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ペルー政治情勢 2009年
11月の内政と外交
1 概要
(1)ガルシア大統領がメキシコ、日本、韓国、シンガポール、バチカン及びポルトガルを訪れ、外交が盛んな月であった。
(2)ペルーの複数の閣僚が、ガルシア大統領の軍縮提案を各国首脳に伝えるため、南米諸国を訪問した。また、同提案はエクアドルで開催された南米諸国連合(UNASUR)外相・国防相会議でも扱われた。
(3)フジモリ元大統領に対する「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」の第2審が3日連続で行われた。
2 内政
(1)アンデス評議会議員とテログループの関与
エルサ・マルパルティダ・アンデス評議会議員(ペルー国民主義党所属、ワヌコ州選出)が、過去にセンデロ・ルミノソのメンバーであったと報道された。右報道を受け、マルパルティダ議員は、テロが潜伏していた地域上、家族の安全のためにテログループに便宜を図らねばならなかったと関連を認めたが、自らがメンバーであったこと及び自白法を受け入れて罰を逃れたとする説を否定した。
ペルー国民主義党は、同議員を支持する旨表明したが、その他の政党からは、同議員が経歴詐称をしていたとして、議員資格を剥奪する要請の声が出た。
(2)ガス田の発見
6日、クスコ州のジャングル地帯にて、ブラジル企業のペトロブラスによりガス田が発見された。約1.3兆立法フィートの国内需要の40年分に相当する埋蔵量があるとされる。
(3)スパイ容疑による逮捕
ビクトル・アリサ空軍士官が10月30日よりスパイ容疑にて身柄が拘束されていることが報道により明らかになった。16日、同容疑者は、リマ市ピエドラス・ゴルダス刑務所内で厳戒体制が敷かれる特別房に収監された。
同容疑者の裁判に関し、メサ軍事最高裁長官は、軍事法廷は既にアリサ容疑者に対する裁判手続を開始していると述べたが、他方、通常の法廷においても裁判が並行して行われ、リマ高裁はリマ58刑事法廷のサキクライ判事が予審を担当すると発表したため、メサ軍事最高裁長官は、裁判権を要求した。ビリャ・ステイン最高裁長官及びパストール法務大臣は、軍事法廷が扱うべきとの見方を示した。
18日、ガルシア大統領は、大統領府にて複数の政治指導者と本件について協議するための会合を開催し、フローレス・キリスト教民主党(PPC)党首、ウマラ・ペルー国民主義党(PNP)党首、カスタニェダ・リマ市長(国民連帯党党首)、ケイコ・フジモリ議員、ブルース議員(トレド前大統領〔ペルー・ポシブレ党首〕代理)、ムルデル議員(アプラ党幹事長)が参加し、全ての政治グループがペルー政府の立場を指示すると表明した。また、同日、議会本会議にて、チリが関与したとされるスパイ抗議を断固として拒否するとする声明を満場一致で承認した。
(4)エスピノサ議員の議員資格停止
26日、グスタボ・エスピノサ議員(無所属)の議員資格を問う投票が行われたが、必要な票数に達しなかった。同議員は、ドナイレ元陸軍司令官の私的な集まりにおける発言を録画したビデオを、50名のチリの議員に送付したことにより、憲法違反を問われており、ブルース議員(議員連盟)が憲法弾劾を要請していた。(なお、同議員の要請により改めて投票が行われた結果、12月3日、議員資格の停止が決定された。
(5)全国世論調査結果:ガルシア大統領の支持率(アポヨ社)
(イ)全国
今回 前回(10月)
支持 26% 26%
不支持 66% 67%
わからない・無回答 8% 7%
(ロ)地域別支持率(下段括弧内、前回〈10月〉)
リマ 北部 中央部 南部 アマゾン
34% 27% 15% 14% 14%
(34%) (25%) (17%) (15%) (9%)
3 外交
(1)シモン前首相の中国訪問
2〜12日、シモン前首相は、政府特使として中国を訪問した。右訪問は中国政府の招待に応じるもので、外務副大臣、Liu中国共産党国際部副大臣、企業関係者等と会談した。
(2)IMF幹部のペルー訪問
3日、ポルトガルIMF副専務理事、カウフマンIMF西半球局長及びブレウエルIMFペルー所長は、大統領府にてガルシア大統領と会談した。ガルシア大統領は、2011年までペルーはマクロ経済及び政治の安定が続くとの見方を示し、ポルトガルIMF副専務理事は、ペルーはラテンアメリカで今年プラス成長をする数少ない国の一つであると指摘した他、2010年はさらに成長が見込めると述べ、IMFによるペルーの評価は良好であると述べた。
