ペルー政治情勢 2014年
6月の内政と外交
1 概要
(1)行政府では閣僚交代が行われ,グティエレス外相,ウレスティ内相及びガヤルド運輸通信相が新たに就任した。
(2)国会では,新大学法案が可決された他,第二次ガルシア政権期の汚職疑惑に関する9件の報告書のうちの1件で,通称"narcoindulto"と呼ばれる件につき,ガルシア前大統領及び当時の法務大臣2名を憲法違反で弾劾にかけることを提案する報告書を承認した。また,国会は3名の国会議員の120日間の議員資格停止も決定した。
(3)ウマラ大統領は,ボリビアで開催されたG77+中国首脳会合,及びメキシコで開催された第9回太平洋同盟首脳会合に出席した他,月末にはフランスを公式訪問した。
(4)当地では,「インカの道」の世界遺産登録記念式が開催され,ムニョス・チリ外相,オルギン・コロンビア外相他が来訪した他,メズアール・モロッコ外務・協力相がペルーを公式訪問した。
2 内政
(1)国会倫理委員会の再編
4日,国会倫理委員会のメンバー構成の再編が行われ,定員が15名から7名に減員され,ライ議員(UR:地域同盟会派)が再度委員長に就任した。倫理委員会は,客年10月に与党の提案により,議会の議席数に応じて各会派に対して委員の人数配分を決定する比例制が導入されていたが,今次再編で従来どおり,各会派から1名を選出するメンバー編成に戻された。
なお,今般の再編の発端には,2日に同委員会で行われた与党ウリベ議員の議員資格停止をめぐる投票があり,与党連合が同議員の資格停止を妨害すべく反対票を投じたことで,委員会における投票の公平性を維持出来なかったライ議員が委員長ポストを辞任した他,委員会の編成に疑問を呈した野党議員が委員会脱退を表明し,復帰の条件として,委員会のメンバー編成を各会派1名(定員7名)に戻すよう求めていた。
(2)健康保険庁傘下の医師によるストライキの解除
11日,5月13日より,賃上げを要求してストライキを行っていた健康保険庁(EsSalud)傘下の医師は,ストの一時解除を決定し,全業務を再開した。他方,同時期にストを開始した保健省(Minsa)傘下の医師はストを継続。
(3)リマ市長選挙候補者の発表
16日,10月の統一地方選挙に向けた各党内での候補者選出期間が締切られ,リマ市長候補については12名の候補者が発表された。右12名には,ビヤラン現リマ市長(近隣対話党),カスタニェダ前リマ市長(国民連帯党),エレシ・現リマ市サン・ミゲル区長(ペルー・安全な祖国党),コルネホ元運輸通信相(アプラ党),サンチェス=アイスコルベ現リマ市ラ・ビクトリア区長(人民勢力党),ボニファス・元リマ市ミラフローレス区議会議員(ソモス・ペルー党),カスティーヨ現リマ市ロス・オリーボス区長(恒常的団結党),アルトゥベ・リマ市議会議員(バモス・ペルー党),セア・リマ市議会議員(キリスト教人民党),ゴンサレス元リマ市長候補(直接的民主主義党)等政治・行政経験者が名を連ねた他,進歩のための同盟党からは元国家警察官のアルテタ氏,人道党からは企業家のミエセス氏が立候補した。
(4)国会議員の議員資格停止
18日,国会本会議は,与党のウリベ議員(特定企業に対し便宜を図るために,議員の立場を利用し,企業の契約先に圧力をかけた職権濫用)及びフジモリ派のガゴ議員(同議員が筆頭株主を務める会社が,右事実を隠蔽し,政府関係機関と事業契約を結んだ国家契約法違反)に対する120日間の議員資格停止を決定した。
また,26日には,人民行動−拡大戦線会派所属のヨベラ議員(自身の議員事務所の職員に対し,金融機関での資金の借入れ及び右債務の支払いを不当に強要)に対して120日間の議員資格停止を決定した。
(5)第二次ガルシア政権期の汚職疑惑に関する報告書の審議
19日,国会本会議で,国会第二次ガルシア政権汚職調査委員会(通称「メガコミッション」)が提出した9件の報告書のうち,麻薬取引に関連した罪で服役中の犯罪人に対して不当に減刑・恩赦を行ったとする問題(通称"narcoindulto")に関する報告書の審議・投票が行われ,国会は,ガルシア前大統領及び当時の法務大臣2名を憲法違反で弾劾にかけることを提案する右報告書を承認した(賛成53票,反対7票,棄権7票)。右を受け,本報告書は,憲法弾劾小委員会へ送られ,弾劾に向けた手続きが行われる。なお,メガコミッションが提出した残る8件の報告書については,次期国会会期以降に1件ずつ審議・投票が行われる予定。
