ペルーの政治情勢 3月

2017/4/26
ペルー政治情勢 2017年

【概要】
 内政
●収賄の疑いで司法府により勾留命令が下されたトレド元大統領の夫人が,滞在先と見られる米国からSNSを通じてメッセージを発出し,夫妻ともペルーへ戻るつもりはないと発言した。またサンチェス検事総長が,同元大統領の犯罪は証明されていると発言し,身柄引渡のための手続きを米国司法省に対し行っていると述べた。
●チンチェロ国際空港建設問題を巡る問題でビスカラ第一副大統領兼運輸通信大臣の議会召喚が決定したものの,水害対応に配慮した延期や議員の欠席多数により無効となった。
●北部ピウラ州に対し水害による国家緊急事態宣言が発出された。
 外交
●ペルー・米首脳会談に関し,ルナ外相が,クチンスキー大統領はトランプ大統領に対し米製軍用車輌の購入を要請していないと述べた。
●ダスティス・スペイン外相が当地を来訪した。
●ペルー外務省がベネズエラ最高裁による同国国民議会の権能剥奪判決を非難し,駐ベネズエラ・ペルー大使を完全に召還することを決定した。
 
【本文】
1 内政
(1)トレド元大統領の勾留命令を巡る動き
 ア 2~3日付当地各紙は,米国滞在中と見られるカルプ(Eliane Karp)・トレド元大統領夫人が自身のFacebookを通じて「日本人マフィア(注:人民勢力党を指す)が存在するうちはペルーには決して戻らない。ペルーは無学な日本人マフィアに敗れてはならない。夫(トレド元大統領)が多くのものを人々に与えてきたことを認めないのならば,それは人々の問題である。」と表明した旨報じた。2月9日にリマ第一準備法廷が下したトレド元大統領の勾留命令に対し,同元大統領の弁護側による上訴請求は認められたものの,不服申し立て及び人身保護請求は退けられた。トレド元大統領には,ブラジルのオデブレヒト(Odebrecht)社からの収賄に加え談合(colusion)の嫌疑もあり,また別のブラジル企業であるカマルゴ・コレア社からの収賄疑惑が存在する。
 イ 29日付当地各紙は,サンチェス検事総長がスペインの「エル・パイス」紙のインタビューに対し,個人の意見として「トレド元大統領の犯罪は完全に証明されている。」と発言した旨報じた。またサンチェス検事総長は,トレド元大統領夫妻の滞在先と見られる米国政府への通報,身柄拘束及び国外追放の協力要請等の司法手続きが既に行われているにも関わらず,同元大統領の身柄引渡が遅れている理由につき,専門的な司法手続き上の問題であるとした上で,米司法省が同元大統領に対する嫌疑の確証を要求しており,ペルー司法府及び検察庁は米側の要求を満たすため取り組んでいると述べた。また同日付各紙は,トレド元大統領は米国籍を有していないとのペルー外務省筋の情報を報じており,同元大統領が米国籍を有しているために引渡手続きが遅延しているとの一部見方が否定されている。
(2)チンチェロ国際空港建設問題を巡る国会の動き
 ア 9日,国会は野党からの動議提出を受け,ビスカラ第一副大統領兼運輸通信大臣を議会に召喚し,チンチェロ国際空港(クスコ州)建設に係る民間企業とのコンセッション契約に係る質問を16日に行うことを決定した。同空港建設を巡っては,建設を請け負うKuntur Wasi社と政府との間に談合があったとの疑惑が法務人権省汚職対策局(Procuraduria anticorrupcion)から出されており,また会計検査庁(Contraloria)が同コンセッション契約への付帯条項の内容に問題があることを指摘したため,建設費の前払いが延期されていた。
 イ 16日,国会は,議員が地元選挙区に戻って活動する週(semana de representacion。通常各月最終週に設定される。)を16~22日とすることを決定し,また同日に予定されていたビスカラ第一副大統領に対する議会質問を23日に延期した。国会プレスリリースによれば,semana de representacionの繰り上げは,豪雨による土砂崩れ,地滑り,河川の氾濫等の水害が各地で拡大している現状に鑑み,議員が地元選挙区に戻り災害対応に当たれるようにするための措置。
 ウ 23日,ビスカラ第一副大統領は議会質問に出席したものの,2名を除きほとんどの議員が欠席したため,定足数不足により同副大統領に対する議会質問は無効になった。ビスカラ第一副大統領の議会召喚を強く主張していた人民行動党をはじめ多くの会派が,23日以前に欠席を表明していた(水害への対応に国民の関心が集まっている中で,他のテーマの議会質問に時間を費やすことは適当でないとの雰囲気が支配的であった。)。同日は,ビスカラ第一副大統領の議会召喚のために定められた期間の最終日にあたる。同副大統領を再度召喚するためには改めて動議を提出し決を採らなくてはならないが,野党は態度を留保している。
(3)自然災害
 29日,政府は北部ピウラ州に60日間の国家緊急事態(Estado de Emergencia Nacional)宣言を発出した。国家緊急事態宣言の発出は2007年8月のピスコ,チンチャ及びイカにおける地震災害以来。同宣言により,国防省を中心とした中央政府機関が,軍の参加を得つつピウラにおける災害対応を直接指揮することとなる。海岸性エル・ニーニョ現象の発生により,昨年12月から断続的に続く豪雨は各地に大きな被害をもたらしており,31日付報道時点で死者98名,被災者数13万3,097名にのぼり,89万5,489人に影響している。
(4)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
 ア ダトゥム社:前月24~28日実施,全国(対象1203名),誤差±2.8%,信頼度95%
  支持:35%(41%) 不支持:57%(53%)
 イ イプソス社:14~16日実施,全国(対象1250名)誤差±2.7%,信頼度95%
  支持:32%(38%) 不支持:58%(51%)
 ウ GfK社:18~22日実施,全国(対象1238名),誤差±2.8%,信頼度95%
  支持:31%(29%) 不支持:60%(58%) 
 
