ペルー政治情勢 2009年

8月の内政と外交


1 概要
(1)7月に発足したベラスケス・ケスケン首相が、議会にて所信表明演説を行い、信任された。演説では、7月28日に発表された大統領教書と同様の民主的秩序の確立という路線で、複数の対策が発表された。
(2)ウリベ・コロンビア大統領が、同国内の軍事基地を米軍に利用を許可するための合意の進捗状況を各国に説明する一環としてペルーを訪問した。ガルシア大統領は、「ウ」大統領への支持を示した。また、ガルシア大統領は、エクアドルを訪問し、コレア・エクアドル大統領の就任式に出席したが、南米諸国連合(UNASUR)首脳会合は欠席した。
 月末、ガルシア大統領は、アルゼンチンで開催されたUNASUR臨時首脳会合に出席し、軍事同盟や軍備の透明化を提案した。
(3)領海境界線画定問題を巡り、ガルシア大統領によるチリとボリビア間にボリビアの海の出口を巡る合意が既に存在するという発言を巡り、チリ外相より、ペルーによるICJ提訴を批判する発言があった。

2 内政
(1)民主主義強化のための法案提出
 5日、ガルシア大統領は、7月28日の大統領教書の中で国民の声をさらに反映させ、民主主義を強化する対策として提案した、議員半数の改選及び地方選挙における決選投票の実施のための法案を議会に提出した。議員半数の改選に関しては、憲法第90条を修正し、2年半毎に半数を改選するとした他、地方選挙を定めた法律第27683号第5条を、州知事及び副州知事の選出に関し、第1回投票で33%以上を得るか、第2回投票を行い、多数票を得た者が当選すると変更した。

(2)ベラスケス・ケスケン首相の所信表明演説
 10日、ベラスケス・ケスケン首相が議会にて所信表明演説を行い、議会本会議は同首相率いる内閣を、賛成票68票、反対票14票、棄権11票で、信任することを決定した。アプラ党、国民団結連盟(UN)、フジモリ派、国民連盟(AN)が信任票を投じ、国民主義党(PNP)は反対、ペルー統一党(UPP)、議員連盟(AN)、人民ブロックの一部議員が棄権した。
 同首相は、治安、麻薬対策、汚職、保健、インフラ整備等、全てのセクターの要求を聞くこと、及び地方分権に従事し、週に2〜3回は地方を訪れることを約束した。さらに、対話、統合及び民主的秩序が持続可能な国家政策であると述べた他、貧困対策、地方分権、政治改革、教育改革、投資促進等の経済対策、2007年8月15日地震の復興、軍と治安、麻薬対策等について述べた。また、政府の汚職対策を再確認し、5つの対策を発表した。

(3)治安対策:VRAE計画
 12日、コカの葉が栽培され、麻薬密売業者が活動しているアプリマック・エネ川渓谷(VRAE)地域の、社会開発、基礎インフラ整備及び国家のプレゼンス確保等の目的をもつVRAE計画が、国防省から首相府へ管轄が移った。13日、政府は、フェルナン・バレル氏を同計画の事務局長に任命した。VRAE計画は、同地域内に事務所を設置し、バレル事務局長は現場にて指揮を執る。
 バレル局長は、農業技師としての経験が豊富であり、コカの代替作物生産の促進が期待される他、ケチュア語及び外国語数カ国語に堪能である。

(4)PNP議員の資格停止措置の解除
 13日、議会本会議にて、アマゾン地域住民が求めていた法律の廃止を求めて議場内で抗議運動を行い、議事進行を妨害したとして、6月11日に下されたPNP所属議員7名に対する120日間の資格停止の解除が、賛成81票、反対11票で承認された。右承認は議論をすることなく行われ、PNPや議員連盟の野党だけでなく、アプラ党及びフジモリ派議員も賛成した。議員連盟(UN)のみ反対した。7名の議員は、120日間のうち37日間で資格停止処分が終了した。

