ペルーの政治情勢 2月

平成29年3月15日
ペルー政治情勢 2017年

【概要】
 内政
●収賄の疑いでペルー検察庁によりトレド元大統領の家宅捜索が行われた。また司法府によりトレド元大統領の勾留命令が言い渡された。
●ブラジルの建設大手オデブレヒト(Odebrecht)社が,ウマラ前大統領の国民主義党陣営の選挙キャンペーン資金として2010~11年の間に計300万米ドルの献金を行ったと報じられた。
●検察庁が人民勢力党(FP)前幹事長に対する資金洗浄疑惑に係る捜査の対象にケイコ・フジモリFP党首を含めることを決定した。
●クスコ州のチンチェロ国際空港建設起工式が行われたが,会計検査庁の指摘により建設請負企業に対する建設費の支払いが延期された。
 外交
●ヒギンズ・アイルランド大統領が当地を来訪した。
●クチンスキー大統領が訪米しトランプ大統領及びグテーレス国連事務総長と会談した。
 
【本文】
1 内政
(1)収賄疑惑によるトレド元大統領の勾留命令
 ア 4日,ペルー検察庁は,ブラジルの大手建設会社オデブレヒト(Odebrecht)社によるペルー政府関係者への贈賄事件に関連して,トレド元大統領の家宅捜査を行った。検察庁がオデブレヒト社から得た情報によれば,トレド元大統領は大洋間横断道路(Interoceanica)南部第2区及び第3区の建設工事を同社に受注させる見返りに,同社から2,000万米ドルを受け取っていた。
 イ (パリ滞在中と見られる)トレド元大統領はテレビ番組のテレビ電話インタビューに応じ,同元大統領に2,000万ドルを渡したとのオデブレヒト社の証言を否定,「いつどこでどのように自分(同元大統領)が2,000万ドルを受け取ったのか証拠を示してほしい」と述べた。
 ウ クチンスキー大統領は,「トレド元大統領に関する報道を痛切に受け止めている。同元大統領の行いは,事実だとすればペルー人及び同僚政治家への裏切りであり,大変残念である。同元大統領は法の裁きの前に身を置き,ペルーに帰国して検察の取り調べに応じなくてはならない。」と述べた。また,自身(トレド政権で経済財政相及び首相を務めた)への疑惑につき「もし我々が贈賄に関する何らかの事柄を認識していたとすれば,我々は政権を全うすることはなかったであろう。」と述べた。
 エ 9日,検察庁によるトレド元大統領の勾留請求を受けて開廷したリマ第一準備法廷において,地位の不正な利用(trafico de influencias)及び資金洗浄の疑いで同元大統領に対する18か月の勾留が命じられた。判決でカルワンチョ(Richard Concepcion Carhuancho)判事は,大洋間横断道路南部第二区及び第三区建設のコンセッション契約において不正が行われたと信ずるに足る複数の要素が存在し,トレド元大統領が同契約においてオデブレヒト社に有利に働くよう取りはからうとの合意を与えた可能性が高いと述べた。また同判事は,大洋間横断道路南部第二区及び第三区建設計画を民間資本による事業とすることで,他の公共事業において行われている規定どおりの手続きから除外するための策動があったと述べた。トレド元大統領側は上訴,保護請求(habeas corpus)及び米州人権裁判所への提訴の可能性を示唆した。
(2)2011年大統領選挙キャンペーンにおけるウマラ前大統領陣営夫妻の収賄疑惑
 ア 23日付当地紙は,ブラジルの建設大手オデブレヒト(Odebrecht)社が,ウマラ前大統領の国民主義党陣営の選挙キャンペーン資金として2010~11年の間に計300万米ドルの献金を行ったと報じた。ペルー検察庁がブラジルを訪問してバラタ(Jorge Barrata)前オデブレヒト・ラティンベスト(Odebrecht Latinvest)社社長(元オデブレヒト社リマ支店長)から得た証言によれば,同献金は,ブラジル労働者党(PT)からの要請を受けたマルセロ・オデブレヒト同社社長(当時)が命じたもので,ブラジルの広告業者であるガレータ(Valdemir Garreta)氏及びファブレ(Luis Favre)氏が仲介役として関与していた。バラタ前社長は,2010年半ばにサンパウロ市内でガレータ氏と会合し,現金での送金計画等を決めた後,リマ市内にウマラ前大統領が所有するアパートにて同前大統領及びナディン夫人に対しPTからの献金につき告げたところ,夫妻はこれを受諾したと述べた。
