ペルー政治情勢 2015年

10月の内政と外交


1 概要

 

 内政
(1)法務人権大臣及び建設上下水道大臣が交代した。
(2)エスピノサ第一副大統領が与党を離党していたことが明らかとなった。
(3)憲法裁判所がナディン・エレディア大統領夫人(以下ナディン夫人)の資金洗浄疑惑の捜査継続を命じる判決を下した。
(4)アクーニャ・ラ・リベルター州知事(以下アクーニャ州知事)が大統領候補を選出するための党内選挙に立候補する意思を表明した。
(5)メンドーサ国会議員が「正義・生活・自由のための拡大戦線」の大統領候補に選出された。
(6)ガルシア前大統領がアプラ党の大統領候補に選出された。
(7)フォンヘッセ前建設上下水道大臣が与党の大統領候補を選出するための党内選挙に立候補する意思を表明した。
  

外交
(1)世銀・IMF総会でウマラ大統領が国際機関の長及び各国閣僚と会談を行った。日本からは麻生副総理兼財務大臣,黒田日銀総裁ほかが出席した。
(2)オルギン・コロンビア外相が第4回ペルー・コロンビア政策協議出席のため当地を訪問した。
(3)第70回国連総会でペルーが経済社会理事会理事国に当選した。
(4)チリとの国境問題が再燃した。
(5)ウマラ大統領が当地を訪問したレンツィ・イタリア首相と会談を行った。
(6)サンチェス・ペルー外相が,当地を訪問したライチャーク・スロバキア外相と会談を行った。
(7)ウマラ大統領がペルー・コロンビア首脳会合及び第2回ペルー・コロンビア合同閣議出席のためコロンビアを訪問した。



2 内政

(1)ウマラ政権
ア  住宅建設上下水道大臣の交代
 11日,フォンヘッセ住宅建設水道大臣が辞任し,ドゥムレル大臣が後任に任命された。ドゥムレル新大臣は,2014年7月から同省副大臣を務めていた。


イ エスピノサ第一副大統領の離党
 16日,当地「ヒルデブランド・エン・スス・トレセ」誌の報道により,エスピノサ第一副大統領が9月8日に与党国民主義党を離党していたことが明らかとなった。与党上層部との見解の相違を理由にエスピノサ副大統領が党内で冷遇されていたことが離党の決め手になったとの見方が示されている。


ウ 法務人権大臣の交代
 20日,アドリアンセン法務人権大臣が,ナディン夫人の資金洗浄疑惑を捜査していたプリンシペ資金洗浄対策検事を解任した直後に辞任した。アドリアンセン大臣は自ら辞任したものの,プリンシペ検事の解任を巡り,野党による問責決議の可決が確実な状況で,留任は困難な状況であった。21日,後任にバスケス法務人権大臣が就任した。


エ 憲法裁判所によるナディン夫人の資金洗浄疑惑捜査継続判決
 20日,検察により資金洗浄の嫌疑をかけられていたナディン夫人が憲法裁判所で敗訴し,同夫人に対する資金洗浄疑惑の捜査は継続されることとなった。また,同判決により,第二審で,ナディン夫人とともに捜査対象外とする判決が下されていた同夫人の親族及び関係者に対する捜査も可能となった。さらに,検察による第一回目の本件捜査(注:本件は2010年に一度捜査が打ち切られている。)を担当した検事が職務を全うしたかにつき,検察が内部調査を行う必要性が示唆されている。


(2)2016年大統領選挙
ア アクーニャ・ラ・リベルター州知事の大統領選挙出馬意思表明
 7日,アクーニャ州知事は,自身が党首を務める「進歩のための同盟」から次期大統領選挙に出馬するため,同州知事を辞職し,同党の大統領候補を選出するための党内選挙に立候補する意志を表明した。


イ メンドーサ国会議員の「正義・生活・自由のための拡大戦線」大統領候補選出
 11日,4日に実施されていた党内選挙の結果,メンドーサ国会議員が「正義・生活・自由のための拡大戦線」の大統領候補に選出されたことが明らかとなった。同党のリーダーであるアラナ元神父は,経済路線の変更,新憲法の制定,治安対策を党の方針として打ち出している


ウ ガルシア前大統領のアプラ党大統領候補選出
 30日,ガルシア前大統領が,18日に実施された党内選挙でアプラ党の大統領候補に選出されたこと,また,ガルシア第三次政権プランの概要を公表した。

