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ペルー政治情勢 2009年
10月の内政と外交
1 概要
(1)一部の堕胎の無処罰化についての議論及び、憲法裁判所が下した保健省による緊急経口避妊薬の無料配布を禁止する判決を巡り、国民を巻き込んだ議論が展開された。
(2)外交面では、アラブ首長国連邦外相、スペイン・イベロアメリカ担当外交長官、国連世界知的所有権機関事務局長等がペルーを訪問した。
(3)エクアドルとの和平合意11周年を記念し、第3回ペルー・エクアドル二国間合同閣議が開催され、両国の共通の関心事項等について意見交換が行われた他、共同声明が発表された。
2 内政
(1)ゴンサレス議員の議員資格剥奪
6日、議会理事会は、ロシオ・ゴンサレス議員(無所属)の議員資格剥奪を決定し、13日、同決議が公布された。同議員は、2006年に議員となる直前に、アレキパ州にて所有する企業が電力を奪った窃盗罪で執行猶予3年付禁錮4年の有罪判決を下されていたが、民事賠償金の支払いを終了し執行猶予期間が満期となったことから、9月28日、アレキパ高裁より更生の決定が出されていた。
他方、議会憲法委員会は、有罪判決を受けた議員は議員資格を剥奪されるという議会規則第25条に則り、同議員の資格剥奪を理事会に求め、承認された。
(2)福祉車両の引渡式
10日、ペルー日本見返り資金及び日本財団により寄贈された、福祉車両74台の引渡式がヘスス・マリア区マルテ広場で行われ、ガルシア大統領、ウガルテ保健相等が出席した。
(3)議員の選出区訪問
12日より、国民の声を反映させるため、議会議員が5日間連続で自らの選出区訪問が始まった。同期間中、議会本部での活動は中断される。地域で起きている問題及び地域住民の要望に対応すること目的であったが、地方で行われている事業の視察を行う等、議会議員の役割ではないとする批判が生じた。今後、毎月1回は同様の期間が設けられ、議員の地方訪問が行われる予定。
(4)堕胎を巡る議論
6日、議会刑法見直し委員会は、暴行による妊娠及び胎児が奇形の場合の堕胎を刑罰に処さないとする方向で合意した。同委員会は、議会議員、政府代表、司法府代表、検察、大学関係者等14名からなり、刑法の見直しを行った。
法務省より右決定を再検討する旨の要請がされたが、20日、同委員会は反対6票、賛成5票で、再検討をしないことを決定した。本件を巡っては、今般の堕胎の無処罰化に反対するキリスト教教会、堕胎を行う女性の権利を主張する団体等、世論を巻き込み激しい論争が繰り広げられた。
(5)行政手続の迅速化
22日、緊急令が公布され、官公庁は、2010年末まで、独立記念日、クリスマス、元旦、5月1日を除く、土・日・祝日も機能することが定められた。公務員に対する超過料金の支払いや労働時間の延長はせず、勤務時間を割り振り、これまで閉鎖していた土・日に行政手続の受付等の対応を可能とすることとした。
(6)緊急避妊薬を巡る議論
23日、憲法裁判所は、NGOによる保護請求判決に関して、緊急避妊薬が避妊だけでなく中絶の効果もある可能性を否定できないとして、保健省による無料配布を禁じる判決を下した。なお、2006年に同裁判所は、保健省の無料配布を是認する旨の判決を下していた。
ウガルテ保健相は、緊急避妊薬は中絶を行うものではないと説明し、今般の判決に関し、既に保健省が購入済の薬の在庫を如何に処分するか、判決の詳細を求めた。28日、ベラスケス・ケスケン首相は、憲法裁判所の判決を尊重するが、保健省の要請を支持するとの政府の立場を述べた。他方、レイ国防大臣は、避妊薬の販売自体に反対の意見を示し、保健大臣の見解に賛同を示したベラスケス・ケスケン首相やビルチェス女性社会開発大臣とは意見を異にした。
(7)文化省設立の提案
31日、ガルシア大統領は、文化省を設立する法案に署名を行い、同法案を議会に提出した。文化省を設立する提案は2008年7月の大統領教書の際に言及されており、すべての分野において文化を促進し、ペルーの豊かな文化・歴史遺産を保護するに足る機関を設立する重要性を強調した。
(8)全国世論調査結果:ガルシア大統領の支持率
(イ)全国
今回 前回(9月)
支持 26% 28%
不支持 67% 67%
わからない・無回答 7% 5%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈9月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
34% 25% 17% 15% 9%
(30%) (33%) (21%) (20%) (17%)
