12月のペルー内政と外交の主な動きは以下のとおり

令和5年1月8日
【概要】
1 内政
●1日、米州機構(OAS)代表団がペルーの内政状況を分析した報告書案をOAS常設委員会に提出した。
●5日、カスティージョ大統領は、3日に辞任を表明したバラガン国防大臣の後任として、ボビオ元国家情報局顧問室長を新国防大臣に任命した。
●5日、国会憲法訴追小委員会は、ボルアルテ副大統領に対する憲法訴追について審議し、棄却を決定した。
●7日、カスティージョ大統領は、国民向けメッセージを発出し、暫定的な国会解散及び臨時政府の樹立等を宣言した。右に対し、大統領には、国会における2回の内閣不信任が行われない限り、国会解散権は付与されないため、国会は、同大統領に対する罷免決議を審議・採決し、可決した。同大統領の罷免を受け、同日、ボルアルテ副大統領が大統領に就任した。
●10日、アングロ首相率いる新内閣が発足した。
●14日、ペルー政府は、国内各地における抗議活動の活発化を受け、全国を対象とする非常事態宣言を発出した。
●15日、司法当局が、カスティージョ前大統領に対する18か月の予防拘禁措置を決定した。
●20日、国会にて、総選挙を2024年4月に前倒しする憲法改正案が可決された。なお、同案の承認には、次会期にて再度審議・採決の上、可決される必要がある。
●21日、オタロラ国防大臣を新首相とする新内閣が発足した。
●21日、カスティージョ前大統領の家族が、亡命のためメキシコに入国した。
 
2 外交
●15日、ペルー外務省は、メキシコ、コロンビア、ボリビア、アルゼンチンに駐在する各ペルー大使の本国召還を発表した。
●16日、ボルアルテ大統領が、ブリンケン米国務長官と電話会談を実施した。
●20日、ペルー外務省は、ロペス・オブラドール墨大統領によるペルーへの度重なる内政干渉を受け、モンロイ当地墨大使に対し、ペルソナ・ノン・グラータを通告した。
●23日、ボルアルテ大統領は、韓国、日本、豪州、加の各国大使の表敬を受けた。
 
【本文】
1 内政
(1)OAS代表団によるペルー内政状況を分析した報告書案の提出
12月1日、OAS代表団は、11月下旬のペルー訪問時に収集した情報をもとに、同国の内政状況を分析した報告書案をOAS常設委員会に提出した。同代表団は、ペルーの民主制度は危機的状況にあり、包括的な対話及び政治的な「休戦(tregua)」が必要である旨言及した。
 
(2)国防大臣の交代
 12月5日、カスティージョ前大統領は、同3日に辞任を表明したバラガン国防大臣に代わり、ボビオ元国家情報局顧問室長を新国防大臣に任命した。
 
(3)ボルアルテ副大統領に対する憲法訴追の棄却
12月5日、国会憲法訴追小委員会は、憲法違反の疑いでボルアルテ副大統領に対してなされていた憲法訴追について審議し、棄却を決定した。ボルアルテ副大統領は、閣僚職と私的団体代表を並行して務めていたとして、訴追プロセスが開始されていた。
 
(4)カスティージョ大統領の罷免及びボルアルテ副大統領の大統領就任
ア 12月7日、カスティージョ大統領は、国民向けメッセージを発出し、暫定的な国会解散及び臨時政府の樹立等を宣言した。同宣言に反発し、ランダ外相ら計10閣僚が辞任を表明したほか、軍や警察も、憲法を遵守する旨共同声明を発出した。
イ 同日、国会にて、カスティージョ大統領に対する「恒常的な倫理的不能(permanente incapacidad moral)」を理由とする罷免決議が審議・採決され(※)、賛成101票、反対6票、棄権10票で可決した。これを受け、同大統領の罷免が決定し、ボルアルテ副大統領が大統領に就任した。
 ※憲法第113条に罷免理由が5つ挙げられており、「恒常的な倫理的不能」は同条第2項にて定められている。
 
(5)アングロ新首相率いる新内閣の発足
 12月10日、ボルアルテ新政権の閣僚17名が任命され、宣誓式が行われた(労働雇用促進大臣及び運輸通信大臣については当日任命されず、同13日に任命された)。首相にはアングロ元リマ弁護士学校長が任命され、外務大臣にはヘルバシ外務副大臣が就任した。
 
