12月のペルー内政と外交の主な動きは以下のとおり
令和6年1月11日
【概要】
1 内政
●1日、ボルアルテ大統領は、ピウラ州ピウラ市においてエルニーニョ対策を発表等した。
●1日、イカ第1準備調査裁判所は、同裁判所(イカ第1準備調査裁判所)にはフジモリ元大統領の釈放に係る権限がないため、憲法裁判所にすべての関係書類を返却する旨を表明した。4日、憲法裁判所は、国家刑務所庁及びバルバディージョ刑務所に対し、フジモリ元大統領の即時恩赦を準備するよう命じ、6日、フジモリ元大統領は、同刑務所から出所した。同日、アラヤ法務人権大臣及びゴンサレス-オラエチェア外務大臣は、上記釈放に関し、司法機関の判決を遵守・執行することは行政機関の義務である旨を表明した。
●1日、ケイコ・フジモリ人民勢力党党首が告訴されているコクテル事件に係る公判の開始が決定した。
●3日、ベナビデス検事総長の元主任顧問であるビジャヌエバ容疑者は検察官に対し、国会議員と交わしていたチャットについて認め、これがベナビデス検事総長に頼まれたものだった旨を供述した。
●5日、ベナビデス検事総長は国会監査委員会に出頭し、(1)国会議員とのチャットは操作されたものである、(2)同検事総長が抗議デモ中の死亡事件を捜査しており、ボルアルテ大統領等を近々告訴する予定だったことが嗅ぎつけられて、検事総長の職から自分を追い出そうとされた、(3)11月27日早朝の関係者と会合は、ボルアルテ大統領等に対する憲法上の告訴準備のためであったと発言した。
●6日、国家警察創立35周年式典に出席したボルアルテ大統領は、治安対策について説明した。
●6日、国会本会議は、法務人権委員会が10日間全国司法審議会(JNJ)を審議するとの動議について討議することを否決したものの、JNJがベナビデス氏の検事総長の職を一時的に停止したことを受けて、11日、国会の党・会派のスポークスパーソン会合にて、JNJメンバーの即時解任に関する動議を本会議で優先的に討議することを決定した。15日、ソト国会議長は、上記動議に関し、JNJメンバーは適切な時期に改めて召喚される旨を発表した。同日、国会は6日に否決した上記動機について再検討することとし、再検討の結果、法務人権委員会が10日間JNJメンバーを調査することを可決した。
●6日、JNJは、ベナビデス検事総長に対する即時の懲戒手続きに係る聴聞会を行った後、同氏に対し検事総長の職を6か月間停止することを満場一致で決定した。12日、リマ高等裁判所は、ベナビデス検事総長(停職中)から提出された上記の即時懲戒手続きに対する保護訴訟を承認した。
●7日、ボルアルテ大統領は就任一周年の演説を行った。
●11日、サンチェス臨時検事総長は、バレト検察官を政治汚職に係る検察特別チーム(Eficcop)調整検察官に復職させることを決定した。
●11日、ビジェナ最高検察官が臨時検事総長に就任した。また、同日、最高検察官委員会は国家選挙審議会に派遣中のエスピノサ最高検察官を同委員会に戻すことを決め、13日、同最高検察官は同委員会に復帰した。
●14日、国会本会議は空席となっていた憲法裁判所裁判官としてエルナンデス氏を選出した。
●JNJメンバーの年齢と憲法の規定との関係で9月22日に設置された憲法告訴小委員会は、15日、JNJメンバーに対する聴聞会を終了し、同小委員会の報告者が最終報告書を提出する旨決定した。
●15日、国会は閉会した。
●18日、パティルビルカ事件に関しフジモリ元大統領に対する公判が開始した。
●19日、ボルアルテ大統領は、2023年総括を発表した。
●22日、ママニビデオス事件の再審に関し、ケンジ・フジモリ元国会議員に対する公判が開かれ、最高裁判所は1月に判決を下すことを決定した。
2 国際関係
●4日、憲法裁判所は、米州人権裁判所(Corte-IDH)の権限に関する見解を示した。
●5日、Corte-IDH長官は、ペルーに対し、ラ・カントゥタ事件及びアルトス地区事件に関するフジモリ元大統領への判決の監視として、恩赦の執行を控えるべきとの決議を発出した。
●8日、外務省は、グアテマラ総選挙に関し公式声明を発出した。
●8日、米州人権委員会(CIDH)は、フジモリ元大統領釈放に関し、(1)憲法裁判所による命令はペルー国の国際義務違反であり、Corte-IDHの決議不履行である、(2)ペルー国は米州人権条約の適切な履行を実現する義務がある旨のプレスリリースを発出した。
●9日、OASペルー代表は、8日付けCIDHプレスリリースに関しXにて反論した。
●10日のアルゼンチン新大統領就任式出席のため、7-11日、ゴンサレス-オラエチェア外相は同国を訪問した。
●15日、国会本会議は、米州人権擁護システムの改革提案準備に係るハイレベル委員会設置案を可決した(最終的な可決のためには、次期会期での再度の可決が必要)。
●15日、オスロ条約上の義務に関し、ペルーは貯蔵クラスター弾の廃棄を完了した。
●19日、Corte-IDHは、フジモリ元大統領釈放に関し、(1)ペルー国に対し、アルベルト・フジモリ氏に与えられた恩赦を中心に監督を強める、(2)ペルー国はCorte-IDHの決議を侮辱してきた、(3)アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件の判決によって確定したペルー国の義務の遵守に係る報告書を2024年3月4日までにCorte-IDHに提出するよう命じる旨の決議を発出した。
