ペルーの政治情勢 7月

平成30年8月22日
【概要】
(内政)
●司法府の高官が関わる汚職等の疑惑により,カヤオ地裁長官の逮捕,最高裁判事の停職処分,全国司法審議会委員全員の解任,司法長官の辞任が相次いだ。
●法務人権大臣が交代した。
●検事総長が任期満了により交代した。
●2018~19年会期国会執行部選挙で野党人民勢力党のサラベリー議員が新国会議長に選出された。
●7月28日の独立記念日にビスカラ大統領が教書演説を行い,司法・政治改革のための国民投票の実施を提案した。
(外交)
●ペルーが国連人権理事会においてベネズエラにおける人権侵害を非難した。
●「リマ・グループ」10か国がベネズエラ大統領選挙の正統性を認めない旨改めて表明する共同宣言を発出した。
●ペルー外務省が西日本豪雨災害に対する見舞いの声明を発出した。
●ペルー外務省がニカラグアにおける暴力行為を非難する声明を発出した。
 
【本文】
1 内政
(1)司法府の高官が関わる汚職等の疑惑
ア 7~8日,当地の法務・人権問題NGO「法律擁護協会」(IDL)が,犯罪捜査の一環で法令に基づいて実施された通話傍受記録のリーク情報に基づいて,司法府の高官が関わる汚職等の疑惑を報じた。以後,司法府の高官,閣僚,企業家,国会議員等の通話音声が連続して複数のメディアにリークされ,カヤオ地方高等裁判所長官の逮捕(15日),最高裁判事1名の無期限停職処分(16日),全国司法審議会(CNM)委員7名全員の解任(19日),司法長官の辞任(19日)が相次ぐなど司法府を中心に大規模な危機が生じた。
イ 9日,ビスカラ大統領は,国家審議会(Consejo de Estado)を招集し,ガラレタ国会議長,ロドリゲス司法長官,サンチェス検事総長,ブルメ憲法裁判所長官及びビヤヌエバ首相と本件につき話し合った。また13日,ワグネル元外相(NGO「トランスパレンシア」代表)を座長とする司法制度改革委員会の設置を発表した。なおビスカラ大統領は,リークされた音声の中で同大統領への言及がある点について,本件疑惑の対象となっている人物との関係を否定している。
ウ 10日、当地テレビ番組で新たな通話音声が公開され,音声中で言及される「第一の勢力に属するK女史」という人物がケイコ・フジモリ人民勢力党党首を指すのではないかという憶測が広まった。これに対しケイコ党首はツイッターで本件疑惑との関係を否定した。
エ 13日,エレシ法務人権大臣と本件疑惑の対象となっている人物の一人であるイノストロサ最高裁判事との通話音声がリークされた。同日ビスカラ大統領はツイッターでエレシ大臣の辞任を求める旨表明し,直後に同大臣は,大統領が進める司法制度改革を促進するためとして辞任の意向を示した。
オ 18日,CNMがカスティーヨ全国選挙過程事務所(ONPE)所長の無期限停職処分を発表した。本年5月末,カスティーヨ所長が特定の政党に対して有利になるように内部手続を恣意的に操作していた疑いが報じられ,CNMが調査を行っていた。
カ 19日,大統領令により招集された臨時の国会本会議において,憲法第157条に基づく国会によるCNM委員全員の解任の是非が審議された。採決の結果,全会一致でCNM委員全員の解任が決定した。ビスカラ大統領はツイッターで同決定を歓迎する旨発言した。
キ 20日、サンチェス検事総長の任期満了に伴い,チャバリ新検事総長(6月11日に選出)の宣誓式が行われた。チャバリ新検事総長の任期は2018~2021年。なお,宣誓式の前日,チャバリ新検事総長とイノストロサ最高裁判事との通話記録音声がリークされ,チャバリ新検事総長の本件疑惑への関与が示唆された。
(2)法務人権大臣の交代
21日,ビスカラ大統領は,13日に辞任を表明したエレシ前法務人権大臣の後任として,セバーヨス(Vicente ZEBALLOS)議員(無所属)を任命し,同新法務人権大臣の宣誓式を行った。セバーヨス新大臣は就任直後,副大臣,官房長等の省幹部を一新して即時改革に着手する意向を示した。
(3)新国会議長の選出
26日,国会執行部選挙(任期2018年7月26日~2019年7月26日)が行われ,野党人民勢力党(FP)のサラベリー(Daniel Salaverry)議員が新国会議長に選出された。今次選挙により,議長及び3人の副議長が全てFP議員で占められる結果となった一方で、サルガド議長及びガラレタ議長(いずれもFP議員)の選出時の得票数を大きく下回ったことから,FPの勢力減衰が指摘された。
(4)独立記念日の大統領教書
28日,ビスカラ大統領が国会において教書演説を行った。ビスカラ大統領は演説で,司法府の高官が関わる汚職疑惑により生じた危機に際して,大規模な司法・政治改革を打ち出し,(1)司法制度改革のための憲法改正の是非,(2)国会議員再選禁止の是非,(3)政治資金規正の是非,(4)二院制への復帰の是非を中身とする政治制度改革について国民投票を実施することを提案した。
(5)ビスカラ大統領支持率(括弧内は特記ない限り前月のもの)
ア ダトゥム社:6月29~7月2日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:39%(45%) 不支持:52%(44%)
イ イプソス社:11~13日実施,全国(対象1278名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持:35%(37%) 不支持:48%(48%)
ウ GfK社:14~18日実施,全国(対象1226名)誤差±2.7%,信頼度95%
支持:27%(29%) 不支持:58%(56%)
 
2 外交
(1)ベネズエラ情勢に対するペルー政府の反応
ア 5日,ペルーは国連人権理事会において,ベネズエラで組織的な人権侵害が行われていることを非難した。同日付ペルー外務省声明によれば,ペルーによるベネズエラ人権状況に対する非難は,リマ・グループ諸国及びEU加盟国を含む53か国の国連加盟国に支持された。
イ 17日,ペルー外務省はベネズエラ情勢に関する「リマ・グループ」10か国による共同宣言を発出した。同宣言では,本年5月20日のベネズエラ大統領選挙の正統性を認めない旨改めて表明されるとともに,同国における人権侵害が非難された。また,ベネズエラが最近,兵器及び戦闘機をコロンビアとの国境地帯に移動させているとの情報に基づき,ラテンアメリカ・カリブ地域を「平和地帯」とする宣言(2014年CELAC会合で採択)の精神に反するものとして憂慮の念が示された。
(2)西日本豪雨災害に対するペルー政府の反応
10日,ペルー外務省は,西日本豪雨災害について,日本国民及び日本政府に対する連帯と犠牲者家族への哀悼の意を表すとともに,行方不明者の早期発見を願う旨の見舞いの声明を発出した。
(3)ニカラグア情勢に対するペルー政府の反応
14日,ペルー外務省はニカラグア情勢につき声明を発出し,同国における暴力行為で多数の死者が出ていることを非難し,同国警察及び親政府派武装集団による大学生,教会関係者への抑圧行為に対する憂慮の念を表明した。