(5)8月15日地震2周年
 15日、イカ州沖を震源地とし、死者500名以上、全壊・半壊家屋7万棟以上の被害をもたらした地震から2年が経過した。被害が集中したイカ州では、現在も復興作業のための非常事態宣言が出されており、「8月15日地震被災地域復興基金」(Forsur)、国家防災庁及び住宅上下水道省が中心となって復興活動が行われている。
 地域住民は、未だに崩壊した建物の瓦礫が残っており、再建が遅々として進まないことを不満として、ピスコ、チンチャ及びイカにて道路封鎖を伴う抗議運動を行った。

(6)パン・アメリカン競技大会組織委員の訪問
 25日、リマ市が立候補する2015年パン・アメリカン競技大会の組織委員が視察に訪れた。同委員は大統領府にて、ガルシア大統領、カスタニェダ・リマ市長、コウリ・カヤオ州知事と会談した。右大会の開催地として、他にはトロント及びボゴタが立候補をしている。

(7)ガルシア大統領の支持率:アポヨ社全国世論調査結果
(イ)全国
今回 前回(7月)
支持        27% 27%
不支持       69% 68%
わからない・無回答  4%  5%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈7月〉)
 リマ    北部    中央部   南部    アマゾン
 29%   33%   21%   18%   18%
(30%) (36%) (19%) (15%) (19%)

3 外交
(1)ペルー・カナダ及びペルー・シンガポールFTA発効
 1日、ペルー・カナダFTA及びペルー・シンガポールFTAが発効される旨定めた大統領令が公布された。ペルー・カナダFTAは、5月29日に署名された後、7月30日に大統領及び議会にて批准された。カナダとは、FTAとともに、労働及び環境に関する協定も発効する。
 また、シンガポールとは、5月29日署名、7月26日に批准し、今般の発効となった。

(2)ウリベ・コロンビア大統領のペルー訪問
 4日、ウリベ・コロンビア大統領は、米国軍がコロンビア国内の7つの軍事基地を利用するためのコロンビア及び米国間の合意の進捗状況について説明するための南米諸国訪問の一部としてペルーを訪問し、ガルシア大統領と会談した。ガルシア大統領は、ウリベ大統領による和平への取組、及び社会開発の進展の他、コロンビアだけでなく大陸の民主主義モデルを支持する「ウ」大統領及び同政府の努力を歴史は認識すると述べた。

(3)ファルコニ・エクアドル外相のペルー訪問
 5日、ファルコニ・エクアドル外相が、第8回ペルー・エクアドル二国間委員会会合のためペルーを訪問した。「フ」外相は、ガルシア大統領と会談し、10日に行われるコレア大統領の就任式への招待状を手交した。また、ガルシア・ベラウンデ外相と第8回ペルー・エクアドル二国間委員会会合を行い、両国の信頼関係を強調した他、国境地域における二国間技術委員会の作業、貧困撲滅のための協力及び統合計画の進展を確認した。

(4)ガルシア大統領他のエクアドル訪問
 10日、ガルシア大統領はシモン前首相と共に、コレア・エクアドル大統領の2期目の就任式に出席するためキトに向かったが、両者が乗っていた飛行機に不備が発見されたため、チクラヨ市に緊急着陸し、飛行機を乗り換えてキトに向かったため、議会で開催されていたコレア・エクアドル大統領の就任式典には間に合わず、昼食会のみ参加となった。
 ガルシア大統領は南米諸国会合(UNASUR)首脳会合には出席せず、ガルシア・ベラウンデ外相が代理で出席した。

(5)韓国大統領特使のペルー訪問
 12日、ガルシア大統領は、イ・サンドゥク韓国大統領特使(国会議員)と懇談した。ガルシア大統領は、過去数年に韓国との貿易が4倍に増加し、ペルーはKOICAを通じた韓国の経済協力の最大の受け入れ国であることに言及した。イ特使は両国関係が良好であることに同意すると共に、韓国企業はペルーに投資する用意がある旨述べた。
 イ大統領特使は、韓国資源公社(KORES)とペルー鉱業冶金地質研究所(INGEMMET)間の、KORESによるペルーにおける亜鉛及びウランの鉱床探査に係る覚書に署名式に立ち会った。