●22日、外務省及び法務人権省は、19日付けCorte-IDH決議に関し、(1)アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件に係るCorte-IDHの判決は、ペルー国が加盟している国際条約の規定内で執行されており、侮辱行為は行われていない、(2)求められた報告書は期限内に提出する旨の共同プレスリリースを発出した。
【本文】
1 内政
(1)ボルアルテ大統領によるエルニーニョ対策の発表等
1日、ボルアルテ大統領はピウラ州ピウラ市にてエルニーニョ対策について発表等を行った。
ア ボルアルテ大統領発言
(ア)我が政府は、エルニーニョ現象に立ち向かい、国民を保護できるよう効果的な予防措置を実施している最初の政府である。
(イ)事前にエルニーニョ現象に対処するため調達した機材(※)を初めてピウラ州にて供与する。この数か月間、災害予防に取り組んできており、川底を何十キロにもわたり清掃してきている。また、緊急時対応のため人道支援物資を備蓄する倉庫も準備している。
(ウ)政府は、今後もピウラ州と北部全域の包括的開発を促進していく。
イ ボルアルテ大統領は、川の氾濫や洪水を予防するピウラ州での雨水貯水・排水代替システム(SARE)の進捗を視察した。
(※)住宅建設上下水道省は、4億2,200万ソレスの予算を使用して、モーターポンプ、貯水タンク、バケツ機、ハイドロジェット、移載機、ダンプトラック等の機材416ユニットを調達した。これによりトゥンベス州、ピウラ州、ランバエケ州、アンカシュ州、リマ州、イカ州及びカハマルカ州の1,460万人の住民が裨益する予定。
(2)フジモリ元大統領の釈放・その1
1日、イカ第1準備調査裁判所は、憲法訴訟法の規定に従い、フジモリ元大統領の釈放は恩赦判決を下した裁判所によって執行されるものであり、同裁判所(イカ第1準備調査裁判所)に権限がなく、執行は不適切であるとして、憲法裁判所にすべての関係書類を返却する旨を表明した。
(3)ケイコ・フジモリ人民勢力党党首に対する公判開始の決定
1日、全国第4準備調査裁判所の判事は、コクテル事件(当館注1)に関するケイコ・フジモリ人民勢力党党首他への告訴に関し、公判の命令を発出した。
(4)フジモリ元大統領の釈放・その2
4日、憲法裁判所は、国家刑務所庁及びバルバディージョ刑務所に対し、フジモリ元大統領の即時恩赦を準備するよう命じた。
(5)ベナビデス検事総長等に対する捜査・その1
3日、ベナビデス検事総長の元主任顧問であるビジャヌエバ容疑者は検察官に対し、国会での投票操作のため国会議員と交わしていたチャットについて認め、また、これはベナビデス検事総長に頼まれたものだった旨を供述した。
(6)ベナビデス検事総長等に対する捜査・その2
5日、ベナビデス検事総長は国会監査委員会に出頭し、概要以下のとおり発言した。
ア 国会議員とのチャットは操作されたものである。同検事総長が抗議デモ中の死亡事件を捜査していたことが、同検事総長等に対する捜査を引き起こした理由の1つである。また、死亡事件に関し、ボルアルテ大統領、オタロラ首相等への告訴を行う予定が嗅ぎつけられて、検事総長の職から自分を追い出そうとしたものである。
イ 11月27日早朝、関係者と会合をしていたのは、ボルアルテ大統領やオタロラ首相等に対する憲法上の告訴を準備していたためである。
(7)ボルアルテ大統領の国家警察創立35周年式典出席
6日、ボルアルテ大統領は、国家警察創立35周年式典において、国内の平和を強化し、発展を見いだせるよう団結と対話を国民に対し呼びかけた。また、以下のとおり説明した。
ア 2024年には治安対策に50億ソレスが割り当てられ、これには警察署増設とパトロール強化が含まれている。
イ 数日前、国家警察にはパトロール及び運営能力強化のため最新の小型トラック150台を供与した。本日までに300台の車両が既に供与されており、数日内に小型トラック200台の供与も追加され、年末までに500台を達成する。
(8)フジモリ元大統領の釈放・その3
ア 6日、フジモリ元大統領は、恩赦によりバルバディージョ刑務所から出所した。
イ 同日、アラヤ法務人権大臣及びゴンサレス-オラエチェア外務大臣は、フジモリ元大統領の釈放に関してテレビ映像を通じ、司法機関の判決を遵守・執行することは行政機関の義務である旨を表明した。
(9)国会による全国司法審議会(JNJ)審議・その1
6日、国会本会議は、賛成60、反対40、棄権15により、法務人権委員会が10日間JNJを調査するとの動議について討議することを否決した(可決には賛成64票が必要)。これにより、JNJによるベナビデス検事総長に対する即時の懲戒手続きが停止されることはなくなった。
(10)JNJによるベナビデス検事総長に対する審議・その1
6日、JNJは、ベナビデス検事総長に対する聴聞会を開催した後、全体会合において、即時の懲戒手続きが通常どおり進み、同検事総長の妨害がないようにし、効果ある最終決定を得るため、同氏の検事総長の職を6か月間または同検事総長に対する調査が終了するまで停止することを満場一致で決定した。ベナビデス検事総長は、JNJは適正手続きを踏んでいないとして聴聞会において返答しなかった。
(11)ボルアルテ大統領による就任一周年演説
7日、ボルアルテ大統領は、概要以下の就任一周年演説を行った。
ア 1年前、民主主義を守るため議会はカスティージョ前大統領を罷免する決断を下した。 ペルーの歴史上初の女性大統領就任であり、重大な責任を自覚した。
イ 政府は、景気浮揚策、市民の安全及びエルニーニョ現象への対応に焦点を当てている。
ウ エルニーニョ現象については、地域の川床の清掃及び沈泥の除去など前例のない多方面にわたる対策を行っている。
