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ペルー政治情勢 2008年
8月の内政と外交
1 概要
(1)内政面では、アマゾン地域の住民が、先住民に関する2つの法律に反対する激しい抗議運動を行った。その結果、議会は右法律を廃止することを決定した。また、前会期から中断されていた3名の議員に対する罰則が決定され、30〜60日間の議員資格停止が言い渡された。
(2)外交面では、外務副大臣が11月のAPEC首脳会議の際の二国会談の調整等のため、中国及びタイを訪問した。他方、アルゼンチン外務副大臣、エクアドル国防大臣、チリからは上院議員団がペルーを訪問した。
(3)フジモリ元大統領の収容体制が緩和されていたことが明らかになり、マスコミは政治的合意があったのではないかとの憶測を元に批判を行った。
2 内政
(1)国際協力庁(APCI)長官の交代
6日、アグスティン・アヤ・デ・ラ・トーレAPCI長官が提出した辞表が受理され、同日、国家戦略計画センター(CEPLAN)の所長に任命された。また、APCIの新長官としてカルロス・パンド・サンチェス氏が任命された。
(2)議員に対する罰則
7日、議会の本会議は3名の議員に対する罰則を決定した。親戚を顧問として雇っていたホセ・ベガ・アントニオ議員(UPP)に30日間、隣人の犬を銃で殺害し銃の不法所持が疑われたミロ・ルイス議員(PNP)に60日間、顧問の不正雇用によりヤネス・カハワンカ議員(PNP)に30日間の議員資格停止という、倫理委員会が求めていたよりも軽微な罰則となった。
(3)8月15日地震一周年記念
昨年8月15日に発生し、600名近くの死者が発生した地震の一周年を迎えるにあたり、政府は15日を国の追悼の日と定めた。12〜13日には、ガルシア大統領が被災地を訪問し、再建された校舎等を視察した他、15日にはリマの大聖堂で行われた地震被害者のために行われたミサに参加した。
(4)2つの法律を巡るアマゾン地域における抗議運動
9日より、アマゾン地域の住民は、6月末に公布された法律第1015号(住民の過半数による意思決定を可能とする等、農民共同体及び先住民の手続きを統一化)及び法律第1073号(共同体の土地への民間投資を定めた法、第26505法の一部改正)に反対して、橋及び幹線道路の封鎖や石油・天然ガスの掘削施設の運営妨害を伴う無期抗議運動を実施し、19日よりアマソナス州、ロレト州、クスコ州の3郡1村に対して30日間に及ぶ非常事態宣言が発令された(DS No.058-2008-PCM)。
しかし、22日、議会は右法律を廃止する旨決定し、抗議運動は収まったため、28日付官報は、非常事態宣言を発出した大統領令を無効とする大統領令を公布した(DS No.061-2008-PCM)。
(5)カストロ・カストロ刑務所事件に関する米州人権裁判所の解釈
19日、米州人権裁判所は、2006年11月に下した、ペルー政府はカストロ・カストロ刑務所事件の被害者に対して賠償金を支払うべきという判決に関し、政府が具体的な解釈を求めた請求に対する回答を行った。同裁判所は、センデロ・ルミノソが暴力的なテログループであると認めつつ、カストロ・カストロ刑務所事件(注)の被害者に対する賠償金の具体的な支払方法に関しては、ペルー政府の判断に委ねた。また、ペルー政府の判断により被害者家族の感情を考慮した記念公園もしくはモニュメントを設置するよう命じた。
20日、フェルナンデス法務大臣及びガルシア・ベラウンデ外務大臣は会見を行い、政府としては法廷の場でも、テロとの戦いに勝利したと捉え満足の意を表した。
(注)フジモリ元大統領の任期中である1992年、カストロ・カストロ刑務所で41名の収監者が殺害された事件。
(6)現役議員の逝去
25日、ロレト州選出のマリオ・ペニャ・アングロ議員(議員連盟)がガンのために亡くなり、同議員の後任として、企業家であるホルヘ・フォインキノス氏が繰り上げ当選した。
(7)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
今回 前回(08年7月)
支持 22% 26%
不支持 75% 70%
