ペルー政治情勢 2013年
7月の内政と外交
1 概要
(1)市民サービス法が公布され,国内各地で同法に反対する労働者等の抗議活動が相次いだ。
(2)行政府では,通商観光大臣,開発社会包摂大臣,及び文化大臣が交代し,新たに3名の女性大臣が入閣した。
(3)立法府では,人権擁護官,憲法裁判所判事,中銀理事が選出されたが,後日右投票の取り消し投票が行われ,右人事が白紙に戻った。また,国会執行部選挙が実施され,オタロラ新国会議長が選出された。
(4)外交では,リバス外相がブラジルを公式訪問した一方,キム世銀総裁及びカプリレス・ベネズエラ元大統領候補が当地を訪問した。
2 内政 (1)市民サービス法及び大学法に対する抗議活動
4日,全国各地で市民サービス法及び大学法に対する抗議活動が行われ,リマでは国会付近で抗議参加者と警察部隊とが衝突し,警察は放水車や催涙ガスを使用しデモ隊に対抗する騒動となった。今次衝突で,大学生1名と警察官3名が負傷した他,抗議者4名が逮捕された。今回のデモはペルー労働者総連盟(CGTP)と国家公務員労働組合(CITE)の呼び掛けにより行われ,アレキパ市,チクラヨ市,カハマルカ市等の地方都市でも労働者を中心とする抗議活動が行われた。
(2)市民サービス法の公布 4日,当月2日に国会で承認された(賛成59票,反対45票,棄権3票)国家公務員法にあたる市民サービス法が公布された。同法は,公的機関に勤務する労働者の管理制度の統一化,並びに労働者の質の向上と雇用条件の改善を目指しており,全公務員の41%(約50万人)が対象となる。今後6年かけて現行の制度から漸次移行される予定である。また同法では,労働者の評価システムが導入されることで,労働者の間では大規模な解雇につながるとの懸念が生じたことに加え,団体交渉権の一部に制限が設けられたことで,労働者にとり不都合になるとして,労働者総連及び公務員組合からは反発が生じ,同法をめぐり抗議活動が相次いだ。
(3)国会会期の再延長 4日,国会は, 人権擁護官他の人事選出のために今次会期を17日まで再延長する旨発表した。
(4)国会議員の会派離脱及び新たな会派の結成 15日,エンリケ・ウォン議員は大変革のための連合(AGC)会派から離脱し,25日に国民連帯(SN)会派への参加を発表した。また,24日にはペルー・ポシブレ(PP:トレド派)の議員5名が会派内における意見の相違を理由に同会派から離脱し,新たに「地域同盟(UR)」会派の結成を表明した。右会派には,既に(6月)AGCから離脱していたシモン議員及びウンベルト・ライ議員が加わった。この結果,国会内会派は,PPが10議員,AGCが9議員,SNが9議員,URが7議員となった。
(5)憲法裁判所判事,人権擁護官,中銀理事の選出 17日,国会本会議にて,任期切れ以降も後任が選出されず職務を遂行していた憲法裁判所の新判事(6名),離任後代行が務めていた人権擁護官(1名),空席であった中銀理事(3名)が選出された。しかし,今次選挙をめぐり,与党国民主義−勝利するペルー(GP)会派,トレド派のペルー・ポシブレ(PP)会派,国会最大野党のフジモリ派及びAGCとの間の事前談合で候補者の振り分けが行われたこと,及び今般選出された憲法裁判所判事及び人権擁護官については,その適性が疑問視されたことを受け,24日に開かれた臨時国会で,今次選出投票の取消しのための投票が行われ,右人事全ての無効が決定した。
(6)閣僚の交代 24日,シルバ通商観光相,トリベリ開発社会包摂相,ペイラノ文化相に代わり,新たに以下の3名の女性大臣が任命された。これにより,現内閣のうち半数が女性の大臣となった。
通商観光相:マガリ・シルバ (生産省副大臣(中小企業・工業担当)より)
開発社会包摂相:モニカ・ルビ (米州開発銀行(IDB)コロンビア事務所シニア・エコノミストより)
文化相:ディアナ・アルバレス(リマ市ミラフローレス区役所顧問より)
(7)日本大使公邸占拠事件チャビン・デ・ワンタル作戦にかかる最高裁判決 24日,最高裁臨時刑事法廷は,審理の結果,客年10月15日にリマ高裁第3刑事清算法廷が言い渡したチャビン・デ・ワンタル作戦にかかる判決の無効請求の棄却を決定した旨発表し,右をもってテロ組織トゥパク・アマル革命運動(MRTA)の「ティト」ことエドゥアルド・クルス・サンチェス他2名の処刑疑惑にかかるモンテシノス元国家諜報局(SIN)顧問,エルモサ元三軍統合司令官及びワマン元大佐(元SIN局員)の本件に関しての無罪を認めた。
