6月のペルー内政と外交の主な動きは以下のとおり
【概要】
(内政)
●国会で再度デル・ソラール内閣が信任された。
●ウエルタ国防大臣が視察のため軍用ヘリコプターに搭乗中に体調不良で死亡した。
●政府と農業団体との会合が行われ農業灌漑省に家族農業担当副大臣を設置することで合意した。また国会で14の農業関連法案が可決成立した。
(外交)
●ペルーに入国するベネズエラ人に対し査証取得を義務付ける措置が発表された。
●第5回ペルー・ボリビア合同閣議がペルーで開催された。
【本文】
1 内政
(1)再度のデル・ソラール内閣信任決議案の可決成立
ア 4日,デル・ソラール首相が閣僚とともに国会本会議に出席し,内閣信任決議請求を行うとともに政府の政治改革法案を速やかに可決成立させるよう国会に要求する旨の演説を行った。具体的には,既に提出された12の法案(2019年4月定期報告参照)のうち,(1)有罪判決を受けた者の公職選挙立候補の禁止,(2)各党及び国民義務的参加の予備選挙(オープン・プライマリー)実施,(3)国政における非拘束比例代表制の見直し及び性別均衡推進,(4)新規政党登録要件の見直し,(5)政治団体の不正な政治資金規制強化,(6)国会議員の不逮捕特権剥奪にかかる権限を国会から司法府に移す,という6法案につき,本質的内容を変更することなく,今通常国会会期末までに可決するよう求めるもの。
イ これを受け国会は本件を審議に付し,翌5日,賛成多数(賛成77票,反対44票,棄権3票)により内閣信任決議案が可決成立しデル・ソラール内閣信任が再度信任された。信任の背景につき,国会が任期中に二度内閣を不信任とした場合大統領に国会解散権が与えられることから,多数の議員が失職を恐れて賛成に回ったことが原因であると報じられた。またサラベリー国会議長は,政治改革法案の審議を集中して行うためとして7月25日まで今通常国会会期の延長を決定した。
ウ なお,政治改革を巡る政府と国会の関係につき,ブルメ憲法裁判所長官が「大統領は国会に対し憲法条項が関わる法制を強制すべきでない。」と発言しビスカラ大統領の政治改革の進め方に疑義を呈した。
(2)国防大臣の死去
24日,ウエルタ国防大臣が地方出張中に死亡した。ウエルタ大臣は北部国境地域を視察するため軍用ヘリコプターに搭乗中,体調不良を訴え緊急搬送されたが容態が回復することなく死去した。
(3)社会紛争の動向
ア 11日,農業灌漑省と農業団体が会合し,農業灌漑省に新たに家族農業担当副大臣を設置することで合意した。小規模・家族農業の保護は5月に全国でデモ・抗議活動を行った全国農業会議(CONVEAGRO)等が要求していたもの。
イ 14日,ムニョス農業灌漑大臣及び全国農業会議(CONVEAGRO)傍聴のもと,国会本会議で農業関連法案の集中審議が行われた。審議の結果,農村共同体(comunidad campesina)の意思決定への女性の参加促進,有機農業,植林,食料品トレーサビリティの推進等14の法案が可決成立した。ムニョス大臣はペルーの農業問題解決のために行政と立法が協力して取り組んでいる旨強調した。他方,農業セクターの労働規制緩和を定めた農業振興法の有効期限(2021年まで)延長の是非は議題から外れた。
ウ その他,6月にはクスコ州等南部においてガス・パイプライン計画の推進を求めるストライキ,リマ市において政府の競争力促進,労働改革反対を訴えるペルー労働者総連盟(CGTP)によるデモ行進等の争議が発生した。
(4)ビスカラ大統領支持率(括弧内は特記ない限り前月のもの)
ア ダトゥム社:7~10日実施,全国(対象1211名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:58%(45%) 不支持:37%(48%)
イ イプソス社:12~14日実施,全国(対象1210名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:50%(42%) 不支持:41%(47%)
ウ IEP:14~19日実施,全国(対象1218名)誤差±2.8%,信頼度95%
支持:47%(39%) 不支持:45%(50%)
2 外交
(1)ベネズエラ人に対する査証取得義務付け措置の発表
ア 5日,殺人,性暴力,銃器不法所持,強盗等の犯罪歴を偽ってペルーに不法入国した52人のベネズエラ人がペルー空軍の航空機により本国へ送還された。ペルー政府による右措置は今回で3度目で,これまでに計140人のベネズエラ人が強制退去措置を受けた。報道によれば6月初旬時点で総計80万人のベネズエラ人がペルーに入国しており,うち49万人が一時滞在許可(PTP)を既に取得している(PTPの申請受付期限は2018年末で終了。)。ビスカラ大統領は内務大臣とともに強制送還に立ち会った後,15日以降ベネズエラ人に対し査証取得を義務付ける措置を採ると発表した。
イ 6日,ペルー外務省はペルーに入国するベネズエラ人に対し,旅券とともに査証の取得を義務付ける措置を15日午前0時から導入すると発表した。ペルー外務省によれば,ベネズエラに居住しペルーへの入国を希望するベネズエラ人は,カラカス及びプエルト・オルダスに所在するペルー領事館にて人道ビザの申請を行わなければならない。また,人道ビザの申請はコロンビア及びエクアドルに所在するペルー領事館でも行うことができる。
ウ カルロス・スクル・ベネズエラ外交代表は本件措置に関するペルーメディアの取材に対し,ペルー政府の決定を尊重し支持すると発言した。他方,オスカル・ペレス「在ペルー・ベネズエラ人連盟(Union Venezolana en el Peru)」代表は,「国外脱出を検討しているベネズエラ人の半数は旅券を所持していない。ベネズエラでは,通常の旅券取得手続を踏むと交付までに1年半かかる。2~3か月で取得するためには2,000~5,000ドル支払わなければならない。かかる金額を支払える者は僅かしかいない。」として,今次ペルー政府の措置に深い憂慮の念を示した。
エ 報道によれば,本件措置導入後の6月末時点でのベネズエラ人に対する人道ビザ発給状況はベネズエラで55件,エクアドルで19件,コロンビアで9件にとどまっている。
(2)ペルーへのベネズエラ人の流入と治安問題に関する報道
ア モラン内務大臣によれば,ベネズエラ人のペルーへの流入により,リマにおける犯罪発生件数が急増した。ペルー警察の調査では,2016年から2017年5月29日の期間に5,767件のベネズエラ人に対する告発があったが,これは外国人に対する告発件数の55%を占める。告発の内容は家庭内暴力,窃盗,傷害及び殺人が大多数を占める。
イ 世論調査会社IPSOS社が本年4月にリマで行った調査によれば,調査対象者の67%がベネズエラ人のペルーへの流入に反対しており,約1年前に比べ上昇している。ベネズエラ移民に対して否定的な意見を持っている人のうち,54%が「治安の悪化」を,46%が「低賃金で働くことを厭わないためペルー人の職が奪われる」を理由に挙げている。
(3)第5回ペルー・ボリビア合同閣議
25日,ペルー南部モケグア州イロ市においてビスカラ大統領,モラレス・ボリビア大統領,両国の閣僚及び国境を接する両国自治体の長が第5回ペルー・ボリビア合同閣議を共同開催し,12の二国間文書及び「イロ宣言」への署名が行われた。今次ボリビアとの合同閣議では,ビスカラ大統領から二国間でのガス供給網の相互接続へ向けて取り組むことを約束するとともに,カミセア・ガス田(クスコ州)のガスをペルー南部に供給することを目的としたガス・パイプライン建設を同時に推進する旨の発言があったことが注目された。