(6)ペルー・マレーシア政府間協議の開催
 12日、外務省にてペルー・マレーシア政府間協議が開催され、ポポリシオ外務副大臣は、コイラン・マレーシア外務副大臣兼上院議員率いる一団と、共通の関心である協力及び投資分野に関して意見交換を行った。本年4月25日に、ペルーはマレーシアと外交関係樹立25周年を迎えた。

(7)対ボリビア関係
 13日、モラレス・ボリビア大統領は、国内で発生した2件の封筒爆弾事件にペルー人が関与しているとする発言を行った。これに対し、ガルシア・ベラウンデ外相は、ペルー政府はモラレス・ボリビア大統領の発言に対し、犯罪には国籍はないことを理由に回答しないと述べた。また、同外相は、同大統領が信頼できる情報を得た上での(ペルー人が関与しているという)発言であろうとした上で、ボリビア国内の問題であるため、ボリビアが解決する問題であると述べた。
 他方、5月にペルーが亡命を承認した3名のボリビア元閣僚に加えて、新たにピノ元財政大臣がペルーに出国したとされることを受け、「モ」大統領は、3名の元閣僚の亡命身分を中断するよう述べた。右4名の元閣僚は、2003年に70名近くの死者を出した抗議運動の責任を問われている。

(8)ブラジル外相のペルー訪問
 14日、ガルシア大統領は、ガルシア・ベラウンデ外相の招待を受けてペルーを訪問したアモリン・ブラジル外相と大統領府にて会談した。会談後、アモリン・ブラジル外相は、ルーラ・ブラジル大統領が12月11日にペルーを公式訪問するであろうと述べた。
 両国外相は、戦略的同盟としての高いレベルの一致及び政治対話、並びに二国関係のダイナミックな関係、また、二国間の主要課題他、共通の関心事項及び両国首脳が4月28日にリオ・ブランコで開催された国境会談で合意した点の進捗状況を確認した他、共同声明に署名した。

(9)ブラジル開発産業貿易大臣のペルー訪問
 17日、フィーリョ・ブラジル開発産業貿易大臣は、ペルーの投資に関心のある企業関係者と共にペルーを訪問し、ガルシア大統領と会談した。同開発産業大臣は、ブラジル政府はブラジル開発銀行を通じて、ペルー国内の二つの水力発電所の資金的援助に関心があると述べた他、ブラジルはペルーにて発電される電気の強力な購買者となること確約した。また、ペルーに天然ガスが十分にある場合は、購入する意図を示した。
 同開発産業大臣は、ペルーはブラジルにとって非常に重要な国であり、北部の国境地帯での更なる関係促進に関心を示した他、ペルーが日本ブラジル方式を採用したことにより、ブラジル政府は、ブラジル企業がペルー国内でデジタルテレビ対応受像器を生産する方向で働きかけると述べた。

(10)米国下院議員団のペルー訪問
 18日、デビッド・プライス議員(民主党)が団長を務める、米国下院議員団がペルーを訪問し、ガルシア大統領と会談した。会談では、両国のさらなる協力、環境や労働状況などペルー米国TLCの進展、民主的機関及び代表制の重要性について協議した。

(11)アンデス共同体(CAN)外相会合
 19日、2009−2010年のCANの活動内容を協議する第14回CAN外相会合にて、4ヶ国の外相は、ペルーより提案された、同国が議長国を務める間の優先事項を検討し、コンセンサスによるアジェンダに基づいたアンデス統合プロセスの戦略的ビジョンの確定に向けて引き続き作業することで合意した。また、女性及び機会均等上級理事会及びCAN財政理事会の設置のための共同体規則を承認し、EUの財政支援を受ける「CANにおける違法麻薬対策プログラム」及びアップデートした「災害防止・対策のためのアンデス戦略」を承認した。

