及びペルーとのFTAへの署名を承認した。
(3)ロンカリオロ外相の米州機構(OAS)総会出席
3〜5日,ボリビアのコチャバンバにて開催された第42回OAS総会に,ロンカリオロ外相が出席した。同外相は,地域における人道的地雷除去の成果を強調した。
(4)ウマラ大統領の太平洋同盟首脳会合出席
6日,チリのアントファガスタにて,第4回太平洋同盟首脳会合が開催され,ウマラ大統領が出席した。同大統領は,不平等是正及び,産業化を促進するため,第一次産品輸出に頼らないよう経済の多様化へ対処するための加盟国間の支援政策を含めるよう提案した他,学術交流やインフラ整備の重要性を訴えた。
ウマラ大統領は,フアン・カルロス・スペイン国王と会談した。同国王は,11月にカディスで開催されるイベロアメリカサミットへ,ウマラ大統領を招待した。
(5)ウマラ大統領の欧州訪問
10〜14日,ウマラ大統領は,フランス,スイス,ドイツ及びベルギーの4ヶ国を訪問した。大統領には,ロンカリオロ外相,ビリェナ労働雇用促進相が同行した。
ア フランス(パリ)訪問
10日,同大統領は,バグネル・ハーグ国際司法裁判所ペルー代表率いる,チリとの領海境界線画定問題を担当する弁護団と会談した。
イ スイス訪問
11日,同大統領は,ILO本部における第101回国際労働会議にてスピーチを行い,労働部門における現政権の取り組み及び成果,並びに事前協議法について言及した。
ウ ドイツ訪問
11日,同大統領は,研究者の交換等のドイツとの科学研究計画の発展のための協力に係る署名式に立ち会った他,違法にドイツへ持ち出された600年前のミイラの返還手続きを完了する合意に署名した。また,12日,メルケル独首相と会談した他,ロードショーに参加し,企業関係者に向け,ペルーをアピールした。
エ ベルギー訪問
13日,同大統領は,欧州理事会本部を訪問し,ファン=ロンパイ欧州理事会議長と会談し,両者はペルー・EU・FTAの承認への支持を表明した。同議長は,直接ヨーロッパに影響を及ぼすペルーの麻薬対策へのEUの支援を繰り返した。
オ フランス(ストラスブール訪問)
13日,同大統領は欧州議会を訪問した他,バローゾ欧州委員会委員長と会談し,EUの経済危機に果たすペルーの役割を強調した。
(6)外務副大臣のトルコ訪問
18〜19日,ベラウン外務副大臣は,トルコを訪問し,首都アンカラにて,シニリオール・トルコ外務副大臣及びヤキシィ通商副大臣等と会談し,両国民の移動を容易にする査証拡大協定に署名した。また,ダーヴトオール・トルコ外相宛の,ロンカリオロ外相からのペルー訪問への招待状を手交した。同外務副大臣は,イスタンブールでは,国際経済関係委員会及びトルコ産業企業組合の代表者と会談し,貿易拡大のために協議した。
(7)コエーリョ・ポルトガル首相のペルー訪問
19日,コエーリョ・ポルトガル首相は,ペルーを公式訪問し,ウマラ大統領と会談した。同首相には,50名以上のポルトガル企業代表者が同行した。
(8)ウマラ大統領のリオ+20出席
20日,ウマラ大統領はリオ+20に出席し,環境に配慮した持続的な経済発展に関する演説を行った。同大統領は,ペルーが有する自然の豊富さを述べ,環境保護の下の開発の重要性を訴えた。
(9)外務副大臣のサンマリノ訪問
20日,ベラウン外務副大臣は,二国間関係促進のための政治的条件を整備する目的でサンマリノを訪問し,ムラローニ・サンマリノ外務長官と会談した他,アルツェリ経済開発相,テレンツィ商工会議所会頭等と会談した。ペルーはサンマリノと2005年に外交関係を樹立し,4日に,新たなボンガラ駐ペルー・サンマリノ大使が信任状奉呈を行ったばかり。ベラウン外務副大臣は,共通の関心事項発展のための関係強化に係る共同宣言案をサンマリノ側に提出した。
(10)駐パラグアイ・ペルー大使の協議のための呼び戻し
24日,ペルー外務省は,ルゴ・パラグアイ大統領罷免に係る協議のため,駐パラグアイ・ペルー大使を本国へ呼び戻した。
(11)アフガニスタン外相のペルー訪問
24日,ラスール・アフガニスタン外相はペルーを訪問し,ロンカリオロ外相と会談した。同アフガニスタン外相は,25〜26日の世界薬物問題国際会議に出席するためであり,外相会談では,麻薬密輸や資金洗浄等の共通の関心事項における協力の可能性につき協議した他,アフガニスタンの若手外交官に対するペルーからの奨学金供与の可能性についても触れた。
(12)世界薬物問題国際会議の開催
25〜26日,リマにて世界薬物問題国際会議が開催され,60ヶ国以上からラスール・アフガニスタン外相,カルドソ・ブラジル法務相,コラレス・ホンジュラス外相,カーリコウスキー米国家麻薬管理政策局長(閣僚級),イワノフ・ロシア麻薬対策国家委員会委員長等の閣僚級が出席した他,日本からは高野外務省参与が出席し,最終日には薬物問題への各国の取組をコミットするリマ宣言が採択された。
(13)エル・サルバドル外務副大臣のペルー訪問
27日,カスタネダ・エルサルバドル外務副大臣がペルーを訪問し,ベラウン外務副大臣と会談した。ベラウン外務副大臣は,ペルーの中米統合機構(SICA)への地域オブザーバーとしての承認へのエル・サルバドルの支持に謝意を表明した。
(14)ペルーの南米諸国連合(UNASUR)議長国就任
29日,ウマラ大統領は,UNASUR臨時首脳会合に出席するためアルゼンチンを訪問した。ペルーは,本年11月にパラグアイから議長国を引き継ぐ予定であったが,パラグアイの参加権停止が決定されたため,5ヶ月前倒しでペルーが議長国となった。
同会合にて,パラグアイの政治社会状況を監視するためのミッション団を送り込むことが合意された。
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