ペルーの政治情勢 12月
平成29年2月20日
<ペルー政治情勢 2016年
【概要】
内政
●国防大臣及び文化大臣が交代した。
●サアベドラ教育大臣が国会で罷免され,後任にマルテンス新教育大臣が就任した。
●シプリアーニ枢機卿の呼びかけにより,大統領選挙後初めてとなるクチンスキー大統領とケイコ・フジモリ人民勢力党党首による対話が行われた。
●米国で司法取引に応じたブラジルの大手建設会社が,ペルーに対し2005~14年の間に計2,900万米ドルに上る贈賄を行っていたことを明らかにした。
●主要全政党関係者出席の下,第116回「国家合意」会合が開催され,最優先事項である(1)治安改善,(2)汚職対策,(3)フォーマル化,(4)社会政策(教育,保健,上下水道整備)のうち,治安改善について議論された。
●また,これに先立ち,クチンスキー大統領は19日に人民勢力党のケイコ・フジモリ党首,20日に人民行動党,21日にFA及びアプラ党,23日に「進歩のための同盟」の各党関係者と会合を行った。
外交
特になし
【本文】
1 内政
(1)国防大臣及び文化大臣の交代
5日,11月28日に愛人問題で辞任したゴンサレス前国防大臣の後任として,ニエト(Jorge Nieto)文化大臣が,また新文化大臣にデル・ソラール(Fernando del Solar)氏の宣誓式が行われた。ニエト新国防大臣はクチンスキー政権発足から現在まで文化大臣として入閣,今回横滑りで国防大臣に就任した。デル・ソラール新文化大臣は,俳優として知名度の高い人物であるが,大学では法学を,大学院では国際関係学を学んだ。
(2)サアベドラ教育大臣に対する罷免決議案の可決
ア 15日,国会本会議で,サアベドラ教育大臣に対する罷免決議案が可決された(賛成78票,反対及び棄権0票)。一部議員を除き,「正義・生活・自由のための拡大戦線(FA)」,「進歩のための同盟(APP)」,与党「変革のためのペルー国民」及び人民行動会派所属の各議員は,罷免に対する抗議の意味を込め,投票前に議場を退出した。憲法の規定に従えば,サアベドラ大臣は72時間以内に辞職する。
イ 野党は以前から,教育省が主管する2019年リマ開催のパンアメリカン競技大会の準備の遅れを批判していた。また,アプラ会派がウマラ前政権中にサアベドラ大臣が推進した法律である大学法(Ley Universitaria)改正案を提出した。同法につきアプラ会派は,憲法第18条で大学の自治権が認められているにもかかわらず,教育省傘下のペルー全国大学教育監督庁(SUNEDU)に大学の自治権を侵害する部分があるとして,条文の改正を主張した。また,11月20日には,教育省によるコンピューターの購入に際し,不正があった可能性が報じられたことをきっかけに,人民勢力会派がサアベドラ大臣の罷免の可能性を強く示唆し始めた。
ウ 12月9日,大臣の罷免に必要な過半数(66票)以上の72議席を有するフジモリ派が,サアベドラ大臣の罷免決議案を提出した。これに対し,クチンスキー大統領及びサバラ首相は,内閣信任決議案(cuestion de confianza)を提示する可能性を示唆していたが,結局は提示しなかった。
(3)新教育大臣の就任
ア 18日,国会での罷免決議案の可決を受け辞任に追い込まれ,17日付で辞任したサアベドラ前教育大臣の後任に任命されたマルテンス(Marilu Martens)新教育大臣の宣誓式が行われた。クチンスキー大統領は,「新たな大臣の下で教育改革を継続する。時間を無駄にしている暇はない。」と端的に述べた。サバラ首相も「教育改革は変わらず継続する。我々は正しい道を進んでいる。」とした。
イ 宣誓式後の記者会見で,マルテンス新教育大臣は,公共教育の改善に向けた取組への協力をすべての分野に求めるとともに,ペルーのために自分のすべてを捧げるとの意気込みを示し,教育改革の継続を強調した。大学法(Ley Universitaria)については,教育改革の一環であり,維持されるとの見方を示した一方,改正の可能性は排除しなかった。
(4)クチンスキー大統領とケイコ・フジモリ人民勢力党党首の会談
ア 19日,クチンスキー大統領は大統領選挙決選投票後初めてケイコ・フジモリ人民勢力党(FP)党首と会談を行った。本会合は,サアベドラ前教育大臣の罷免を巡り政権と最大野党の人民勢力党(FP)の対立が表面化し,国政への影響を懸念する声が聞かれる中,16日,シプリアーニ枢機卿がテレビを通じて両者に枢機卿宅を提供しての二者会談を呼びかけ,これを両者が受け入れ実現した。
