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ペルー政治情勢 2009年
9月の内政と外交
1 概要
(1)約1年前に、石油採掘権を巡る便宜を図る会話の盗聴テープが流出し、デル・カスティーリョ内閣を解散させる要因となったが、この盗聴を行っていたとするビジネス・トラック社の法律顧問を、アリソン住宅建設上下水道大臣が務めていたことが判明し、同大臣は辞任した。
(2)外交面では、ガルシア・ベラウンデ外相が国連総会に出席し、ガルシア大統領が提案する軍縮への呼びかけを含む演説を行った。
(3)フジモリ元大統領に対する第3のブロック(野党議員買収、盗聴及びマスコミ買収)の裁判が行われて、2回目の公判にて有罪判決が下された。これにより、チリから引渡された同元大統領に対する全ての案件の一審が終了した。
2 内政
(1)議員定数の増加
3日、議会本会議において、議員数を現在の120名から130名に増員する憲法の一部改正案が、賛成84票、反対19票にて承認された。ペルー国民主義党(PNP)議員は反対した。議員定数の増加は、2011年の選挙より適用される。
また、新たな選挙区としての「リマ地方」の設立に関しては、満場一致の105票の賛成を得て承認され、国が26の選挙区(注:基本的には州単位。リマ州のみリマ市及び「リマ地方」〔リマ市を除くリマ州〕)に分類されることとなる。
(2)グスマンの手記出版
11日、収監中のテロ組織センデロ・ルミノソ(SL)指導者グスマンによる手記の出版発表会が、リマ市内のホテルにて行われた。同手記の中でグスマンは、80年代のペルー国内では、テロ闘争ではなく大衆の戦いがあり、その解決は「一般的恩赦」であるとし、政府に対して国内が和解するよう、SL構成員及び兵士を対象に「一般的恩赦」を適用することを提案した。
同手記は、グスマンが収監先のカヤオ市にある海軍施設の中で書き、自らの裁判で読まれた法的弁護の文章を中心に、チョリーリョス区にある女性刑務所にてグスマンのパートナーであるイパラギレが編集を行った。両者は2008年1月に最高裁より無期刑の判決が確定している。
14日、ガリンド対テロ訴訟代理人は、グスマン、イパラギレ及びグスマンの手記出版に関与した人々を、テロ擁護の容疑で検察に告訴した。パストール法務大臣は、手記発表はテロによる暴力の称賛を意味するとし、誰が出版の資金援助を行ったのか、出版者のビリャヌエバ及びマノ・アルサーダ(高く上げた腕)出版社の状況、出版発表会組織者の司法状況等を調査するよう要請した。
(3)父親に対する出産休暇の認可
11日、議会にて父親の4日間の出産休暇取得が認められた。子供の出産時に、父親は、子供が誕生して母子が退院するまで4日連続で休暇を取得することが可能となり、減給はされない。利用希望者は、休暇希望日の15日前までに申請することが定められた。19日に同制度を定めた法が公布された。
(4)アンダワイラス事件における指導者に対する判決
16日、リマ高裁収監者用第一刑事法廷にて、2005年1月、警官4名、市民2名の死者を出したアプリマック州アンダワイラスの警察署襲撃事件に関し、アンタウロ・ウマラ被告に対して、反逆罪、重殺人罪、誘拐罪、武器強奪罪、違法火器携帯罪、重傷害罪で禁錮25年の判決を言い渡した。ウマラの腹心であったティト・パロミノには禁錮20年、ダニエル・ルデーニャには禁錮15年が言い渡された。右3名は共同で、国家に対して10万ソル(約3万米ドル)、殺された警察の遺族に28万ソル(約9万米ドル)、及び誘拐の被害者3名に3千ソル(約千米ドル)の賠償金支払いが命じられた。
検察、国家訴訟代理人、民事賠償担当弁護士、被告の全関係者は判決を不服として控訴した。本件に関する裁判は170名以上の被告を対象として行われ、大半が既に判決を下されている。
兄であるウマラ・ペルー国民主義党(PNP)党首は、判決は家族にとって痛みであり、公平ではないとして、最高裁に判決の無効請求を行う可能性があると述べた。
(5)住宅建設上下水道大臣の交代
17日、アリソン住宅建設・上下水道大臣が、デル・カスティーリョ内閣を解散させるきっかけとなった盗聴を行っていたとされるビジネス・トラック社の法律顧問を務めていた旨の記事が雑誌に掲載され、19日、同大臣は、2007年9月より約1年間、法律顧問を務めた事実を認めた。
23日、アリソン大臣は閣議で、ビジネス・トラック社との契約につき説明した後、報道関係者に対し、ガルシア大統領他閣僚から支持を得たと発言したが、ベラスケス・ケスケン首相は、検察による同大臣に対する操作を全面的に支持することを確認したと述べた。25日、同大臣は議会に召喚され、調査委員会で事実関係を説明したが核心には触れず、27日、辞意を表明した。
29日、アリソン大臣の辞任が承認され、サルミエント住宅都市計画担当副大臣が新大臣に就任した。
(6)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
今回 前回(8月)
支持 28% 27%
不支持 67% 69%
わからない・無回答 5% 4%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈8月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
30% 33% 21% 20% 17%
(29%) (33%) (21%) (18%) (18%)
3 外交
