ペルー政治情勢 2014年

2月の内政と外交


1 概要
(1)米州人権裁判所で日本大使公邸占拠事件のチャビン・デ・ワンタル救出作戦に関する裁判が行われた。
(2)政府は,国家公務員法にあたる「市民サービス法」の枠組みの一環として,大臣を含む政府高官に対する給料の大幅な値上げを決定した。
(3)ビヤヌエバ首相が辞任し,コルネホ新内閣が発足した。新内閣では,首相を含め8名が新任又は転任であった。
(4)ペルー・チリ間の領海境界線画定にかかるチリとの政策協議(2+2)会合が開催され,両国間の協力の下,右画定にかかる具体的な作業が開始された。
(5)ペルー外務省は,チリとの領海境界線画定問題で,チリから送られた抗議文書に対する回答を在ペルー・チリ大使に手交した。
(6)ウマラ大統領は,コロンビアのカルタヘナで開催された第8回太平洋同盟首脳会合に出席した他,中東3ヵ国(イスラエル,パレスチナ,カタール)を歴訪した。
(7)欧州議会は,シェンゲン領域28ヵ国を訪問するペルー人及びコロンビア人に対する,3ヶ月以内の短期滞在ビザの免除を認める法を賛成多数で可決した。


2 内政

(1)米州人権裁判所における日本大使公邸占拠事件のチャビン・デ・ワンタル救出作戦に関する裁判
 3日及び4日,コスタリカの米州人権裁判所にて,日本大使公邸占拠事件のチャビン・デ・ワンタル救出作戦に際しての処刑疑惑に関する公判が行われた。同公判で,ペルー側弁護団のウエルタ・ペルー政府国家訴訟代理人は,原告側証人による救出作戦時にテロリストが生きていたとする証言は,証拠に欠ける旨主張すると同時に,同作戦ではいかなる処刑も行われていない点を主張した。なお,本件判決は7月か8月に下る見込みである。

 

(2)政府高官に対する給料値上げ
 8日,政府は,国家公務員法にあたる「市民サービス法」の枠組みの一環として,大臣を含む政府高官に対する給料の大幅な値上げを決定した。これにより,大臣の場合は,現行の約1万5千ソルが3万ソルになり約2倍の値上げとなった。
12日,右に対する国内諸勢力からの反発を受け,ビヤヌエバ首相,カスティーヤ経済財政相,フィガロ法務人権相は,国会労働及び予算合同委員会において,右引上げの妥当性及び法的正当性について説明を行った。

 

(3)ビヤヌエバ首相辞任
 24日,ビヤヌエバ首相が,最低賃金引上げを巡る,ビヤヌエバ首相とナディン・エレディア大統領夫人及びカスティーヤ経済財政相との間における意見の相違により,辞意を表明した(辞表は23日に提出)。本件の発端となった最低賃金の引上げについては,ビヤヌエバ首相が,「カスティーヤ経済財政相と共に検討中である」と述べたのに対して,その後,ナディン夫人が公の場で「最低賃金の引上げについては現在議論の俎上にない」と首相の発言を打ち消したのに加えて,カスティーヤ経済財政相も最低賃金引上げの予定はないと,首相の発言を否定した。

 

(4)コルネホ新内閣発足
 24日,ビヤヌエバ首相の辞任に伴い,内閣が総辞職し,新たにコルネホ内閣が発足した。新内閣では,11名が再任し,首相を含む8名の大臣が交替した(うち3名は大臣からの転任,2名は副大臣からの昇格,3名が新任)。新内閣の顔ぶれは以下の通り。

 

 首相:レネ・コルネホ(住宅建設上下水道相より転任)
 外相:エダ・リバス(再任)
 国防相:ペドロ・カテリアノ(再任)
 経済財政相:ミゲル・カスティーヤ(再任)
 内務相:ワルテル・アルバン(再任)
 法務人権相:ダニエル・フィガロ(再任)
 教育相:ハイメ・サアベドラ(再任)
 保健相:ミドリ・デ・ハビッチ(再任)
 農業灌漑相:フアン・ベニテス(農業灌漑副大臣より昇格)
 労働雇用促進相:アナ・ハラ(女性社会的弱者相より転任)
 生産相:ピエロ・ゲシ(新任。バークレイ・キャピタル(ロンドン)所長)
 通商観光相:マガリ・シルバ(再任)
 エネルギー鉱山相:エレオドロ・マヨルガ(新任。石油・天然ガスの専門家)
 運輸通信相:カルロス・パレデス(再任)
 住宅建設上下水道相:ミルトン・フォンヘッセ(農業灌漑相より転任)
 女性社会的弱者相:カルメン・オモンテ(新任。国会第一副議長)
 環境相:マヌエル・プルガル・ビダル(再任)
 文化相:ディアナ・アルバレス・カルデロン(再任)
 開発社会包摂相:パオラ・ブスタマンテ(開発社会包摂副大臣より昇格)

