ペルー政治情勢 2015年

11月の内政と外交


1 概要

 内政
(1)ナディン・エレディア大統領夫人(以下ナディン夫人)が同夫人による資金洗浄の証拠とされる手帳を自身のものであることを認めた。
(2)ウマラ大統領が2016年大統領・国会議員選挙の告示を行った。
(3)クチンスキー元首相が大統領選挙における治安担当チームを公表した。
(4)クチンスキー元首相が米国籍を放棄したことを公表した。
(5)アプラ党が公表した次期政権プランに剽窃疑惑が持ち上がった。
(6)アクーニャ・ラ・リベルター前州知事(以下アクーニャ前州知事)が党内選挙で「進歩のための同盟」の2016年大統領候補に選出された。
(7)トレド元大統領が党内選挙でペルー・ポシブレ党の2016年大統領候補に選出された。
(8)アクーニャ前州知事が世論調査における支持率第3位に躍進した。

  

外交
(1)12月に予定されていたペルー・チリ外務副大臣会合が延期となった。
(2)ウマラ大統領がAPEC首脳会合に出席した。
(3)ペルー国会にて「太平洋同盟協力基金創設協定」が可決された。
(4)太平洋同盟枠組条約追加議定書を批准する大統領令が公布された。



2 内政

(1)ウマラ政権
ア 11日,先月,国会与党会派から除籍処分を受けていたチェハーデ国会議員(元第二副大統領)が,ナディン夫人の政治介入疑惑を捜査する検察の求めに応じ,証言を行った。チェハーデ議員は,ナディン夫人が政権内の決定事項に干渉しているとの証言をしたとみられるが,ナディン夫人側は疑惑を否定している。


イ 13日,ナディン夫人が同夫人による資金洗浄の証拠とされる手帳を自身のものであることを認めたことが明らかとなった。さらに,20日,ナディン夫人は,手帳への記入者を特定するための検察による筆跡鑑定に応じた。ナディン夫人は,手帳が自宅から盗み出されたものである点を指摘し,検察による捜査の証拠として採用することの無効性を訴えている。



(2)大統領選挙に向けた各候補の動向等
ア 8日,自身が党首を務める「変革のためのペルー国民」から次期大統領選挙に立候補することを明言しているクチンスキー元首相が同陣営の治安政策担当チームの顔ぶれを披露した。コスタ元内相が治安対策チーム長に任命された他,エルナニ元内相,麻薬密輸問題の専門家であるルベン・バルガス氏が招へいされている。さらに,15日,クチンスキー元首相は,米国籍を放棄した旨公表した。米国籍の保持は,クチンスキー元首相が2016年大統領選挙に立候補するにあたりネガティブな要素の筆頭に挙げられており,いつ放棄するのかが注目されていた。


イ 13日,ウマラ大統領は,2016年大統領・国会議員選挙を4月10日に実施する旨告示する大統領令を発出した。第一回投票で有効投票の過半数以上を獲得した候補がいない場合,上位2名の候補による決選投票が6月5日に実施される。


ウ 16日,10月の党内選挙でガルシア前大統領を2016年大統領選挙の同党候補に選出していたアプラ党は,他党に先駆け政権プランを公表したが,剽窃の疑いありとの告発を受けた。ガルシア前大統領は,単なる引用のし忘れであるとして剽窃疑惑を否定するとともに,全国選挙審議会(JNE)に提出する公式政権プランの作成は自ら指揮する意向を示している。


エ 26日,アクーニャ前州知事が党内選挙で「進歩のための同盟(APP)」の2016年大統領候補に選出されたことが分かった。なお,APPとの連合が公表されている国家復興党のライ党首は,第二副大統領に立候補する意向であること,また,オソリオ・アレキパ州知事がアクーニャ前州知事陣営への協力を検討していることも報道されている。アクーニャ前州知事は世論調査でガルシア前大統領を抜き支持率第3位に躍進した。


オ 28日に実施された党内選挙の結果,トレド元大統領がペルー・ポシブレ党の2016年大統領候補に選出されたことが公表された。トレド元大統領は,他党と連合を形成する可能性を排除していない。



(3)大統領選挙主要候補支持率(括弧内は10月数値)
ア ダトゥム社:10月29日〜11月4日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
ケイコ党首      35%(37%)
クチンスキー元首相  19%(18%)
アクーニャ州知事    9% (4%)
ガルシア前大統領    7% (8%)
トレド元大統領     5% (5%)


