ペルー政治情勢 2008年

10月の内政と外交


1 概要
(1)内政に関しては、石油の採掘権を巡るスキャンダルにより、内閣が総辞職し、シモン新首相を筆頭とする新内閣が誕生した。また、要求内容は異なるものの全国各地で抗議運動が行われた。
(2)外交面では、ガルシア大統領が、アンデス共同体(CAN)首脳会合、ペルー・エクアドル二国間首脳会合のため2度に亘りエクアドルを訪問した他、イベロアメリカ・サミット参加のため、エルサルバドルを訪問した。また、フアン・カルロス・スペイン国王夫妻がペルーを訪問した。
(3)フジモリ元大統領の裁判は、週3日公判が行われ、検察による証拠となる文書の提出が行われた。

2 内政
(1)鉱業カノン還付金の配当方法を巡る抗議運動
 1日、モケグア州では、掘られる土の量ではなく生産される鉱物の量により鉱業カノン還付金の配分量が定められるべきと主張して、現行制度の配分方法を不服とする住民が、2日間に亘る抗議運動を実施した。2日、タクナ州でも、同目的にて抗議運動を実施した。モケグア州では抗議運動が長引き、市民48人、警察官38人の負傷者が出た。
 30日、議会にて、モケグア州の要望を受け入れた形で鉱業税還元制度の配分方法を改める法律が承認された。

(2)全国規模の抗議運動
 7日、ペルー全国労働総連盟(CGTP)が呼びかけた抗議運動が全国各地で実施された。しかし、それほど大きなインパクトをもたらさなかった。

(3)労働大臣の交替
 2日、議会の本会議にて、零細小企業の管轄を労働雇用促進省から生産省に移譲する法律が承認されたことに異議を呈し、4日、パスコ労働雇用促進大臣が辞表を提出し、受理された。辞任したパスコ大臣の後任として、アプラ党員のビリャサンテ労働副大臣が労働雇用促進大臣に任命され、同日午後、宣誓式が行われた。

(4)石油採掘権をめぐるスキャンダル及びエネルギー鉱業大臣の辞任
(イ)5日、アメリカ・テレビジョン(4チャンネル)の日曜夜の報道番組であるクアルト・ポデールが、ロスピグリオシ元内務大臣の自宅に匿名で届けられたという電話の盗聴テープの内容を報じた。録音テープは、レオン元漁業大臣(ルシアナ・レオン議員の父)及びキンペル・ペルー・ペトロ社のエネルギー鉱山省代表理事間の今年2月〜9月に交わされた会話であり、ノルウェー資本のディスカバリー・ペトロレウム社が5つの石油鉱区の採掘権を落札できるようにする見返りとして高額の金額が得られることを思わせる内容であった。
 キンペル理事及びレオン元漁業大臣が告発され、両名に身柄拘束令が出された。8日にキンペル理事は身柄を拘束されたが、レオン元漁業大臣は身柄を隠した(注:11月13日、同元漁業大臣は自ら出頭した)。

(ロ)6日、ペルー・ペトロ社の石油採掘権を巡る不正取引のスキャンダルを受けて、バルディビア・エネルギー鉱山大臣及びセサル・グティエレス・ペトロ・ペルー総裁が辞任した。(注:ペトロ・ペルー社は、石油燃料の輸送、精製、商業化を担う私企業の権利を有する国営企業。)

(5)ワンカベリカ州及びアヤクチョ州におけるテロ行為
 9日、ワンカベリカ州において、センデロ・ルミノソ(SL)が道路に地雷を仕掛け、足止めした警察の車両に攻撃を加えるというテロ行為を行い、民間人を含む16名の死者が出た。後にSLがペルー共産党の80周年を記念した行為であったとする犯行声明を出した(注:SLの創設記念日は10月7日)。
 14日には、アヤクチョ州にてSLと思われるグループと軍のパトロール部隊が交戦し、軍人2名が死亡し5名が負傷した。

(6)内閣総解散
 ペルー・ペトロを巡る汚職容疑において、ディスカバリー・ペトロレウム社の関係者やその仲介役を務めたとされるレオン元漁業大臣がガルシア大統領やデル・カスティーリョ首相と会合していたことが判明し、7日、国民団結連盟(UN)、ウマラ派及びフジモリ派の議員が連名で同首相に対する不信任決議案を提出した。同決議案は14日に議会で審議される予定となった。
 9日、デル・カスティーリョ首相は午前、議会に赴き、汚職容疑について政府の見解を説明する旨述べたが、各派の代表による検討の結果、16日に同説明を聞き、その上で不信任決議に対する投票を行うことが決定された。これを受け、デル・カスティーリョ首相は議会内で記者会見を開き、議会の対応を批判するとともに、閣僚全員が進退を大統領の判断に委ねることを決定した旨述べた。
 10日午後5時半、大統領府にてデル・カスティーリョ首相は、ガルシア大統領が全閣僚の辞表を受理した旨発表し、同大統領への謝意を述べた他、2年3ヶ月間におよぶ任期の回顧を行った。

