10月の内政と外交

2016/11/29
<ペルー政治情勢 2016年

【概要】
 内政
●辞職したクチンスキー大統領顧問の汚職疑惑が大々的に報道された。
●国会議員に当選した際の会派から離脱した議員が別の会派に所属すること等を禁止する法案が国会本会議で可決された。
●ウマラ前政権任期中の公共事業契約にまつわる汚職疑惑の調査を目的とする国会特別調査委員会の設置が国会本会議で可決された。
●アプリマック州のラス・バンバス鉱山に関する抗議活動で,地元住民と警察部隊が衝突し,死者1名,負傷者約20名が発生した。
●政府が政権発足から100日の達成事項に関する報告書を提出した。
●国会が選出した新中銀理事3名中2名の人選に対する批判が高まった。
 
 外交
●ケニー米国国務省顧問がペルーを訪問し,ルナ外相及びサルガド国会議長への表敬訪問等を行った。
●王毅中国外交部長がペルーを公式訪問した。
●APEC教育大臣会合が開催され,日本からは水落栄文部科学副大臣が出席した。
●クチンスキー大統領が,第10回ペルー・エクアドル合同閣議出席のため,エクアドルを訪問した。
●APEC財務大臣会合が開催され,日本から木原稔財務副大臣が出席した。
●クチンスキー大統領が,リマを訪問中のグリアOECD事務総長と会談を行った。
●クチンスキー大統領がイベロアメリカ・サミット出席のためコロンビアを訪問した。
●ベネズエラ情勢を巡るペルー政府の声明をベネズエラ政府が厳しく批判した。
 
【本文】
1 内政
(1)クチンスキー大統領顧問の辞職と汚職疑惑
ア 7日,サバラ首相及びガルシア保健大臣が緊急記者会見を開き,今年8月に就任したばかりのモレーノ大統領顧問(医療保健分野)が辞任した経緯につき説明を行った。モレーノ顧問には,主に低所得者層向けの医療保険であるSIS,カトリック教会,私立病院や民間企業を巻き込む大規模な汚職疑惑に関与していた疑惑がかけられている。本件を受けて,SISのトップであるアコスタ氏が退任したほか,SISの機構再編と会計検査庁による内部監査が行われることとなった。
 
イ 本件に関し,クチンスキー大統領は,17日,国民向けメッセージを放映し,(1)大統領顧問の徹底的な監査と大統領顧問室の再編,顧問登用に関する新たな基準の設定,(2)各省大臣顧問の徹底的な監査,(3)汚職の前科がある公務員の中央・地方政府での採用を禁じる法律の公布,(4)サルガド国会議長及びティコーナ最高裁判所長官との汚職対策に関する協議の実施,(5)大統領直轄汚職対策委員会の設置と汚職対策案の提出,という5つの対策を早急に講じる旨宣言した。他方,国会監査委員会も本件に関する個別の調査を行うことが,20日の本会議で可決されている。
 
(2)別の国会会派への議員の移行を禁止する法案の可決
 13日,国会議員に当選した際の会派から離脱した議員が別の会派に所属すること等を禁止する法案が国会本会議で可決された。同法案は,国会会派の分裂の抑制と強化を目的としており,賛成70票,反対36票で可決された。しかし,反対派議員は,同可決法案は正当な理由がある場合でも会派を離脱することができない点等につき,その違憲性を憲法裁判所に訴える意向を示している。
 
(3)ウマラ前政権任期中の汚職疑惑に関する国会調査
 13日,ウマラ前政権任期中(2011~16年)の公共事業契約にまつわる汚職調査を目的とする国会特別調査委員会の設置が国会本会議で可決された。同委員会の調査対象となる事業は,(1)リマ・メトロ2号線,(2)南部ガス・パイプライン,(3)カミセア油田で産出された天然ガス輸出の3点。今回設置が可決された特別調査委員会は,180日間,上記案件に関する調査権限を与えられる。汚職の兆候や汚職を裏付ける証拠を入手した場合,同委員会は関与者の起訴を検察に勧告できる。同委員会の委員長には,人民勢力会派のサラベリー議員が選出された。
 
