ペルーの政治情勢 7月

平成29年9月4日
ペルー政治情勢 2017年

【概要】
内政
●クチンスキー大統領とケイコ・フジモリ人民勢力党(FP)党首が約7か月ぶりに会談した。
●資金洗浄の疑いで検察庁の捜査対象となっているウマラ前大統領夫妻が,裁判所の命令によりリマ市内刑務所に勾留された。
●会計検査庁(Contraloria)長官が交代した。
●2017~18年国会執行部選挙で野党人民勢力(FP)会派のガラレタ議員が新国会議長に選出された。
●エネルギー鉱山大臣,女性社会的弱者大臣及び開発社会包摂大臣の3閣僚が交代した。
●クチンスキー大統領が独立記念日の大統領教書演説を行った。
 
外交
●第一回ペルー・チリ合同閣議がリマで開催された。
●ペルー・エクアドル外相会談がリマで開催された。
●ペルー政府が在米ペルー大使館を通じ国際司法共助分野,特にトレド元大統領の米国からの引渡手続について助言を受けるため顧問弁護士を雇用した。
●ベネズエラで実施された制憲議会選挙につき,ペルー外務省が同選挙の結果を認めないと発表した。
 
【本文】
1 内政
(1)クチンスキー大統領とケイコ・フジモリ人民勢力党(FP)党首の会談
    11日,クチンスキー大統領とケイコ・フジモリFP党首が約7か月ぶりに会談した。今回の会談はケイコ党首からの要請をクチンスキー大統領が受け入れるかたちで実現したもの。ビスカラ第一副大統領及びクリンペルFP幹事長を交えて大統領府で行われた両者の会談は約2時間半に及び,治安,雇用,経済の活性化,汚職対策及び海岸性エル・ニーニョにより被害を受けた地域の復興が議題に上った。

(2)ウマラ前大統領夫妻の勾留
    13日,ペルー司法府が,検察庁によるウマラ前大統領夫妻の勾留請求を受け,本件を審理する刑事法廷を開廷,検察の請求通り同前大統領夫妻の18か月の勾留を命じた。ウマラ前大統領はフジモリ元大統領の収監先であるリマ市アテ区の国家警察特殊部隊施設に,ナディン夫人は同チョリーヨス区女子刑務所に勾留された。

(3)会計検査庁(Contraloria)長官の交代
    ア    3日,国会常設委員会は,アラルコン会計検査庁長官の解任を決定した。同長官は,会計検査庁長官に勤務していた内縁の妻に対する利益供与等により職務上の倫理を欠いているとされた。アラルコン長官を巡っては,チンチェロ国際空港(クスコ州)の建設に関する同長官とトルネ経済財政大臣(当時)の会話録音記録が流出し,同大臣の辞任を引き起こすなど多くの問題が生じていた。
    イ    19日,国会常設委員会において,解任されたアラルコン長官の後任に指名されたシャック(Nelson Shack)司法長官顧問兼全国ペルー投資協会(ANIP)会長の新会計検査庁長官就任が承認された。シャック新長官は,現行の監査制度では行政機関が関与する汚職を発見することができないため,国家監査制度に関する新しい組織法及び予算執行の枠組を作る必要があると述べた。

(4)新国会執行部の選出
    26日,国会執行部選挙(任期2017年7月26日~2018年7月26日)が行われ,野党人民勢力(FP)会派のガラレタ(Luis Galarreta)議員が新国会議長に選出された。ガラレタ新議長は行政府との融和を図りつつ,引き続き政府の監視役としての役割を全うする旨所信表明を行った。

(5)閣僚の交代
    27日,エネルギー鉱山大臣,女性社会的弱者大臣及び開発社会包摂大臣の3閣僚が交代した。今次の閣僚交代でサバラ内閣の全18大臣のうち女性大臣は7名となった。新3大臣の略歴は以下のとおり。
    ア    アルホビン新エネルギー鉱山大臣
カイェターナ・アルホビン・ガッサーニ(Cayetana ALJOVIN Gazzani)
前開発社会包摂大臣。カトリカ大学法学部卒。弁護士。元経済財政省官房長(フジモリ政権)。元運輸通信副大臣(トレド政権)。元民間投資促進庁(PROINVERSION)長官(第二次ガルシア政権)。RPP放送局及びパナメリカーナ・テレビで番組司会者を務めた経験がある。
    イ    チョケワンカ新女性社会的弱者大臣
アナ・マリア・チョケワンカ・デ・ビヤヌエバ(Ana Maria CHOQUEHUANCA de Villanueva)
国会議員(2016年初当選)。与党変革のためのペルー国民(PPK)所属。アレキパ州選出。サンタ・マリア・カトリック大学経済経営学部卒。同大学院修士課程修了(女性のための機会平等分野)。ペルー中小企業組合総裁。国会秘日友好議員連盟メンバー。
    ウ    モリネリ新開発社会包摂大臣
フィオレラ・モリネリ・アリストンド (Fiorella MOLINELLI Aristondo)
前建設・上下水道副大臣。元運輸副大臣。カトリカ大学経済学部卒。トルクアット・ディ・テラ大学(アルゼンチン)経済・公共政策修士課程修了。サン・マルティン・デ・ポーレス大学で行政・公共政策博士号取得。国家競争・知的所有権保護庁(INDECOPI)消費者保護局長,経済財政省及びエネルギー鉱業投資監督庁(OSINERGMIN)顧問を務めた。2016年大統領選挙におけるクチンスキー大統領の選挙キャンペーンチームの一員。