エ 本日、自分はこの国と関係機関に対する確固たるコミットメントを新たにする。
(12)バレト検察官の政治汚職に係る検察特別チーム(Eficcop)調整検察官復職
11日、サンチェス臨時検事総長の決定によって、ベナビデス検事総長によりEficcop調整検察官の職を解かれていたバレト検察官は同職に復帰することとなった。
(13)検察庁の動き
ア 11日、ビジェナ最高検察官が臨時検事総長に就任した。
イ 同日、最高検察官委員会はエスピノサ最高検察官を国家選挙審議会に派遣する旨の決定を無効とし、13日、同最高検察官は同委員会に復帰した。
(14)国会によるJNJ審議・その2
11日、国会の党・会派のスポークスパーソン会合にて、JNJがベナビデス氏の検事総長の職を一時的に停止したことに関連し、JNJメンバーの即時解任に関する動議を本会議で優先的に討議することを決定した。
(15)JNJによるベナビデス検事総長の審議・その2
12日、リマ高等裁判所は、停職中のベナビデス検事総長から提出されていたJNJによる同検事総長への即時の懲戒手続きに対する保護訴訟に関し、これを承認した。同裁判所は、3月に両者からの意見等を聴取予定。
(16)憲法裁判所裁判官の選出
14日、国会本会議は、賛成103、反対15、棄権7により、憲法専門の弁護士であるエルナンデス氏を憲法裁判所の裁判官に選出した。これにより同裁判所の定員7名が満たされた。
(17)憲法告訴小委員会によるJNJ審議
JNJメンバー1名が75歳以上であり、これが憲法第156条第3項に抵触するのではないかとの疑義を審議するために9月22日に設置された憲法告訴小委員会は、15日、JNJメンバーに対する聴聞会を終了し、今後、同小委員会からの質問にJNJが回答した後、同小委員会の報告者は最終報告書を同小委員会に提出することを決定した。
(18)国会によるJNJ審議・その3
15日、ソト国会議長は、JNJメンバーの即時解任に関する動議に関し、同メンバー
は改めて適切な時期に召喚される旨を発表した。同メンバー1名は、11月から入院しており、もう1名は自分たちへの告発の内容について明確にすべきであり、その上で再度召喚すべきと訴えていた。
(19)国会によるJNJ審議・その4
15日、国会本会議は、6日に否決した法務人権委員会が10日間JNJを調査するとの動議について再検討することを賛成67、反対26、棄権11により可決した。再検討の結果、賛成65、反対25、棄権12により上記動議を可決した。
(20)国会閉会
15日、7月27日に開会した国会は閉会した。次期会期は3月1日に開始予定。
(21)フジモリ元大統領のパティビルカ事件に係る公判開始
18日、検察側がフジモリ元大統領に対し禁固25年を求刑しているパティビルカ(Pativilca)事件(当館注2)に関し、刑事専門高等裁判所・刑事事件清算臨時高等法廷(Sala Penal Superior Nacional Liquidadora Transitoria de la Corte Superior Nacional de Justicia Penal Especializada)(当館注3)は公判を開始した。
(22)ボルアルテ大統領による2023年総括
19日、ボルアルテ大統領は、2023年の総括として概要以下のとおり発表した。
ア 我が政権は、国の権力間の均衡を保つことにより、ペルーが必要としていた民主的安定をもたらした。ペルーに多大なダメージを与えた行政府と国会の対立は過去に葬った。
イ 我が政権は、法の支配及び民主主義を尊重している。フジモリ元大統領の釈放は、憲法裁判所の命令であり、行政府はこの命令を尊重しなければならない。
ウ 昨年12月から本年1月の抗議デモにおける死亡事件については、検察庁に対し追加の予算を割り当て、捜査を迅速に行えるようにした。
エ 犯罪との闘いを強化するために36の法令が承認された。また、国家警察は、100万件以上の作戦を実施し、6万6,000人を指名手配犯を逮捕し、168の犯罪組織を解体した。
オ 9つの州に15の新医療機関が設立され、10億ソレス以上を投資して200万人以上の人々が診察を受けている。高品質で低価格な医薬品入手のため、地方政府と協力して、ミンサファルマと呼ばれる慢性病患者に適正な価格での医薬品提供を行う保健省の薬局を運営している。
カ エル・ニーニョ現象対応のため、雨水排水設備他に45億ソレスの予算が使用されてきた。
(23)ケンジ・フジモリ元国会議員のママニビデオス事件に係る公判
22日、2022年12月にママニビデオス(Mamanivideos)事件(当館注4)に関し最高裁判所により禁固4年6か月の判決を受けたフジモリ元大統領の息子のケンジ元国会議員に対する再審において、同裁判所は聴聞を終了し、1月に判決を下すことを決定した。
2 国際関係
(1)米州人権裁判所(Corte-IDH)の権限に関する憲法裁判所見解
4日、憲法裁判所は、Corte-IDHの権限に関して以下の見解を示した。
ア Corte-IDHは、米州人権条約の規定により、ある加盟国に対しCorte-IDHによって命じられた判決が未執行である場合、Corte-IDHは米州機構(OAS)に当該不作為を報告する権限が与えられている。
イ Corte-IDHが判決執行の監視と称して、加盟国の国内裁判所に対し当該裁判所が下した判決を執行しないよう命令するのは権限外のことである。
(2)Corte-IDH長官によるフジモリ元大統領釈放に関する決議発出