イ 会談後,シプリアーニ枢機卿は「会談の提案を受け入れたクチンスキー大統領及びケイコ党首に感謝。今回の対話が国家を発展させるものになると期待している。」と述べた。クチンスキー大統領は「率直かつ建設的で,大変有意義な対話であった。ペルーは様々な課題を抱えており,大部分で見解は一致した。国家を発展させるためにともに努力していくことで一致した。行政府は立法府とともに2021年に近代的な国家となっているよう協調していく。」と表明し,ケイコ党首は「シプリアーニ枢機卿の申し出に感謝。対話は率直かつストレートであった。この先ポジティブな結果をもたらすと確信している。FPはこれまで,国家にとって必要な法案を提出してきた。また,与党及び他の野党からの法案を可決させる形で貢献してきた。このような貢献の形は変えない。民主主義の強化に向け努力する。今回の対話では,治安対策,汚職対策,教育,保健,社会紛争の防止,干ばつ対策などについて触れた。建設的野党として国民がFPに託した政治を進めていきたい。与党とは共通点はあるが,施政に対する考えの違いもある。しかし,この考えの違いよりも,国家の発展を最優先に努力していきたい。」と発言した。
ウ 上記会談にもかかわらず,その後に両者間の対話が発展しているとの報道は見られなかった。
(5)ブラジル大手建設企業によるペルー政府関係者への贈賄疑惑
21日,米国司法省との司法取引に応じたブラジルの大手建設会社オデブレヒト(Odebrecht)社が,ラテンアメリカを中心として少なくとも12か国で,公共事業受注のために贈賄を行っており,ペルーに対する贈賄は2005~14年の間に計2,900万米ドルに上ることを明らかにした。3政権にまたがる期間であり,クチンスキー大統領も対象期間はトレド政権で首相を務めていたことから国内の注目が高まっている。
(6)第116回「国家合意」会合の開催
ア 27日,大統領府において,与野党間の対話や,政治家,財界関係者等が参加する国家政策議論の枠組みである「国家合意(Acuerdo Nacional)」の第116回会合が開催された。現政権での開催は2回目であるが,国会に議員を擁する全ての政党が集まっての開催は今回が初めて。今次会合には,サバラ首相をはじめとする政府関係者,与党「変革のためのペルー国民」,人民勢力党,「正義・生活・自由のための拡大戦線」(FA),人民行動党及びアプラ党の関係者が出席したほか,司法府,検察庁,労組,NGO等が出席した。
イ また,これに先立ち,クチンスキー大統領は19日に人民勢力党のケイコ・フジモリ党首,20日に人民行動党,21日にFA及びアプラ党,23日に「進歩のための同盟」の各党関係者と会合を行った。
ウ 会合では,最優先事項である(1)治安改善,(2)汚職対策,(3)フォーマル化,(4)社会政策(教育,保健,上下水道整備)のうち,治安改善について議論された。サバラ首相は,治安対策のため,警察及び内務省の近代化を図るとともに,警察官1万人の増員,強盗被害の40%減少,2017年の間に大規模捜査を150件実施する旨発表した。また,治安が特に悪い100地区を特定し,対策を強化する「安全な地区(Barrio Seguro)」プログラムを通じ,様々な分野からの支援を進める旨述べた。さらに,地方における犯罪捜査の強化及び治安改善に資するテクノロジーの導入について提案した。
(7)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
ア CPI社:4~9日実施,全国(対象1450名),誤差±2.6%,信頼度95.5%
支持 46.2%(52.8%) 不支持 46.3%(38.3%)
イ イプソス社:7~9日実施,全国(対象1283名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持 48%(51%) 不支持 36%(35%)
ウ GfK社:10~13日実施,全国(対象1248名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 46%(51%) 不支持 44%(37%)
