ペルーの政治情勢 11月
平成30年2月14日
ペルー政治情勢 2017年
【概要】
(内政)
●野党人民勢力党(FP)の議員が,職務怠慢を理由に検事総長に対する罷免請求を行った。
●ビジャラン前リマ市長のオデブレヒト社からの収賄疑惑が浮上し,同前市長が司法府から8か月の出国禁止措置を受けた。
(外交)
●クチンスキー大統領がアルゼンチンを訪問しマクリ大統領と会談した。
●クチンスキー大統領がベトナムAPECに出席した。
●ルナ外相が訪米しティラーソン国務長官と会談した。
●ペルーと中国との間で防衛・防災分野での協力に係る覚書への署名が行われた。
●アルマグロ米州機構(OAS)事務総長が来訪しルナ外相と会談した。
【本文】
1 内政
(1)汚職問題を巡る立法府と司法府の対立
ア 人民勢力党(FP)による検事総長に対する罷免請求
6日,FPのスポークスパーソンを務めるサラベリー(Daniel Salaverry)議員は国会での記者会見で,ペルー検察庁によるいわゆる「ラバ・ジャト」事件の捜査に関して深刻な怠慢が見られるとして,サンチェス(Pablo Sanchez)検事総長に対する罷免請求を行ったと発表した。ペルー憲法は検事総長を含む政府要職の罷免権限を国会に付与しているが,これまでに国会が実際に検事総長を罷免した例は存在しない。
本件の主要点は,ブラジルの建設大手オデブレヒト(Odebrecht)社によるペルー政府関係者への贈賄疑惑に関し,ペルー検察庁が同社と事業パートナー関係にあったペルー企業への捜査を行っていないというもの。サラベリー議員は,ペルーの建設最大手グラニャ・イ・モンテロ(Grana y Montero)社等のペルー企業は,オデブレヒト社とペルー政府関係者との共謀につき承知していたと指摘した。
本件罷免請求が行われる以前には,ペルー検察庁がブラジルにおいてマルセロ・オデブレヒト(Marcelo Odebrecht)元オデブレヒト社社長に対し同元社長とケイコ党首等との関係につき尋問を行うことを決めていた他,3日には,検察庁が,既に一度棄却されていたラミレス(Joaquin Ramirez)前FP幹事長に対する資金洗浄疑惑での捜査の再開を決定していた。
イ 検事総長罷免請求に対する反応
6日,検察庁においてサンチェス検事総長に対する告発に反対し同検事総長を支援するための会合が開かれ,検察庁の高官は「我々は萎縮しない。」と繰り返した。サンチェス検事総長は,「ペルーは更なる正義,正直さ,慎ましさを必要としている。我々はペルーに多大な損害を与えてきた汚職,厚顔無恥を許さない。我々は法の枠組の中で行動する。」と述べた。
また政府・与党からFPの行動に対する批判の声が上がった。アラオス首相は,司法の独立を保障するため,国会は司法権を尊重しなければならないと述べた。また複数の与党議員は,本件が検察庁に対する脅迫であり,フジモリ派が権威主義化を強めていると主張した。
(2)「ラバ・ジャト」事件:前リマ市長の収賄疑惑
ア 22日付当地各紙は,ブラジルの広告会社FX Comunicaciones社長であるガレタ(Valdemir Garreta)氏がペルー検察庁に対し,2013年のビジャラン(Susana Villaran)リマ市長(当時)リコール反対キャンペーン用資金として,オデブレヒト(Odebrecht)及びOASの両建設会社から計300万ドルを受け取った旨証言したと報じた。また当地報道によれば,オデブレヒト社リマ支店長であったバラタ(Jorge Barata)氏はペルー及びブラジルの検察庁に対し,ビジャラン前市長がバラタ氏に直接電話をかけ,リコール反対キャンペーンへの資金拠出を要請したと証言した。ペルー検察庁の「ラバ・ジャト」事件特捜チームは本年3月からビジャラン前市長を捜査していたとされる。
イ 27日,司法府は,ビジャラン前市長に対し8か月間の出国禁止措置を言い渡した。同措置は,ビジャラン前市長がオデブレヒト社とコンタクトがあったと断定した検察庁の請求を受け入れたもの。本件措置を受けビジャラン前市長は,自身に対する疑惑を否定しつつ,捜査に全面的に協力する旨表明した。また国会「ラバ・ジャト」調査委員会は,ビジャラン前市長のほか,レルネル元首相ほかリコール反対キャンペーンに関わった人物を召喚する意向を示した。
(3)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