3 外交
(1)第5回大統領会議「ラテンアメリカの民主主義のための社会アジェンダ」の開催
9〜10日、トレド元大統領が主催する第5回大統領会議「ラテンアメリカの民主主義のための社会アジェンダ」が、ラテンアメリカ・カリブ地域の元大統領の参加により開催された。会議に参加した「開発および民主主義のためのグローバルセンター」(CGDD)に属する10名の地域内の元大統領は、域内の軍備を非難し、南米諸国連合(UNASUR)の会合にてガルシア大統領により提案された軍事暴力を避けるための合意を支持する宣言に署名した。また48の社会政策を提案し、域内各国の政府他、11月にポルトガルで開催されるイベロアメリカサミットにも提案として提出することで合意した。
(2)アラブ首長国連邦外相のペルー訪問
12日、アブダッラー殿下(アラブ首長国連邦外相)がペルーを公式訪問し、ガルシア大統領と会談した。ペルー側からはガルシア・ベラウンデ外相、コルネホ運輸通信相が同席した他、アフメド・ドバイワールド社長等、企業関係者が同席した。
ガルシア・ベラウンデ外相との外相会談では、南南協力を強調し、科学技術協力関係構築への関心を確認した他、ペルーへの投資を増加することで合意する等の内容の共同声明を発表した。
(3)中国人ペルー移住160周年記念式典
15日、大統領府にて、中国人ペルー移住160周年を記念する式典が行われた。中国の民族舞踊・音楽、写真展の他、記念切手の見本が公開され、中華料理が振る舞われた。
チャオ(Zhao)駐ペルー中国大使、ウォン(Wong)ペルー中国協会会長の他、ベラスケス・ケスケン首相、ガルシア・ベラウンデ外相、アラオス生産大臣、コルネホ運輸通信大臣、ビルチェス女性社会開発大臣、パストール法務大臣、デ・コルドバ農業大臣、ガルシア雇用促進大臣、チュ選挙過程監視委員会(ONPE)所長等が出席した。
(4)デ・ライグレシア・スペイン・イベロアメリカ担当外交長官のペルー訪問
16日、デ・ライグレシア・スペイン・イベロアメリカ担当外交長官は、ガルシア大統領と会談し、南米地域におけるペルーの軍縮の呼びかけを好機と捉え、ヨーロッパ及びラテンアメリカ地域間、また、様々な国との二ヶ国間においてスペインは右提案を進めるために協力すると述べた。また、スペインの経済関係者はペルーを「信頼できるパートナー」として捉えており、スペインがペルーへの第一の投資国であると指摘した他、スペインは2010年前半にはEU・アンデス共同体(CAN)間のFTAに署名することを目指していると述べた。
(5)対チリ関係
17日、外務省は、当地紙に掲載されたチリ大統領に対する表現を否定するプレスリリースを発出した。右表現は、隣国との正常な関係を発展させるに貢献しないと判断した。
(6)第3回ペルー・エクアドル二国間合同閣議の開催
22日、ガルシア大統領とコレア・エクアドル大統領は、ピウラ州にて、ブラジリア和平合意署名11周年を記念する第3回ペルー・エクアドル二国間合同閣議において会談した。同大統領には、ベラスケス・ケスケン首相率いる閣僚全員他、ムルデル・アプラ党幹事長及びベンデス・アンデス評議会議員が同行した。
両大統領は、両国の友好関係強化、南米地域における軍備拡張への憂慮及び平和促進等に関して意見交換を行った後、首脳宣言他に署名を行った。
(7)世界知的所有権機関事務局長のペルー訪問
26日、ガリ国連世界知的所有権機関事務局長が、協力関係の拡大及び技術協力実施のためペルーを公式訪問した。ガリ事務局長は、アラオス生産大臣、ペレス通商観光大臣他、各種機関関係者と会談し、種の保存や先住民の伝統的知識の保護等について意見交換を行った。
(8)パキスタン及びアフガニスタンにおけるテロ行為への非難
29日、ペルー外務省は、パキスタン及びアフガニスタンで発生した人命を奪うテロ行為を非難する旨のプレスコミュニケを発出した。
(9)外相のヨーロッパ訪問
29日、ガルシア・ベラウンデ外相は、フェレロ・ヴァルトナー外交担当欧州委員とブリュッセルにて会合し、「二国間協議メカニズム設立のための覚書」に署名を行い、ペルー及び欧州委員会がさらに関係を緊密化していくことを確認した。また、アンデス共同体の議長国をペルーが務めることから、ヨーロッパとアンデス諸国の地域間関係を促進する好機であることで一致した。
30日、同外相は、スイスを公式訪問し、カルミ=レ・スイス外相と会談した。両外相は、二国関係が到達したレベルへの満足の意を示し、協力分野に関して意見交換を行った。
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