(1)ガルシア・ベラウンデ外相の韓国訪問
8月31〜9月2日、ガルシア・ベラウンデ外相は、韓国を訪問し、李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領、及び柳明桓(ユ・ミョンファン)外交通商部長官と会談した。外相会談では、ペルー韓国FTAの進捗状況の確認、11月に予定されるガルシア大統領の韓国訪問準備について協議した他、鉱物分野へのさらなる投資、核エネルギーにおける協力の可能性について意見交換を行った。
(2)エクアドルとの国境地域における移民特別措置への署名
16日、デ・ラ・フエンテ外務省ペルー・コミュニティ局長及びファルコニ・エクアドル外相は、両政府を代表して「国境拡大地域におけるエクアドル・ペルー永続的移民資格」に関する書類への署名を行った。同永続的移民資格により、移民手続を行わないまま隣国に滞在しているペルー人及びエクアドル人は、移民資格及び雇用上で便宜が図られるだけでなく、煩雑な手続が簡素化される。2008年10月、両国外相は、マチャラにて同合意に署名を行った。
(3)第1回ISDB-Tインターナショナルフォーラムの開催
21〜23日、リマ市カントリークラブホテルにて、地上デジタルテレビ・ブラジル日本方式を採用国による国際フォーラムが開催された。ガルシア大統領が開会式に出席した他、コルネホ運輸通信相、原口総務相、コスタ・ブラジル通信相、サラス・アルゼンチン通信長長官、コルタサル・チリ通信相が参加し、地上デジタル放送の現状や今後の展開が紹介され、普及対策等について意見交換が行われた。
(4)ガルシア・ベラウンデ外相の米国訪問
21〜29日、ガルシア・ベラウンデ外相は、第64回国連総会に参加するため米国を訪問した。総会に加えて、アンデス共同体(CAN)、南米アラブ諸国連合サミット、リオ・グループ、南米諸国連合(UNASUR)、MERCOSUR、イベロアメリカサミット等複数の会合に出席した。
22日、外相は、国連気候変動首脳会合に出席し、オバマ米大統領、胡錦濤中国国家主席等、各国首脳を前に、ガルシア大統領が中南米EUサミットで提案した、緑化のための石油1バレルにつき50セントの税金徴収案を提案した。また、26日、文明間の同盟フレンズ・グループ外相レベル会合に出席した他、27日、潘基文国連事務総長と会談し、ガルシア大統領による軍縮及び不可侵協定の提案の書簡を手交した。28日、事務総会における演説にて、軍備予算の縮小、麻薬対策、気候変動及び移民の権利を主張した。
(5)バーレーン王国との国交樹立
22日、ペルーはバーレーン王国と大使派遣を含む外交関係を樹立した旨、ガルシア・ベラウンデ外相及びハーリド・バーレーン外相により署名された共同コミュニケを発表した。バーレーンとの国交樹立は、ペルーのアラブ諸国との関係強化を目指す試みの一環である。
4 フジモリ元大統領に対する裁判
(1)「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」
18日、最高裁は、フジモリ元大統領に対する「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」の第2審について、控訴を審査するための手続の進捗状況を発表した。また、関係者に対し、第一審判決に関する検察の見解及び各自の主張を準備するための期間を通達した。
第2審を担当する最高裁第一臨時刑事法廷は、各自を召集して法廷に於ける後半を行った後、事案を審理し、11月には控訴に対する判決を下す予定。
(2)「野党議員買収、盗聴及びマスコミ買収」
(イ)忌避請求却下
22日、最高裁特別刑事法廷は、21日にフジモリ元大統領の弁護士により提出された、28日から開始予定の「野党議員買収、盗聴及びマスコミ買収」の公判を担当するサン・マルティン判事長、プラド判事及びプリンシペ判事の3名に対する忌避請求を、満場一致で却下し、同請求手続を行わない旨決定した。
忌避請求において、ナカサキ弁護士は、13の点を挙げ、最高裁が全体としてフジモリ元大統領に対する迫害を行っていると指摘した他、指導者に対する不公平な判決によりフジモリ派を政治的に除外しようとする司法団体があると主張した。他方、サン・マルティン判事長率いる最高裁特別刑事法廷は、同弁護士による主張は一般的であり、3名の判事の不公正さを示す明らかな理由ではないとの見方を示し、忌避の正当な理由がないと判断した。
(ロ)公判及び判決
28日午前9時より、フジモリ元大統領が関与したとして予審が終了している「盗聴」、「マスコミ買収」及び「野党議員買収」の三事案に対する第一審第一回公判が行われた。フジモリ元大統領は、検察側主張及び禁錮8年、国家に対する5百万ソル(約170万米ドル)の賠償金の支払い及び盗聴被害者に対する3百万ソル(約百万米ドル)の支払い請求に同意し、争わないこととした。国家反汚職訴訟代理人は、約2400万ソル(約800万米ドル)の民事賠償金を請求した。
30日午前11時、第2回公判にて、同元大統領に対し、横領、行政に対する犯罪(贈賄)、通信秘密の漏洩(盗聴)の罪にて禁固6年、公民権の2年間の停止、及び総額27,060,216ソル(計約9百万米ドル)(国家への賠償:24,060,216ソル、被害者への賠償:3百万ソル)の賠償金の支払いを命じる有罪判決を下した。一審判決に対し、弁護側及び検察側の双方が控訴した。
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