ペルー政治情勢 2015年
2月の内政と外交
1 概要
(1)ナディン・エレディア大統領夫人の資金洗浄疑惑に関する捜査が再開された。
(2)ウレスティ前内相のジャーナリスト殺害事件関与疑惑に関し,検察庁は禁錮25年を求刑する意向を示した。
(3)5名の閣僚(内相,法務人権相,エネルギー鉱山相,労働雇用促進相,女性社会的弱者相)が交代した。
(4)シュタインマイヤー独外相がペルーを訪問し,グティエレス外相と会談を行った。
(5)チリによる諜報活動疑惑に関し,ペルー政府は抗議文書を送付し,在チリ・ペルー大使を本件にかかる協議のため本国に召還した。
2 内政
(1)与党関連のスキャンダル
ア ナディン・エレディア大統領夫人の資金洗浄疑惑
2日,検察庁がナディン・エレディア大統領夫人(以下ナディン夫人)及び実弟のイラン・エレディア氏の資金洗浄疑惑に関する調査を再開したと各紙が報道した。2006年から2009年の間にナディン夫人の個人口座に同人の親族及び関係者から合計21万5,000米ドルが現金振込されたが,振込者は振込額を用意するだけの収入源を有していなかったとされる。振込者の中には「ラ・セントラリータ」事件のベラウンデ・ロッシオ容疑者の父も含まれる。また,一連の捜査が,ベラウンデ・ロッシオ容疑者が関与するアンタルシス社,トド・グラフ社等も対象としていることが報道された。報道後に世論調査を実施したイプソス・ペルー社及びGfK社は,ナディン夫人に対する支持率がそれぞれ16%(前月比−9%),21%(前月比−7%)の下落,不支持率が78%(前月比+8%),74%(前月比+5%)の上昇を示している。
ナディン夫人は,「捜査を再開するための新たな証拠は提示されていない。与党に打撃を与えるための策略である。」と述べた。ウマラ大統領もナディン夫人を擁護している。
イ ウレスティ前内相のジャーナリスト殺害事件関与疑惑
27日,検察庁は,1988年アヤクチョ州ワンタ郡で,当時センデロ・ルミノソの取材を行っていた「カレタス」誌のブスティオ(Hugo Bustio)記者が,同テロ組織の協力者との疑義をかけられ,軍の反テロ対策部隊に暗殺された事件について,ウレスティ前内相に禁錮25年を求刑する意向を示した。検察は,ウレスティ前内相が事件発生当時,実行犯2名が所属していた反テロ対策軍基地情報部の長であり,組織の命令系統に鑑みれば,実行犯のオペレーションを当然承知していた間接正犯であるとの見解を示している。ウレスティ前内相は容疑を否定している。
(2)与野党対話
9日,与党は野党との緊張緩和のため「与野党対話」を開催した。ウマラ大統領,ハラ首相及びナディン夫人(国民主義党党首)を筆頭に15の政党が出席したが,人民勢力党やアプラ党といった有力野党の不在と国会に議席を持たない政党の出席に留まったことから,真の対話には程遠かったとの評価を受けている。対話終了後,ハラ首相より,政治家への諜報活動疑惑への対処として国家情報局(DINI)の機能を180日間停止する意向が発表された。
(3)閣僚の交代
17日,ウレスティ内相,フィガロ法務人権相,マヨルガ・エネルギー鉱山相,オタロラ労働雇用促進相,オモンテ女性社会的弱者相に代わり,新たに以下5名の大臣が任命された。
ア 内相:ホセ・ルイス・ペレス(国家刑務庁(INPE)長官より)
イ 法務人権相:フレディ・オタロラ(労働雇用促進相より)
ウ 労働雇用促進相:ダニエル・マウラテ(労働雇用促進省雇用促進・労働者能力向上担当副大臣より)
エ エネルギー鉱山相:ロサ・マリア・オルティス(環境省国家環境認証局(SENACE)局長より)
オ 女性社会的弱者相:マルセラ・ワイタ(首相府事務局長より)
(4)社会紛争
ア 9日,フニン州チャンチャマヨ郡ピチャナキ町で,アルゼンチン資本のプルスペトロル社の天然ガス開発に対する抗議デモが発生した。デモ隊の鎮圧に当たっていた軍の発砲により地元住民1名が死亡,多数の負傷者が出た。このデモ対応の不備が,ウレスティ内相及びマヨルガ・エネルギー鉱山相が辞任する直接的理由となった。
