5月の内政と外交

平成28年7月7日
【概要】
 大統領選挙
●ケイコ・フジモリ大統領候補陣営に著名なエコノミストであるクーバ氏とデ・ソト氏が加入した。
●人民勢力党(ケイコ候補陣営)のラミレス幹事長に資金洗浄疑惑が再浮上した。
●人民勢力党のクリンペル第一副大統領候補による情報操作疑惑が浮上した。
●クチンスキー大統領候補陣営(「変革のためのペルー国民」)の内紛が報じられた。
●「ペルーの進歩のための同盟」のアクーニャ元大統領候補が,決選投票でクチンスキー候補を支持する意向を表明した。
●リマ市及び北部ピウラ州で大統領候補による公開討論会が実施された。
 
 内政
●国会議員選挙の集計結果が発表され,ケイコ候補の人民勢力党が全130議席中73議席を獲得した。クチンスキー候補の「変革のためのペルー国民」は18議席を獲得し,国会第三党となった。
 
 外交
●ウマラ大統領がスペインを訪問し,フェリペ6世国王への謁見,ラホイ首相との会談等を行った。
●ペルーがOECDラテンアメリカ・カリブ地域プログラム共同議長国に就任した。
●南部アレキパ州でAPEC貿易担当大臣会合が開催され,日本から鈴木経済産業副大臣,山田外務政務官が出席した。
●サンチェス外相がメキシコを訪問し,第36回国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会総会に出席した。
 
【本文】
1 大統領選挙
(1)ケイコ・フジモリ候補陣営の動向
ア 4日,ケイコ候補は,当地大手コンサルタント会社のエコノミストであるクーバ(Elmer Cuba)氏が,経済政策担当の顧問として同陣営に加入したことを明らかにした。ケイコ候補当選の場合には,クーバ氏が経済分野の要職に登用される可能性を示す声もある。これまでケイコ候補陣営は有能なエコノミストを揃えるクチンスキー候補陣営に比べて弱いと評されていたが,クーバ氏の加入により陣営の強化に繋がったとする向きもある。
 
イ 7日,地方でのキャンペーンに赴いたケイコ候補は,経済学者のデ・ソト(Hernando de Soto)氏が同候補陣営に顧問として加入したことを明らかにした。デ・ソト氏は,国内経済活動のフォーマル化を担当するとされる。なお,デ・ソト氏は,前回2011年大統領選挙でもケイコ候補を支持した。
 
(2)ラミレス幹事長の資金洗浄疑惑の再燃
ア 14日,アメリカTVの番組で,米国麻薬取締局(DEA)がラミレス人民勢力党幹事長(国会議員)を資金洗浄容疑で捜査している可能性が報道された。同報道によれば,DEAの情報提供者である元パイロットが,ラミレス幹事長がケイコ候補の指示で資金洗浄を行った旨証言している(ラミレス幹事長の発言とされる音声も放送された。)。アメリカTVは,DEAマイアミ支局関係者の発言を基にラミレス幹事長が同局の捜査対象となっている可能性を示唆したが,他方で,アメリカTVのレポートには不自然な点があり,ケイコ候補を攻撃するための政治的意図が働いているのではないかとの見方も広まった。
 
イ 16日,DEA本部は本件に関するプレスリリースを発出し,ケイコ候補は現在に至るまで一度も捜査対象となったことはない旨示したが,ラミレス幹事長が捜査対象となっているかに関する具体的な言及はなかった。
 
ウ 18日,ラミレス幹事長は,資金洗浄への関与については否定したものの,ケイコ候補のキャンペーンに悪影響が出ることを避けるため,国内での捜査が終了するまで,党幹事長職を休職するとの判断を下した。23日,クリンペル副大統領候補が幹事長代行を務めることが発表された。しかし,数年前から資金洗浄の疑いがあったラミレス幹事長の疑惑が再燃したことで,ケイコ候補の選挙キャンペーンに悪影響を与える可能性が示唆された。
 