エ フォンヘッセ前建設上下水道大臣の大統領選挙出馬意思表明
 22日,11日に辞任していたフォンヘッセ前住宅建設上下水道大臣は,ウマラ大統領以下与党党員の要請に応じ,与党に入党するとともに,与党の次期大統領候補を選出するための党内選挙に立候補する意思を固めた旨公表した。党内選挙への立候補意思を示していたウレスティ前内相は,自らが起訴されている1988年ジャーナリスト殺害事件訴訟への対応を理由に立候補を取り下げ,フォンヘッセ前大臣の選挙キャンペーンを支援する意向を示した。

(3)国会議員の会派変更等
ア マリソル・エスピノサ議員(第一副大統領,9月8日):国民主義・勝利するペルー→無所属
イ フリオ・ロサス議員(1日):人民勢力→無所属
ウ オマール・チェハーデ議員(1日):国民主義・勝利するペルー→無所属
エ セナイダ・ウリベ議員(1日):国民主義・勝利するペルー→無所属
オ ワルテル・アチャ議員(28日):国民主義・勝利するペルー→無所属

 エスピノサ第一副大統領,ロサス議員,アチャ議員については自主的な会派からの離脱,チェハーデ議員及びウリベ議員は除籍処分を受けたもの。なお,上記の変更により,人民勢力会派の議席数は34,国民主義・勝利するペルー会派の議席数は27となった。

 

(4)ウマラ大統領支持率(括弧内は9月数値(CPI社のみ8月数値)
ア ダトゥム社:1〜5日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 17%(18%) 不支持 80%(78%)


イ CPI社:5〜9日,全国主要都市(対象1450名),誤差2.6%,信頼度95%
支持 13.9%(18.1%) 不支持 84.4%(78.8%)


ウ イプソス・ペルー社:8〜9日実施,全国(対象1203名),誤差±2.3%,信頼度95%
支持 14%(13%) 不支持 80%(81%)


エ GfK社:17〜20日実施,リマ首都圏及び全国主要都市(対象1308名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持 12%(12%) 不支持 85%(85%)

 


3 外交

(1)TPP交渉妥結に関するペルー政府の声明
 5日,米国アトランタにおけるTPP交渉の妥結に関し,大統領府及び通商観光省が声明を発出した。同声明では,特に,約8億人の消費者市場を有するTPPが秘める可能性の大きさ,対ペルー直接投資の誘致及びペルー中小企業の世界進出といった恩恵が期待できることが強調された。
 

(2)世銀・IMF総会
 5〜12日,ウマラ大統領は,リマで開催された世銀・IMF総会において国際機関の長及び各国閣僚と会談を行った。日本からは麻生副総理兼財務大臣,黒田日銀総裁ほかが出席した。同総会にあわせて日本の金融企業関係者が多数ペルーを訪問した。

 

ア 国際機関の長との会談
(ア)7日,ラガルドIMF専務理事及びキム世銀総裁との共同記者会見では,ウマラ大統領が,ペルー国内人材の育成,医療,通信,教育のためのインフラ開発,貧困削減,社会政策,生産多角化政策に関する取組について言及した一方,ラガルドIMF専務理事及びキム世銀総裁は,ペルー政府による経済政策,貧困削減の成果を高く評価した。


(イ)7日,グリアOECD事務総長との会談では,セグラ経済財政相とグリア事務総長が,「グリーン成長に関する宣言」賛同書に署名した。また,グリア事務総長はウマラ大統領に対し,経済成長,持続可能性と平等性の達成に向けたペルー政府の取組に関するペルー・カントリー・レポート第一次報告書を手交した。


(ウ)8日,ガルシア・アンデス開発公社総裁との共同記者会見では,ウマラ大統領が,アンデス開発公社によるペルー国内での道路インフラ,運輸,農業プロジェクトへの貢献を高く評価した一方,ガルシア総裁は,ペルーの経済政策を評価するとともに,ペルー国内での重要プロジェクトにアンデス開発公社として協力を継続することを約束する旨述べた。


(エ)9日,モレノIDB総裁との共同記者会見において,ウマラ大統領が,地方農村部を中心とした貧困削減,経済成長,投資拡大,政府支出の拡大にかかる政策を継続する旨述べた一方,モレノ総裁は,ペルーの社会政策には「クナ・マス(託児所の拡充プログラム)」など参考とすべきものが多く,ラテンアメリカの他国にも紹介したい旨述べた。

(オ)10日,リュッケトフト第70回国連総会議長との会談では,2030アジェンダ,ミレニアム開発目標,COP21で採択予定のパリ合意,PKO,シリア難民情勢,2016年国連麻薬特別総会(UNGASS)について意見交換がなされた。