ア ダトゥム社:前月27~31日実施,全国(対象1204名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:26%(31%) 不支持:68%(64%)
イ イプソス社:8~10日実施,全国(対象1254名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持:27%(30%) 不支持:65%(62%)
ウ GfK社:18~21日実施,全国(対象1202名)誤差±2.8%,信頼度95%
支持:26%(25%) 不支持:69%(71%)
2 外交
(1)クチンスキー大統領のアルゼンチン訪問
3日,アルゼンチンを訪問中のクチンスキー大統領がマクリ大統領と初めて会談した。会談では,ペルー・アルゼンチン戦略的パートナーシップ・相互補完・協力協定(2010年3月22日署名),2018年における二国間会合及びビジネス会合の実施,防衛分野での協力,災害リスク削減及び人道援助,国際組織犯罪・麻薬不法取引・人身取引対策,両国産品の市場アクセス条件改善,メルコスールと太平洋同盟の対話,両国移民コミュニティの福祉向上,「リマ・グループ」,2021年ペルー独立200周年記念プログラム等につき議題にのぼった。また会談では,クチンスキー大統領からマルビナス諸島に対するアルゼンチンの主権に関するペルーの歴史的支持が再度表明され,マクリ大統領から謝意が表明された。
(2)クチンスキー大統領のベトナムAPEC首脳会合出席
8~11日,クチンスキー大統領が第25回APEC首脳会合出席のためベトナム・ダナンを訪問し,日本,ベトナム,オーストラリア,中国の各国とそれぞれ首脳会談を行った。ペルー大統領府報道発表による概要は以下のとおり。
ア 日本
安倍総理との間で,二国間投資・通商増大の可能性,二重課税撤廃に向けた取組,ペルー鉱業への日本からの投資,ペルーのOECD加盟,防災・運輸及びインフラ分野での協力,北朝鮮及びベネズエラ問題等につき話し合われた。
イ ベトナム
チャン・ダイ・クアン・ベトナム国家主席との間で,在ペルー・ベトナム大使館開設への関心,携帯電話・通信及び資源分野へのベトナムからの投資等につき話し合われた。
ウ オーストラリア
ターンブル・オーストラリア首相との間で行われた首脳会談において,ペルー・豪自由貿易協定に係る交渉妥結に向けたコミットメント(compromiso)を示す文書が署名された。両首脳から,同自由貿易協定が投資,雇用,起業を促進することに対する期待が表明された。
エ 中国
習近平国家主席との間で,習主席の総書記再選,両国友好・協力関係の強化,貧困削減のための国際貿易,開放経済と投資,鉱業,インフラ等の分野における中国からの投資,国連安保理における協力等につき話し合われた。
(3)ルナ外相の訪米
21日,訪米中のルナ外相がティラーソン国務長官と会談し,両国首脳間の緊密な対話,民主主義・法の支配・人権及び自由経済の促進と擁護・汚職・麻薬取引・国際組織犯罪との闘い等の分野における協力,ベネズエラ危機へのコミットメント,国連安保理における協力,米州サミット等につき話し合った。またルナ外相は,同米州サミット開催前にペルーを実務訪問するようティラーソン長官を招待した。
(4)ペルー・中国防衛・防災協力
23日,ニエト国防大臣とJia Guide駐ペルー中国大使はペルー陸軍総司令部において軍事分野での協力に係る2つの覚書に署名した。国営「エル・ペルアノ」紙によれば,ペルー国防省は,2013年以来中国との協力協定の実現を推進してきた。本件覚書署名により、中国はペルーに対し,主として地雷除去及び自然災害対応のための装備品5千万元(約800万ドル)相当、軍事物資7千万元(1千万ドル以上)相当を供与する。
(5)アルマグロ米州機構(OAS)事務総長の来訪
29日,アルマグロ米州機構(OAS)事務総長がペルーを訪問し,ルナ外相との間で次回米州サミットの準備にかかる会合を実施した。ルナ外相は,同サミットのテーマである「汚職に立ち向かう民主的な統治」につき,地域諸国,市民社会,民間セクター等と協議を行っており,同サミットにおいて汚職及び無処罰との闘いのための具体的行動・イニシアチブに係る地域レベルでの協力が採択されるよう取り組んでいると述べた。また会合では,地域における民主主義の状況が議題にのぼった。