(4)鉱山開発に関する社会紛争
ア 14日,アプリマック州のラス・バンバス鉱山周辺の地元住民が抗議のため鉱山に通じる道路を封鎖した。対応に当たった国家警察との間で衝突が発生した結果,住民1名が死亡,警察官約20名が負傷した。バソンブリオ内務大臣は,今回の警察の対応について,現場の大佐が上層部に相談せず対応したと釈明をしたが,同内相の政治責任や警察の対応の不適切さを指摘する声が高まった。ラス・バンバス鉱山は国内最大級の鉱山であり,ペルー政府にとって重要な事業に位置付けられているが,前政権下の昨年9月にも地元住民と警察が衝突し,3名が死亡する事態が発生していた。
 
イ 今回の抗議活動は,鉱山開発そのものに反対するものではなく,鉱山開発の地元への還元や鉱山に通じる道路の利用に関する不満を巡るものとされる。地元住民が今回封鎖した道路については,鉱山の建設期間中のみ機材や従業員を運送するために使用し,生産段階に入った後は道路を使用せず,パイプラインを通じ鉱物を輸送するということで地元と鉱山会社が合意していたとされる。
 
ウ 政府は,タマヨ・エネルギー鉱山大臣を筆頭とする政府代表団を19日に現地入りさせ住民との協議を試みたが,地元政府が協議の申し入れを了承しなかったため,現地入りは実現しなかった。地元住民は18日から無期限ストを開始しており,クチンスキー大統領及びサバラ首相が現地入りに応じるまで,ストを継続するとしている。22日,ビスカラ第一副大統領(兼運輸通信大臣)を筆頭とする代表団を現地に派遣し地元との協議を行った。
 
(5)太平洋同盟に関するルナ外相の発言
 17日,ルナ外相が当地の外交団長及び国際機関の代表者を外務省に招きペルーの外交政策方針等につき述べた際,「近隣諸国及び中南米諸国との統合に注力しつつ,全世界すべての地域の国々との関係を強化することを目標とする。この点で,太平洋同盟4か国の統合を引き続き強化することに集中している。ペルー政府としては,太平洋同盟への新規加盟国の受け入れは考えていない。」との考えを述べた。
 
(6)政権発足から100日の達成事項に関する報告書の提出
 26日,首相府が,政権発足から100日の主な達成事項に関する報告書を発表した。同報告書は,サバラ首相が8月に行った所信表明演説と同様,(1)機会の提供と社会投資,(2)治安及び汚職対策,(3)雇用の創出及び経済のフォーマル化と再活性化,(4)国民に寄り添う国家(政府サービスの向上)というテーマに沿った構成となっており,各セクター(省)の達成事項の概要が説明されている。犯罪対策については,課題は山積しているが,良いスタートを切ったとの評価が見られた一方,汚職や社会紛争対策については後手に回ったとの評価が見られる。
 
(7)国会による新中銀理事の選出
 27日,国会本会議にて中央準備銀行の新理事3名(任期2016~21年)が選出された。この3名のうち人民勢力党のラミレス前幹事長の資金洗浄を証言する音声データの改ざんに関与した疑惑があるクリンペル理事(現人民勢力党幹事長)及び金融の専門家ではないレイ理事(注:前アンデス議会議員(フエルサ2011(人民勢力党の前身)より立候補。)の選出に批判が集まった。クチンスキー大統領等政府関係者は,国会の決定に意見する立場にはないとしつつも,新理事の資質に問題はなく,中銀の金融政策に大きな変更が生じることはないとの見方を示している。
 
(8)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
ア イプソス社:12~14日実施,全国(対象1289名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持 55%(63%)  不支持 27%(17%)
イ GfK社:22~25日実施,全国(対象1256名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 52%(62%)  不支持 32%(17%)
ウ ダトゥム社:28~31日実施,全国(対象1203名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 59%(62%)  不支持 31%(24%)
エ CPI社:10月31日~11月2日実施,全国(対象1450名),誤差±2.6%,信頼度95.5%(括弧内は前回(7月30日~8月3日)数値)
支持 52.8%(70.4%)  不支持 38.3%(18.6%)
 
2 外交
(1)ケニー米国国務省顧問の来訪
 4~5日,ケニー米国国務省顧問がペルーを訪問し,ルナ外相及びサルガド国会議長への表敬訪問等を行った。ルナ外相表敬訪問では,9月の国連総会時に行われたクチンスキー大統領とケリー米国国務長官の会談のフォローアップが行われたほか,APEC首脳会議に合わせたオバマ大統領のペルー訪問の調整,二国間経済及び協力,地域情勢が話題となった。サルガド国会議長表敬訪問では,米国とペルーの国会が今後も協力していく意思が確認された。
 
