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ペルー政治情勢 2008年
9月の内政と外交
1 概要
(1)内政面では、月初めに地方で抗議運動が行われた後、医師組合による無期限ストライキが開始され、長期化した。
(2)外交面では、ガルシア大統領が関係閣僚及び経済ミッションを伴ってブラジルを訪問した他、エクアドル大統領及びハンガリー大統領がペルーを訪問し、ガルシア・ベラウンデ外相がチリに於ける南米諸国連合(UNASUR)緊急首脳会合及び米国に於ける国連総会に出席する等、政府要人の行き来が多い月であった。
(3)フジモリ元大統領の裁判に関しては、専門家による参考意見の聴取が終了し、証拠書類の提出が開始された。また、膵臓に嚢胞が見つかりガンである可能性が懸念されたが、検査の結果、良性のものと判明した。
2 内政
(1)地方における抗議運動
2〜3日にかけて、物価の値上げに反対するクスコ州住民、コカ葉の栽培撲滅に抗議するワヌコ州及びサン・マルティン州住民等の抗議運動が行われた。
(2)議会議長による議会改革の提案
9日、ベラスケス議会議長は、時期をずらして2年半毎に120名の議員の半数を選出する方法を提案した他、一般犯罪の際の議員特権を排除する取組を加速化する旨発表した。
(3)ガルシア大統領のメッセージ
抗議運動が各地で実施されたことに対し、9日、ガルシア大統領は国民に対してメッセージを発表した。大統領は金持ち政府と批判されていることに対して、2年間で8ポイント貧困削減が進んだこと、世界的な物価上昇がペルーに影響を与えているが、その中で順調な経済成長と低いインフレ率を達成している旨指摘した。また、一時の人気取り政策で問題を解決するのではなく、責任及び明確な目的を持って政策を行う重要性を指摘し、不用意な政治論議を批判し、国民に楽観主義を呼びかけた。
(4)医師の抗議運動
医師の労働組合は、ガリド・レッカ保健大臣(注:10月にウガルテ大臣と交替)との対話を拒否し、15日より無期限のストライキに突入を開始した。解決のためには、デル・カスティーリョ首相とバルディビエソ経済財政相との対話を望んだ。首相と会合の機会が設けられたが合意に達さず、ストライキは長期化した。
(5)現役議員の逝去
17日、アマソナス州選出のファビオラ・サラサル議員(アプラ党)が交通事故で亡くなった。30日、同議員の後任として、エドゥアルド・ペラエス氏が繰り上げ当選となり、議員として宣誓した。なお、ペラエス議員は、フジモリ元大統領の裁判に参加しているホセ・ペラエス最高検及び、全国司法審議会(CNM)のエドゥムンド・ペラエス委員長の兄弟。
(6)憲法委員会による憲法弾劾に関する修正承認
23日、議会の憲法委員会は、憲法第100条を修正することを承認した。この修正により、議会にて政府高官等の憲法弾劾が承認された後に、検察長官は独自に憲法弾劾をもって最高裁にて裁判手続きを開始するか否かを決定することが可能となる。現行では、議会が承認した弾劾内容に従わねばならない。本会議における議決待ち。
(7)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
今回 前回(08年8月)
支持 19% 22%
不支持 78% 75%
わからない・無回答 3% 3%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈8月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
24% 19% 9% 11% 14%
(31%) (16%) (12%) (4%) (17%)
3 外交
(1)ベネズエラ政府による眼科手術の援助中止
1日、ガルシア・ベラウンデ外相は議会の外交委員会に出席し、「ミラクル・ミッション」の中止の決断はベネズエラ政府の自発的なものであり、ペルー政府は無料で眼科手術を行っていた右援助に対して一度も反対をしたことがないと明らかにした。また、ベネズエラに対して、患者がベネズエラへ旅行する必要がないよう同手術をペルーの病院で行うことを提案したが、チャベス・ベネズエラ大統領からは返答を得なかったと述べた。
ラグーナ在ペルー・ベネズエラ大使が、地元メディアに対し、ペルー政府は内政干渉の可能性もあるとされる「アルバの家」と関係があるとの理由で「ミラクル・ミッション」を拒否したと述べたことに対し、同外相は、すべての協力は自発的なものであり、協力者が継続しないと決めたのであれば、その決断を尊重すると述べた。
(2)ボリビア情勢
12日、外務省は、ボリビア政府がパンド県に対し戒厳令を公告し、ペルー人暗殺者が同県に侵入したとされることについて、ボリビア政府に事実関係を明らかにする旨要請するプレスコミュニケを発表した。また、ペルー政府はボリビアの民主制度に対する全面的支持を改めて表し、民主制度を弱めようとし、ボリビアの統一を脅かすグループによる暴力的行為を断固拒否するコミュニケを発表した。