(3)ガルシア大統領のメキシコ訪問
6日、ガルシア大統領は、2015年パンアメリカン競技大会の開催地決定が行われるパンアメリカンスポーツ組織大会に出席するためグアダラハラを訪問した。同大統領にはペレス通商観光大臣、カランサ経済財政大臣、カスタニェダ・リマ市長等が同行し、リマ市を開催地として紹介した。投票の結果、開催地はトロント(カナダ)になった。
同大会にてガルシア大統領はウリベ・コロンビア大統領と立ち話を行い、コロンビアを公式訪問するよう招待された。
(4)ペルー閣僚の南米諸国訪問
ガルシア大統領による軍備・軍事費削減、平和軍の創設及び貧困対策強化を提唱する「南米における平和、安全及び協力のための議定書」の提案を伝えるため、ペルー閣僚が南米諸国連合(UNASUR)諸国を訪問した。
2日、アラオス生産大臣は、フェルナンデス・アルゼンチン大統領と同件を伝えるため会談、5日、ペレス通商観光大臣は、南米諸国連合(UNASUR)の議長を務めるコレア・エクアドル大統領に同議定書の提案を提示した他、9日、コルネホ運輸通信大臣は、ルーラ・ブラジル大統領と会談した。ルーラ・ブラジル大統領は、12月のリマ訪問の際にガルシア大統領と協議することを求めた。また、10日、ビルチェス女性社会開発大臣は、ルゴ・パラグアイ大統領と会談し、ルゴ大統領は、同提案は米州機構(OAS)にて扱うべきとの意見を示した。11日、パストール法務大臣は、ウリベ・コロンビア大統領と会談し、23日、アラオス生産大臣はバスケス・ウルグアイ大統領と会談した。アラオス生産大臣によるチリ訪問はキャンセルされた。
26日、ゴンサレス・ポサダ議員は、同提案を伝えるためにパナマを訪問してマルティネリ・パナマ大統領と会談した。
(5)南米諸国連合(UNASUR)外相・国防相会議
27日、キトにてUNASUR外相・国防相会議が開催され、出席者は地域における信頼と安全対策方法に関する書類に合意した。しかし、米軍に対するコロンビア国内の軍事基地の利用に関する決定は中断されたまま終了した。
議長国を務めるエクアドルのファルコニ外相は、ホンジュラスの状況及びベネズエラ・コロンビア間の政治緊張に関する決定については懸案事項として残ったが、会議は成功したと評価した。ガルシア・ベラウンデ外相は、ペルーの軍縮提案が受け入れられ、チリ及びエクアドルが共同提案国となった旨発表した。
(6)ガルシア大統領のアジア訪問
10日〜ガルシア大統領は、日本と韓国を公式訪問した後、シンガポールでのAPEC首脳会議に出席した。10日、日本の公式訪問を開始し、鳩山総理と会談を行った後、天皇陛下と御会見し、日ペルー経済協議会メンバーとの会合に参加した。
11日には韓国を国賓訪問し、イ・ミョンバク大統領と会談、12日にパク・デウォンKOICA総裁と会談した。シンガポールでは、12日にABACの企業関係者と会合し、13日にナザン・シンガポール大統領、胡錦涛中国国家主席及びアピシット・タイ首相と会談し、14日にAPEC首脳会議に出席した。バチェレ・チリ大統領との会談はキャンセルされ、同日、ペルーに向け帰国した。
(7)駐ASEANペルー代表部大使の着任
13日、アルバレス駐インドネシア・ペルー大使が、ASEANに信任状を奉呈し、ASEAN代表部に大使を派遣するラテンアメリカ初の国となった。
(8)対チリ関係:スパイ活動を巡る問題
13日、当地紙は、2002年に在チリ・ペルー大使館で勤務したビクトル・アリサ空軍士官をスパイ容疑で逮捕し、チリ軍事関係者が獲得工作を行っていた旨報じた。
16日、ガルシア大統領は、同件を受け、予定を1日早めてAPEC首脳会議が開催されたシンガポールより帰国し、大統領府にて国防会議を開催した。また、外務省は、パレハ駐チリ・ペルー大使を召還することを決定し、予定されていた、軍縮提案を伝えるためのアラオス生産大臣のチリ訪問はキャンセルされた。外相、国防相及び議会国防委員会の非公開の会合の結果、ペルーは外務省を通じて南米諸国連合(UNASUR)及び米州機構(OAS)に対して、抗議書を送付する旨決定した他、18日、ペルー政府は、チリ政府に提出するため、抗議の口上書及びスパイ活動の証拠となる書類を提出した。