2 外交
特になし
【概要】
内政
●国防大臣及び文化大臣が交代した。
●サアベドラ教育大臣が国会で罷免され,後任にマルテンス新教育大臣が就任した。
●シプリアーニ枢機卿の呼びかけにより,大統領選挙後初めてとなるクチンスキー大統領とケイコ・フジモリ人民勢力党党首による対話が行われた。
●米国で司法取引に応じたブラジルの大手建設会社が,ペルーに対し2005~14年の間に計2,900万米ドルに上る贈賄を行っていたことを明らかにした。
●主要全政党関係者出席の下,第116回「国家合意」会合が開催され,最優先事項である(1)治安改善,(2)汚職対策,(3)フォーマル化,(4)社会政策(教育,保健,上下水道整備)のうち,治安改善について議論された。
●また,これに先立ち,クチンスキー大統領は19日に人民勢力党のケイコ・フジモリ党首,20日に人民行動党,21日にFA及びアプラ党,23日に「進歩のための同盟」の各党関係者と会合を行った。
外交
特になし
【本文】
1 内政
(1)国防大臣及び文化大臣の交代
5日,11月28日に愛人問題で辞任したゴンサレス前国防大臣の後任として,ニエト(Jorge Nieto)文化大臣が,また新文化大臣にデル・ソラール(Fernando del Solar)氏の宣誓式が行われた。ニエト新国防大臣はクチンスキー政権発足から現在まで文化大臣として入閣,今回横滑りで国防大臣に就任した。デル・ソラール新文化大臣は,俳優として知名度の高い人物であるが,大学では法学を,大学院では国際関係学を学んだ。
(2)サアベドラ教育大臣に対する罷免決議案の可決
ア 15日,国会本会議で,サアベドラ教育大臣に対する罷免決議案が可決された(賛成78票,反対及び棄権0票)。一部議員を除き,「正義・生活・自由のための拡大戦線(FA)」,「進歩のための同盟(APP)」,与党「変革のためのペルー国民」及び人民行動会派所属の各議員は,罷免に対する抗議の意味を込め,投票前に議場を退出した。憲法の規定に従えば,サアベドラ大臣は72時間以内に辞職する。
イ 野党は以前から,教育省が主管する2019年リマ開催のパンアメリカン競技大会の準備の遅れを批判していた。また,アプラ会派がウマラ前政権中にサアベドラ大臣が推進した法律である大学法(Ley Universitaria)改正案を提出した。同法につきアプラ会派は,憲法第18条で大学の自治権が認められているにもかかわらず,教育省傘下のペルー全国大学教育監督庁(SUNEDU)に大学の自治権を侵害する部分があるとして,条文の改正を主張した。また,11月20日には,教育省によるコンピューターの購入に際し,不正があった可能性が報じられたことをきっかけに,人民勢力会派がサアベドラ大臣の罷免の可能性を強く示唆し始めた。
ウ 12月9日,大臣の罷免に必要な過半数(66票)以上の72議席を有するフジモリ派が,サアベドラ大臣の罷免決議案を提出した。これに対し,クチンスキー大統領及びサバラ首相は,内閣信任決議案(cuestion de confianza)を提示する可能性を示唆していたが,結局は提示しなかった。
(3)新教育大臣の就任
ア 18日,国会での罷免決議案の可決を受け辞任に追い込まれ,17日付で辞任したサアベドラ前教育大臣の後任に任命されたマルテンス(Marilu Martens)新教育大臣の宣誓式が行われた。クチンスキー大統領は,「新たな大臣の下で教育改革を継続する。時間を無駄にしている暇はない。」と端的に述べた。サバラ首相も「教育改革は変わらず継続する。我々は正しい道を進んでいる。」とした。
イ 宣誓式後の記者会見で,マルテンス新教育大臣は,公共教育の改善に向けた取組への協力をすべての分野に求めるとともに,ペルーのために自分のすべてを捧げるとの意気込みを示し,教育改革の継続を強調した。大学法(Ley Universitaria)については,教育改革の一環であり,維持されるとの見方を示した一方,改正の可能性は排除しなかった。
(4)クチンスキー大統領とケイコ・フジモリ人民勢力党党首の会談
ア 19日,クチンスキー大統領は大統領選挙決選投票後初めてケイコ・フジモリ人民勢力党(FP)党首と会談を行った。本会合は,サアベドラ前教育大臣の罷免を巡り政権と最大野党の人民勢力党(FP)の対立が表面化し,国政への影響を懸念する声が聞かれる中,16日,シプリアーニ枢機卿がテレビを通じて両者に枢機卿宅を提供しての二者会談を呼びかけ,これを両者が受け入れ実現した。