5日、Corte-IDH長官は、ペルーに対し、ラ・カントゥタ事件(当館注5)及びアルトス地区事件(当館注6)に関するフジモリ元大統領への判決の監視として、憲法裁判所の決定が定められた条件を満たしているか分析されるまで、恩赦の執行を控えるべきとの決議を発出した。
(3)米州人権委員会(CIDH)によるフジモリ元大統領釈放に関するプレスリリース発出
8日、米州人権委員会(CIDH)は、概要以下のプレスリリースを発出した。
ア 憲法裁判所によるフジモリ元大統領の釈放命令は、ペルー国の国際義務違反であり、Corte-IDHの決議不履行である。
イ ペルー国のすべての当局に対し、米州人権条約の適切な履行を実現する義務がある旨を念押しする。
(4)グアテマラ総選挙に関する外務省声明
8日、外務省は、昨年6月に実施されたグアテマラ総選挙に関し、同日グアテマラ検察庁が発表したその有効性を疑問視する声明について深い懸念を表明する旨、また、ペルーは同国各機関に対し、当選者が1月14日に就任できるよう、同国最高選挙裁判所の決定の尊重を求める旨の公式声明を発出した。
(5)OASペルー代表によるCIDHプレスリリースに関するXでの発信
9日、OASペルー代表は、Xにより概要以下のとおり発信した。
ア CIDHは、ラ・カントゥタ事件でもアルトス地区事件でもCorte-IDHにおいて原告側となっているため、8日付けCIDHプレスリリースは原告側の視点を反映したものであり、公平な情報内容及び目的が欠けている。
イ CIDHはプレスリリースではなく、Corte-IDHにおいてその主張を陳述すべきである。
(6)ゴンサレス-オラエチェア外相のアルゼンチン訪問
ゴンサレス-オラエチェア外相は、10日に行われたミレイ・アルゼンチン大統領就任式出席のため、7-11日に同国を訪問した。訪問中、フェリペ6世スペイン国王、モンディノ・アルゼンチン外相、ヴィエイラ伯外相、コーエン・イスラエル外相と会談を行った。
(7)国会による米州人権擁護システムの改革のためのハイレベル委員会設置案
15日、国会本会議にて米州人権擁護システムの改革提案準備に係るハイレベル委員会設置に関する法案について第1回目の投票が行われ、可決された。最終的な可決のためには、3月に開会する次期会期において実施される第2回目の投票において再度可決される必要がある。ハイレベル委員会の主な職務としては、米州人権擁護システムの構成・機能及びペルー国との関係について現状分析を行い、機関の改革に関する提案を作成することを予定している。
(8)オスロ条約での貯蔵クラスター弾廃棄義務の履行完了
15日、ペルーは、クラスター弾に関わる条約(オスロ条約)での義務に基づき、独・ノルウェーによる支援の下、陸軍が貯蔵するクラスター弾のすべての廃棄を完了した。ペルーによる上記義務の履行により、全締約国の上記義務の履行が完了した。
(9)Corte-IDHによるフジモリ元大統領釈放関係の決議発出
19日、Corte-IDHは概要以下の決議を発出した。
ア ペルー国に対し、アルベルト・フジモリ氏に与えられた恩赦を中心に、アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件での捜査・起訴・処罰する義務について監督を強めることとする。
イ フジモリ氏に対する恩赦についてCorte-IDHはその執行を控えるべきと命令したがペルー国はこれに従わず、Corte-IDHの決議を侮辱してきた。
ウ アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件の判決によって確定したペルー国の捜査・起訴・処罰する義務の遵守に係る報告書を2024年3月4日までにCorte-IDHに提出するよう命じる。また、ペルー国は、Corte-IDHが必要と考える間、3か月ごとに報告書を提出する。
(10)19日付けCorte-IDH決議に対する外務省・法務人権省共同プレスリリース発出
22日、外務省及び法務人権省は、概要以下の共同プレスリリースを発出した。
ア アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件に係るCorte-IDHの判決は、ペルー国が加盟している国際条約の規定内で執行されてきている。よって、当国による侮辱行為は行われていない。
イ Corte-IDHに求められた報告書を2024年3月4日までに提出する。
(当館注1)ケイコ党首及び人民勢力党旧執行部は、2011年及び2016年の選挙キャンペーン中、献金を隠すためにマネーロンダリングを行ったとされている事件。
(当館注2)1992年、リマ州バランカ郡パティビルカ町において、準国軍兵士(コリーナ部隊)によりテロリストと疑われた6名が誘拐された後、殺害された事件。
(当館注3)新刑法は2004年から国内一部で施行を開始し、その後徐々に施行地域を拡げた後、2021年に国内全域での施行となったが、当該施行前に発生した刑事事件を旧刑法に基づいて裁く法廷。
(当館注4)2018年、クチンスキー大統領(2016-2018)に対する2度目の罷免要求があった際、同大統領が罷免を避けるため、国会議員を買収したとされる事件。ママニ議員(人民勢力党)がケンジ氏を含む国会議員3名の収賄の証拠となるビデオを録画した。
(当館注5)1992-1993年、準国軍兵士(コリーナ部隊)がラ・カントゥタ教育大学に押し入り、テロリストと見られていた教授・学生を殺害した事件。
