ペルーの政治情勢 5月

平成29年9月4日
ペルー政治情勢 2017年

【概要】
内政
●ウマラ前大統領の関与が疑われる人権侵害事件に関し,新たな目撃者が現れたことを理由に検察庁が捜査を開始した。
●ビスカラ第一副大統領兼運輸通信大臣が運輸通信大臣を辞任し,ジウフラ生産大臣が新運輸通信大臣に就任した。新生産大臣にはオラエチェア議員(与党)が就任した。
外交
●レニン・モレノ次期エクアドル大統領が当選後初めての外遊としてペルーを訪問し,クチンスキー大統領と会談した。
●クチンスキー大統領がモレノ・エクアドル大統領の就任式に出席した。
 
【本文】
1 内政

(1)ウマラ前大統領の関与が疑われる人権侵害事件
       6日,ペルー検察庁は,ウマラ前大統領の関与が疑われる,いわゆる「マドレ・ミア事件」に関し,新たな目撃者が現れたことを理由に捜査を開始したと発表した。
ペルー検察庁報道発表の概要は次のとおり。
       ア    検察庁は,サン・マルティン州マドレ・ミアで1990年代に発生した拷問,殺人,行方不明事件に関し,最近2人の新たな目撃者による証言を伝える様々な報道が行われていることから,人権侵害容疑で本件の責任者に対する捜査を開始した。
       イ     テレビ番組「Beto a Saber」(当地アメリカTV)の報道によれば,本件の被害者は現地を管轄していた軍によりテロへの関与を疑われ,軍司令の指示で拷問を受け,(殺害された後)川に投棄(arrojar)された。新たな目撃者の出現は本件殺人事件の被疑者に対する捜査を再開するための十分な要素である。

(2)ビスカラ運輸通信大臣の辞任
      22日,ビスカラ第一副大統領兼運輸通信大臣がクチンスキー大統領とともに記者会見を行い,運輸通信大臣を辞任すると発表した。同大臣の辞任に至る経緯は次のとおり。
      ア    18日,ビスカラ大臣は国会本会議に出席し,チンチェロ国際空港(クスコ州)の建設に係るクチンスキー政権とコンソーシアム「クントゥル・ワシ(Kuntur Wasi)」(ペルー企業Andino Investment Holdingとアルゼンチン企業Corporacion Americaで構成)との付帯契約に関する83の質問に対し答弁を行った。チンチェロ国際空港の建設は官民合同事業として,ウマラ政権下の運輸通信省が同コンソーシアムと契約したもので,クチンスキー政権成立後契約更改のため付帯契約を結んだが,当初の契約に比べ政府側の建設資金負担率が大きく増加したことなどが野党,公共運輸投資監督庁(OSITRAN),会計検査庁(Contraloria)から問題視されていた。
      イ    答弁においてビスカラ大臣は,ウマラ政権が結んだ当初の契約は国に損害を与えるものであり,クチンスキー政権で付帯契約を結んだことで国は5.9億ドルを削減できるのであって,同付帯契約は「クントゥル・ワシ」側を利するものではないと述べた。またビスカラ大臣は計画が遅れれば国に大きな社会・経済的コストを生じさせかねないと述べたが,議会を納得させるには至らなかった。
      ウ    21日,「クアルト・ポデール」(当地アメリカTVの政治調査番組)に出演したビスカラ大臣は,19日に行われたトルネ経済財政相及びアラルコン会計検査庁長官との会合では,会計検査庁と運輸通信省及び経済財務省の見解が一致しなかったと述べた。またビスカラ大臣は,議会及び会計検査庁のいずれからもコンセンサスが得られず,「クントゥル・ワシ」との付帯契約に係る疑惑が晴れなかったため,同コンソーシアムと結んだ当初の契約及び付帯契約を解除することを決定したと明らかにした。
      エ    22日,国営TV Peruを通じビスカラ大臣は,クチンスキー大統領とともに大統領府から運輸通信大臣辞任を公式発表した。辞任の理由につきビスカラ大臣は,「自分(同大臣)が行うあらゆる決定において常にペルーの利益を優先してきた。」と述べるにとどまった。クチンスキー大統領は,運輸通信大臣としての功績を讃えつつ,今後ビスカラ前大臣は第一副大統領として政権を支えることになると述べた。またクチンスキー大統領は,チンチェロ国際空港の建設計画につき,議会及び会計検査庁の指摘を踏まえて推進されると述べた。後任については24日のエクアドル大統領就任式出席後に指名するとした。
      オ    同22日,ビスカラ大臣の辞任発表の直後,アラルコン会計検査庁長官は記者会見で,同付帯契約の交渉過程において不正が認められたと発表した。アラルコン長官は,具体的な氏名は挙げずに,運輸通信省の6名,経済財政省の2名及び公共運輸投資監督庁(OSITRAN)の2名の計10名の公務員が「クントゥル・ワシ」側に有利になるような取り計らいを行ったと指摘し,会計検査庁の代理人弁護士を通じこれら10名の刑事及び行政上の責任を問う訴えを検察庁に対し起こす予定であると述べた。また,これら10名の関係者の中に大臣は含まれていないと述べた。