(5)ウマラ大統領支持率(括弧内前月)
ア ダトゥム社:1月31〜2月4日実施,全国(対象1207名)
 支持 39%(31%)  不支持 56%(64%)
イ CPI社:1〜5日実施,全国主要都市(対象1450名)
 支持 40.7%(26.5%) 不支持 55.2%(69.8%)
ウ アポヨ社:12〜14日実施,全国都市部(対象1242名)
 支持 33%(26%) 不支持 60%(66%)
エ Gfk社:18〜19日実施,リマ首都圏及び全国主要都市(対象1263名)
 支持 21%(26%) 不支持 71%(66%)


3 外交

(1)ペルー・チリ間の領海境界線画定にかかるチリとの政策協議(2+2)会合の開催
 6日,1月27日に発表されたチリとの領海境界線画定にかかるICJ判決の履行に向けた具体的な作業日程を決定すべく,サンティアゴにて,ペルー・チリ政策協議(2+2)会合が開催された。本会合では,両国間の領海境界線の基点地を定めるための準備会合を2月17日及び18日に開始し,その後,2月24日から10日間に亘り,基点(A,B,C)の位置を特定する作業に取りかかり,右作業を3月24日か25日に終了することを決定した。

 

(2)ウマラ大統領の第8回太平洋同盟首脳会合出席
 8日,ウマラ大統領は,カルタヘナで開催された,第8回太平洋同盟首脳会合に出席した。同会合で,加盟各国の大統領は「太平洋同盟枠組協定第一追加議定書」への署名を行った。右は同盟発足後約2年間に亘り行われてきた通商交渉の合意内容を国際約束としたもので,同盟域内の貿易の92%に相当する物品・サービスが自由化され,残りの8%は,17年間のステージングで漸次自由化される。

 

(3)ウマラ大統領とピニェラ大統領の会談
 10日,太平洋同盟首脳会合のマージンで,ウマラ大統領は領海境界線画定にかかるICJ判決に関し,ピニェラ・チリ大統領と会談した。同会談で,ウマラ大統領は,「陸地の三角形」については1929年のリマ条約に照らせば,ペルーの国土の一部である旨主張し,ペルーの立場を明確にした。

 

(4)ウマラ大統領とサントス大統領との会談
 11日,ウマラ大統領は,サントス・コロンビア大統領と会談した。会談後,両首脳は,開発社会包摂,国境地域の統合,治安・防衛,貿易・投資,移民問題,麻薬対策,違法鉱業,科学・技術協力,環境の分野に関する共同宣言に署名し,両国の良好な関係を確認した。また,本年上半期に,両国間では初となる二国間合同閣議をペルーのイキトス市で開催することで合意した。

 

(5)ベネズエラ情勢に関する声明発表
 16日,ペルー政府は,ベネズエラで発生した暴力事件への懸念を表明する公式コミュニケを発表し,本事件の死傷者に対し哀悼の意を表すると共に,ベネズエラの政治勢力間での対話を呼びかけた。また,18日には,ウマラ大統領が,外遊先のイスラエルからベネズエラ情勢に関し平静と対話を呼びかける声明を発出した。

 

(6)ウマラ大統領の中東諸国訪問
 17日〜20日,ウマラ大統領は,リバス外相,カスティーヤ経済財政相,フォンヘッセ農業灌漑相と共に,イスラエル,パレスチナ及びカタールを訪問した。イスラエルでは,ペレス大統領と会談し,農業,教育,厚生分野における二国間関係の拡大と改善の必要性について一致した他,ネタニヤフ首相との会談では,両国間の貿易,科学,文化面における活動について意見交換を行った。また,18日には,パレスチナでアッバース大統領と会談し,二国間関係の再開と両国の協力分野に関して協議を行った。最後の訪問地であるカタールでは,同国首長と会談し,経済,貿易,投資,技術,文化,及びスポーツ分野における協力に関する協定に署名し,かかる分野での二国間関係の強化を表明した。

 

(7)チリとの領海境界線画定ICJ判決にかかるチリからの抗議文書に対する回答
 24日,ペルー外務省は,21日に在チリ・ペルー大使館を通じて受領した,チリとの領海境界線画定ICJ判決にかかるチリからの抗議文書に対する回答を在ペルー・チリ大使に手交した。同文書の中でペルー側は,ペルーが地元紙に掲載した地図は非公式なものである点を伝えると共に,陸の国境線の始点(コンコルディア地点)は,1929年のリマ条約及び1930年の両国国境合同委員会の合意書の中で定められており,陸の国境についての抗議文書を受領するのは不可思議である点を表明した。

 

(8)欧州議会におけるシェンゲン・ビザ免除の承認
 27日,欧州議会は,シェンゲン領域28ヵ国を訪問するペルー人及びコロンビア人に対する,3ヶ月以内の短期滞在ビザの免除を認める法を賛成多数で可決した(賛成523票,反対41票)。同ビザ免除の具体的な日程については未決定ではあるが,この先,本査証免除の対象となるEU28ヵ国の政府代表が加盟する欧州理事会による審理(6月頃)に続き,欧州委員会による二国間協定作成のための両国との交渉が行われた後,本格的な査証免除の実施となる。

 

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