(3)クリンペル第一副大統領候補による情報操作疑惑
ア 22日,パナメリカーナTVの番組で,アメリカTVの番組でラミレス幹事長の資金洗浄への関与を証言した元パイロットが,自身の発言は虚偽であった旨述べている音声が放送された。しかし,26日,アメリカTVは,パナメリカーナTVを退職した女性記者が,元パイロットが自身の発言を虚偽と認める音声データの提供者はクリンペル副大統領候補であると指摘していること,また,元パイロットが自身の発言に虚偽はなかったとする編集前の音声データが存在することを報じた。これにより,人民勢力党が自党に有利となるようメディアを通じて情報操作をしたのではないかとの疑惑が浮上した。
 
イ 27日,クリンペル副大統領候補は,上記の女性記者の指摘どおり,元パイロットの音声データをパナメリカーナTVに提供したことは認めたが,音声データの改ざんについては否定した。しかし,本件をフジモリ政権時代のメディアを通じた情報操作と結びつける向きもあり,ケイコ候補のキャンペーンへの悪影響が指摘された。28日,改ざんされた音声を放送したパナメリカーナTV関係者の辞任と同番組の打切りが発表された。
 
(4)クチンスキー候補陣営の動向
ア クチンスキー候補が党首を務める「変革のためのペルー国民(PPK)」のエレシ幹事長は,同党の幹事長であるにもかかわらず,決選投票におけるPPKのスポークス・パーソンに選出されなかったこと等に関し,ビスカラ第二副大統領候補(PPKの選挙キャンペーン長)を公に批判した。クチンスキー候補がビスカラ副大統領候補の意見を尊重し,エレシ幹事長を牽制する発言をしたため,クチンスキー候補陣営の内紛として大きく取り上げられた。クチンスキー候補及びエレシ幹事長の話し合いの後,本件の終結が宣言されたが,多種多様な人物が集まるクチンスキー候補陣営のまとまりのなさを改めて指摘される結果となった。
 
イ 2日,ケイコ候補が,クチンスキー候補が当選した場合,退職積立金制度(CTS)は廃止されると指摘していることについて問われたトルネ氏(PPKの政権プラン長)は,「中国人(ケイコ候補)はシワが増えて(目が細くなって)我々の政権プランが読めないのではないか。」と発言した。しかし,トルネ氏の発言は人種差別にあたるとして批判が高まり,トルネ氏はケイコ候補に謝罪したが,この時期にクチンスキー候補への支持率が停滞した一因に挙げられることになった。
 
ウ 2日,選挙戦序盤は決選投票進出の可能性が示唆されていたアクーニャ元大統領候補(「ペルーの進歩のための同盟」)が,決選投票ではクチンスキー候補を支持する意向を表明した。アクーニャ元候補は,「ペルーの進歩のための同盟」の関係者に対し,クチンスキー候補支持を求めるとしている。しかし,アクーニャ元候補は論文剽窃疑惑等によりイメージが悪化しているため,アクーニャ元候補からの明示的な支持表明がクチンスキー候補にとってプラスとなるかについては疑問の声が上がっている。
 
エ 24日,クチンスキー候補は,リマ市内での選挙集会で,「盗人(フジモリ元大統領)の娘(ケイコ候補)は盗人」と発言した。この前後から,クチンスキー候補は,「ケイコ候補の当選はフジモリ政権の再来であり,民主主義にとっての脅威である。」というイメージ戦略を強めていった。
 
(5)公開討論会
ア 各候補陣営政策担当チームによる公開討論会
 15日,南部クスコ州で各候補陣営政策担当チームによる公開討論会が開催された。同討論会では,(1)経済(クーバ経済政策担当対トルネ政権プラン長(前者がケイコ候補陣営,後者がクチンスキー候補陣営。以下,右順序に同じ。)),(2)社会政策(バスケス社会政策担当対ビスカラ第二副大統領候補),(3)地方分権(ワロック元第二副大統領候補対アラオス第一副大統領候補),(4)治安(ミヤシロ治安対策担当対コスタ治安対策担当)をテーマに議論が交わされ,最終メッセージ(クリンペル第一副大統領候補対シェプット・クチンスキー候補陣営スポークス・パーソン))とともに締めくくられた。政策内容に関する議論が期待されていたが,ライバル陣営に対する批判の応酬も見受けられ,純粋な政策内容の議論とは言えなかったとの見方もある。
 