(6)外相,内相及び運輸通信相の交代
23日,リバス外相,アルバン内相及びパレデス運輸通信相が辞任し,後任に以下の3名が就任した。
外相:ゴンサロ・グティエレス(Gonzalo Gutierrez)
59歳。駐中国大使(2011−2014)。職業外交官。
ガルシア前政権期に外務副大臣(2006−2009),国連大使(2009−2011)を歴任。
内相:ダニエル・ウレスティ(Daniel Urresti)
57歳。首相府鉱山労働者高等弁務官。退役軍人(少将)。
軍第三通信局司令官を務め,長年に亘り軍の通信システム業務に従事。
運輸通信相:ホセ・ガヤルド(Jose Gallardo)
49歳。ペルー中銀(BCR)理事。エコノミスト。
エネルギー・鉱業投資監督庁(OSINERGMIN)(2001−2005),電気通信民間投資監督庁(OSIPTEL)(2005−2008)に勤務した他,2009年よりカトリカ大学の教員を兼任。
(7)サントス・カハマルカ州知事の逮捕
25日,公共事業の入札にかかる収賄の容疑で起訴されているサントス・カハマルカ州知事に対して,逃亡の恐れがあるとして14ヶ月の予防拘禁が命じられた。右を受け,サントス州知事は,リマ市アンコン区のピエドラス・ゴルダス刑務所に収監された。なお,サントス州知事は現在,同州知事候補として再出馬中であるが,現段階では有罪判決が下されていないため,候補者としての登録は維持される。
(8)新大学法案の国会承認
26日,国会本会議は,全国大学教育監督庁(SUNEDU)の新たな設置等を提案する新大学法案を承認した(賛成55票,反対45票,棄権3票)。併せて,法案成立に際して通常必要とされる二回目の投票を,本件については省略することを決議した。今次投票では,右法案を提案してきたモラ国会教育委員会委員長(ペルー・ポシブレ党)を支持する与党連合の議員が右法案に概ね賛成の意を示している一方,人民勢力党(フジモリ派)やアプラ党を始めとする野党議員は反対の立場を示した。また,新大学法をめぐっては,SUNDEUの設置が,大学自治権の侵害につながるとして,SUNDEUの設置に伴って廃止が予定されている全国大学学長会議(ANR)を中心とする大学関係者等が反対の意を唱えていた。
(9)ウマラ大統領支持率(括弧内は前回結果)
ア ダトゥム社:5月30日〜6月4日実施,全国(対象1206名)誤差±2.8,信頼度95%
支持 25%(28%) 不支持 68%(67%)
イ アポヨ社:10〜12日実施,全国都市部(対象1222名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 21%(22%) 不支持 74%(72%)
ウ CPI社:6月12日〜17日実施,全国主要都市(対象1450名),誤差±2.6%,信頼度95.5%
支持 21.4%(21.2%) 不支持 75.3%(74.5%)
エ GfK社:22日〜25日実施,リマ首都圏及び全国主要都市(対象1259名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 21%(21%) 不支持 75%(73%)
3 外交
(1)リバス外相の第44回OAS総会出席
3〜5日,パラグアイにて,第44回OAS総会が「社会的包摂を伴う発展」を基調テーマに開催され,ペルーからはリバス外相が出席した。5日に行われた演説の中でリバス外相は,ペルーにおける貧困対策の成果に触れつつ,社会的包摂分野におけるペルーの進捗状況について強調した他,2015年以降のポスト・ミレニアム開発目標の持続可能で包括的な開発の新たなアジェンダの策定に向かって,OASでも気候変動に関してさらに注視していく必要性を述べた。
(2)ロハス外務副大臣の韓国訪問