イ 二国間会談
(ア)8日,カタールのアル・エマーディ財務大臣との会合では,二国間投資協定の交渉プロセス,国立公園システム,2019年汎米競技大会開催に向けたインフラ整備,航空便のコネクション,教育及び農業分野での協力が話題となった。

(イ)10日,ヨルダンのファーフーリー計画・国際協力大臣との会合では,文化財の保護等における協力,ペルーからヨルダンへの輸出拡大が話題となった。

(ウ)10日,ノルウェーのブレンデ外相との会合では,再生可能エネルギー分野を中心としたノルウェーの対ペルー投資,気候変動対策,森林保全が話題となった

(3)オルギン・コロンビア外相の訪問
ア 第4回ペルー・コロンビア政策協議
 21日,ペルーのサンチェス外相及びコロンビアのオルギン外相が共同議長を務め,ペルーからはバラキビ国防相及びペレス内相が,コロンビアからはビジェガス国防相が出席した。今次会合では,両国国境地域における社会的取組の連携,国防産業に関する協力,違法鉱業アクション・プランの成果の確認が行われた。

イ 第1回ペルー・コロンビア国境地域統合委員会
 「ペルー・コロンビア国境統合地域開発計画」の現状確認と今後の展望につき発表が行われた。両外相は,国境地域の社会・経済強化,教育及び医療の改善に向けた取組の成果に言及した。同会合の結果,国境地域の開発と統合のための二国間プログラム向け基金を創設することで合意に至った。同合意文書は,30日のペルー・コロンビア首脳会合及び第2回合同閣議で署名された。

ウ ペルー・コロンビア首脳会合及び第2回合同閣議準備会合  両外相は,昨年9月にロレト州イキトス市で開催された第1回ペルー・コロンビア合同閣議の成果につき意見交換を行った。また,引き続き社会分野,特に,教育分野に重点的に取り組んでいくことで一致した。

(4)ペルーの経済社会理事会理事国当選
 21日,当地外務省は,第70回国連総会で実施された経済社会理事会理事国選挙でペルーが当選し,2016−2018年理事国となる旨公表した。ペルーの理事会入りは今回で10度目。ペルー政府は同国が貧困削減,社会格差及び社会的疎外の是正,気候変動対策に積極的に取り組んできたことに対する国際社会の評価が今次理事国への選出に繋がったと評価している。

(5)チリとの国境問題の再燃
 22日,ペルー外務省は,タクナ州におけるラ・ヤラーダ=ロス・パロス町の創設法案(15日,国会で可決)に関するチリ外務省からの外交文書への回答文書を在ペルー・チリ大使館に送付した。同文書では,「今回の新町創設はペルーの主権及びチリとの国境線を定める法的枠組に沿ったものである。」とのペルー政府の立場を強調した。また,同文書では,チリとペルーの国境の始点はコンコルディア地点であり,チリとの領海境界線の始点を標石1とするICJ判決と国境線問題は無関係とのペルーの立場も併せて強調した。

(6)レンツィ・イタリア首相の訪問
 26日,ウマラ大統領は,当地を訪問したレンツィ・イタリア首相と会談を行った。同会談では,ペルー人に対するシェンゲン・ビザの免除,ペルーのOECD加盟,ペルー・EU・FTA,ペルーにおけるインフラ,教育,医療に関する大規模プロジェクトへの海外投資が話題となった。レンツィ首相は,投資及び商業活動活性化を目的とし,約80名のイタリア企業家とともにペルーを訪問しており,特に,インフラ,エネルギー,国防分野でペルーと協力する意思を示した。

(7)ライチャーク・スロバキア副首相兼外務・欧州問題相の訪問
 28日,サンチェス・ペルー外相が,当地を訪問したライチャーク・スロバキア外相と会談を行った。同会談では,科学技術分野及び文化面における協力に関する共同声明に署名が行われた他,スロバキアによる太平洋同盟のオブザーバー国入りのための申請書の提出,また,ペルーの国際海事機関(IMO)理事国選挙への立候補支持表明がなされた。

(8)ウマラ大統領のコロンビア訪問
 30日,メデジン市で開催されたペルー・コロンビア首脳会合及び第2回ペルー・コロンビア合同閣議において,?@国境統合地域開発基金の創設,?Aペルー教育省とICETEXの協力協定,?B国境地域におけるテレビ及びラジオ放送のための電波の共同利用協定,?Cペルー国家スポーツ庁とCOLDEPORTESの協力協定,?Dペルー国際協力庁とコロンビア社会繁栄庁の協力協定,?Eインフォーマル鉱業対策における両国エネルギー鉱山省の協力協定に署名が行われた。


 

 


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