(当館注6)1991年、準国軍兵士(コリーナ部隊)がアルトス地区の建物に押し入り、テロリストと間違えて集まっていた民間人を殺害した事件。
1 内政
●1日、ボルアルテ大統領は、ピウラ州ピウラ市においてエルニーニョ対策を発表等した。
●1日、イカ第1準備調査裁判所は、同裁判所(イカ第1準備調査裁判所)にはフジモリ元大統領の釈放に係る権限がないため、憲法裁判所にすべての関係書類を返却する旨を表明した。4日、憲法裁判所は、国家刑務所庁及びバルバディージョ刑務所に対し、フジモリ元大統領の即時恩赦を準備するよう命じ、6日、フジモリ元大統領は、同刑務所から出所した。同日、アラヤ法務人権大臣及びゴンサレス-オラエチェア外務大臣は、上記釈放に関し、司法機関の判決を遵守・執行することは行政機関の義務である旨を表明した。
●1日、ケイコ・フジモリ人民勢力党党首が告訴されているコクテル事件に係る公判の開始が決定した。
●3日、ベナビデス検事総長の元主任顧問であるビジャヌエバ容疑者は検察官に対し、国会議員と交わしていたチャットについて認め、これがベナビデス検事総長に頼まれたものだった旨を供述した。
●5日、ベナビデス検事総長は国会監査委員会に出頭し、(1)国会議員とのチャットは操作されたものである、(2)同検事総長が抗議デモ中の死亡事件を捜査しており、ボルアルテ大統領等を近々告訴する予定だったことが嗅ぎつけられて、検事総長の職から自分を追い出そうとされた、(3)11月27日早朝の関係者と会合は、ボルアルテ大統領等に対する憲法上の告訴準備のためであったと発言した。
●6日、国家警察創立35周年式典に出席したボルアルテ大統領は、治安対策について説明した。
●6日、国会本会議は、法務人権委員会が10日間全国司法審議会(JNJ)を審議するとの動議について討議することを否決したものの、JNJがベナビデス氏の検事総長の職を一時的に停止したことを受けて、11日、国会の党・会派のスポークスパーソン会合にて、JNJメンバーの即時解任に関する動議を本会議で優先的に討議することを決定した。15日、ソト国会議長は、上記動議に関し、JNJメンバーは適切な時期に改めて召喚される旨を発表した。同日、国会は6日に否決した上記動機について再検討することとし、再検討の結果、法務人権委員会が10日間JNJメンバーを調査することを可決した。
●6日、JNJは、ベナビデス検事総長に対する即時の懲戒手続きに係る聴聞会を行った後、同氏に対し検事総長の職を6か月間停止することを満場一致で決定した。12日、リマ高等裁判所は、ベナビデス検事総長(停職中)から提出された上記の即時懲戒手続きに対する保護訴訟を承認した。
●7日、ボルアルテ大統領は就任一周年の演説を行った。
●11日、サンチェス臨時検事総長は、バレト検察官を政治汚職に係る検察特別チーム(Eficcop)調整検察官に復職させることを決定した。
●11日、ビジェナ最高検察官が臨時検事総長に就任した。また、同日、最高検察官委員会は国家選挙審議会に派遣中のエスピノサ最高検察官を同委員会に戻すことを決め、13日、同最高検察官は同委員会に復帰した。
●14日、国会本会議は空席となっていた憲法裁判所裁判官としてエルナンデス氏を選出した。
●JNJメンバーの年齢と憲法の規定との関係で9月22日に設置された憲法告訴小委員会は、15日、JNJメンバーに対する聴聞会を終了し、同小委員会の報告者が最終報告書を提出する旨決定した。
●15日、国会は閉会した。
●18日、パティルビルカ事件に関しフジモリ元大統領に対する公判が開始した。
●19日、ボルアルテ大統領は、2023年総括を発表した。
●22日、ママニビデオス事件の再審に関し、ケンジ・フジモリ元国会議員に対する公判が開かれ、最高裁判所は1月に判決を下すことを決定した。
2 国際関係
●4日、憲法裁判所は、米州人権裁判所(Corte-IDH)の権限に関する見解を示した。
●5日、Corte-IDH長官は、ペルーに対し、ラ・カントゥタ事件及びアルトス地区事件に関するフジモリ元大統領への判決の監視として、恩赦の執行を控えるべきとの決議を発出した。
●8日、外務省は、グアテマラ総選挙に関し公式声明を発出した。
●8日、米州人権委員会(CIDH)は、フジモリ元大統領釈放に関し、(1)憲法裁判所による命令はペルー国の国際義務違反であり、Corte-IDHの決議不履行である、(2)ペルー国は米州人権条約の適切な履行を実現する義務がある旨のプレスリリースを発出した。
●9日、OASペルー代表は、8日付けCIDHプレスリリースに関しXにて反論した。
●10日のアルゼンチン新大統領就任式出席のため、7-11日、ゴンサレス-オラエチェア外相は同国を訪問した。
●15日、国会本会議は、米州人権擁護システムの改革提案準備に係るハイレベル委員会設置案を可決した(最終的な可決のためには、次期会期での再度の可決が必要)。
●15日、オスロ条約上の義務に関し、ペルーは貯蔵クラスター弾の廃棄を完了した。
●19日、Corte-IDHは、フジモリ元大統領釈放に関し、(1)ペルー国に対し、アルベルト・フジモリ氏に与えられた恩赦を中心に監督を強める、(2)ペルー国はCorte-IDHの決議を侮辱してきた、(3)アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件の判決によって確定したペルー国の義務の遵守に係る報告書を2024年3月4日までにCorte-IDHに提出するよう命じる旨の決議を発出した。