わからない・無回答 3% 4%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈7月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
31% 16% 12% 4% 17%
(30%) (32%) (18%) (11%) (10%)
3 外交
(1)外務副大臣の中国訪問
4日、グティエレス外務副大臣はAPEC企業委員会会合への参加及び楊外相、李外交部長助理及び易商務部副部長と会談するため、中国を公式訪問した。右会談においては主に11月の胡錦濤国家主席の公式訪問について扱われた他、FTA交渉の進展に関して意見交換を行った。さらに、中国国家主席初のペルー訪問となるため、重要性が高まる中国との経済分野における関税協力合意等に関して話し合いが行われた。
グティエレス外務副大臣は、8月15日地震に対する中国からの支援に感謝し、四川における大地震の経験を有す中国による防災分野における技術協力の可能性に関して提案した。
(2)外務副大臣のタイ訪問
6日、グティエレス外務副大臣はタイを訪問し、テート・タイ外相と会談を行った。同会談では、11月に予定されているサマック首相のペルー訪問他、二国間関係に関する意見交換が行われた。同外務副大臣は、企業関係者とも会合を設け、ペルーにおけるビジネスの機会を紹介した。
(3)ベルギー・ルクセンブルグとの投資促進協定批准書の交換
12日、ガルシア・ベラウンデ外相は、2005年10月に署名されたペルー・ベルギー・ルクセンブルグ投資促進協定批准書の交換を行った。同協定は、2006年6月にペルーにて批准、2007年6月にベルギーにて、2008年1月にルクセンブルグで批准され、この度発効となった。
(4)ボリビアの国民投票
13日、ガルシア大統領は10日にボリビアにて実施された国民投票に対するペルー政府及び国民の祝意を、モラレス・ボリビア大統領に伝達した。同大統領は、完璧な国民投票の実施及び順調に機能するボリビアの民主主義制度を強調し、また、ボリビア国民の市民精神を強調し、更なる発展への必要条件が強化されつつ、社会の全てのセクターとの対話を通じて民主主義が引き続き強化されるよう祈念した。
(5)アルゼンチン外務副大臣のペルー訪問
18日〜19日、タセッティ・アルゼンチン外務副大臣は、ペルーを訪問し、第6回ペルー・アルゼンチン政治統合調整委員会及び第2回安全保障及び国防に関する協力調整委員会(COPERSE)に出席した。
調整委員会では、25万人以上のアルゼンチン在住ペルー人に対する社会保障に関する合意の署名に向けて尽力する他、麻薬の密輸及び教育・保健・農業・牧畜等におけるさらなる協力の必要性、文化財の違法な取引への対処を強化することで合意した。
第2回COPERSEでは、国連の平和維持ミッション、自然災害、技術協力等に関する協力関係の強化及び拡大に関して意見交換が行われ、国連のハイチ安全化ミッションのためのペルー・アルゼンチン合同軍事技術団の設立、国連によるペルーの平和活動共同訓練センター(CECOPAZ)認知に向けたアルゼンチンの支援等に関して合意に達した。
また、第3回経済案件に関する会合も開催され、両国は零細企業の促進及び観光業への投資の拡大等に関して合意した。
(6)エクアドル国防大臣のペルー訪問
19日〜21日、ポンセ・エクアドル国防大臣がペルーを訪問し、フローレス・アラオス国防大臣と会談を行い、共同声明を発表した。右会談で、両大臣は安全保障及び防衛に係る協力を強化することに合意した他、9月にカナダで開催される第8回米州国防大臣会議の議題、ブラジルが提案する南米防衛理事会の設立、防災協力、国連のハイチ安全化ミッション等に関して意見交換を行った。
(7)オデッセイ裁判への参加要望
20日、外務省は在米ペルー大使館を通じて、米国フロリダ州のタンパ郡法廷にて行われるオデッセイ海洋探検社及びスペイン政府間の裁判に、ペルーも参加出来るよう要請書を提出した。同裁判は、オデッセイ社が大西洋の沈没船から回収したペルーにて刻印された金貨及び銀貨等が含まれる船荷の所有権を定めるものであり、右書簡にて、ペルー政府は同船荷が文化遺産であるか否かの判断をし、該当する場合は適切な法的措置を取るために、船荷の検査及び裁判資料へのアクセスも求めた。
(8)ロシアとの学術的称号及び単位の相互認証
