10月のペルー内政と外交の主な動きは以下のとおり
【概要】
(内政)
●最高裁によりフジモリ元大統領に対する人道恩赦が取り消され,刑の執行を継続するよう命じる判決が下された。
●国会において政府が打ち出した4つの政治・司法改革案が順次可決成立し,合わせて同改革を国民投票に付すことが決定された。
●汚職疑惑で国会から弾劾され解任,刑事告発の措置を受けたイノストロサ元最高裁判事がスペインに逃亡し,同国で勾留された。
●全国で統一地方選挙が実施され,リマ市長選では人民行動党のムニョス候補が当選した。
●ケイコ・フジモリ人民勢力党党首が資金洗浄の疑いで裁判所から留置・勾留措置を受け刑務所に収監された。
(外交)
●「リマ・グループ」12か国がベネズエラ野党幹部の不審死に憂慮の意を示し,ベネズエラ政府に対し事態解明のため適切な捜査を行うよう求めた。
●ペルーに入国するベネズエラ国籍者向けの一時滞在許可(PTP)措置が期限切れとなった。
●第12回ペルー・エクアドル二国間合同閣議がエクアドル・キトで開催された。
【本文】
1 内政
(1)フジモリ元大統領に対する恩赦取消
3日,ペルー最高裁は,2017年12月24日にクチンスキー大統領(当時)がフジモリ元大統領に対して与えた人道恩赦を無効とし,刑の執行を継続するよう命じる判決を下した。今次最高裁判決は,フジモリ政権期の人権侵害事件犠牲者家族会等市民団体による恩赦見直しの訴えを受けてのもの。本年6月には米州人権裁判所(CIDH)がペルー政府・司法に対し恩赦の再検討を勧告していた。同日,フジモリ元大統領はリマ市内ラ・モリーナ区の居宅から救急車で同市内プエブロ・リブレ区の日秘移住百周年記念病院に移送され入院した(10月末現在入院中)。
(2)政治・司法改革法案の可決成立
9月26~10月4日,国会本会議において,憲法改正を伴う政治改革3法案(政治資金規制,国会議員の再選禁止及び二院制への復帰)が順次可決成立し,これをもってビスカラ大統領が打ち出した計4つの政治・司法改革案全てが国会を通過し,また合わせて本件改革を国民投票に付すことが決定された。複数の世論調査によれば,4つの改革のうち二院制への復帰のみ不支持が支持を上回っていることから,二院制への復帰については否決される可能性が指摘されている。
(3)司法府汚職問題
ア 4日,国会本会議において,本年7月に発覚した司法府汚職疑惑の対象となっているセサル・イノストロサ最高裁判事(裁判官資格停止中)に対する弾劾決議案の採決が行われ,賛成多数により同判事の解任,10年間の公職就任資格停止,地位の不正利用や組織犯罪疑惑等での検察庁への告発が決定された。
イ 17日,イノストロサ元最高裁判事が,裁判所から出国禁止措置を受けていたにも関わらず国外に逃亡した可能性が広く報じられ,同日,政府がこれを確認した。政府によれば,イノストロサ元判事は7日に陸路でエクアドルに不法入国し,その後航空機でオランダを経由してスペインに入国した。イノストロサ元判事はスペインで亡命を申請したが受け入れられず勾留された。これを受け,入出国管理の不備の責任をとりメディーナ内務大臣が辞任した。後任にはカルロス・モラン元国家警察麻薬対策局長が任命された。また,国会から検察庁への同元判事の告発状が送達されていなかったことから,国会が同元判事に対する捜査を遅延させ結果的に国外逃亡を幇助したとの非難の声が上がった。
(4)2018年統一地方選
8日,全国で統一地方選挙が実施された。今次統一地方選は,2015年の憲法改正により州知事以下自治体の首長の再選が禁止となって以降初めて実施されるもの。リマ市長選では人民行動党のホルヘ・ムニョス候補(現ミラフローレス区長)が当選。州知事選では,10の州で当選確実,15の州でいずれの候補も有効票の30%超を獲得しなかったことから,得票率上位2名による決選投票が行われることとなった。決選投票は12月9日実施。
(5)ケイコ・フジモリ人民勢力党党首の留置・勾留
ア 10日,ケイコ・フジモリ人民勢力党(FP)党首が資金洗浄の容疑で裁判所の命令により逮捕され,10日間の留置(detencion preliminar)措置がとられた。今次裁判所の措置は検察庁の請求を受けてのもの。検察庁は,人民勢力党が2011年及び16年大統領選挙キャンペーンにおいてオデブレヒト社等から資金提供を受けつつ資金集めのパーティーを行ったが,同社からの資金が政治資金として適正に記録されなかったとして,資金洗浄の疑いで仮捜査(investigacion preliminar)を行っていた。