(7)新内閣の誕生
 14日午後5時より、大統領府にて新首相及び閣僚の任命及び宣誓式が行われたところ、新内閣メンバーは以下の通り。前内閣より10名の大臣が留任し、6名の大臣が交替した。
●首相:イェウデ・シモン(Yehude SIMON)
●外務大臣:ホセ・アントニオ・ガルシア・ベラウンデ(Jose Antonio GARCIA BELAUNDE)(留任)
●国防大臣:アンテロ・フローレス・アラオス(Antero FLORES ARAOZ)(留任)
●経済財政大臣:ルイス・バルディビエソ(Luis VALDIVIESO)(留任)
●内務大臣:レミヒオ・エルナニ(Remigio HERNANI)元国家警察一般犯罪調査局長
●法務大臣:ロサリオ・フェルナンデス(Rosario FERNANDEZ)(留任)
●教育大臣:ホセ・アントニオ・チャン(Jose Antonio CHANG)(留任)
●保健大臣:オスカル・ウガルテ(Oscar UGARTE)医師。トレド政権期の保健副大臣
●農業大臣:カルロス・レイトン(Carlos LEYTON)アレキパ州副知事
●労働雇用促進大臣:ホルヘ・ビリャサンテ(Jorge VILLASANTE)(留任)
●生産大臣:エレナ・コンテルノ(Elena CONTERNO)首相府、経済財政省、運輸通信省他、世銀や米州開発銀行の顧問を務めた経験を有す
●通商観光大臣:メルセデス・アラオス(Mercedes ARAOZ)(留任)
●エネルギー鉱山大臣:ペドロ・サンチェス(Pedro SANCHEZ)元投資促進委員会理事
●運輸通信大臣:ベロニカ・サバラ(Veronica ZAVALA)(留任)
●住宅建設上下水道大臣:エンリケ・コルネッホ(Enrique CORNEJO)(留任)
●女性社会開発大臣:カルメン・ビルドソ(Carmen VILDOSO)トレド政権期の雇用促進副大臣
●環境大臣:アントニオ・ブラック(Antonio BRACK)(留任)

(8)各地における抗議運動
 20日、プノ州及びクスコ州の農民が、政府の経済政策に反対するため道路封鎖を行い、観光客等に影響を及ぼした。ペルー労働者総連盟(CGTP)及びペルー国民主義党(PNP)等を含む人民のためのサミット運動に関わる団体は、同日よりペルー南部からガルシア政権の公約不履行に対する抗議運動をAPEC首脳会議の前段階として開始すると発表していた。クスコ、プノ、タクナ、アプリマック及びモケグアといった、ガルシア大統領の支持率が低い南部5州から始まる抗議運動は、11月には、アマゾン地帯のサン・マルティン、アマソナス、ロレト、マドレ・デ・ディオス4州へと拡大し、最終的には全国規模で展開する予定であった。特に29日〜30日には、各地で大規模デモが行われ、サン・マルティン州、カハマルカ州等でも、様々な抗議運動が展開された。

(9)新警察長官の就任
 25日、ペルー国家警察オクタビオ・サラサル長官の辞任に伴い、国家警察マウロ・レミシオ・マリーニョ長官室長が新たに長官に就任した。

(10)汚職に関する新刑事訴訟法の早期適用提案
 29日、フェルナンデス法務大臣はリマに於ける汚職事件に関して、新刑事訴訟法の適用を予定より早める旨発表した。裁判手続きを迅速化する新刑事訴訟法が適用されることにより、汚職に関しては30〜60日で判決が出るようになると述べた。(注:11月7日、政府は議会に対して、新刑事訴訟法の適用時期を早める計画法案を提出した。)

(11)ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
            今回        前回(08年9月)
支持          22%       19%
不支持         75%       78%
わからない・無回答    3%        3%

(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈9月〉)
 リマ      北部     中央部     南部    アマゾン
 24%     30%     15%     15%    12%
(24%)   (19%)   (9%)   (11%)  (14%)

3 外交
(1)チェコ外務副大臣のペルー訪問
 13日、外務省にて第3回ペルー・チェコ政治外交メカニズム会合が開催され、バンバソバ・チェコ外務副大臣及びグティエレス外務副大臣が出席した。チェコ政府は、ペルーが提案するアンデス諸国が個別にEUと自由貿易協定に関する交渉を進めることを支持することを明らかにした他、来年第一四半期にはチェコの企業関係ミッションをペルーに送ることを発表した。