第8回米州サミットは2018年4月13~14日,リマにおいて開催が予定されている。
【概要】
(内政)
●野党人民勢力党(FP)の議員が,職務怠慢を理由に検事総長に対する罷免請求を行った。
●ビジャラン前リマ市長のオデブレヒト社からの収賄疑惑が浮上し,同前市長が司法府から8か月の出国禁止措置を受けた。
(外交)
●クチンスキー大統領がアルゼンチンを訪問しマクリ大統領と会談した。
●クチンスキー大統領がベトナムAPECに出席した。
●ルナ外相が訪米しティラーソン国務長官と会談した。
●ペルーと中国との間で防衛・防災分野での協力に係る覚書への署名が行われた。
●アルマグロ米州機構(OAS)事務総長が来訪しルナ外相と会談した。
【本文】
1 内政
(1)汚職問題を巡る立法府と司法府の対立
ア 人民勢力党(FP)による検事総長に対する罷免請求
6日,FPのスポークスパーソンを務めるサラベリー(Daniel Salaverry)議員は国会での記者会見で,ペルー検察庁によるいわゆる「ラバ・ジャト」事件の捜査に関して深刻な怠慢が見られるとして,サンチェス(Pablo Sanchez)検事総長に対する罷免請求を行ったと発表した。ペルー憲法は検事総長を含む政府要職の罷免権限を国会に付与しているが,これまでに国会が実際に検事総長を罷免した例は存在しない。
本件の主要点は,ブラジルの建設大手オデブレヒト(Odebrecht)社によるペルー政府関係者への贈賄疑惑に関し,ペルー検察庁が同社と事業パートナー関係にあったペルー企業への捜査を行っていないというもの。サラベリー議員は,ペルーの建設最大手グラニャ・イ・モンテロ(Grana y Montero)社等のペルー企業は,オデブレヒト社とペルー政府関係者との共謀につき承知していたと指摘した。
本件罷免請求が行われる以前には,ペルー検察庁がブラジルにおいてマルセロ・オデブレヒト(Marcelo Odebrecht)元オデブレヒト社社長に対し同元社長とケイコ党首等との関係につき尋問を行うことを決めていた他,3日には,検察庁が,既に一度棄却されていたラミレス(Joaquin Ramirez)前FP幹事長に対する資金洗浄疑惑での捜査の再開を決定していた。
イ 検事総長罷免請求に対する反応
6日,検察庁においてサンチェス検事総長に対する告発に反対し同検事総長を支援するための会合が開かれ,検察庁の高官は「我々は萎縮しない。」と繰り返した。サンチェス検事総長は,「ペルーは更なる正義,正直さ,慎ましさを必要としている。我々はペルーに多大な損害を与えてきた汚職,厚顔無恥を許さない。我々は法の枠組の中で行動する。」と述べた。
また政府・与党からFPの行動に対する批判の声が上がった。アラオス首相は,司法の独立を保障するため,国会は司法権を尊重しなければならないと述べた。また複数の与党議員は,本件が検察庁に対する脅迫であり,フジモリ派が権威主義化を強めていると主張した。
(2)「ラバ・ジャト」事件:前リマ市長の収賄疑惑
ア 22日付当地各紙は,ブラジルの広告会社FX Comunicaciones社長であるガレタ(Valdemir Garreta)氏がペルー検察庁に対し,2013年のビジャラン(Susana Villaran)リマ市長(当時)リコール反対キャンペーン用資金として,オデブレヒト(Odebrecht)及びOASの両建設会社から計300万ドルを受け取った旨証言したと報じた。また当地報道によれば,オデブレヒト社リマ支店長であったバラタ(Jorge Barata)氏はペルー及びブラジルの検察庁に対し,ビジャラン前市長がバラタ氏に直接電話をかけ,リコール反対キャンペーンへの資金拠出を要請したと証言した。ペルー検察庁の「ラバ・ジャト」事件特捜チームは本年3月からビジャラン前市長を捜査していたとされる。
イ 27日,司法府は,ビジャラン前市長に対し8か月間の出国禁止措置を言い渡した。同措置は,ビジャラン前市長がオデブレヒト社とコンタクトがあったと断定した検察庁の請求を受け入れたもの。本件措置を受けビジャラン前市長は,自身に対する疑惑を否定しつつ,捜査に全面的に協力する旨表明した。また国会「ラバ・ジャト」調査委員会は,ビジャラン前市長のほか,レルネル元首相ほかリコール反対キャンペーンに関わった人物を召喚する意向を示した。
(3)クチンスキー大統領支持率(特記ない限り括弧内は前月数値)