(3)運輸通信大臣及び生産大臣の交代
      25日,ビスカラ運輸通信大臣の辞任を受け,ジウフラ生産大臣が後任に任命,また新生産大臣にオラエチェア議員(与党所属)が任命され,両新大臣の宣誓式が行われた。
新大臣の略歴は以下のとおり。
      ア    ジウフラ新運輸通信大臣
      ブルーノ・ジウフラ・モンテベルデ(Bruno GIUFRA Monteverde)
     前生産大臣。リマ大学経済学部卒。米バブソン・カレッジ経営学修士(MBA)。マーケティング会社PromotickのCEO,企業幹部年次会合(CADE)代表,ペルー企業活動研究所(IPAE)所長を務めるなど民間企業で25年のビジネス経験を有する。ケーブルテレビのビジネス番組「Mundo Empresarial」の司会者を10年務め,3000人以上の企業家にインタビューした。クチンスキー政権で初めて政界入り。
      イ    オラエチェア新生産大臣
      ペドロ・カルロス・オラエチェア・アルバレス=カルデロン(Pedro Carlos OLAECHEA Alvarez Calderon)
     前国会議員(与党「変革のためのペルー国民」所属)。2016年,国会議員初当選(リマ市選出)。カトリカ大学経済学部卒,英国ヘンリー・ビジネス・スクール経営学修士。マイクロソフト社顧問,Vina Tacama社(ワイン及びピスコ酒造会社),Fabrica de Envases社(食品用容器製造会社)及びEl Futuro de Ica(鉱山会社)役員,デンマーク王国名誉副領事を務めた。全国工業協会(SNI)会長(2009~2012年),全国民間企業団体連合(CONFIEP),輸出業者協会(ADEX)及び海外貿易研究センター(CICEX)役員の経験も有する。

(4)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
    ア ダトゥム社:4月28~5月2日実施,全国(対象1201名),誤差±2.8%,信頼度95%
        支持:43%(45%) 不支持:44%(49%)
    イ イプソス社:10~12日実施,全国(対象1305名)誤差±2.7%,信頼度95%
        支持:43%(43%) 不支持:48%(47%)
    ウ GfK社:20~23日実施,全国(対象1220名)誤差±2.8%,信頼度95%
        支持:36%(42%) 不支持:54%(47%)
    エ CPI社:23~28日実施,全国(対象1890名)誤差±2.3%,信頼度95.5%
        支持:35.2%(42.5%) 不支持:51.7%(51.4%)
 
2 外交

(1)モレノ次期エクアドル大統領のペルー訪問
    9日,レニン・モレノ次期エクアドル大統領が当選後初めての外遊としてペルーを訪問し,クチンスキー大統領と会談した。報道によれば会談後共同記者会見における発言は次のとおり。
    ア    クチンスキー大統領
会談では通商,経済,民主主義及びラテンアメリカが一つの勢力となることの必要性につき話し合われた。モレノ次期エクアドル大統領のペルー来訪は両国の良好な関係を強化するものであり,今後も強い友好関係を維持し,会談で議題にのぼった両国共通の利益に係る計画に共同で取り組んでいく。
    5月24日のモレノ大統領就任式に出席する。モレノ次期大統領の下でのエクアドル政府の成功を祈念する。ペルーは可能なあらゆる支援を行う。
    ラテンアメリカは力を結集し,民主的で繁栄する地域となる必要がある。
    イ    モレノ次期大統領
会談では二国間及び地域統合を引き続き強化することの必要性等,様々なテーマが議題にのぼり非常に実り多いものであった。
クチンスキー大統領には,プヤンゴ-トゥンベス計画(両国国境の一部を成すプヤンゴ-トゥンベス川周辺における共同農地整備事業)を引き続き推進するようお願いしたい。また,エクアドル石油公社(PETROECUADOR)を巡る汚職事件に関わるパレハ父子(Carlos Alberto Benjamin Pareja及びCarlos Alberto Pareja Dassumの2名のエクアドル人で,8日にリマ市内で逮捕された。)のエクアドルへの引き渡し手続きの加速をお願いしたい。

(2)クチンスキー大統領のエクアドル大統領就任式出席
    24日,クチンスキー大統領はエクアドルを訪問し,キトにおいて行われたモレノ・エクアドル大統領の就任式に出席した。モレノ大統領就任式出席後,クチンスキー大統領は自身のツイッターアカウントで「モレノ大統領の成功を祈念する。ラテンアメリカ地域で民主主義が継続し,制度が尊重されるようともに取りくんでゆこう。」と述べた。またクチンスキー大統領は,キト市長から名誉市民の称号を受けた。二国間関係につきクチンスキー大統領は,ペルーとエクアドルは友好・協力関係を引き続き強化すると述べた。