(12)セラヤ・ホンジュラス大統領のペルー訪問
 19日、ガルシア大統領は、セラヤ・ホンジュラス大統領の訪問を受け、大統領府で会談した。同大統領は、セラヤ大統領に対し、民主政府、米州機構の合意及びアリアス・コスタリカ大統領の提案を支持する旨表明し、結果がすぐに現れ、大陸における民主主義に生じた一時的な傷が治ることを望むと述べた。
 会談後、セラヤ大統領は、ガルシア・ベラウンデ外相と共に記者会見を行い、大統領府におけるガルシア大統領の受け入れに感謝し、ペルーは大陸における正義と民主主義の戦いにおいて非常に重要な役割を持つと強調した。また、米国の態度が不十分であると批判した。
 他方、ガルシア・ベラウンデ外相は、地位を剥奪された元首がホンジュラスの民主的秩序の回復のために行う努力へのペルー政府の支持を繰り返した。

(13)領海境界線画定問題を巡る対チリ・ボリビア関係
 23日、ガルシア大統領は、チリのラ・テルセラ紙によるインタビューの中で、国際機関は、合理的な方法でチリとの領海境界線画定問題に判断を下すと確信しており、ペルーはその判決を尊重し、チリも同様の対応をするであろうと述べた。また、ボリビアの海の出口に関する問題については、ペルーは障害とならないことを主張したが、ICJで扱う領海境界線画定問題は、ペルーとチリのみの問題であることを強調し、モラレス・ボリビア大統領による、同件がボリビアの海の出口を侵害する可能性があるとする発言を否定した。また、仮にチリとボリビアが既に何らかの合意に達している場合は、公にすべきであり、ペルーに通報を求めた。
 フェルナンデス・チリ外相は、チリ・ボリビア間におけるチリがボリビアに海の出口を譲るという合意の存在を否定し、具体的に確定した場合は公表すると述べた。また、ペルーによるICJへの提訴を挑発的と述べた。
 24日、ガルシア・ベラウンデ外相は、ペルーは領海境界線問題を二国間で解決しようと20年間試みた後、ICJへの提訴という結果になったと説明した。また、ガルシア大統領によるチリ・ボリビア間に非公開の合意があるとする発言は、対ボリビア関係を緊張化させるものでも、月末に予定されるUNASURの臨時首脳会合の雰囲気を悪くさせるものでも無く、両国が非公開で海の出口問題を含む二国関係に係る13のテーマについて交渉していることは既存の事実であることを主張した。

(14)リャブコフ・ロシア外務副大臣のペルー訪問
 28日、リャブコフ・ロシア外務副大臣が第7回両国政治外交協議会合に出席するためにペルーを訪問した。「リ」ロシア外務副大臣及びポポリシオ外務副大臣は、昨年11月にメドベージェフ・ロシア大統領がペルーを公式訪問した際に、ガルシア大統領と署名した共同声明に基づく両国の関心事項、開発協力、エネルギー技術における協力等を協議した。

(15)ガルシア大統領のUNASUR臨時首脳会合出席
 28日、ガルシア大統領は、アルゼンチンのバリローチェにて開催されたUNASUR臨時首脳会合に参加した。同会合では、参加した首脳により、防衛における相互信頼のメカニズムを築き上げるため、南米を平和地域として強化する旨の宣言が署名され、外国軍の存在が、南米の主権及び統合を脅かすことはできないことが再確認された。
 ガルシア大統領は、UNASURの防衛理事会が、南米と関わりの無い第三国との交渉、地域における二国間軍事同盟及び加盟国の武器購入手続を監査するよう提案した。また、同理事会が監査メカニズムを通じて、米国によるコロンビアへの支援内容の監査を開始すべきと要請した他、地域内で麻薬密売に対抗する南米グリーンヘルメットとなる警察及び軍からなる活動部隊の創設を提案した。



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