2 外交
(1)ペルー・米国首脳会談に関するルナ外相の発言
 4日付で当地「ラ・レプブリカ」紙が報じたところでは,2月24日のペルー・米首脳会談でクチンスキー大統領は,軍用車輌M1126 Stryker178台(6億6,800万ドル相当)を購入したいと述べた。これに対しペルー外務省は同日付でプレスリリースを発出し,ルナ外相の発言として同報道を否定した。ルナ外相によれば,ペルー・米両代表団同席のもと行われた首脳会談の場で,トランプ大統領が米製軍用車輌Strykerのペルーへの輸出に関心がある旨発言したが,これに対しクチンスキー大統領は,ペルーの主要な関心は公共サービス向上のための投資であると答えた。またクチンスキー大統領は,首脳会談において米からの軍用車輌の購入が議題にのぼったのかとの記者の質問に対し,ペルーの優先事項は軍事物資でなく水と衛生サービスの拡張であると述べた。本件は,トランプ大統領が,首脳会談後のフォトセッション時に「クチンスキー大統領は,米製大型軍用車輌を購入するために訪米したと理解している。我々はペルーへの軍用車輌輸出を承認する。しっかり使っていただきたい。」と発言したことに端を発したもの。
(2)ダスティス・スペイン外相の来訪
 12~15日,ダスティス外相がペルー外務省の招待により当国を公式訪問し,ルナ外相及びクチンスキー大統領とそれぞれ会談した。ダスティス外相のラテンアメリカ訪問は2016年11月の就任来初。ペルー政府報道発表によれば会談の概要は以下のとおり。
 ア ルナ外相との会談
 戦略的パートナーシップの枠組内での第6回ペルー・スペイン政策協議メカニズム会合の開催,短期滞在ペルー人に対するシェンゲンビザ免除に係るペルーとEUとの協定(2016年3月署名)の適用開始一周年,インフラ,保健及び教育分野でのスペインからの投資機会,ペルーからスペインへの投資の促進,二重課税防止協定の交渉再開へ向けた調整,二国間文化交流協定の改定へ向けた交渉,各々の在外国民に対するサービスの充実,太平洋同盟のオブザーバー国としてスペインが果たしている役割,ペルーにおけるスペインの協力,ペルーのOECD加盟へ向けた取り組み,ペルー国内で収監されているスペイン国籍の受刑者問題等が議題にのぼった。
 イ クチンスキー大統領との会談
 両国が維持している温かく強力な経済・政治関係を振り返りつつ,ラテンアメリカの成長見通し,スペインがペルー経済の成長に貢献する可能性につき話し合われた。ダスティス外相は会談後記者に対し,クチンスキー大統領が本年中にスペインを訪問するようフェリペ6世及びラホイ首相から招待を受けていると述べた。
(3)ベネズエラ情勢に対するペルー政府の反応
 30日,ペルー外務省はベネズエラ情勢に関しプレスリリースを発出し,ベネズエラ最高裁による同国国民議会の権能剥奪判決は法治国家への侵害であり,ベネズエラにおける立憲民主主義秩序を破壊するものであると非難した。同プレスリリースによれば,ペルー政府は駐ベネズエラ・ペルー大使を完全に召還することを決定した。また,米州民主主義憲章の枠組内で緊急の対応を採るべくOAS加盟各国と協議を開始した。