イ 会談後,シプリアーニ枢機卿は「会談の提案を受け入れたクチンスキー大統領及びケイコ党首に感謝。今回の対話が国家を発展させるものになると期待している。」と述べた。クチンスキー大統領は「率直かつ建設的で,大変有意義な対話であった。ペルーは様々な課題を抱えており,大部分で見解は一致した。国家を発展させるためにともに努力していくことで一致した。行政府は立法府とともに2021年に近代的な国家となっているよう協調していく。」と表明し,ケイコ党首は「シプリアーニ枢機卿の申し出に感謝。対話は率直かつストレートであった。この先ポジティブな結果をもたらすと確信している。FPはこれまで,国家にとって必要な法案を提出してきた。また,与党及び他の野党からの法案を可決させる形で貢献してきた。このような貢献の形は変えない。民主主義の強化に向け努力する。今回の対話では,治安対策,汚職対策,教育,保健,社会紛争の防止,干ばつ対策などについて触れた。建設的野党として国民がFPに託した政治を進めていきたい。与党とは共通点はあるが,施政に対する考えの違いもある。しかし,この考えの違いよりも,国家の発展を最優先に努力していきたい。」と発言した。
ウ 上記会談にもかかわらず,その後に両者間の対話が発展しているとの報道は見られなかった。
(5)ブラジル大手建設企業によるペルー政府関係者への贈賄疑惑
21日,米国司法省との司法取引に応じたブラジルの大手建設会社オデブレヒト(Odebrecht)社が,ラテンアメリカを中心として少なくとも12か国で,公共事業受注のために贈賄を行っており,ペルーに対する贈賄は2005~14年の間に計2,900万米ドルに上ることを明らかにした。3政権にまたがる期間であり,クチンスキー大統領も対象期間はトレド政権で首相を務めていたことから国内の注目が高まっている。
(6)第116回「国家合意」会合の開催
ア 27日,大統領府において,与野党間の対話や,政治家,財界関係者等が参加する国家政策議論の枠組みである「国家合意(Acuerdo Nacional)」の第116回会合が開催された。現政権での開催は2回目であるが,国会に議員を擁する全ての政党が集まっての開催は今回が初めて。今次会合には,サバラ首相をはじめとする政府関係者,与党「変革のためのペルー国民」,人民勢力党,「正義・生活・自由のための拡大戦線」(FA),人民行動党及びアプラ党の関係者が出席したほか,司法府,検察庁,労組,NGO等が出席した。
イ また,これに先立ち,クチンスキー大統領は19日に人民勢力党のケイコ・フジモリ党首,20日に人民行動党,21日にFA及びアプラ党,23日に「進歩のための同盟」の各党関係者と会合を行った。
ウ 会合では,最優先事項である(1)治安改善,(2)汚職対策,(3)フォーマル化,(4)社会政策(教育,保健,上下水道整備)のうち,治安改善について議論された。サバラ首相は,治安対策のため,警察及び内務省の近代化を図るとともに,警察官1万人の増員,強盗被害の40%減少,2017年の間に大規模捜査を150件実施する旨発表した。また,治安が特に悪い100地区を特定し,対策を強化する「安全な地区(Barrio Seguro)」プログラムを通じ,様々な分野からの支援を進める旨述べた。さらに,地方における犯罪捜査の強化及び治安改善に資するテクノロジーの導入について提案した。
(7)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
ア CPI社:4~9日実施,全国(対象1450名),誤差±2.6%,信頼度95.5%
支持 46.2%(52.8%) 不支持 46.3%(38.3%)
イ イプソス社:7~9日実施,全国(対象1283名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持 48%(51%) 不支持 36%(35%)
ウ GfK社:10~13日実施,全国(対象1248名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 46%(51%) 不支持 44%(37%)
2 外交
特になし