4月の内政と外交

平成28年6月24日

【概要】
大統領選挙
●有権者への贈賄を理由とするケイコ・フジモリ候補への立候補取消し請求が棄却され,ケイコ候補が選挙戦に踏みとどまった。
●ケイコ候補に対する反対デモがペルー国内各地で開催された。
●当地紙が「パナマ文書」とケイコ候補やクチンスキー候補を含む主要大統領候補の関連につき報じた。
●大統領選挙が実施され,得票率1位のケイコ候補と同2位のクチンスキー候補による決選投票が実施されることとなった。
 
内政
●国会監査・会計検査委員会が,ナディン・エレディア大統領夫人を資金洗浄疑惑で捜査するよう検察に勧告する最終報告書を可決した。
 
外交
●サンチェス外相が,第10回CELAC外相会合出席のためドミニカ共和国を訪問した。
●ウマラ大統領が訪米し,国連麻薬特別総会(UNGASS),持続可能な開発目標に関するハイレベル・セッション,気候変動に関する「パリ協定」署名式でスピーチを行った。
●ウマラ大統領が救援物資引渡しのため地震で被災したエクアドルを訪問した。
 
【本文】
1 大統領選挙
(1)ケイコ・フジモリ候補に対する立候補取消し請求
ア 1日,第二審にあたる全国選挙審議会(JNE)が,ケイコ候補に対する立候補取消し請求を棄却する判決を3対2の票決により下したため,ケイコ候補は選挙戦に踏みとどまることになった。ケイコ候補の立候補取消しに反対した3名の評議員は,ケイコ候補が直接現金を渡した事実を疑いの余地なく証明することはできない点を主な判決理由に挙げた。他方,ケイコ候補の立候補取消しに賛成した2名の評議員は,ケイコ候補が積極的に参加していた選挙キャンペーンの場で金銭が渡されたという観点から,ケイコ候補が有権者に金銭を渡したと解釈できるとの見方を示した。なお,同立候補取消し請求は,3月24日,第一審にあたる特別選挙委員会(JEE)で棄却されていた。
 
イ 8日,同立候補取消し請求の特別上告に関する判決が下され,第二審同様3対2と票が割れたものの,ケイコ候補は選挙戦に踏みとどまった。ケイコ候補の立候補取消しに賛成した2名の評議員は,(1)提出された証拠により証明された事実から判決に至った論拠が示されていない,(2)判決に至るまでに然るべく検証されなかった証拠があるために,ケイコ候補は主体的に金銭を渡していないとの判決が下されたが,判決及び判決に至るプロセスは妥当なものではなかったとの見解を示した。他方,ケイコ候補の立候補取消しに反対する3名の評議員は,(1)判決に至った論拠は示している,(2)全ての証拠を然るべく検証した結果,ケイコ候補が金銭を渡した事実は確認できなかったため,ケイコ候補除外の判決には至らなかったとして,判決に至るプロセスは妥当であったとした。
 
(2)ケイコ候補に対する反対デモ
5日,ケイコ候補に対する反対デモがペルー国内各地で開催された。4月5日は,ケイコ候補の父であるフジモリ元大統領が,1992年,いわゆる「自主クーデター」により国会封鎖を遂行した日であり,ケイコ候補の当選は,民主主義を侵害したフジモリ元大統領の再来であると考える国内の反フジモリ派有権者及び団体,政治家を含む著名人が集結し,ケイコ候補の大統領当選を望まないとのアピールを行った。懸念されていた暴力,破壊行為,負傷者等は発生せず,デモは平和裏に実施された。
 
(3)「パナマ文書」と大統領候補のつながりに関する報道
ア 5日及び6日,当地「ペルー21」紙が「パナマ文書」とケイコ候補やクチンスキー候補を含む主要大統領候補の関連につき報じた。ケイコ候補の場合は,ハイメ・ヨシヤマ前人民勢力党幹事長の甥をはじめとする複数の人物が2011年及び今回の選挙で人民勢力党に政治資金を寄付したとされる。クチンスキー候補の場合は,友人の元銀行家であるフランシスコ・パルド氏が,パナマで企業を設立するため当時首相であったクチンスキー候補の署名が入った推薦状を提出していたとされる。
 
イ 報道を受けた関連機関の動きは以下のとおり。
(ア)国家税務監督庁(SUNAT):「パナマ文書」で明らかになったオフショア企業と関連のあるペルー人について調査するチームを立ち上げた。
(イ)検察:サンチェス検事総長が関係者と緊急会合を行った。その後,資金洗浄対策検察が予備調査を開始した。
(ウ)国会監査・会計検査委員会:ロンドン委員長が本件を調査するためのサブ・グループを同委員会に設置する意向を表明した。
 