(2)王毅中国外交部長のペルー公式訪問
 5日,南米諸国歴訪の一部としてペルーを公式訪問した王毅外交部長が,ルナ外相との外相会談及びクチンスキー大統領への表敬訪問を行った。ルナ外相との外相会談では,11月のAPEC首脳会議後に予定される習近平国家主席のペルー公式訪問の調整,クチンスキー大統領による中国公式訪問(9月)時に取り扱われたテーマのフォローアップ等が議題となった。クチンスキー大統領への表敬訪問では,習近平国家主席のペルー公式訪問,二国間関係,APEC首脳会議が話題となった。
 
(3)APEC教育大臣会合
 5~6日,リマでAPEC教育大臣会合が開催され,日本からは水落栄文部科学副大臣が出席し,サアベドラ教育大臣と教育分野における二国間関係の推進等について会談を行った。同会合では,アジア太平洋地域における知識とスキル,イノベーション能力の向上や雇用促進を目的としたAPECメンバー間の政策協力につき意見交換が行われた。
 
(4)クチンスキー大統領のエクアドル訪問
 7日,エクアドルのモロナ・サンチアゴ県マカス市においてコレア・エクアドル大統領及びクチンスキー・ペルー大統領の間で,首脳会談及び第10回ペルー・エクアドル合同閣議が開催された。同会合の成果として,国境地帯の両国民の福祉サービスの向上,電力供給,地雷除去,通信,移民管理等に関する取組等,計26の項目を含む共同声明が発出された。また,エクアドルのコロンビア・ペルーとEUとのFTA加盟に向けたペルー政府の支援への謝意も表明された。
 
(5)APEC財務大臣会合
 14~15日,リマでAPEC財務大臣会合が開催され,日本からは,木原稔財務副大臣が出席した。同会合では,アジア太平洋地域の統合の強化をテーマに議論が行われたほか,APECのメンバー間で連携のとれた政策行動をとっていくこと,また,アジア太平洋地域諸国内の貿易を活性化していくことで合意に至った。
 
(6)グリアOECD事務総長の来訪
 14日,クチンスキー大統領は,イベントに出席するためリマを訪問中のグリアOECD事務総長とペルーのOECD加盟に関する会談を行った。同会談には,ペルー側から,サバラ首相,ルナ外務大臣,トルネ経済財政大臣,OECD側からは,ガブリエラ・ラモス事務総長首席補佐官が同席した。同会談後,クチンスキー大統領は,OECD加盟に向けた課題を示しつつも,自身の任期中の加盟実現に自信をのぞかせた。グリア事務総長もペルーのOECD加盟に向けて,協力を継続していくとの意思を示したほか,ペルーが今後進むべき道を示す4つの報告書をクチンスキー大統領に手交した。
 
(7)クチンスキー大統領のイベロアメリカ・サミット出席
 10月28日~29日,クチンスキー大統領及びルナ外相は,第25回イベロアメリカ・サミット出席のためコロンビアを訪問した。
 
ア クチンスキー大統領は,第25回イベロアメリカ・サミットで,ベネズエラの危機的な国内情勢への懸念を示すと共に平和的な解決を望む旨発言した。また,同サミットのマージンで,第11回イベロアメリカ企業家との会合,ペニャ・ニエト・メキシコ大統領,フェリペ・スペイン国王,ソウザ・ポルトガル大統領とそれぞれ会談を行ったほか,バチェレ・チリ大統領と立ち話をした。
 
イ ルナ外相は,イベロアメリカ外相会合に出席したほか,モラレス・グアテマラ外相,ゴンサレス・コスタリカ外相,ロイサガ・パラグアイ外相との会談を行った。
 
(8)ペルー政府の声明に対するベネズエラ政府の反発
 10月28~29日,コロンビアのカルタヘナで開催されたイベロアメリカ・サミットにおけるクチンスキー大統領の発言及び同時に発出されたペルー外務省の公式声明を巡り,ベネズエラ政府がペルー政府に対する不快感を露わにしている件が注目を集めた。ベネズエラ政府がペルー政府を強く批判したため,ペルー政府の対応に注目が集まったが,ルナ外相は,駐ベネズエラ・ペルー大使を本国に召還するなどして,ベネズエラと対立する意思はない旨明らかにしている。