イ 第一回大統領討論会
(ア)22日,北部ピウラ州で第一回目の大統領討論会が開催された。同討論会では,(1)国家のビジョン,(2)地方分権,(3)地方の競争力強化,(4)天然資源開発と社会紛争,(5)インフラ開発,について各候補が自身の立場を述べ,議論が交わされた。
 
(イ)同討論会では,ケイコ候補が国民に語りかけるようなスタイルで自身の政策について説明すると同時に,クチンスキー候補に対する攻撃的な姿勢で存在感を示した一方,クチンスキー候補は,政策の説明はできていたが,ケイコ候補の攻撃にはうまく対応できず,覇気も感じられなかったとの評価が多かった。クチンスキー候補の覇気のなさの背景には,討論会直前に発表された世論調査で,ラミレス幹事長の資金洗浄疑惑というマイナス要素があったにもかかわらず,ケイコ候補がクチンスキー候補との差を広げたとの結果が出たことにより,少なからず落胆していたのではないかと見られている。ケイコ候補は,討論会後も,それまでは消極的であったテレビ局のインタビューに応じたり,ピウラ市内で政治集会を行うなど精力的な姿を見せた。
 
ウ 第二回大統領討論会
(ア)29日,リマ市で第二回目の大統領討論会が開催された。同討論会では,(1)なぜ自分が大統領にふさわしいか,(2)経済成長と雇用促進,(3)持続可能な開発と環境,(4)教育・貧困削減,格差是正,(5)汚職対策,(6)治安,をテーマに議論が交わされた。続いて,市民からの質問と各候補の最終メッセージで討論会は締めくくられた。
 
(イ)概して,ケイコ候補は,クチンスキー候補からのすべての質問に対して回答が用意できており,他方のクチンスキー候補にも覇気が感じられたという一定の評価がなされている。両候補とも主な政策面のアピールと同時に,ライバル候補を批判する場面がいくつかあったが,必ずしも事実に基づいた批判というわけではなく,ライバル候補に関する特定のイメージを有権者に植え付け,ライバルとの対比を図るための動きであったと評価されている。
 
(6)決選投票の見通しに関する世論調査(括弧内は前月数値)
ア GfK社:23~25日実施,全国 (対象1508名),誤差2.5%,信頼度95%
ケイコ候補    45.7%(42.6%)
クチンスキー候補 40.8%(43.1%)
白票・無効票    9.6%(10.5%)
無回答       3.9% (3.8%)
 
イ ダトゥム社:23~25日,全国 (対象1964名),誤差2.2%,信頼度95%
ケイコ候補    45.1%(40.4%)
クチンスキー候補 39.8%(41.1%)
白票・無効票   12.4% (8.6%)
分からない     2.7% (9.9%)
 
ウ イプソス:26~27日実施,全国 (対象1812名),誤差2.3%,信頼度95%
ケイコ候補    43%(44%)
クチンスキー候補 38%(40%)
白票・無効票   12%(10%)
無回答       7% (6%)
 
エ CPI社:26~27日実施,全国(対象1882名),誤差2.3%,信頼度95.5%
ケイコ候補    46.5%(43.6%)
クチンスキー候補 38.3%(41.5%)
白票・無効票    9.3% (9.1%)
決めていない    5.9% (5.8%)
 
2 内政
(1)国会議員選挙及びアンデス議会議員選挙結果の発表
 18日,全国選挙過程事務所(ONPE)は,4月10日に行われた国会議員選挙及びアンデス議会議員選挙の集計結果を発表した(6月1日,全国選挙審議会(JNE)が,同結果の確定を官報に掲載した。)。
ア 国会議員選挙:全130議席(括弧内は大統領候補または同候補であった者の名前)
(ア)人民勢力党(ケイコ・フジモリ候補):73議席
(イ)「正義・生活・自由のための拡大戦線」(メンドーサ候補):20議席
(ウ)「変革のためのペルー国民」(クチンスキー候補):18議席
(エ)「ペルーの進歩のための同盟」(アクーニャ候補):9議席
(オ) 人民行動党(バルネチェア候補):5議席
(カ)「人民同盟」(ガルシア候補):5議席
 