21日、ペルー政府及びロシア政府は、1987年10月に締結された学術証明書、学位号、単位の相互認証に関する合意の効力を維持することで合意に達した。右合意は、現在両政府が交渉中の新たな合意が効力を有するまで継続することとなった。
(9)チリ上院議員団のペルー訪問
26〜27日、アドルフォ・サルディバル・ラライン・チリ上院議長を団長とする超党派の上院議員一行7名がペルーを公式訪問し、26日、ガルシア大統領と大統領府にて会談した。会談後の記者会見で、ガルシア大統領は両国の経済関係に言及した他、友好的な今般の訪問を重要と見なす考えを示した。また、サルディバル・チリ上院議員は、ペルー・チリ間の貿易及び政治関係は、国際司法裁判所で扱われている両国間の領海境界線画定問題により停滞すべきではないと述べた他、ガルシア大統領の指導力を強調し、二国間関係は全ての分野にわたり、両国民に恩恵を与るものとして前向きに捉えるべきと述べた。
同議員団は、議会及びリマ市庁も訪問した。
(10)コロンビアとの麻薬対策
26日、ペルー及びコロンビアは、麻薬対策協力の強化のため、麻薬のない生活と発展のための全国委員会(DEVIDA)及びコロンビア大統領府プログラム「共有する責任」の麻薬対策に関する協力関係の強化及び促進するための覚書に署名を行った。
(11)アンデス共同体・EU政策対話及び協力合意の批准書提出
27日、ペルー政府は、ボリビア政府と共に2003年12月にローマで署名されたアンデス共同体(CAN)・EU政治対話及び協力合意の批准書をCAN事務局に提出した。同合意はCAN及びEU加盟国が全て批准書を提出した後、現在両者の関係を定めている1996年のローマ合意及び1993年の協力枠組み合意の代わりとなる。
(12)外務副大臣のウルグアイ訪問
29日、グティエレス外務副大臣はウルグアイを訪問し、国連のハイチにおけるミッションに参加するラテンアメリカ諸国の外務副大臣及び国防副大臣が集結した2×9メカニズムに参加した。同会合にて、ペルーはさらに1年間ハイチにおけるミッションに参加する旨明らかにした。また、ペルー及びアルゼンチンが提案した上下水道及び道路整備の技師団の配置、ミッションに参加する女性隊員の増加などが支持された。
4 フジモリ元大統領の裁判
(1)人権侵害事件に関する裁判
週に3日、フジモリ元大統領に対する「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」に関する公判が開催され、元軍幹部が証人として出廷した他、法医学者、鑑定士等の専門家による意見の陳述が行われた。15日は、同元大統領が体調を崩して公判が行われなかった。
(2)収容体制変更に伴う批判
7月末に同元大統領の誕生日を祝うために、歌手らが収容施設を訪問していたことから、6月初頭に同元大統領の収容体制が厳戒体制から通常体制に変更されていたことが明らかになった。多くのメディアは、収容体制の変更が議会の議長選挙に関してフジモリ派議員がアプラ党候補を支援する条件であったのではないかとして、収容体制が緩和されたことを批判した。
(3)「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問の妻自宅の違法な家宅捜査」(allanamiento)
12日、最高裁は、フジモリ元大統領の弁護側による「モンテシノス元国家情報局(SIN)顧問の妻自宅の違法な家宅捜査」に係る同元大統領に下された禁錮6年の第二審判決に対する不服申し立てを受理した。最高裁は、右判決を検討し、刑の確定もしくは変更を行うこととなる。
(当館注:同件では、4月15日、最高裁特別刑事法廷がフジモリ元大統領に対して、職権侵害罪により禁錮6年、国家に対する40万ソル(約13万米ドル)の賠償金支払い、2年間の公民権剥奪を命じた。)
(4)片岡夫人の発言
17〜18日、フジモリ元大統領の夫人である片岡都美氏はプレスに対して、同元大統領との関係は親子のようなものであり、結婚は支援のために行ったと述べた旨報道された。また、結婚により同元大統領を守るよう日本政府に圧力をかけることができると考えていたことを明らかにした。
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