(8)国会新執行部選出選挙の実施 26日,国会新執行部選挙が行われ,与党連合及び野党連合の双方から提出された候補者リストのうち,オタロラ議員を議長候補とする与党連合リストが75票を獲得して当選した。この結果,2013年−2014年期の国会執行部メンバーは以下に決定した。
国会議長:フレディ・オタロラ議員(与党国民主義−勝利するペルー会派)
第一副議長:カルメン・オモンテ議員(ペルー・ポシブレ会派)
第二副議長:ルイス・イベリコ議員(大変革のための連合会派)
第三副議長:ホセ・ルナ議員(国民連帯会派)
(9)大統領教書演説
28日,ウマラ大統領は国会にて政権3年目に向けた大統領教書を発表し,教育,社会政策,保健,インフラ,産業開発,鉱業,環境・文化,治安,外交の各分野における政策について言及した。また,同教書ではこれまでのマクロ経済成長を維持し,現政権の発足当初からの重要政策である社会的包摂に取り組む旨が強調された。
(10)ウマラ大統領支持率 ア ダトゥム社:6月28日〜7月2日実施,全国(対象1200名)
支持 39%(47%) 不支持 54%(46%)
イ CPI社:10日〜14日実施,全国都市部(対象1450名)
支持 35.9%(49.4%) 不支持 61.4%(45.2%)
ウ アポヨ社:13〜19日実施,全国(対象1360名)
支持 33%(41%) 不支持 59%(53%)
エ Gfk社:15〜17日実施,全国都市部(対象1251名)
支持 32%(39%) 不支持 61%(55%)
3 外交
(1)キム世銀総裁の当地訪問
1日及び2日,当地を訪問したキム世銀総裁は,ウマラ大統領と会談し,社会的包摂,教育,貧困等のテーマについて話し合いを行った。会談後,両者は,基礎教育に関する教育省のシステム改善にかかる協定に署名した。また2日,キム総裁は,トリベリ開発社会包摂相(当時),ナディン・エレディア大統領夫人等と共にクスコ州カルカ郡ラマイ町を訪問し,貧困層の生活改善と発展のために,引き続きペルーの各種社会プログラムを支援する旨述べた。
(2)ボリビア大統領専用機の飛行拒否問題に対する声明
3日,ペルー外務省は,南米諸国連合(UNASUR)の議長国として,欧州において大統領専用機の領空通過及び着陸が拒否されたモラレス・ボリビア大統領を支持するコミュニケを発出し,大統領を危険にさらす右行為に対して憤りと不快感を表明すると同時に,関係国に対して本件の説明を求めた。
(3)ペルー・チリ領海境界線画定判決の日程
11日,国際司法裁判所(ICJ)は,ペルー・チリ両国に対し,ICJの夏期休暇以降にペルー・チリ領海境界線画定裁判の判決を下すと通知した。客年12月に口頭弁論が行われた同裁判は,本年7月頃に判決が下ると予想されていたが,ICJの判事が休暇を終えハーグに戻るのは8月末になるため,判決が下るのは9月以降になる見込みである。
(4)ロハス外務副大臣のメルコスール首脳会合出席
11日及び12日,モンテビデオで第45回メルコスール共同市場会合及びメルコスール首脳会合が開かれ,準加盟国のペルーからはロハス外務副大臣が出席した。今次会合では,ペルーをはじめとする中南米の参加国から,モラレス・ボリビア大統領の専用機飛行拒否問題に関して欧州諸国に対する非難の声が寄せられた他,首脳会合ではメルコスールが,欧州4か国(西,伊,仏,葡)にあるメルコスール加盟国の大使を協議のため招集するとのメッセージを発出した。
(5)カプリレス・ベネズエラ元大統領候補の当地訪問
20日,カプリレス・ベネズエラ元大統領候補(現ミランダ州知事)がペルーを訪問し,ガルシア前大統領,フローレス・キリスト教人民党代表他,野党政治家との会合を行い,大統領選挙後のベネズエラ情勢について報告した。カプリレス元候補は,南米諸国連合(UNASUR)の議長であるウマラ大統領との会談を期待していたが,ウマラ大統領は同日プノ州で開催された閣僚会議に出席したため実現しなかった。
(6)リバス外相のブラジル訪問
24日,リバス外相はブラジルを公式訪問し,パトリオタ伯外相と二国間関係について会談した。両外相は,開発及び社会包摂,保健,教育分野と併せて麻薬取引対策及び違法鉱山問題においても二国間の協力を強化することで合意した。また両外相は,アマゾン及びアンデス高地の土壌の管理,及び共有用材林の活用にかかる2協定に署名した。
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