11月の内政と外交

平成28年12月14日
<ペルー政治情勢 2016年

【概要】
 内政
●政府と州政府による第2回会合が行われた。
●ケイコ・フジモリ人民勢力党党首が6月の決選投票以来初めて公の場で発言を行った。
●ウマラ大統領が,同政権中の汚職疑惑に関する国会国防委員会の召喚に応じた。
●ケイコ・フジモリ党首が,人民勢力党の資金洗浄疑惑に関する検察の取り調べに応じた。
●ナディン・エレディア・ウマラ前大統領夫人がFAOの職員に登用された件が,ペルー国内で物議を醸した。
●ゴンサレス国防大臣が省内人事に関する自身のスキャンダルを理由に辞任した。
 
 外交
●クチンスキー大統領が,第2回ペルー・ボリビア合同閣議出席のため,ボリビアを訪問した。
●クチンスキー大統領が,ドナルド・トランプ氏の米大統領当選に祝意の書簡を発出した。
●ムニョス・チリ外相がペルーを訪問した。
●安倍総理大臣がペルーを公式訪問した。
●APEC首脳会議がリマで開催され,クチンスキー大統領がAPEC首脳会議を主催したほか各国首脳と会談を行った。日本からは,安倍総理大臣,岸田外務大臣,世耕経済産業大臣が出席した。
●習近平中国国家主席がペルーを国賓訪問した。
●クチンスキー大統領がチリを公式訪問した。
 
【本文】
1 内政
(1)政府と州政府による会合
 7~8日,政府と州政府による会合(GORE)の第2回会合が行われた。今次会合では特に,政府と州政府の協力による社会紛争の予防と解決が議題となり,会合後に発表された共同宣言には,各州に社会紛争の予防を担当する地方事務所の開設と,首相府国家対話・持続可能性事務所(ONDS)による技術的なサポートが盛り込まれている。また,月に一度,州知事1名が閣議に出席し,各地方の課題につき意見交換を行う試みを開始済みであることをサバラ首相が明かした。次回会合は来年2月に予定されている。
 
(2)ケイコ・フジモリ人民勢力党党首の動向
 9日,ケイコ・フジモリ人民勢力党党首(以下ケイコ党首)は,リマ市旧市街の人民勢力党新事務所の開設イベントに出席し,今年6月の大統領選決選投票でクチンスキー大統領に敗れて以来,初めて公の場で発言を行った。選挙に敗れて以来落胆していたとの見方については,内政の安定のため敢えて沈黙を守りつつ,党内の統率に専念していたと明らかにした。他方,クチンスキー政権については,発足から100日の間,具体的な成果が何も出ていないと厳しく批判した。
 
(3)ウマラ前政権時代の汚職疑惑
 9日,ウマラ前大統領が,同政権中に行われたフランス製人工衛星の購入にかかる汚職疑惑に関し,国会国防委員会の召喚に応じた。ウマラ大統領は,フランス製人工衛星の購入は,通常の入札手続きを経て決定されたものであるとし,汚職疑惑を全面的に否定した。本件については,カテリアーノ前首相とバラキビ前国防大臣も国防委員会に召喚され証言をしている。
 
(4)人民勢力党による資金洗浄疑惑
 10日,ケイコ・フジモリ党首が,人民勢力党による資金洗浄疑惑に関する検察の取り調べに応じた。取り調べの後,ケイコ党首は発言を行わなかったが,人民勢力党が疑惑を否定するプレスリリースを発出した。
 
(5)ウマラ前大統領夫人のFAO職員採用とペルー国内での波紋
 23日以降の報道で,ペルー検察による資金洗浄疑惑の捜査対象となっているナディン・エレディア・ウマラ前大統領夫人(以下ナディン夫人)が,FAOジュネーブ事務所の職員に採用された件がクローズアップされ,国内で物議を醸した。FAOが,ナディン夫人の採用プロセスは妥当であったとの立場を訴えた一方,ペルー外務省は,国内での余波の大きさに言及しつつ,FAOに対する抗議の外交文書を発出した。他方,ペルー国会でも,ナディン夫人のFAO職員採用の無効化を求める動議が満場一致で可決された。
 