●22日、外務省及び法務人権省は、19日付けCorte-IDH決議に関し、(1)アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件に係るCorte-IDHの判決は、ペルー国が加盟している国際条約の規定内で執行されており、侮辱行為は行われていない、(2)求められた報告書は期限内に提出する旨の共同プレスリリースを発出した。
【本文】
1 内政
(1)ボルアルテ大統領によるエルニーニョ対策の発表等
1日、ボルアルテ大統領はピウラ州ピウラ市にてエルニーニョ対策について発表等を行った。
ア ボルアルテ大統領発言
(ア)我が政府は、エルニーニョ現象に立ち向かい、国民を保護できるよう効果的な予防措置を実施している最初の政府である。
(イ)事前にエルニーニョ現象に対処するため調達した機材(※)を初めてピウラ州にて供与する。この数か月間、災害予防に取り組んできており、川底を何十キロにもわたり清掃してきている。また、緊急時対応のため人道支援物資を備蓄する倉庫も準備している。
(ウ)政府は、今後もピウラ州と北部全域の包括的開発を促進していく。
イ ボルアルテ大統領は、川の氾濫や洪水を予防するピウラ州での雨水貯水・排水代替システム(SARE)の進捗を視察した。
(※)住宅建設上下水道省は、4億2,200万ソレスの予算を使用して、モーターポンプ、貯水タンク、バケツ機、ハイドロジェット、移載機、ダンプトラック等の機材416ユニットを調達した。これによりトゥンベス州、ピウラ州、ランバエケ州、アンカシュ州、リマ州、イカ州及びカハマルカ州の1,460万人の住民が裨益する予定。
(2)フジモリ元大統領の釈放・その1
1日、イカ第1準備調査裁判所は、憲法訴訟法の規定に従い、フジモリ元大統領の釈放は恩赦判決を下した裁判所によって執行されるものであり、同裁判所(イカ第1準備調査裁判所)に権限がなく、執行は不適切であるとして、憲法裁判所にすべての関係書類を返却する旨を表明した。
(3)ケイコ・フジモリ人民勢力党党首に対する公判開始の決定
1日、全国第4準備調査裁判所の判事は、コクテル事件(当館注1)に関するケイコ・フジモリ人民勢力党党首他への告訴に関し、公判の命令を発出した。
(4)フジモリ元大統領の釈放・その2
4日、憲法裁判所は、国家刑務所庁及びバルバディージョ刑務所に対し、フジモリ元大統領の即時恩赦を準備するよう命じた。
(5)ベナビデス検事総長等に対する捜査・その1
3日、ベナビデス検事総長の元主任顧問であるビジャヌエバ容疑者は検察官に対し、国会での投票操作のため国会議員と交わしていたチャットについて認め、また、これはベナビデス検事総長に頼まれたものだった旨を供述した。
(6)ベナビデス検事総長等に対する捜査・その2
5日、ベナビデス検事総長は国会監査委員会に出頭し、概要以下のとおり発言した。
ア 国会議員とのチャットは操作されたものである。同検事総長が抗議デモ中の死亡事件を捜査していたことが、同検事総長等に対する捜査を引き起こした理由の1つである。また、死亡事件に関し、ボルアルテ大統領、オタロラ首相等への告訴を行う予定が嗅ぎつけられて、検事総長の職から自分を追い出そうとしたものである。
イ 11月27日早朝、関係者と会合をしていたのは、ボルアルテ大統領やオタロラ首相等に対する憲法上の告訴を準備していたためである。
(7)ボルアルテ大統領の国家警察創立35周年式典出席
6日、ボルアルテ大統領は、国家警察創立35周年式典において、国内の平和を強化し、発展を見いだせるよう団結と対話を国民に対し呼びかけた。また、以下のとおり説明した。
ア 2024年には治安対策に50億ソレスが割り当てられ、これには警察署増設とパトロール強化が含まれている。
イ 数日前、国家警察にはパトロール及び運営能力強化のため最新の小型トラック150台を供与した。本日までに300台の車両が既に供与されており、数日内に小型トラック200台の供与も追加され、年末までに500台を達成する。
(8)フジモリ元大統領の釈放・その3
ア 6日、フジモリ元大統領は、恩赦によりバルバディージョ刑務所から出所した。
イ 同日、アラヤ法務人権大臣及びゴンサレス-オラエチェア外務大臣は、フジモリ元大統領の釈放に関してテレビ映像を通じ、司法機関の判決を遵守・執行することは行政機関の義務である旨を表明した。
(9)国会による全国司法審議会(JNJ)審議・その1
6日、国会本会議は、賛成60、反対40、棄権15により、法務人権委員会が10日間JNJを調査するとの動議について討議することを否決した(可決には賛成64票が必要)。これにより、JNJによるベナビデス検事総長に対する即時の懲戒手続きが停止されることはなくなった。
(10)JNJによるベナビデス検事総長に対する審議・その1
6日、JNJは、ベナビデス検事総長に対する聴聞会を開催した後、全体会合において、即時の懲戒手続きが通常どおり進み、同検事総長の妨害がないようにし、効果ある最終決定を得るため、同氏の検事総長の職を6か月間または同検事総長に対する調査が終了するまで停止することを満場一致で決定した。ベナビデス検事総長は、JNJは適正手続きを踏んでいないとして聴聞会において返答しなかった。
(11)ボルアルテ大統領による就任一周年演説
7日、ボルアルテ大統領は、概要以下の就任一周年演説を行った。
ア 1年前、民主主義を守るため議会はカスティージョ前大統領を罷免する決断を下した。 ペルーの歴史上初の女性大統領就任であり、重大な責任を自覚した。
イ 政府は、景気浮揚策、市民の安全及びエルニーニョ現象への対応に焦点を当てている。
ウ エルニーニョ現象については、地域の川床の清掃及び沈泥の除去など前例のない多方面にわたる対策を行っている。