(3)エクアドル大統領のペルー訪問
12日、コレア大統領がエクアドル人のエレルス・アンデス共同体(CAN)事務局長と、加盟国の統合に関する緊急の案件を協議するためペルーを訪問し、また、大統領府にてガルシア大統領と会談を行った。エクアドル側からは、サルバドル・エクアドル外相、エガス・エクアドル通商副大臣、リバデネイラ在ペルー・エクアドル大使、ペルー側からは、アラオス通商観光大臣、フロレス・アラオス国防大臣(外相代理)、グティエレス外務副大臣及びロハス駐エクアドル大使が同席した。
ガルシア大統領は、両国の協力、信頼関係及び国境地域開発が進展していると述べ、二国間の和平合意10周年の前日である10月25日にエクアドルのマチャラにて両国合同閣議を開催することをコレア大統領と共に発表した他、両国政府とも、ボリビアの危機の収拾を望むと明らかにした。
(4)ガルシア・ベラウンデ外相の南米諸国連合(UNASUR)緊急首脳会合参加
15日、ガルシア・ベラウンデ外相は、チリで開催されたUNASURの緊急首脳会合に参加した。同会合では、ボリビアで発生している暴力行為に関して各国が意見交換を行った。また、同外相は、ボリビア政府は、ペルー人暗殺者が暴力行為に参加しているという証拠を提出しなかったと述べた。
(5)ガルシア大統領のブラジル訪問
17日、ガルシア大統領はブラジルで開催されるペルー展「Expo Peru」に参加するため、サンパウロを訪問した。ガルシア・ベラウンデ外務大臣、バルディビア・エネルギー鉱山大臣、サバラ運輸通信大臣、アラオス通商観光大臣が同行した。
18日の開会式にて、ガルシア大統領は、ペルーとブラジルは、貿易協定の深化、経済・政治関係の緊密化及びアジア太平洋に向けた同盟を意味する統合を行うと述べた他、ブラジルが太平洋にアクセスするためにペルーは最も有効な選択肢であると述べた。同日午後、ガルシア大統領とルーラ・ブラジル大統領による首脳会談が行われ、会談後、貿易促進に係る技術協力、企業協力のメカニズム等に関する協定への署名が行われた。
(6)ハンガリー大統領のペルー訪問
24日、ショーヨム・ハンガリー大統領がペルーを公式訪問し、ガルシア大統領と会談した。ガルシア大統領は、ショーヨム・ハンガリー大統領の政治的自由、人類の尊厳、社会的権利及び環境保護に係る取組を強調した。
ショーヨム・ハンガリー大統領は、ペルーが提案するように、連携協定の交渉をする際にEUがアンデス共同体(CAN)諸国の各国個別のメリットを考慮することを支持する旨明らかにした他、南米統合へ向けたCANの努力を強調した。また、EUの移民送還に関する指針に異議がある旨表明し、ペルーや南米諸国と移民に関する二国間協定に署名する可能性について述べた。
(7)外相の第63回国連総会出席
ガルシア・ベラウンデ外相は、第63回国連総会一般討論演説に出席し27日、ステートメントの発表を行った。右演説では、貧困削減、食料価格の上昇における先進国の役割、移民、環境問題の他、ペルーのミレニアム開発目標の達成状況等に関して述べた。
(8)大統領夫人の国連ミレニアム目標に関するイベントへの参加
ピラール・ノレス大統領夫人は、29日、ニューヨークで開催された第63回国連総会に関連したミレニアム開発目標に関するイベントに参加し、自らが指揮をとる貧困削減社会プログラム「センブランド」に関する発表を行った。
4 フジモリ元大統領に対する裁判
(1)人権侵害事件に関する裁判
週に3日、フジモリ元大統領に対する「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」に関する公判が開催され、専門家による意見の陳述及び証拠となる文書の審議が行われた。15日の公判で専門家による意見の陳述が終了し、準備のための期間を5日間設けて22日に文書による証拠の審議が開始される予定であったが、弁護側のナカサキ弁護士が文書及び資料の収集に時間がかかっていることを理由に、さらなる5日間の公判中断を要請し、承認されたため、29日から再開されることとなった。
また、サン・マルティン判事は、これまで昼休憩を挟んで夕方の5時まで行っていた公判を、昼休みは挟まず午後2時までのみ公判を行うと定めた。
(2)フジモリ元大統領の健康状態
国立ガン研究所(INEN)は、8月29日、フジモリ元大統領の検査を行った結果、膵臓に1.5センチ程の嚢胞が見られるため精密検査が必要であると報告し、5日午後に同元大統領の検査が行われた。
8日、ケイコ・フジモリ議員が議会にてフジモリ元大統領の膵臓に見られる嚢胞の検査結果について発表を行い、嚢胞は、良性のものであり健康に深刻な被害を与えるものではないことが判明し、ガンの可能性を否定することができたと述べた。
超音波内視鏡による検査の結果、同元大統領には激しいびらん性胃炎が見られたため、同議員は現在進行中の裁判の公判時間を短縮するよう要請したと述べた。
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