ペルー政治情勢 2008年

11月の内政と外交


1 概要
(1)10月に発足したシモン内閣が、議会本会議において所信表明演説を行った。数時間におよぶ演説、質疑応答の後に信任投票が行われた結果、62の賛成票を得て信任された。
(2)APEC首脳会議及び閣僚会議が開催され、21エコノミーの首脳及び外務・経済大臣がペルーを訪れた。ガルシア大統領は、15ヶ国の首脳と会談を行った。
(3)フジモリ元大統領の裁判は、週に3日公判が開かれ、証拠となる文書の検証が行われた。

2 内政
(1)カノンを巡る抗議運動
 10月30日に議会でモケグア州の要望を受け入れた形で鉱業税の配分方法を改める法律が承認されたため、タクナ州で右法律を不服とする抗議運動が過激化し、1日付官報は軍が国家警察の支援のために治安維持活動を行う旨許可する大統領決議を公告した。さらに、4日、官報は、鉱業カノンによる還付金の配分方法を巡る抗議運動が暴力的になっているタクナ州タクナ郡、ホルヘ・バサドレ郡、カンダラベ郡、タラタ郡の計4郡に対して30日間(11月5日より12月4日まで)の非常事態宣言を発令した。
 背景として、6月、モケグア州の住民が、鉱業カノンによる還付金の配分方法を生産量に応じて分配する要求をして抗議運動を行い、政府が要求を取り入れる方向で、モケグア州住民と合意に達したが、その後、政府の対応の遅さに不満を抱く住民は10月29日、再度、道路封鎖等の抗議運動を行い警官及び市民の怪我人が発生した。30日、議会にて還付金の配分方法を定める法律の一部改正が承認されたため、モケグア州における抗議運動は治まった。他方、還付金が減少するタクナ州では、同法案が承認されたことを不服とし、住民が公的機関の施設に放火を行う等の抗議運動を行った。

(2)所信表明演説
 6日午後5時、シモン首相が閣僚全員と共に議会本会議に出席し、所信表明演説を行った。2時間半近くかかった右演説で、同首相は、汚職対策、地方分権化、貧困削減及び経済発展、テロ及び麻薬対策を含む市民の安全、社会平和と合意のある国の実現、危機に対するペルーの保護という6つの主要テーマに関して取り上げた。
 質疑応答の後、7日未明、投票が行われ、賛成62票、反対16票、棄権10票で、シモン内閣が信任された。賛成票はアプラ党、国民団結連盟(UN)、ペルー統一党(UPP)、議員連盟、祖国人民団結(人民ブロック)、国民連盟等により投じられ、ペルー国民主義党は反対、フジモリ派は棄権した。

(3)閣僚の交代
 29日、2名の閣僚が交代した。シモン内閣の成立当時から、交代することが言及されていたサバラ運輸通信大臣が辞任し、コルネホ住宅建設上下水道大臣が運輸通信大臣に就任した。また、ビルチェス議員(アプラ党)が、住宅建設上下水道大臣に就任した。

(4)ガルシア大統領の支持率(11月12〜14日実施)
(イ)全国
            今回        前回(08年10月)
支持          19%       22%
不支持         77%       75%
わからない・無回答    4%        3%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈10月〉)
 リマ      北部     中央部     南部    アマゾン
 27%     17%      8%     10%     6%
(24%)   (30%)   (15%)   (15%)  (12%)

3 外交
(1)世銀及びIMF幹部のペルー訪問
 4日、ガルシア大統領は、世銀のダブーブ専務理事及びハラミーリョ理事と会談した。ダブーブ専務理事は、ペルーには投資受け入れに良好な環境が整っていると述べた。後に、大統領はリプスキーIMF副専務理事等と会談した。同副専務理事は、国際危機に対応するにあたりペルー経済の状況は良好であり、ペルーの経済政策は、低いインフレ率で経済成長を可能とするであろうとの見方を示した。

(2)米国議員団のペルー訪問
 7日、再選した米国の議員団がペルーを訪問し、ガルシア大統領と会談した。超党派の議員団は、オバマ新政権下で、ペルーは米国にとって重要なパートナーであると述べた他、FTAが出来るだけ近く発効できるよう努めると述べた。