エ 本日、自分はこの国と関係機関に対する確固たるコミットメントを新たにする。
(12)バレト検察官の政治汚職に係る検察特別チーム(Eficcop)調整検察官復職
11日、サンチェス臨時検事総長の決定によって、ベナビデス検事総長によりEficcop調整検察官の職を解かれていたバレト検察官は同職に復帰することとなった。
(13)検察庁の動き
ア 11日、ビジェナ最高検察官が臨時検事総長に就任した。
イ 同日、最高検察官委員会はエスピノサ最高検察官を国家選挙審議会に派遣する旨の決定を無効とし、13日、同最高検察官は同委員会に復帰した。
(14)国会によるJNJ審議・その2
11日、国会の党・会派のスポークスパーソン会合にて、JNJがベナビデス氏の検事総長の職を一時的に停止したことに関連し、JNJメンバーの即時解任に関する動議を本会議で優先的に討議することを決定した。
(15)JNJによるベナビデス検事総長の審議・その2
12日、リマ高等裁判所は、停職中のベナビデス検事総長から提出されていたJNJによる同検事総長への即時の懲戒手続きに対する保護訴訟に関し、これを承認した。同裁判所は、3月に両者からの意見等を聴取予定。
(16)憲法裁判所裁判官の選出
14日、国会本会議は、賛成103、反対15、棄権7により、憲法専門の弁護士であるエルナンデス氏を憲法裁判所の裁判官に選出した。これにより同裁判所の定員7名が満たされた。
(17)憲法告訴小委員会によるJNJ審議
JNJメンバー1名が75歳以上であり、これが憲法第156条第3項に抵触するのではないかとの疑義を審議するために9月22日に設置された憲法告訴小委員会は、15日、JNJメンバーに対する聴聞会を終了し、今後、同小委員会からの質問にJNJが回答した後、同小委員会の報告者は最終報告書を同小委員会に提出することを決定した。
(18)国会によるJNJ審議・その3
15日、ソト国会議長は、JNJメンバーの即時解任に関する動議に関し、同メンバー
は改めて適切な時期に召喚される旨を発表した。同メンバー1名は、11月から入院しており、もう1名は自分たちへの告発の内容について明確にすべきであり、その上で再度召喚すべきと訴えていた。
(19)国会によるJNJ審議・その4
15日、国会本会議は、6日に否決した法務人権委員会が10日間JNJを調査するとの動議について再検討することを賛成67、反対26、棄権11により可決した。再検討の結果、賛成65、反対25、棄権12により上記動議を可決した。
(20)国会閉会
15日、7月27日に開会した国会は閉会した。次期会期は3月1日に開始予定。
(21)フジモリ元大統領のパティビルカ事件に係る公判開始
18日、検察側がフジモリ元大統領に対し禁固25年を求刑しているパティビルカ(Pativilca)事件(当館注2)に関し、刑事専門高等裁判所・刑事事件清算臨時高等法廷(Sala Penal Superior Nacional Liquidadora Transitoria de la Corte Superior Nacional de Justicia Penal Especializada)(当館注3)は公判を開始した。
(22)ボルアルテ大統領による2023年総括
19日、ボルアルテ大統領は、2023年の総括として概要以下のとおり発表した。
ア 我が政権は、国の権力間の均衡を保つことにより、ペルーが必要としていた民主的安定をもたらした。ペルーに多大なダメージを与えた行政府と国会の対立は過去に葬った。
イ 我が政権は、法の支配及び民主主義を尊重している。フジモリ元大統領の釈放は、憲法裁判所の命令であり、行政府はこの命令を尊重しなければならない。
ウ 昨年12月から本年1月の抗議デモにおける死亡事件については、検察庁に対し追加の予算を割り当て、捜査を迅速に行えるようにした。
エ 犯罪との闘いを強化するために36の法令が承認された。また、国家警察は、100万件以上の作戦を実施し、6万6,000人を指名手配犯を逮捕し、168の犯罪組織を解体した。
オ 9つの州に15の新医療機関が設立され、10億ソレス以上を投資して200万人以上の人々が診察を受けている。高品質で低価格な医薬品入手のため、地方政府と協力して、ミンサファルマと呼ばれる慢性病患者に適正な価格での医薬品提供を行う保健省の薬局を運営している。
カ エル・ニーニョ現象対応のため、雨水排水設備他に45億ソレスの予算が使用されてきた。
(23)ケンジ・フジモリ元国会議員のママニビデオス事件に係る公判
22日、2022年12月にママニビデオス(Mamanivideos)事件(当館注4)に関し最高裁判所により禁固4年6か月の判決を受けたフジモリ元大統領の息子のケンジ元国会議員に対する再審において、同裁判所は聴聞を終了し、1月に判決を下すことを決定した。
2 国際関係
(1)米州人権裁判所(Corte-IDH)の権限に関する憲法裁判所見解
4日、憲法裁判所は、Corte-IDHの権限に関して以下の見解を示した。
ア Corte-IDHは、米州人権条約の規定により、ある加盟国に対しCorte-IDHによって命じられた判決が未執行である場合、Corte-IDHは米州機構(OAS)に当該不作為を報告する権限が与えられている。
イ Corte-IDHが判決執行の監視と称して、加盟国の国内裁判所に対し当該裁判所が下した判決を執行しないよう命令するのは権限外のことである。
(2)Corte-IDH長官によるフジモリ元大統領釈放に関する決議発出