(6)ペルー全土を対象とする非常事態宣言の発出
 12月14日、ペルー政府は、国内各地における抗議活動の活発化を受け、全国を対象に、期間を翌15日から1月13日までの30日間とする非常事態宣言を発出した。同宣言により、全国的に警察及び軍が治安対策にあたり、人身の自由、住居の不可侵、集会の自由及び通行の自由といった憲法上の権利の一部が制限される。
 
(7)カスティージョ前大統領に対する予防拘禁措置の決定
 12月15日、司法当局は、カスティージョ前大統領に対し、反逆、陰謀、職権乱用、重大な治安妨害の疑いにより、18か月の予防拘禁を命じた。なお、同前大統領は、同7日に罷免された後、身柄を逮捕・拘束され、予備的勾留措置を受けていた。
 
(8)総選挙前倒しに関する憲法改正案の可決
 12月20日、国会は、次期総選挙(大統領選を含む)を、本来の2026年ではなく、2024年4月に前倒しする憲法改正案について、賛成93票、反対30票、棄権1票で可決した。今般の総選挙前倒しに向けた動きは、全国各地における政府や国会に対する抗議活動の活発化を受け、促進された。なお、今回の憲法改正案は、次会期にて再度審議・採決され(2期連続での可決が必要)、議員定数の3分の2である87票以上の賛成票を得ることで承認される。
 
(9)オタロラ新首相率いる新内閣の発足
 12月21日、アングロ首相に代わり、オタロラ国防大臣を新首相とする新内閣が発足した。前内閣からは、首相の他、国防大臣、内務大臣、教育大臣、文化大臣の計5大臣が交代となった。
 
(10)カスティージョ前大統領の家族のメキシコへの亡命
 12月21日、メキシコ政府が亡命を許可した、カスティージョ前大統領の家族3名(リリア・パレデス前大統領夫人及びその子供2名)が、メキシコに到着した。なお、パレデス前大統領夫人は、組織犯罪に関与した疑いで検察の捜査対象となっている。
 
(11)カスティージョ大統領の支持率(括弧内は前回数値)
 ダトゥム 社:1日~4日、全国(1,213名、誤差±2.8%、信頼度95%)
  支持:24%(26%)、不支持:71%(69%)
 
(12)ボルアルテ大統領の支持率
ア イプソス 社:15日~16日、全国(1,216名、誤差±2.8%、信頼度95%)
  支持:21%、不支持:68%
イ IEP 社:9日~14日、全国(1,216名、誤差±2.8%、信頼度95%)
  支持:27%、不支持:71%(※ボルアルテ大統領の就任に対する是非)
 
2 外交
(1)メキシコ、コロンビア、ボリビア、アルゼンチン駐在大使の本国召還
 12月15日、ペルー外務省は、メキシコ、コロンビア、ボリビア、アルゼンチンが、同12日にカスティージョ前大統領を擁護する旨の共同声明を発出したことへの対抗措置として、同4か国に駐在するペルー大使を本国に召還する旨の公式声明を発出した。
 
(2)ボルアルテ大統領とブリンケン米国務長官の電話会談
 12月16日、ボルアルテ大統領は、ヘルバシ外務大臣同席のもと、ブリンケン米国務長官と電話会談を行い、ペルー及び同大統領率いる新政権に対する米国の支持及び二国間関係の強化の意志について謝意を表明した。
 
(3)当地墨大使へのペルソナ・ノン・グラータ通告
 12月20日、ペルー外務省は、ロペス・オブラドール墨大統領が、ペルー内政に繰り返し干渉しているとして、モンロイ当地墨大使をペルソナ・ノン・グラータとする旨の公式声明を発出した。
 
(4)当地一部外交団のボルアルテ大統領表敬
 12月23日、ボルアルテ大統領は、ヘルバシ外務大臣同席のもと、大統領府にて、環太平洋・APEC加盟国である韓国、日本(本使)、豪州、加の大使の表敬を受けた。各大使は、ペルーの民主主義に対する支援を表明した。また、2023年に、日本との外交関係が150周年、韓国及び豪州との外交関係が60周年を迎えることを確認した。