(6)ゴンサレス国防大臣の辞任
 27日,パナメリカーナTVの政治番組「パノラマ」において,8月に国防省に採用され,現在ゴンサレス国防大臣と交際している女性が,10月18日に副大臣室顧問に任命され,4日後には大臣室の顧問に任命されるという異例の人事により国会議員並みの給与を受給していることが報じられた。ゴンサレス大臣は,人事における不正を否定したが,翌28日,ゴンサレス大臣の意思表明を受けたサバラ首相は,同大臣の辞任を受理するとともに,週内に後任を任命すると述べた(注:12月5日,ニエト文化大臣が横滑りで国防大臣に就任。)。
 
(7)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
ア イプソス社:9~11日実施,全国(対象1260名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 51%(55%) 不支持 35%(27%)
イ GfK社:19~23日実施,全国(対象1244名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 51%(52%) 不支持 37%(32%)
ウ ダトゥム社:25~29日実施,全国(対象1201名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 53%(59%) 不支持 38%(31%)
 
2 外交
(1)ペルー人国連国際法委員会理事の選出
 3日,ペルー人のルダ(Juan Jose Ruda)氏が,国連国際法委員会の理事に選出された(任期:2017~21年)。ルダ氏は,外務省の首席顧問であり,ICJでのペルー・チリ領海境界線確定問題では,ペルー政府代表団のメンバーを務めた。国際法委員会におけるペルー人理事の選出は30年ぶり。
 
(2)クチンスキー大統領のボリビア訪問
 4日,クチンスキー大統領は,第2回ペルー・ボリビア合同閣議出席のため,ボリビアのスクレ市を訪問した。クチンスキー大統領は,以前からボリビアが希望していた大洋間横断鉄道のルートにボリビアを加える構想を支持する覚書にモラレス・ボリビア大統領とともに署名したほか,チチカカ湖の水質改善に向け,ボリビア政府と協働していくことで合意に至った。
 
(3)ドナルド・トランプ氏に対するクチンスキー大統領の祝意表明
 9日,ペルー外務省は,クチンスキー大統領が,ドナルド・トランプ氏の米大統領当選にかかる祝意の書簡を送付した旨公表した。クチンスキー大統領発の同書簡では,トランプ氏の米国大統領当選に対する祝意とともに,新政権の成功の祈念,また,ペルーとの二国間関係強化に対する期待が綴られている。
 
(4)ムニョス・チリ外相のペルー訪問
 9日,チリのムニョス外相が,11月29日に予定されるクチンスキー大統領のチリ公式訪問の準備のためペルーを訪問した。ムニョス外相は,ペルーのルナ外相と外相会談を行い,二国間関係を改めて活性化する互いの意思を確認した。また,本年及び来年の二国間協議のスケジュールの検討も行われた。
 
(5)安倍総理のペルー公式訪問
 18~19日,安倍総理がペルーを公式訪問した。今次訪問では,クチンスキー大統領との日・ペルー首脳会談が行われた後,両国首脳による署名式及び共同記者発表が行われた。日・ペルー首脳会談では,二国間関係をさらに強固にすべく,新たに戦略的パートナーシップを構築し,政策協議を開始することで一致したほか,租税条約締結に向けた協議を開始すること,2019年の日本人のペルー移住120周年を「日ペルー交流年」として,両国の交流を拡大させていくことなどで一致し,これらの内容を共同声明として発表した。首脳会談後の署名式では,鉱山及び情報通信分野における二国間協力に関する覚書への署名が行われた。
 
(6)APEC首脳会議
ア 首脳会議に関するクチンスキー大統領の発言
 19~20日,リマ市内でAPEC首脳会議が開催された。20日,クチンスキー大統領は,APEC首脳会議の閉会後に行われた記者会見で,国際貿易に逆行する動きがある中で,今回のAPEC首脳会議開催は重要であったとした。国際貿易に関しては,APEC首脳間で,FTAAP実現の前段階としてのTPPの重要性についても議論が交わされたとした。なお,今次首脳会議では,世界の繁栄のための国際貿易の重要性,中小企業の国際貿易への包摂,食料安全保障と気候変動,インターネット等デジタル環境とのコネクティビティが主な議論のテーマとなった。
 