12〜13日,ロハス外務副大臣は,第5回ペルー・韓国政策協議ハイレベル会合に出席のため韓国を公式訪問した。同会合で,ロハス副大臣は,チョ・テ・ヨン韓国外交部1次官と会談し,両国間の政策の根幹となる経済,投資促進,FTAの進展などのテーマについて精査した他,産業,技術,治安・防衛,社会セクター,教育等の分野における二国間の協力活動について協議し,産業,科学,技術及びイノベーションの分野における協力を重視していくことで一致した。
(3)ウマラ大統領のG77+中国首脳会合出席
14日,ウマラ大統領はリバス外相と共に,ボリビア(サンタ・クルス市)で開催されたG77+中国首脳会合に出席した。ボリビア到着後の記者会見でウマラ大統領は,G77のメンバー国は,世界における持続可能な発展を目指している旨述べると共に,同グループ結成50周年を記念する今次会合への出席を光栄に思う旨述べた。また,ウマラ大統領は右首脳会合のマージンで藩基文国連事務総長と会談し,本年12月にペルーで開催されるCOP20の準備状況等について話し合いを行った。
(4)ウマラ大統領の太平洋同盟第9回首脳会合出席
20日,メキシコ(プンタ・ミタ)で第9回太平洋同盟首脳会合が開催されウマラ大統領が出席した。ウマラ大統領は,同首脳会合の開会式で,地域統合として,同同盟の経済成長を可能にする新たな政策を採用することを提案した他,太平洋同盟はイノベーションのような新たな分野について取り組みを進めていくべきである旨述べた。またウマラ大統領は今次首脳会合のマージンでグリアOECD事務総長とも会談を行った。
また首脳会合に先立ち19日に行われた太平洋同盟閣僚会合には,ペルーからリバス外相及びシルバ通商観光相等が出席し,太平洋同盟ワーキングホリデー・プログラムに向けた関係機関間の覚書,及びOECDと太平洋同盟間の中小企業支援に関するメカニズム創設合意の文書等への署名が行われた。
(5)モロッコ外相のペルー訪問
22〜25日,メズアール・モロッコ外務・協力相が,ペルー・モロッコ外交関係設立50周年を記念して当地を公式訪問した。23日に外務省で開催された記念式典では,二国間の政治,貿易,経済関係が非常に高いレベルに達している旨を述べた,モハメッド6世国王のメッセージが代読された他,ウマラ大統領のメッセージも披露された。また,同日行われた外相会談の中では,両国のFTA締結に向けた対話の開始を決定すると同時に,明年第一四半期に両国の混合委員会の会合を開催することを決定した。
(6)「インカの道」の世界遺産登録記念式の開催
25日,「インカの道(カパック・ニャン)」の世界遺産登録を記念する式典が,リマ市郊外(ルリン区)のパチャカマック遺跡にて開催された。式典には,ウマラ大統領,グティエレス外相,アルバレス・カルデロン文化相及びシルバ通商観光相が出席した他,関係国から,オルギン・コロンビア外相,ムニョス・チリ外相,パローディ・アルゼンチン文化相,アリサガ・エクアドル外務副大臣,レデスマ・駐ペルー・ボリビア大使等が出席した。なお,アルゼンチン,ボリビア,コロンビア,チリ,エクアドル及びペルーを通過し,全長6万キロ以上に及ぶ「インカの道」は,右6ヵ国が初めて共同で世界遺産一覧表記載のために推薦した遺産である。
(7)グティエレス外相とチリ及びコロンビアの外相との会談
25日,グティエレス外相は,「インカの道」の世界遺産登録記念式典に出席したムニョス・チリ外相及びオルギン・コロンビア外相と非公式会談を行った。ムニョス外相とは,チリとの領海境界線画定判決以降の課題として,基線法の整備や2+2会談の開催などについて話し合われ,オルギン外相との会談では,太平洋同盟やアンデス共同体等のテーマについて触れられた。
(8)ウマラ大統領のフランス訪問
6月28日〜7月2日,ウマラ大統領はフランスを公式訪問し,30日に第6回OECDラテンアメリカ・カリブ国際経済フォーラムに出席し演説を行った他,1日にはオランド仏大統領と首脳会談を行った。首脳会談で両首脳は,特に環境,教育,保健,投資,国防,治安及び麻薬対策の分野における協力を引き続き強化すべく,二国間交流を強化することで一致した。
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