5日、Corte-IDH長官は、ペルーに対し、ラ・カントゥタ事件(当館注5)及びアルトス地区事件(当館注6)に関するフジモリ元大統領への判決の監視として、憲法裁判所の決定が定められた条件を満たしているか分析されるまで、恩赦の執行を控えるべきとの決議を発出した。
(3)米州人権委員会(CIDH)によるフジモリ元大統領釈放に関するプレスリリース発出
8日、米州人権委員会(CIDH)は、概要以下のプレスリリースを発出した。
ア 憲法裁判所によるフジモリ元大統領の釈放命令は、ペルー国の国際義務違反であり、Corte-IDHの決議不履行である。
イ ペルー国のすべての当局に対し、米州人権条約の適切な履行を実現する義務がある旨を念押しする。
(4)グアテマラ総選挙に関する外務省声明
8日、外務省は、昨年6月に実施されたグアテマラ総選挙に関し、同日グアテマラ検察庁が発表したその有効性を疑問視する声明について深い懸念を表明する旨、また、ペルーは同国各機関に対し、当選者が1月14日に就任できるよう、同国最高選挙裁判所の決定の尊重を求める旨の公式声明を発出した。
(5)OASペルー代表によるCIDHプレスリリースに関するXでの発信
9日、OASペルー代表は、Xにより概要以下のとおり発信した。
ア CIDHは、ラ・カントゥタ事件でもアルトス地区事件でもCorte-IDHにおいて原告側となっているため、8日付けCIDHプレスリリースは原告側の視点を反映したものであり、公平な情報内容及び目的が欠けている。
イ CIDHはプレスリリースではなく、Corte-IDHにおいてその主張を陳述すべきである。
(6)ゴンサレス-オラエチェア外相のアルゼンチン訪問
ゴンサレス-オラエチェア外相は、10日に行われたミレイ・アルゼンチン大統領就任式出席のため、7-11日に同国を訪問した。訪問中、フェリペ6世スペイン国王、モンディノ・アルゼンチン外相、ヴィエイラ伯外相、コーエン・イスラエル外相と会談を行った。
(7)国会による米州人権擁護システムの改革のためのハイレベル委員会設置案
15日、国会本会議にて米州人権擁護システムの改革提案準備に係るハイレベル委員会設置に関する法案について第1回目の投票が行われ、可決された。最終的な可決のためには、3月に開会する次期会期において実施される第2回目の投票において再度可決される必要がある。ハイレベル委員会の主な職務としては、米州人権擁護システムの構成・機能及びペルー国との関係について現状分析を行い、機関の改革に関する提案を作成することを予定している。
(8)オスロ条約での貯蔵クラスター弾廃棄義務の履行完了
15日、ペルーは、クラスター弾に関わる条約(オスロ条約)での義務に基づき、独・ノルウェーによる支援の下、陸軍が貯蔵するクラスター弾のすべての廃棄を完了した。ペルーによる上記義務の履行により、全締約国の上記義務の履行が完了した。
(9)Corte-IDHによるフジモリ元大統領釈放関係の決議発出
19日、Corte-IDHは概要以下の決議を発出した。
ア ペルー国に対し、アルベルト・フジモリ氏に与えられた恩赦を中心に、アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件での捜査・起訴・処罰する義務について監督を強めることとする。
イ フジモリ氏に対する恩赦についてCorte-IDHはその執行を控えるべきと命令したがペルー国はこれに従わず、Corte-IDHの決議を侮辱してきた。
ウ アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件の判決によって確定したペルー国の捜査・起訴・処罰する義務の遵守に係る報告書を2024年3月4日までにCorte-IDHに提出するよう命じる。また、ペルー国は、Corte-IDHが必要と考える間、3か月ごとに報告書を提出する。
(10)19日付けCorte-IDH決議に対する外務省・法務人権省共同プレスリリース発出
22日、外務省及び法務人権省は、概要以下の共同プレスリリースを発出した。
ア アルトス地区事件及びラ・カントゥタ事件に係るCorte-IDHの判決は、ペルー国が加盟している国際条約の規定内で執行されてきている。よって、当国による侮辱行為は行われていない。
イ Corte-IDHに求められた報告書を2024年3月4日までに提出する。
(当館注1)ケイコ党首及び人民勢力党旧執行部は、2011年及び2016年の選挙キャンペーン中、献金を隠すためにマネーロンダリングを行ったとされている事件。
(当館注2)1992年、リマ州バランカ郡パティビルカ町において、準国軍兵士(コリーナ部隊)によりテロリストと疑われた6名が誘拐された後、殺害された事件。
(当館注3)新刑法は2004年から国内一部で施行を開始し、その後徐々に施行地域を拡げた後、2021年に国内全域での施行となったが、当該施行前に発生した刑事事件を旧刑法に基づいて裁く法廷。
(当館注4)2018年、クチンスキー大統領(2016-2018)に対する2度目の罷免要求があった際、同大統領が罷免を避けるため、国会議員を買収したとされる事件。ママニ議員(人民勢力党)がケンジ氏を含む国会議員3名の収賄の証拠となるビデオを録画した。
(当館注5)1992-1993年、準国軍兵士(コリーナ部隊)がラ・カントゥタ教育大学に押し入り、テロリストと見られていた教授・学生を殺害した事件。
(当館注6)1991年、準国軍兵士(コリーナ部隊)がアルトス地区の建物に押し入り、テロリストと間違えて集まっていた民間人を殺害した事件。