イ 21日,ロレト州ダテム・デル・マラニョン郡アンドアス町の地元住民が,プルスペトロル社の石油採掘に対する抗議として現地の空港を占拠した。同様に,トロンペテロス町ヌエボ・ヘルサレン,プカクロ及びサンタ・エレーナ集落の住民が,プルスペトロル社従業員の居住キャンプへの道路を封鎖した。
ウ 25日,1月26日からロレト州パンパ・エルモサ地域のアチュアル族に占拠されていたプルスペトロル社の第192石油鉱区の油井14か所は,政府との対話の進展を受け解放された。ロハス首相府国家対話・持続可能性事務所(ONDS)所長及びプルガル・ビダル環境相は本件に関し,同地域(パスタサ,コリエンテス,ティグレ,マラニョン川流域)の地元リーダーと調整が必要な事項のうち,生活用水の確保,医療の充実,教育機会の提供等95%で合意に至っている旨述べた。
エ 25日,アレキパ州アレキパ市でイスアイ郡の住民によるSouthern Copper社のティア・マリア鉱山開発計画に対する抗議デモが発生した。
(5)国会議員の会派変更等
ア セシリア・タイ議員(2日):地域同盟→無所属
イ ロヘリオ・カンチェス議員(11日):国民主義−勝利するペルー→地域同盟
ウ ウレスティ前内相(26日):内相(17日辞任)→国民主義党へ入党
(6)大統領支持率
ア ダトゥム社:1月30日〜2月3日実施,全国(対象1204名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 28%(28%) 不支持 67%(67%)
イ CPI社:2〜6日実施,全国主要都市(対象1450名),誤差2.6%,信頼度95.5%
支持 28.7%(26.4%) 不支持 68.7%(73.0%)
ウ イプソス・ペルー社:10〜12日実施,全国(対象1201名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 22%(25%) 不支持 71%(70%)
エ GfK社:14〜18日実施,リマ首都圏及び全国主要都市(対象1211名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 21%(26%) 不支持 73%(70%)
3 外交
(1)シュタインマイヤー独外相の訪問
13日及び14日,当地を訪問したシュタインマイヤー独外相は,リマ市にてグティエレス外相と下記の点につき会談等を行った。
ア 二国間,域内及び世界のコンテクストにおける,技術・財政面での協力,環境保全,持続可能な開発,貿易関係,インフラや開発プロジェクトへの投資の可能性
イ 政策協議メカニズムの創設を通じた政策・外交対話の強化
ウ ペルー・EU間の通商協定に関する二国間アジェンダ及びドイツ資本のペルー市場への参入
エ 昨年12月にリマ市で開催されたCOP20と気候変動対策における二国間協力
オ 両国にて勤務する外交官に帯同する家族が,赴任地において報酬を伴った経済活動に従事することを認める合意書への署名
なお,今回のシュタインマイヤー独外相の訪問は,3月に予定されているガウク独大統領によるペルー訪問の準備も目的としていた。
(2)チリによるペルーに対する諜報活動疑惑
20日,ペルー外務省米州局長は,在ペルー・チリ大使館商務担当官を召致し,ペルーに対する諜報活動に対する抗議文書を手交した。ペルー政府は右文書を通じ,チリ政府の諜報活動に対する最も強い抗議と拒否を表明するとともに,事実関係の早急な調査,報告,諜報に関わった人物の刑事訴追及び再発の防止を求めた。また,今後の対応にかかる協議のため,ロハス在チリ・ペルー大使を本国に召還した。
ペルー側の抗議に対し,ムニョス・チリ外相は,22日,チリ政府の諜報活動への関与を否定した上で,ペルー政府からの抗議文書は現在精査中であり,ペルー政府との良好な関係を第一に考慮し慎重な回答を行う旨述べた。また,抗議文書に対する回答等につき協議するためイバラ在ペルー・チリ大使を本国に召還した点も併せて発表した。
|