(6)独立記念日の大統領教書演説
    28日,クチンスキー大統領が国会において教書演説を行った。クチンスキー大統領は就任から1年間の執政につき,汚職スキャンダル及び自然災害により,経済成長率が当初予測よりも低くなると見られることを謝罪しつつ,本年経済成長率については3%未満となるとの予測を提示した。2年目以降の所信として,財政規律の維持,復興事業・観光促進・鉱山開発等による経済の再活性化,労働のフォーマル化,交通渋滞の解消,汚職・治安対策,司法改革等を挙げた。また社会面では,21年までに貧困率を15%,極貧率を3.8%に引き下げる,都市部の全て及び農村部の84%に上下水道を普及させる等の目標を表明した。更に外交面では,任期中のOECD加盟,太平洋同盟の推進,ベネズエラにおける民主主義の擁護等に言及した。

(7)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
    ア    ダトゥム社:6月29~7月4日実施,全国(対象1203名),誤差2.8±%,信頼度95%
    支持:38%(45%) 不支持:56%(50%)
    イ     イプソス社:12~14日実施,全国(対象1280名)誤差±2.7%,信頼度95%
    支持:34%(39%) 不支持:58%(51%)
    ウ    GfK社:15~19日実施,全国(対象1228名)誤差±2.8%,信頼度95%
    支持:32%(38%) 不支持:58%(54%)

2 外交

(1)第一回ペルー・チリ合同閣議
    7日,当国リマにて第一回ペルー・チリ合同閣議が開催され,クチンスキー大統領,バチェレ・チリ大統領及び両国の閣僚が出席した。閣議終了後,両国は,国際法,法治国家,民主主義及び人権の尊重,二国間及び多国間の枠組での汚職との闘い,両国境管理施設の統合,電力の相互供給の強化等を内容とする共同宣言を発出した。また今回の合同閣議において,両国法務人権省の協力,自然災害リスクへの対応に関する協力と経験の共有,タクナ-アリカ間旅客運輸協定の更新,人身取引及び不法移民取引対策の強化,両国の科学技術研究協力,児童労働の撲滅及び両国労働者の雇用・生産性の向上,両国海岸部自然保護区の管理協力,両国運転免許証の有効性の相互承認,ペルー・チリ企業家会合の実施等に関する二国間合意,成果文書に署名が行われた。

(2)ペルー・エクアドル国境における壁建設問題
    13日,リマにおいて,ペルー・エクアドル国境における壁の建設に関する外相会談が開催され,両国境を流れるサルミーヤ(Zarumilla)国際運河沿いにエクアドルが水害対策のためとして建設している壁の建設中断が確認された。ルナ外相はエクアドル政府の決断に対し,同運河沿いにおける構造物の建設を禁じた1998年のブラジリア合意の観点から謝意を示した。またペルー外務省はオテロ(Hugo Otero)駐エクアドル・ペルー大使の帰任を命じた。ペルー政府はエクアドルによる国境壁建設に対する措置として,11日にオテロ大使を協議のため召還していた。

(3)トレド元大統領の身柄引渡問題
    13日,ペルー外務省は,米国内において,同国からペルーへの身柄引渡に関する助言を行う顧問弁護士を雇用したと発表した。ペルー外務省のプレスリリースによれば,ペルー政府は在米国ペルー大使館を通じ,ペルーが米国内で進めている身柄引渡の手続において助言を受けるため,FOLEY HOAG弁護士事務所との契約を結んだ。同事務所はマルティネリ前パナマ大統領の身柄引渡目的での逮捕でも明らかなように,米国における国際司法協力の分野において名声と幅広い経験を有している。ペルー政府は本契約により,様々な身柄引渡要求事案,特にトレド元大統領の身柄引渡を目的とする勾留要求が受理されることを期待すると表明した。

(4)ベネズエラ情勢に対するペルー政府の姿勢
    30日,ペルー外務省は,同日にベネズエラで実施された制憲議会選挙の結果を認めない旨のプレスリリースを発出した。内容は以下のとおり。
    ア    ペルー政府は,本日(30日)ベネズエラで実施された不当な制憲議会選挙の結果を認めない。同選挙は,ベネズエラの憲法規範に違反しており,国会で代表される国民の主権的な意志に背いている。また,選挙の普遍性に関する原則を弱め,ベネズエラにおける民主主義秩序を破壊して同国民の分裂を深めるものである。
    イ    ペルー政府は,これまで百人を超える死者を出した暴力的な抑圧を非難すると共に,ベネズエラ政府に対し,民主的秩序の回復に繋がる真の国家的対話の早期設置を保証するよう勧告する。