(2)ガルシア大統領のアンデス共同体(CAN)首脳会議参加
 14日、ガルシア大統領は、CAN首脳会議に参加するためグアヤキルを訪問した。同大統領には、ガルシア・ベラウンデ外相及びグティエレス外務副大臣が同行した。
 グアヤキルにて開催されたCAN首脳会議には、ガルシア大統領の他にコレア・エクアドル大統領、モラレス・ボリビア大統領、ムニョス・コロンビア通商副大臣及びエレルスCAN事務局長が出席した。同会議にて、各国首脳は、EUとの連携協定合意に向け、10月末にエルサルバドルに於いて開催されるイベロアメリカ首脳会合の際に、バローゾ欧州委員長と会合する方向で合意した。ガルシア大統領は、世界的な経済危機を前にCAN諸国内の経済省及び中央銀行は、右危機に対応するための情報を共有することを提案した。

(3)第7回ペルー・パラグアイ政策調整協議メカニズム会合開催
 21日、グティエレス外務副大臣及びララ・パラグアイ外務副大臣は、第7回ペルー・パラグアイ政策調整協議メカニズム会合に出席した。同会合で、ルゴ・パラグアイ大統領のペルー訪問を2009年第二四半期に実施すること、両国の移民対策を進めていくこと、2009年にアスンシオンにて第8回会合を開催すること等複数の点で合意に達した。

(4)ペルー・エクアドル二国間首脳会合及び第2回二国間閣僚会合
 25日、エクアドルのマチャラにて、ペルー・エクアドル二国間首脳会合及び第2回二国間閣僚会合が開催された。ペルーからはガルシア大統領他、11名の閣僚が参加し、エクアドルからはコレア大統領他、26名の閣僚が出席した。
 両首脳は、1998年の二国間平和協定締結後10年間の成果を評価した一方、さらなる国境開発プロジェクトの推進が必要であると合意した他、共同声明を発表した。ガルシア大統領は、国境開発プロジェクトのフォローアップをするグループを形成する旨提案した他、両国の経済・社会の統合関係は世界規模の経済危機に対応する格好の例となる旨述べた。コレア・エクアドル大統領は、失われた時間を取り戻すべく、さらなる成果を生み出していくべきと述べた。
 両首脳は、ピウラにて次回の会合を開催すること、また毎年各国交互に会合を開催していくことを定めた。

(5)スペイン国王のペルー訪問
 26〜29日、フアン・カルロス・スペイン国王夫妻がペルーを訪問した。27日、国王夫妻は大統領府においてガルシア大統領と会談を行った。両国より外相他も同席し、両国の外相は、両国関係を強化するため、経済成長、社会開発、移民を含む協力及び教育、文化、科学技術分野に係る協力を軸とする戦略的連携計画協定に署名した。また、貧困対策、移民政策、環境保護等に関して意見交換を行った他、共同に取り組むことで合意した。
 同日、大統領府にて行われたスペイン国王歓迎晩餐会では、ガルシア大統領は、ペルーとスペインは平等、自由及び正義に基づく民主主義を代表していると強調した他、3回目となる国王夫妻のペルー訪問を歓迎した。また、同大統領は、今般署名された協定に関して、二国間関係の未来に向けた素晴らしい文書であると述べた。スペイン国王は、歓迎に感謝し、今年は、ペルーにとり経済成長に加え、貧困削減も顕著であり、2つの国際的な首脳会議の開催国となる2008年はペルーにとり特別な年であることを強調した。
 28日、国王夫妻はガルシア大統領夫妻と共に北部ラ・リベルタ州トゥルヒーリョ市に向かい、州庁舎、市庁舎等を訪問した後、モチェ文化の「月のピラミッド」を訪れた。
 29日、国王夫妻は、イベロアメリカ・サミットに参加するため、ガルシア大統領、ガルシア・ベラウンデ外相と共にエルサルバドルに向かった。

(6)ガルシア大統領の第18回イベロアメリカ・サミット出席
 29日、ガルシア大統領はエルサルバドルを訪問し、「若者と開発」を主題とする第18回イベロアメリカ・サミットに出席した。ペルーからはガルシア・ベラウンデ外相が同行した。

4 フジモリ元大統領の裁判
 週に3回公判が開催され、検察側が証拠となる文書の提出を行った。検察は12のテーマに分けて文書を提出し、フジモリ政権が反政府勢力に対する合法・非合法の2種類の作戦を有していたこと、コリーナ・グループの活動、軍及び国家情報局(SIN)とコリーナ・グループの関係、ゴリッティ記者とダイエル企業家の誘拐、軍関係者の恩赦等に関する多数の資料を提出した。

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