(4)大統領選挙
10日,大統領選挙が実施された。第一回投票で有効投票の過半数以上を獲得した候補がいなかったため,6月5日,得票率1位のケイコ候補及び同2位のクチンスキー候補による決選投票が実施されることとなった。開票結果は以下のとおり。
ケイコ・フジモリ候補(人民勢力党)          39.86%
クチンスキー候補(「変革のためのペルー国民」)    21.05%
メンドーサ候補(「正義・生活・自由のための拡大戦線」)18.74%
バルネチェア候補(人民行動党)             6.97%
ガルシア候補(「人民同盟」)              5.83%
サントス候補(直接民主主義党)             4.00%
オリベラ候補(希望戦線党)               1.32%
トレド候補(ペルー・ポシブレ党)            1.30%
イラリオ候補(進歩するペルー党)            0.49%
フローレス=アラオス候補(秩序の党)          0.43%
投票率                        81.80%
棄権率                        18.20%
 
2 内政
(1)ナディン・エレディア大統領夫人の資金洗浄疑惑
20日,国会監査・会計検査委員会は,ナディン・エレディア大統領夫人の資金洗浄疑惑を裏付ける証拠に挙げられている4冊の手帳に関する最終報告書を賛成多数で可決した。同報告書はナディン夫人だけでなくウマラ大統領を含む関係者も捜査対象とするよう検察に勧告している。最終報告書が検察に提出されるためには,国会本会議で同最終報告書が可決されなければならない。この点に関し,ロンドン監査・会計検査委員長は,5月の初旬の本会議で審議にかけられることを期待する旨述べている。また,検察がナディン夫人に対して出国制限を課すか,また,同夫人に対する予備捜査を開始するかの決定を近日中に下すと見られている。
 
(2)ウマラ大統領支持率(括弧内は前回数値)
ア ダトゥム社:3月28~30日実施,全国(対象1500名),誤差±2.5%,信頼度95%
支持 15%(14%) 不支持 81%(83%)
イ イプソス社:4月20~22日実施,全国(対象1771名),誤差±2.3%,信頼度95%
支持 17%(15%) 不支持 75%(77%)
ウ GfK社:4月24~27日実施,全国(対象1554名),誤差±2.5%,信頼度95%
支持 12%(12%) 不支持 84%(84%)
 
3 外交
(1)サンチェス外相のドミニカ共和国訪問
1日,サンチェス外相は,第10回CELAC外相会合出席のためドミニカ共和国を訪問した。今次会合では,2017年CELAC議長国の選出(ボリビア及びホンジュラスが立候補を表明)及び2016年度のワーキングスケジュールが議題となった。また,サンチェス外相は,2016年第一四半期中に労働に関するWG会合をペルーのクスコで開催する旨表明した。
 
(2)ウマラ大統領の訪米
ア 国連麻薬特別総会
21日,ウマラ大統領は国連麻薬特別総会(UNGASS)に出席し,「麻薬問題は地球温暖化と同等に深刻な問題である。麻薬問題解決のためには,地球温暖化のように世界規模の戦略的な同盟関係を構築することが重要である。」と発言した。また,ペルー政府が違法コカ葉栽培面積を以前の半分以下に減少させたこと,同時に代替作物の導入を進めていることをアピールした。
 
イ 持続可能な開発目標に関するハイレベル・セッション
21日,ウマラ大統領は持続可能な開発目標に関するハイレベル・セッションに出席し,2015年までの達成を目標としていた国連ミレニアム開発目標をペルーが大きく上回ることに成功し,現在は「2030アジェンダ」の達成に向けた取り組みを開始している旨述べた。他方,食糧不足(飢餓),生活用水の供給,教育へのアクセスといった課題の解決には政治的意思が必要であると訴えた。また,ペルー政府が,開発目標の達成のための特別委員会を設置したこと,これまで政府の手が行き届いていなかった地域に質の高い行政サービスを提供するため取り組んでいること,「成長のための包摂」という国家政策を強化していく意向であることを強調した。さらに,ラテンアメリカが不況に苦しむ中,ペルーは経済成長を維持し,貧困削減の継続に成功していることをアピールした。
 
ウ 気候変動に関する「パリ協定」署名式
22日,ウマラ大統領は,気候変動に関する「パリ協定」の署名式でスピーチを行った。ウマラ大統領は,「パリ協定」は地球と人類が共存できる持続可能な世界を築くために必要な合意であり,貧困削減,社会包摂,人権の尊重,ジェンダー間の平等をはじめとする様々なテーマに分野横断的に取り組むものである旨述べた他,今回の署名は「パリ協定」の締結に至るプロセスの終着点であると同時に,同協定に基づいた気候変動問題への取組みの出発点でもあるとした。さらに,ペルーが「パリ協定」への道筋をつけたCOP20を主催したこと,2021年までの温室効果ガス30%削減に取り組んでいることなどをアピールした。
 
(3)ウマラ大統領のエクアドル訪問
27日,ウマラ大統領は16日に発生した地震で被災したエクアドルを訪問し,食料,浄水器,がれき撤去用機材,簡易医療設備をはじめとする救援物資の引渡しを行った他,コレア・エクアドル大統領との共同記者会見では,ペルーとエクアドルの友好関係を改めて強調した。