イ 17日,ケイコ党首ほか同党関係者の留置措置に関する上訴審が行われ,留置措置が無効とされケイコ党首他の釈放が命じられた。上訴審は,一審判決がケイコ党首ほかを留置するに足る十分な根拠付けを欠いており,また判決文そのものが検察側の留置請求書をほぼそのまま引き写すなど多くの瑕疵を含むものであることから,3名の判事の全会一致により留置措置を不相当と判断した。ケイコ党首は判決後直ちに釈放された。
ウ 19日,ペルー検察庁は,資金洗浄の疑いでのケイコ党首等人民勢力党関係者に対する捜査段階を仮捜査(investigacion preliminar)から予備捜査(investigacion preparatoria)に引き上げ,ケイコ党首等の36か月勾留を裁判所に請求した。
エ 24日,全国刑事法廷リマ第一準備法廷において本件の審理が始まり,中断を挟んで31日,検察の請求が受け入れられ,ケイコ党首に対し36か月の勾留が命じられた。担当裁判官であるコンセプシオン判事は,ケイコ党首が事実上の犯罪組織の頭目であり,同党首の指示で資金洗浄が行われたと疑うに足る多くの確証が存在するとしたうえで,本件が最低10年から最高13年の禁錮刑に相当する事案であることから,事案の重大性に鑑みて国外逃亡の恐れを防止するために勾留が相当であると述べた。また,ケイコ党首が検察庁及び最高裁の高官を庇護し同人らを通じて検察庁及び司法府に影響を及ぼしていると疑われ,司法妨害の恐れがあることからも勾留が相当であると述べた。ケイコ党首の弁護人を務めるロサ弁護士は即時上訴した。判決後ケイコ党首はリマ市チョリーヨス区の女子刑務所に収監された。
(6)ビスカラ大統領支持率(括弧内は特記ない限り前月のもの)
ア ダトゥム社:9月22~25日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:61%(47%) 不支持:32%(47%)
イ イプソス社:10~11日実施,全国(対象1253名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持:61%(45%) 不支持:28%(44%)
ウ IEP※:20~24日実施,全国(対象1312名)誤差±2.7%,信頼度95%
支持:60%(52%) 不支持:30%(36%)
※ペルー問題研究所(IEP)。エルナン・チャパロ・GfK社代表のIEPへの移籍に伴い,10月以降同社の世論調査機能がIEPへ移管された。
2 外交
(1)ベネズエラ情勢・避難民問題
ア 9日,ペルー外務省はベネズエラ情勢に関する「リマ・グループ」12か国による共同声明を発出し,ベネズエラ野党幹部の不審死に深い憂慮の意を表しつつ,ベネズエラ政府に対し,本件事実解明のため即時に中立かつ独立した捜査を行い,然るべき措置を採るよう求めた。
イ 23日,ポポリシオ外相は,ベネズエラ人避難民問題について「ベネズエラにおける危機を原因とする同国人大量流出によってもたらされた移民問題については,既に国家のキャパシティを超えているため,地域,マルチ,グローバルというレベルの視点が求められており,国連システムを通じた資金が必要である。」と述べた。
ウ 31日,ペルーに入国するベネズエラ国籍者向けの特別措置である一時滞在許可(PTP)措置が期限切れとなった。同日までに合法的にペルーに入国したベネズエラ人は,本年12月31日まで一時滞在許可(PTP)の申請を行うことができる。報道によれば,10月末時点でペルーは累計で約55万人のベネズエラ人を受け入れた。
(2)エクアドルとの二国間合同閣議
25~26日,ビスカラ大統領がエクアドルを訪問し,ペルー・エクアドル和平合意(ブラジリア議定書)署名20周年記念祝典に出席し,またモレノ大統領及び両国の閣僚と共同で第12回二国間合同閣議を開催した。合同閣議では,両国の統合及び国境地域の発展に係るテーマのほか,地域統合,ベネズエラ人避難民問題,汚職との闘い等が議題にのぼった。