ア ダトゥム社:前月27~31日実施,全国(対象1204名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:26%(31%) 不支持:68%(64%)
イ イプソス社:8~10日実施,全国(対象1254名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持:27%(30%) 不支持:65%(62%)
ウ GfK社:18~21日実施,全国(対象1202名)誤差±2.8%,信頼度95%
支持:26%(25%) 不支持:69%(71%)
2 外交
(1)クチンスキー大統領のアルゼンチン訪問
3日,アルゼンチンを訪問中のクチンスキー大統領がマクリ大統領と初めて会談した。会談では,ペルー・アルゼンチン戦略的パートナーシップ・相互補完・協力協定(2010年3月22日署名),2018年における二国間会合及びビジネス会合の実施,防衛分野での協力,災害リスク削減及び人道援助,国際組織犯罪・麻薬不法取引・人身取引対策,両国産品の市場アクセス条件改善,メルコスールと太平洋同盟の対話,両国移民コミュニティの福祉向上,「リマ・グループ」,2021年ペルー独立200周年記念プログラム等につき議題にのぼった。また会談では,クチンスキー大統領からマルビナス諸島に対するアルゼンチンの主権に関するペルーの歴史的支持が再度表明され,マクリ大統領から謝意が表明された。
(2)クチンスキー大統領のベトナムAPEC首脳会合出席
8~11日,クチンスキー大統領が第25回APEC首脳会合出席のためベトナム・ダナンを訪問し,日本,ベトナム,オーストラリア,中国の各国とそれぞれ首脳会談を行った。ペルー大統領府報道発表による概要は以下のとおり。
ア 日本
安倍総理との間で,二国間投資・通商増大の可能性,二重課税撤廃に向けた取組,ペルー鉱業への日本からの投資,ペルーのOECD加盟,防災・運輸及びインフラ分野での協力,北朝鮮及びベネズエラ問題等につき話し合われた。
イ ベトナム
チャン・ダイ・クアン・ベトナム国家主席との間で,在ペルー・ベトナム大使館開設への関心,携帯電話・通信及び資源分野へのベトナムからの投資等につき話し合われた。
ウ オーストラリア
ターンブル・オーストラリア首相との間で行われた首脳会談において,ペルー・豪自由貿易協定に係る交渉妥結に向けたコミットメント(compromiso)を示す文書が署名された。両首脳から,同自由貿易協定が投資,雇用,起業を促進することに対する期待が表明された。
エ 中国
習近平国家主席との間で,習主席の総書記再選,両国友好・協力関係の強化,貧困削減のための国際貿易,開放経済と投資,鉱業,インフラ等の分野における中国からの投資,国連安保理における協力等につき話し合われた。
(3)ルナ外相の訪米
21日,訪米中のルナ外相がティラーソン国務長官と会談し,両国首脳間の緊密な対話,民主主義・法の支配・人権及び自由経済の促進と擁護・汚職・麻薬取引・国際組織犯罪との闘い等の分野における協力,ベネズエラ危機へのコミットメント,国連安保理における協力,米州サミット等につき話し合った。またルナ外相は,同米州サミット開催前にペルーを実務訪問するようティラーソン長官を招待した。
(4)ペルー・中国防衛・防災協力
23日,ニエト国防大臣とJia Guide駐ペルー中国大使はペルー陸軍総司令部において軍事分野での協力に係る2つの覚書に署名した。国営「エル・ペルアノ」紙によれば,ペルー国防省は,2013年以来中国との協力協定の実現を推進してきた。本件覚書署名により、中国はペルーに対し,主として地雷除去及び自然災害対応のための装備品5千万元(約800万ドル)相当、軍事物資7千万元(1千万ドル以上)相当を供与する。
(5)アルマグロ米州機構(OAS)事務総長の来訪
29日,アルマグロ米州機構(OAS)事務総長がペルーを訪問し,ルナ外相との間で次回米州サミットの準備にかかる会合を実施した。ルナ外相は,同サミットのテーマである「汚職に立ち向かう民主的な統治」につき,地域諸国,市民社会,民間セクター等と協議を行っており,同サミットにおいて汚職及び無処罰との闘いのための具体的行動・イニシアチブに係る地域レベルでの協力が採択されるよう取り組んでいると述べた。また会合では,地域における民主主義の状況が議題にのぼった。
第8回米州サミットは2018年4月13~14日,リマにおいて開催が予定されている。