他方、フェルナンデス・チリ外相は、ペルーに冷静さ及び、スパイ行為に関する徹底的な調査を求め、チリ政府によるペルー政府に対するスパイ行為への関与を否定した。17日、バチェレ・チリ大統領は、ガルシア大統領によるスパイ行為容疑に関する発言を「侮辱的で大げさ」と評した。
(9)第3回ペルー・イスラエル外務省協議の開催
18日、ペルー外務省にて、第3回ペルー・イスラエル外務省協議が開催され、ランダベリ・ペルー外務省アフリカ中東部長、シャビット・イスラエル外務省ラテンアメリカ・カリブ部長が出席した。同協議にて、ペルーは「南米における平和、安全及び協力のための議定書」について、他方、イスラエルは中東地域に於ける和平プロセスの進行状況を説明した。また、イスラエルによる農業水産製品の工場のための協力及び、種の多様性に関する調査に係る協力につき意見交換が行われた。
(10)中国要人のペルー訪問
23日、ガルシア大統領は、賈慶林(Jia Qinglin)中国全国政治協商会議主席と会談し、2千万元を贈与する教育・保健分野における経済技術協力合意へ署名が行われた他、リマ州ワロチリ郡の学校建設計画にかかる合意への署名も行われた。
ガルシア大統領は、ペルーはラテンアメリカにおける中国の自動車産業の中心になることができると言及した他、鉱物と石油産業だけではない新たな分野へ両国関係を開くことが可能であると述べ、ペルー国内への中国資本の銀行の進出を期待すると述べた。賈(Jia)中国全国政治協商会議主席は、ガルシア大統領の指揮下でのペルーの経済成長を祝福したほか、地域・国際社会への積極的な参加を評価した。
(11)日本人ペルー移住110周年記念式典の開催
17日、日系人協会が主催した日本人ペルー移住110周年記念式典が開催され、ガルシア大統領、ヤマシロ議会議員(秘日友好議連会長)等が出席した。ガルシア大統領は、具体的な名前を挙げつつ、ペルーにおける日系人の活躍に言及した他、ペルー社会の日本人受け入れの歴史を評価した。
(12)クラウス・チェコ大統領のペルー訪問
20日、クラウス・チェコ大統領がペルーを国家訪問し、ガルシア大統領と会談した。ガルシア大統領は、震災後のリマの大聖堂復興にチェコ人の建築士が活躍した件等に言及し、チェコスロバキア時代から続く、1918年のペルーの独立以来の外交関係を評価した。両国政府代表者は、投資促進協定、麻薬密輸防止協定、文化・教育・科学・スポーツ分野の協力計画に署名を行った。
(13)ガルシア大統領のイベロアメリカサミット出席及びバチカン訪問
11月30日〜12月1日、ガルシア大統領は、ポルトガルのエストリルにて開催された「イノベーションと知識」をテーマとする第19回イベロアメリカサミットに出席した。右会議で、同大統領は、貧困削減及び環境保護のために軍縮の必要性を主張した他、技術革新は零細企業を中心に向けるべきと発言した。また、同大統領はモレノ米州開発銀行(IDB)総裁と会談した。
右に先立ち、30日、ガルシア大統領他はローマ法王ベネディクト16世及び、ベルトーネ総理と会談した。会談後、同大統領は、ローマ法王がペルーを訪問する可能性について言及した他、軍備の規制により南米諸国を団結させ、貧困削減への予算確保をするためのペルーの提案をローマ法王に発表した他、コペンハーゲンで開催される気候変動サミットにおいても、「軍縮による環境保護」というペルーの立場を示すと説明した旨述べた。
4 フジモリ元大統領に対する裁判
4日、最高裁はフジモリ元大統領に対する「バリオス・アルトス事件及びラ・カントゥータ事件」並びに「陸軍諜報局(SIE)地下における誘拐事件」の第2審の審査について、23〜25日に行う旨発表した。フジモリ元大統領は同件において、重殺人罪、重傷害罪及び誘拐罪により25年の禁錮刑を受けており、3日連続で公判が行われることが決定された。
23日は、最高検検事及び原告側民事賠償担当弁護士が陳述を行い、最高検検事は、第一審の重誘拐罪に関する罪状を否認し、単純誘拐罪としたが、それ以外は間接正犯による責任を求める同様の主張を行い、第一審判決を維持するよう求めた。24日は被告側のナカサキ弁護士が弁護を行い、改めて無罪を主張した。25日は、双方の抗弁が行われた結果、ロドリゲス裁判長は(労働日で)30日以内に判決を出すと発表し、終了した。
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