ペルー政治情勢 2015年
9月の内政と外交
1 概要 内政
(1)ウマラ大統領にイタリア国籍取得申請疑惑が持ち上がった。
(2)ウマラ大統領の姉による不正資産購入疑惑が持ち上がった
(3)国会「ロペス・メネセス」事件調査特別委員会の最終報告書が可決された。
(4)アプラ党政治家の夫人が汚職の疑いがあるブラジル企業とウマラ政権との仲介役を務めていた旨報道された。
(5)検察庁がナディン夫人の資金洗浄容疑の捜査打ち切りを命じた判決の違憲性の審理を憲法裁判所に申請した。
(6)ナディン夫人がコンサルタント契約を偽装して金銭を受け取っていたとの疑惑が持ち上がった。
(7)ナディン夫人のものとされる手帳の筆跡鑑定人が国会監査委員会に召喚された。
(8)検察がナディン夫人を資金洗浄容疑で捜査することを勧告する国会ベラウンデ・ロッシオ容疑者調査特別委員会の最終報告書が可決された。
(9)国会監査委員会にナディン夫人のものとされる手帳の調査を行う権限が付与された。
(10)人道主義党が企業家のゲラ氏を2016年大統領選挙候補として擁立する意向であることが明らかとなった。
(11)アプラ党が2016年大統領選挙への立候補者を選出するための党内選挙を10月18日に実施することを発表した。
(12)クチンスキー元首相の大統領選挙チームで,コスタ元内相が治安対策プランの作成を担当していることが明らかになった。
(13)アプリマック州のラス・バンバス鉱山開発に対する抗議活動で死傷者が発生し,30日間の非常事態宣言が発令された。
(14)ペルー石油公社にロレト州の油田開発への参入を認める法案が可決された。
(15)リマ高裁が,ガルシア第二次政権時代の収賄事件の証拠を違法とする判決を下した。
外交
(1)ウマラ大統領がスペイン社会労働党幹事長と会談を行った。
(2)第14回ペルー・エクアドル二国間委員会が開催された。
(3)外務省がシリア人難民の受け入れ方針を発表した。
(4)マルティネッティ外務副大臣がサウジアラビア皇太子と会談を行った。
(5)ウマラ大統領及びサンチェス外相が第70回国連総会に出席した。
2 内政
(1)ウマラ大統領関連のスキャンダル
ア 2日,「エル・コメルシオ」紙に掲載されたコラムがきっかけとなり,ウマラ大統領のイタリア国籍取得申請疑惑が持ち上がった。この報道を受けた外務省はプレスリリースを発出し,ウマラ大統領夫妻及びその子女がこれまでにイタリア国籍の取得を申請した事実はないことを在ペルー・イタリア大使館に確認した旨公表した。
イ 3〜4日,ウマラ大統領の姉であるイボスカ・セイフェル氏による土地不正購入疑惑が「エル・コメルシオ」紙等で大きく報じられた。不正購入が疑われる土地はクスコ州に位置しており,セイフェル氏は,結婚後の姓(セイフェル)とスイスの旅券を使用して土地を購入したとされる。さらにこの土地は市場価値を大きく下回る額で購入されたとの報道もなされている。
ウ 9日,国会本会議で,国会「ロペス・メネセス」事件調査特別委員会の最終報告書が可決された。同報告書では,検察によるロペス・メネセス氏及び関係者に対する捜査,また,ウマラ大統領に本件に関する証言を求めることを勧告している。しかし,一部の国会議員からは,同委員会が期待される成果を達成できなかったと批判する声も出ている。
エ 15日,国会監査委員会は,「ラバ・ジャト」事件で捜査対象となっているブラジル企業とコンソーシアムを組んだペルー企業も調査対象に含める意向を明らかにした。投資促進庁は国会監査委員会の求めに応じ,ペルー政府の事業を請け負ったことのあるブラジル企業のリストを作成しており,今後ペルー企業の情報も同リストに加筆される。(国会監査委員会は本件の調査を担当する意思を示していたが,最終的に,10月1日の国会本会議で国会「ラバ・ジャト」事件調査特別委員会の設置が可決された。)
オ 27日,ブラジル大手建設会社のオーナーで,「ラバ・ジャト」事件の捜査対象となっているペッソア容疑者が,アプラ党の政治家を夫に持つシソン氏がブラジル企業とウマラ政権との仲介役を務めていたと供述しているとの報道がなされた。ペッソア容疑者は,2013年,サンパウロの同社事務所でシソン氏と面会したことを認めており,同会合の成立には,ルーラ前ブラジル大統領の右腕であったジルセウ元文官長及びルーラ前大統領の兄弟の仲介があったと供述している。また,シソン氏はナディン夫人の友人として紹介されたとされている。ペッソア容疑者によれば,シソン氏との会合の後,同社はペルー支社を開設したものの,公共事業の入札には至っておらず,ウマラ政権の高官の買収も否定している。