 イ 24日,ウマラ前大統領は,自宅から自動車で外出する際にメディアに対し,「我々(同前大統領及びナディン夫人)はオデブレヒト社から不正な資金を受け取ったことはない。我々は2006及び2011年大統領選挙キャンペーン時に全国選挙過程事務所(ONPE)に提出した会計報告の有効性を確認済みである。我々は落ち着いている。」と述べた。同乗していたナディン夫人は発言しなかった。
ウ ナディン夫人の弁護人であるペドラサ(Wilfredo Pedraza)弁護士は,国民主義党がPTからの申し出により献金を受けたことを認めつつ,同献金が何らかの公共事業又は汚職に関わるものではないと述べた。他方,前大統領夫妻に近い国民主義党のガスタニャドゥイ(Santiago Gastanadui)前議員は,国民主義党がオデブレヒト社から資金を受け取ったことはなく,バラタ前社長は証拠を提示すべきであると述べた。
(3)人民勢力党前幹事長に対する資金洗浄疑惑問題の再浮上
 ア 22日付各紙によれば,ラミレス(Joaquin Ramirez)人民勢力党(FP)前幹事長の資金洗浄疑惑を捜査しているビダル(Sara Vidal)検事は,同資金洗浄疑惑の調査対象にケイコ・フジモリFP党首を含めることを決定した。今次検察庁の決定は,米麻薬取締局(DEA)への協力者であったバスケス(Jesus Francisco Vazquez)氏の証言に基づくもので,バスケス氏によれば,ラミレス前幹事長は,「2011年大統領選挙の際,ケイコ党首から資金洗浄のため1,500万米ドルを渡され同資金をガソリン・スタンドのチェーンで洗浄した。」と述べた。
 イ ケイコ党首の弁護人を務めるガルシア(Edward Garcia Navarro)弁護士は,バスケス氏一人の証言のみに基づく検察庁の決定は不合理であり,またDEAは(本件がペルーで報じられた2016年5月時点で)ケイコ党首に対する捜査を行っていなかったと述べた。
 ウ 22日,ケイコ党首は自身のFacebookに投稿されたビデオメッセージで本件に触れ,またケンジ・フジモリ議員が出資するLimasa社(現IGL社)の資金洗浄疑惑及びフジモリ元大統領に対する引渡事由の拡大に言及しつつ,「これらは自分(ケイコ党首)の人格,家族及び政党に対する攻撃であり,オデブレヒト社の贈賄疑惑を覆い隠すための作戦である。」と述べた。また検察庁,司法府,警察又は議会からの出頭要請があればこれに応じると述べた。
(4)チンチェロ国際空港建設問題
 ア 4日,クスコにおいてチンチェロ国際空港建設起工式が行われ,クチンスキー大統領,ビスカラ第一副大統領兼運輸通信大臣ほかが出席し,同空港建設に係る政府とKuntur Wasi社(Andino Investment HoldingとCorporacion Americaで構成されるコンソーシアム企業)との契約への付帯条項に署名が行われた。同空港建設をめぐっては,1月31日に政府が起工式延期を発表して以後,州政府及び地元住民が抗議表明のため無期限ストライキを行っていた。
 イ 22日付「コレオ」紙は,2016年大統領選挙決選投票後の6月23日にアラオス第二副大統領らがクチンスキー大統領支援者を招いて開催した昼食会で撮影された写真に,同空港の建設を請け負うKuntur Wasi社社長を務めるバルガス(Carlos Vargas Loret de Mola)氏が写っていた旨報じた。「コレオ」紙はクチンスキー大統領,ビスカラ第一副大統領,バルガス社長が一緒に写った同写真を1面トップに掲載し,バルガス社長とクチンスキー大統領との結びつきを示唆した。