イ クチンスキー大統領と各国首脳との会談(概要)
(ア)ニュージーランドのキー首相と会談を行った。同会談では,ペルーのOECD加盟に対する支援をペルーが要請したほか,TPPについても意見交換がなされた。同会談には,サバラ首相,ルナ外相,フェレイロス通商観光大臣が同席した。
 
(イ)カナダのトルドー首相と会談を行った。同会談では,鉱業,パンアメリカン競技大会,ペルーのOECD加盟等につき意見交換が行われた。同会談には,サバラ首相,ルナ外相,トルネ経済財政大臣,タマヨ・エネルギー鉱山大臣が同席した。
 
(ウ)ロシアのプーチン大統領と会談を行った。同会談では,2015年に締結された二国間の戦略的パートナーシップ,二国間貿易の促進に寄与すると期待される17の協定,今後の二国間貿易等多岐にわたる事項につき意見交換が行われた。
 
(エ)米国のオバマ大統領と会談を行った。同会談では,オバマ大統領からペルーの治安改善に向けた協力の意思が示されたほか,APEC,二国間FTA,TPP,国際貿易についても意見交換が行われた。同会談には,ビスカラ第一副大統領,アラオス第二副大統領,ルナ外相,バソンブリオ内務大臣,グラードス労働雇用促進大臣,トルネ経済財政大臣,フェレイロス通商観光大臣が同席した。
 
(オ)豪州のターンブル首相と会談を行った。同会談では,上水道,大学教育,TPPの見通しに関する意見交換が行われた。同会談には,サバラ首相,トルネ経済財政大臣,ポポリシオ外務副大臣が同席した。
 
(カ)シンガポールのリー・シェンロン首相と会談を行い,租税条約締結,上水道に関する意見交換が行われた。同会談には,サバラ首相,トルネ経済財政大臣,ポポリシオ外務副大臣が同席した。
 
(キ)PNGのオニール首相と会談を行い,農業分野における対PNG技術協力につき意見交換が行われた。また,2018年APECのPNG開催にあたって,ペルーから技術的な協力を行う意思が示された。同会談には,サバラ首相,トルネ経済財政大臣,ポポリシオ外務副大臣が同席した。
 
ウ 今次APEC首脳会議には安倍総理大臣が出席した。APEC閣僚会議には,岸田外務大臣及び世耕経済産業大臣が出席した。安倍総理大臣は,首脳会議において,日本の経済政策や自由貿易(TPP)の推進等について発言を行った。他方,岸田外務大臣及び世耕経済産業大臣は,閣僚会合での発言のほか,それぞれ,岸田外務大臣は,ルナ・ペルー外相,リム・ジョクセン・ブルネイ首相府大臣,ディオン・カナダ外相,ケリー米国務長官と,世耕経済産業大臣は,タマヨ・ペルー・エネルギー鉱山大臣,フロマン米通商代表,エンガルティアスト・インドネシア商業大臣,フリーランド・カナダ国際貿易大臣との二国間会談を行った。
 
(7)習近平中国国家主席のペルー国賓訪問
 21日,APEC首脳会議(19~20日)に出席のためペルーを訪問していた習近平中国国家主席が,ペルー国賓訪問を実施した。同日,大統領府で実施されたワーキング・セッションの後,2021年までの中・ペルー二国間協力の指針となる「共同行動計画2016-2021」への署名が行われた。そのほか,政策協議,通商(二国間FTA),経済協力,産業育成,鉱業,インフラ,金融,情報通信,環境,文化といった分野での二国間協力に関する文書へも署名がなされた。
 
(8)クチンスキー大統領のチリ公式訪問
 28~30日,クチンスキー大統領はチリを公式訪問した。バチェレ・チリ大統領との首脳会談では,二国間関係の深化,相互信頼及び透明性を強化していくことを再確認した。バチェレ大統領は,2017年,ペルー・チリ合同閣議を開催する予定であることを明らかにした。また,合同閣議開催に向け,経済,通商,鉱業,科学,テクノロジー,エネルギー,国境統合,麻薬密輸,文化,治安,国防,観光,自然災害等幅広い分野に関する二国間政策協議メカニズムを再開する意向も示した。バチェレ大統領は,ペルーのOECD加盟についても正式な支持表明を行った。