(2)ナディン・エレディア大統領夫人関連のスキャンダル
ア 9日,検察庁は, ナディン夫人及びその関係者に対する資金洗浄容疑での捜査の打ち切りを命じた第二審判決の違憲性の審理を憲法裁判所に申請した。
イ 13日,ナディン夫人が偽装契約により1万ドルをアポヨ・トタル社から受け取っていたとの疑惑が報道された。同報道によれば,ナディン夫人受け取ったコンサルタント料は,実際にはナディン夫人の周囲の人物からの振込であった可能性がある。また,ナディン夫人が資金の動きを記録していたとされる手帳の一つに,コンサルタント料の振込日やアポヨ・トタル社の社名が書き込まれていることが確認できるとされている。
ウ 15日,ナディン夫人のものとされる手帳の筆跡鑑定人が国会監査委員会に召喚された。同鑑定人は,今回の鑑定範囲は限定的であったが,全て同一人物による筆跡であるとの見解を示した。なお,今次鑑定では,筆跡がどの人物のものであるかについては調査対象とならなかった。
エ 16日,国会本会議で,国会ベラウンデ・ロッシオ容疑者調査特別委員会が提出した最終報告書が可決された。同報告書は,ベラウンデ・ロッシオ容疑者及びナディン夫人を始めとする関係者を資金洗浄容疑で検察が捜査することを勧告している。
オ 30日,国会本会議で,ナディン夫人のものとされる手帳の調査を行う権限を国会監査委員会に120日間付与する案が可決された。同委員会は,今後,調査対象となる人物の銀行口座情報及び個人的な通信履歴の開示を求めることができる。
(3)2016年大統領選挙に向けた各党の動き
ア 17日の報道で,人道主義党のシモン党首が,企業家のゲラ氏を同党の2016年大統領選挙候補として擁立する意向であることが明らかとなった。ゲラ氏は,ビジャラン前リマ市長の社会勢力党から2011年大統領選挙への立候補を模索していたが,道半ばで断念し同党を離党していた。
イ 21日,アプラ党結成85周年行事で,同党のケサーダ幹事長は,2016年大統領選挙への立候補者を選出するための党内選挙を10月18日に実施すると明かした。党員以外の投票も可能な今次内部選挙では,ONPEが監督役を務め,第一及び第二副大統領の人選を担う評議員の選出も併せて行われる。アプラ党の国会議員選挙候補者リストについては来年1月に作成の見込み。
ウ 24日の報道で,大統領選挙への立候補を表明しているクチンスキー元首相の選挙チームで,コスタ元内相がまとめ役となり治安対策プランを作成中であることが明らかになった。選挙チームの参謀であるビオレタ「変革のためのペルー国民」副党首によれば,10月半ば頃までに,治安対策プランが提出される予定。
(4)社会紛争
28日,アプリマック州のラス・バンバス鉱山開発に反対する地元住民と治安部隊の間で衝突が発生し,3名の死者及び多数の負傷者を出す事態となった。事態の深刻化を受けた政府は,同州コタバンバス郡,グラウ郡,アンダワイラス郡,チンチェロス郡,及びクスコ州エスピナル郡,チュンビビルカス郡に30日間の非常事態宣言を発令した。地元住民は主に当初予定になかったモリブデン精製工場の環境への悪影響を懸念している。政府は関係閣僚が参加する特別委員会を設置し,問題解決に向け地元との意見交換を開始している。
(5)その他
ア 3日,国会本会議で,ペルー石油公社(ペトロ・ペルー)にロレト州の油田開発への参入を認める法案が可決された。しかし,25日,ウマラ大統領は,同可決法案を国会に差し戻した。特に,パシフィック社のコンセッションが終了する2年後にペルー・ペトロ(石油開発等の許認可を行う石油公社)が実施する入札に参入するという条文の加筆,タララ製油所近代化事業に影響が出ないこと,新たな国庫からの支出を必要としないことがペルー石油公社参入の条件となっている。また政府は,同法案の公布によりパシフィック社が損失を被った場合,国が提訴される可能性がある点,また,国会には国家予算を作成する権限がない点を指摘している。
イ 8日,リマ高裁第三清算法廷は,ガルシア第二次政権時代に行われたペルー国内油田の国際入札における収賄事件(通称「ペトロアウディオ」事件)の証拠に採用されていたアプラ党のレオン元漁業大臣とキンペル元ペルー・ペトロ理事の会話の録画データを違法とする判決を下した。同判決により,会話の録画データは,今後の裁判で証拠として採用することができなくなった。検察側からは,今次判決により,関係者の訴追に向けた動きに水が差されるとの懸念が示されている。