イ アンデス議会議員選挙:全5議席
(ア)人民勢力党:3議席
(イ)「正義・生活・自由のための拡大戦線」:1議席
(ウ)「変革のためのペルー国民」:1議席
 
(2)ウマラ大統領支持率(括弧内は前回数値)
ア CPI社:9~11日実施,全国(対象1882名),誤差±2.3%,信頼度95.5%
支持 19.8%(16.7%) 不支持 77.2%(79.8%)
イ イプソス社:11~13日実施,全国(対象1805名),誤差±2.3%,信頼度95%
支持 17%(17%) 不支持 76%(75%)
ウ GfK社:23~25日実施,全国(対象1508名),誤差±2.5%,信頼度95%
支持 11%(12%) 不支持 85%(84%)
 
3 外交
(1)ウマラ大統領のスペイン訪問
ア 6日,ウマラ大統領はフェリペ6世国王に謁見した。謁見では,二国間関係や世界情勢等が話題となり,特に,教育と国防分野における二国間協力が高く評価された。また,ウマラ大統領は,ペルー人に対するシェンゲン・ビザ免除実現に向けたスペイン政府の協力に改めて謝意を表した。
 
イ 6日,ウマラ大統領はラホイ首相と会談を行った。同会談では,両国間の「戦略的パートナーシップ協定改定プラン」(2013年1月署名)や「戦略的パートナーシップ協定強化のための大統領宣言」(2015年7月署名)の枠組みを通じた二国間関係の強化が議題となった。また,ペルー人に対するシェンゲン・ビザ免除やスペイン企業による海洋調査船及び練習船の建設に関する協力,学位相互認定制度が高く評価された他,スペイン国営放送とペルー・ラジオ・テレビ研究所間の情報共有とコンテンツ提供,治安,テロ及び組織犯罪対策における二国間合意に向けた交渉の妥結に関心が示された。
 
ウ 7日,ウマラ大統領はガリシア州ビーゴ市で行われた海洋調査船「カラスコ」号の進水式に出席した。同調査船は,総工費7,900万ユーロで,スペインのパウリーノ・フレイレ社が建設した。ウマラ大統領は,「ペルーの近年の経済発展の恩恵を受け,ペルーの造船会社(海軍工業局(SIMA))が成長し,パナマ運河やアマゾン地域で利用される船舶の建設案件を受注するようになった。しかし,我々の造船所はそのような需要に応えることで精一杯の状況であったため,「カラスコ」号の造船は,スペインの企業に委託することとなった。」との経緯に言及した。また,ウマラ大統領は,「カラスコ」号は,ペルー近海及び南極における調査に利用される予定である旨明らかにした。
 
(2)OECDラテンアメリカ・カリブ地域プログラム共同議長国就任
 13日,OECDは,ペルーがラテンアメリカ・カリブ地域プログラム共同議長国に就任することを発表した。ペルー政府は,ペルーはOECDにとって,ラテンアメリカ・カリブ地域における戦略的パートナーであり,ペルーの経済成長や社会包摂に関するグッド・プラクティスを共有するとの立場を示している。ペルーは共同議長国としてOECD非加盟国を代表することになる。ラテンアメリカ・カリブ地域プログラムは,6月1日,パリで開催されるOECD閣僚会合で始動する予定。
 
(3)APEC貿易担当大臣会合
 17~18日,南部アレキパ州でAPEC貿易担当大臣会合が開催され,日本から鈴木経済産業副大臣,山田外務政務官が出席した。今次会合では,地域経済統合や中小企業の国際化をテーマとした議論が行われ,地域全体に裨益する貿易・投資の自由化・円滑化に向けた取組を継続することへの約束を示す声明が採択された。
 
(4)サンチェス外相のメキシコ訪問
ア 27日,サンチェス外相は,第36回国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)総会に参加するためメキシコを訪問し,同総会中に開催された外相・ハイレベル対話に出席した。同会合では,ラテンアメリカ・カリブ地域諸国が,「アジェンダ2030」達成のために採用すべき戦略について意見交換がなされた。また,貧困削減と環境保全というテーマを柱として持続可能な開発に取り組んでいく点,さらに,各国が構造改革を通じて経済の成長を取り戻し,中進国卒業を目指すという点が強調された。
 
イ 27日,サンチェス外相は,メキシコのルイス=マシュー外相とともに,外交官学校間の協力に関する合意書に署名を行った。今次合意により,両国の外交官学校在学生の交換留学及び研究成果等の共有が可能となる。