 ウ 27日,運輸通信省は,同空港建設に係るコンセッション契約の付帯条項に規定される建設費の前払いを延期する旨Kuntur Wasi社に通知したと発表した。運輸通信省によれば,会計検査庁(Contraloria)による同付帯条項の予備審査の結果,内容に問題があることが指摘されたため,会計検査庁が審査の最終結果を発表するまでの間,建設費の前払いは延期される。報道によれば最終審査結果は3か月以内に判明する。Kuntur Wasi社は運輸通信省の決定を尊重する旨のプレスリリースを発出した。
(5)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
 ア ダトゥム社:前月27~31日実施,全国(対象1202名),誤差±2.8%,信頼度95%
  支持:41%(45%) 不支持:53%(48%)
 イ イプソス社:8~10日実施,全国(対象1291名)誤差±2.7%,信頼度95%
  支持:38%(43%) 不支持:51%(45%)
 ウ Gfk社:18~22日実施,全国(対象1246名),誤差±2.8%,信頼度95%
  支持:29%(35%) 不支持:58%(52%) 
 
2 外交
(1)ヒギンズ・アイルランド大統領の来訪
 ア 9~10日,ヒギンズ(Michael D. Higgins)・アイルランド大統領が同国元首として初めてペルーを公式訪問し,クチンスキー大統領と実務会合を行った。今次会合で,ペルー・アイルランド二国間政策協議メカニズム設置に係る覚書及びペルー教育省奨学金プログラム(PRONABEC)とユニバーシティ・カレッジ・コーク間での人材育成強化,科学技術協力に係る関心表明書が署名された。
 イ また会合後,二国間関係の強化,国連持続可能な開発のための2030アジェンダの推進,貧困と不平等削減の取り組みに係る経験の共有,科学技術,研究とイノベーション分野での協力の推進と深化,通商促進,太平洋同盟,ペルーのOECD加盟へ向けた取り組み,アイルランドからペルーへの投資等を内容とする共同宣言が発出された。
(2)クチンスキー大統領の訪米
 23~27日,クチンスキー大統領が訪米し,24日にトランプ大統領及びグテーレス国連事務総長との会談が行われた。
 ア ペルー政府報道発表によれば,ペルー・米首脳会談では2018年米州サミット(於リマ),二国間関係,通商及び投資,在米ペルー人の米国への寄与,米州の安全,ベネズエラの体制及び人道の状況等が議題にのぼった。また当地各紙によれば,クチンスキー大統領はホワイトハウスからの退出時に記者の質問に答え,会談ではアプリマック,エネ及びマンタロ川渓谷地域(VRAEM)等の極貧地域の経済発展へ向けた技術・農業支援の可能性が議題にのぼったと述べた。さらにクチンスキー大統領は,米国滞在中と見られるトレド元大統領のペルー送還又は国外追放の可能性につき,「本件はペルー及び米国の司法府が扱う問題であり,会談中議題にのぼったのは数秒間である。」と述べた。
 イ 25日付「エル・コメルシオ」紙は,トランプ大統領がクチンスキー大統領との私的会談後の写真撮影セッションにおいて,ペルーが近く米国から軍用車輌を購入するであろうと述べたと報じた。同紙は「かかる決定は一朝一夕に下せるものではない。驚くべき情報である。」との国際関係アナリストのコメントを紹介しつつ,本件が当初予定されていなかったテーマであると指摘した。(注:後日,ペルー側は本件軍用車輌の購入はペルーにとって優先事項ではない旨述べた。)
 ウ ペルー政府報道発表によれば,クチンスキー大統領はグテーレス国連事務総長との会談において,ペルーの国連安保理非常任理事国メンバー入り,汚職との闘いのための国際協力強化,国連持続可能な開発のための2030アジェンダ,特に水と衛生に関する国連・世銀ハイレベルパネルを構成する1国としての役割等につき発言した。