ウ 12日,麻薬密輸への関与により国際指名手配されていたオロペサ容疑者がエクアドル領内で身柄を拘束された。同容疑者の身柄はペルーに移送され,18か月間の予防拘禁措置に処されることとなった。同容疑者はこれまでのところ,今後の捜査に資するような証言は行っていない。
エ 16日,全国選挙審議会(JNE)が全国選挙過程事務所(ONPE)と連名で,選挙制度改革に関する国会での審議の遅れ,また,反改革とも解釈できる法案が推進されている状況を批難する声明文を発出した。9月中の選挙制度改革関連法案の成立は実現しなかった。
オ カテリアーノ首相が,今年4月の首相就任後以来となる野党との対話プロセスを再開した。22日には,「変革のためのペルー国民」のクチンスキー元首相との治安,経済情勢,エル・ニーニョ現象への対応等に関する意見交換を皮切りに,25日には人民勢力党のケイコ・フジモリ党首と,26日にはベドヤ・キリスト教人民党元党首と,27日にはペルー・ポシブレ党のトレド元大統領と,28日にはアプラ党のガルシア前大統領と,29日には国民連帯党のカスタニェダ・リマ市長とそれぞれ意見交換を行った。
(6)国会における議席数の変動
18日,夫人に対するDV騒動がきっかけとなり,前国会会期でスポークス・パーソンを務めたディアス議員が人民勢力会派を脱退した。この結果,人民勢力会派の議席数は35となった。
(7)ウマラ大統領支持率(括弧内は前月の数値)
ア CPI社:8月23〜28日,全国主要都市(対象1200名),誤差2.8%,信頼度95.5%
支持 18.1%(19.4%) 不支持 78.8%(75.1%)
イ ダトゥム社:4〜7日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 18%(23%) 不支持 78%(73%)
ウ イプソス・ペルー社:8〜9日実施,全国(対象1203名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 13%(17%) 不支持 81%(76%)
エ GfK社:19〜23日実施,リマ首都圏及び全国主要都市(対象1305名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持 12%(16%) 不支持 85%(79%)
3 外交
(1)ウマラ大統領とスペイン社会労働党幹事長との会談
1日,ウマラ大統領は,中南米(メキシコ,コロンビア,ペルー,チリ)を歴訪中のサンチェス・スペイン社会労働党(PSOE)幹事長と会談を行った。同会談では,良好な二国間関係,教育,科学,文化分野における協力関係が話題となった。両国が参加するイベロアメリカ・サミットなどの対話フォーラムや統合メカニズムの強化も話題となった。
(2)第14回ペルー・エクアドル二国間委員会の開催
8日,ペルー・エクアドル首脳会合及び合同閣議に向けた準備会合として,サンチェス外相及びラソ・エクアドル外相代理が共同議長を務める第14回ペルー・エクアドル二国間委員会が開催された。同会合では,昨年開催されたペルー・エクアドル首脳会合における合意事項の実施状況の点検,国境地域での公共投資及び「国境地域住民健康促進五か年計画」に関する報告書の提出,二国間国境地域違法鉱業対策,エル・ニーニョ現象対策での協力,査証相互免除協定が議題となった。
(3)外務省によるシリア人難民の受け入れ表明
11日,外務省は,ペルー政府として,シリア紛争及びISILの脅威を理由に受け入れを希望する難民の認定手続き緩和と迅速化に努める意向を表明した。
(4)マルティネッティ外務副大臣とサウジアラビア皇太子の会談
16日,マルティネッティ外務副大臣は外務省でサウジアラビア観光国家遺産委員長を務めるサウジアラビア皇太子と会談を行った。
(5)ウマラ大統領及びサンチェス外相の国連総会出席
ア 9月26〜27日,第70回国連総会出席のためニューヨークを訪問したウマラ大統領は,持続可能な開発のための2030アジェンダに関する演説,オランド仏大統領及び潘基文国連事務総長との気候変動に関する共同記者会見,太平洋同盟ロードショーで太平洋同盟の取組に関するスピーチを行った。
イ 同じく,国連総会出席のためニューヨークを訪問中のサンチェス外相が,第二回太平洋同盟・ASEAN閣僚級会合に出席し,ASEAN諸国と情報交換,ASEAN・太平洋同盟間の協力開始の提案を行った。会合の結果,太平洋同盟とASEANの連携を制度化し,合意事項を実施するための枠組作りを行うことで合意に至った。
|