(3)ガルシア・ベラウンデ外相のヨーロッパ訪問
 11日、ガルシア・ベラウンデ外相は、ベルムデス・コロンビア外相と共にブリュッセルにて、フェレロ・ワルドナーEU外交委員長と会談を行った。EUとアンデス共同体(CAN)は、政治対話、協力及び貿易の3つの柱からなる連携協定に関しての対話を2007年6月より続けているが、CAN諸国内の方向性の違いから、貿易面に関してはブロックとしての交渉が難航していた。そのため、貿易面における連携協定についての交渉を、アンデス共同体(CAN)としてのブロックではなく、EU及びペルー・コロンビアとして、個々の速度、視点、関心に基づき交渉することで合意した。
 13日、ガルシア・ベラウンデ外相は、マドリッドのアンデス開発公社(CAF)の事務所にて、「ペルー:政治及び経済の挑戦」と題するプレゼンテーションを行い、ペルーにおける投資の好機を強調した。

(4)パラシオ・エクアドル元大統領のペルー訪問
 13日、ガルシア大統領は、大統領府にてパラシオ・エクアドル元大統領と会談を行った。同元大統領は、両国共同の保健分野における科学技術協力に関心があり、計画を具体化するためにペルーを訪問した。

(5)APEC閣僚会議
 19〜20日、第20回APEC閣僚会議が開催され、各エコノミーから外務大臣、経済大臣等が出席した。20日には国際金融危機等の経済状況の他、世界規模及びアジア太平洋地域における人間の安全保障、環境及び社会上の課題について取り上げた共同声明が発表された。
 ガルシア・ベラウンデ外相は、ヨー・シンガポール外相、中曽根外相、スミス・オーストリア外相と会談を行った。

(6)APEC首脳会議
 22〜23日、第16回APEC首脳会議が開催され、各エコノミーから大統領、首相等が参加した。首脳宣言、世界経済に関する声明が発表された他、地域経済統合に関する進捗報告書が承認された。

(7)APECに伴う各国首脳のペルー訪問
 22〜23日に開催されたAPEC首脳会議の前後(19日〜24日)に、参加エコノミーの首脳によるペルー訪問及び二国間会談が行われた。胡錦濤中国国家主席の国賓訪問、李明博・韓国大統領の国賓訪問、チェット・ベトナム国家主席との会談、ボルキア・ブルネイ国王との会談、ラッド・オーストラリア首相との会談、麻生総理の公式訪問、シェンロン・シンガポール首相の公式訪問、カルデロン・メキシコ大統領との会談、バチェレ・チリ大統領との会談、ハーパー・カナダ首相との会談、アロヨ・フィリピン大統領との会談、ブッシュ米大統領との会談、メドヴェージェフ・ロシア大統領の公式訪問、ウォンサワット・タイ首相の公式訪問が行われ、ガルシア大統領は15ヶ国の首脳と会談を行った。
 胡錦濤中国国家主席との会談では、FTA交渉が終了したことが発表された。また、李明博韓国大統領との会談では、ガルシア大統領は近年の韓国からの援助に感謝した他、FTA交渉を即座に開始することを決定した。ラッド・オーストラリア首相との会談では、2010年の在ペルー・オーストラリア大使館設置について話し合われた。
 麻生総理との会談では、投資協定、デジタルテレビ他、経済・文化における協力、環境問題について意見交換が行われた他、日・ペルー投資協定他、円借款の案件への署名への立会が行われた。

(8)ドナイレ陸軍司令官の発言によるチリとの関係
 11月末、当地報道番組が、インターネット上に、ドナイレ陸軍司令官が私的な集まりで「ペルーに入ってくるチリ人は棺桶に入って国を出る。」と述べた映像が掲載されている旨報道した。ガルシア大統領はバチェレ・チリ大統領に連絡し、ペルー政府としての発言ではないことを明らかにし、ガルシア・ベラウンデ外相も同司令官の発言は政府を代表するものではないと発表し、事態は治まったとされた。しかし、フォックスレイ・チリ外相は、同事件は、ガルシア大統領がドナイレ陸軍司令官を罷免した際に解決したと見なされると発言し、これに対し、ガルシア大統領は、政府は外部からの命令も圧力も受けない旨発言した。また、フローレス・アラオス国防大臣は、チリ政府関係者に対し本件を大げさに扱わないよう求めた。

4 フジモリ元大統領の裁判
(1)公判
 週に3日、フジモリ元大統領に対する「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」に関する公判が開催され、証拠となる文書の検証が続けられた。

(2)健康状態
 14〜15日に国立ガン研究所(INEN)でフジモリ元大統領に対する診察が行われ、血栓症の虞があるため、90分以上座り続けることは避けるよう勧告された。そのため、サン・マルティン裁判長は、週3回、午前9時から午後2時までと公判のペースは変えないものの、1回の公判を1時間半ごとに区切り、20分の休憩時間を設ける旨定めた。また、フジモリ元大統領が下痢と判断され、公判が中断されたこともあった。

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