リマ日本人学校入学式(令和5年度第55回入学式)祝辞

令和5年4月12日
 

リマ日本人学校入学式(令和5年度第55回入学式)祝辞
 

■皆さん、お早うございます。日本国大使として一言お祝いを申し上げます。

■本日、入学された皆さん、御入学誠におめでとうございます。

■保護者の方々に対し、心よりお祝い申し上げます。お子様をここまで育てられたことにはひとしおの感慨があるかと存じます。

 

■学校運営委員会、そして校長先生及び新任の先生方を含む教職員、PTAの皆様におかれては日頃よりの御尽力に改めて敬意と感謝を表します。また、地元関係者の御支援に感謝致します。

 

■小学1年生と中学1年生を前に同じ話をするのはとても難しいですが、特に小学1年生の皆さんは少し我慢して聞いてください。

 

■小学1年生の皆さんが通われたサンタ・ベアトリス幼稚園は一度訪問したことがありますので、その時お会いしているかもしれませんね(本日来賓として来られた日系校はすべて訪問しました)。お二人はサッカーや水泳を練習したり、読書やピアノを弾いたりと活発に活動しているとお聞きしました。

 初めての日本人学校生活でわからないこと、不安なことがいろいろとあると思いますが、直ぐに慣れて楽しくなると思います。先生のお話をよく聞き、同級生と仲良くし、優しい上級生のお姉さん、お兄さんたちに面倒をみてもらいながら、しっかりと学び、遊んで下さい。

 

■中学に入学された皆さんは、先月の小学校の卒業式でもお会いしましたが、今度、中学生になったので、一つのメッセージを送りたいと思います。それは、「道は拓ける」ということです。英語の諺でも”Where there is a will, there is a way”(意志のあるところ方法あり)という言い方があります。

 私は、今を去ること27年前、皆さんが生まれるずっと前の1996年(平成8年)に首相官邸に勤務していました。ペルー日本大使公邸占拠事件が発生したのも丁度その年の12月でした。当時の橋本龍太郎首相の下、古川貞二郎内閣官房副長官(事務)の秘書官を務めていました。官房副長官は3名いますが、2名が政治家で1名が官僚です。古川さんは官僚出身の副長官でした。日本政府の官僚機構の中で最も頂点に位置するポストです。残念ながら古川さんは、昨年9月、88歳の米寿直前に急死されました。

 

■この古川さんの人生が波瀾万丈の典型でした。古川さんは、佐賀県の農家の次男坊として生まれます。母子家庭で育ち、学校生活の傍ら、自宅で作った野菜をリアカーに載せて朝早く市場に売りに行ったりして、家計を助けていました。

 大学受験の時、第一希望の大学に落ちます。就職試験では、大手保険会社の入社試験にやはり失敗します。そして、国家公務員(上級職)試験にも落ちてしまいます。それで、地方公務員として地元佐賀県庁に就職しようと考えたのですが、その年は運悪く佐賀県が財政再建の最中で、職員募集を停止していた時でした。そのため、お隣の長崎県庁に何とか就職することになります。

 

■しかしながら、もともと社会福祉事業に携わりたい思いが強く、翌年改めて国家公務員試験に挑戦します。今度は何とか一次試験に合格します。厚生省(現在の厚生労働省)が第一希望だったので、厚生省の面接を受けるために長崎から列車に乗って上京します。しかし、その途中、伊勢湾台風という歴史的台風が日本を襲い、死者・行方不明者が5千人を超す大惨事となりました。長崎を出発して約36時間後、やっと東京駅にたどり着きました。リマから東京に飛行機で帰るよりはるかに時間がかかった訳ですが、なんとか面接には間に合いました。しかし、そのような苦労を経て面接に漕ぎ着けたにもかかわらず、あえなく厚生省人事課長から不合格の結果を告げられます。

 

■ここからが古川さんの真骨頂なのですが、翌朝、もう一度人事課長に直談判に行きました。そして、是非とも厚生省に入って国の福祉事業のために仕事をしたいという自分の志や熱意を全身全霊かけて改めて必死で訴えました。このままおめおめと九州には戻れないと人事課長に必死で食らいついたそうです。その思いが通じたのか、人事課長からは、それじゃ1日待ってくれと言われました。そして、その日の夕方に何と内定通知を受け取ることになります。

 

■厚生省に入った時には同期よりも4歳程年上でした。その後も、何度か仕事上の危機や逆境に遭遇したそうです。その都度、「道は必ず拓ける」という精神が自分を支えてくれたと古川さん自ら回想しています。古川さんは、その後、厚生省事務次官、そして官僚機構トップの内閣官房副長官(事務)を8年7か月務め、5人の総理大臣に仕えました。

 

■本人が何が何でも実現したいという強い意志と熱意を持って、諦めずにあらゆる努力を尽くし、それを周囲の家族や友人、上司、同僚、部下が意気に感じて支援してくれた結果、当初はとても無理だと思われた事を成し遂げることができたという話を古川さんから何度も直接伺ったことを思い出します。

 

■是非、「道は必ず拓ける」という前向き志向の積極的な精神で悔いのない学校生活を精一杯送って下さい。

 

■最後になりますが、大使館としては、引き続き日本人学校の教育面、財政面、安全面等で、児童・生徒達のために少しでも良い環境作りに尽力していきたいと考えています。遠慮なく大使館に対して御意見を頂ければと思います。

 

■リマ日本人学校における新入生の皆さんの楽しく充実した学校生活をお祈りして私の挨拶とさせて頂きます。ありがとうございました。