イ CPI社:1〜5日,全国(対象1450名),誤差2.6%,信頼度95%
ケイコ党首      33.5%(32.9%)
クチンスキー元首相  17.1%(15.8%)
アクーニャ州知事    9.8% (3.3%)
ガルシア前大統領    7.8% (7.8%)
トレド元大統領     4.2% (5.3%)


ウ イプソス社:7〜13日実施,全国(対象1835名),誤差±2.3%,信頼度95%
ケイコ党首      34%(35%)
クチンスキー元首相  16%(14%)
アクーニャ州知事   10% (6%)
ガルシア前大統領    9% (9%)
トレド元大統領     5% (5%)


エ GfK社:20〜24日実施,全国(対象1365名),誤差±2.7%,信頼度95%
ケイコ党首      32%(33%)
クチンスキー元首相   9%(11%)
アクーニャ州知事    7% (4%)
ガルシア前大統領    6% (7%)
トレド元大統領     3% (3%)


(4)ウマラ大統領支持率(括弧内は10月数値)
ア ダトゥム社:10月29日〜11月4日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 18%(17%) 不支持 79%(80%)


イ CPI社:1〜5日,全国(対象1450名),誤差2.6%,信頼度95%
支持 14.1%(13.9%) 不支持 84.6%(84.4%)


ウ イプソス・ペルー社:7〜13日実施,全国(対象1835名),誤差±2.3%,信頼度95%
支持 15%(14%) 不支持 78%(80%)


エ GfK社:17〜20日実施,リマ首都圏及び全国主要都市(対象1308名),誤差±2.7%,信頼度95%
支持 11%(12%) 不支持 87%(85%)


(5)国会議員の資格停止  12日,尊厳と民主主義会派のウィルデル・ルイス議員による元私用従業員不当解雇問題に関する非公開審議を無許可で録画しSNS上に投稿したことを理由として,与党国民主義・勝利するペルー会派のダニエル・アブガタス議員に120日間の資格停止処分が課された。



3 外交
(1)チリとの国境問題
ア 5日,当地各紙は,チリ政府の意向により,12月7日に予定されていたペルー・チリ外務副大臣会合(ペルー・チリ政策協議)が無期限延期となったことを大きく報じた。ペルー外務省は同会合延期の理由を公表していないが,チリのメディアは,会合の延期は,タクナ州のラ・ヤラーダ=ロス・パロス町創設法案をペルー国会が可決したことに対するチリ国内での不満の現れとの見方を示している。


イ 6日,ペルー外務省は,チリ政府の抗議に対し,4日,国境周辺にペルー軍が配備されたとの事実を否定する外交文書をチリ政府に送付した。


ウ 7日,ウマラ大統領は,ラ・ヤラーダ=ロス・パロス町創設法を公布した。同法の公布に対し,チリ政府及び国会はペルー政府に対する批判をさらに強めている。


(2)ウマラ大統領のAPEC首脳会合出席
ア 17〜19日,ウマラ大統領はAPEC首脳会合への出席のためフィリピンを訪問した。2016年にペルーで開催されるAPEC首脳会合への出席を各国首脳に求めた他,首脳会合のアジェンダの概要を説明した。


イ 17日,TPP参加国首脳による会合に出席し,TPP発効に向け,TPP条文の国内における批准手続きを早急に進める意思を示した。


ウ 18日,チュオン・タン・サン・ベトナム国家主席と会談を行い,経済・通商分野における二国間関係の強化を中心に意見交換を行った他,2016年及び2017年,APEC議長国となる両国が,APECの枠組で協力してくことで合意した。


エ 19日,プラユット・タイ首相と会談を行い,早急にペルー・タイ・FTA交渉を妥結し,二国間の通商と投資を増加させる意思が確認された。


オ 18日,ABAC(APECビジネス諮問委員会)メンバーとの会合に参加し,対ペルー投資の魅力をアジア・太平洋地域の企業家にアピールした。


カ 20日,APEC首脳会合の帰途イタリアに立ち寄り,グラジアーノFAO事務局長と会談を行った。ウマラ大統領は,グラジアーノ事務局長に対し,次回APEC首脳会合で食糧のテーマを取り上げるための各種支援を要請した。


(3)太平洋同盟関連
ア 19日,当地国会にて「太平洋同盟協力基金創設協定」が可決された。同基金は,気候変動及び環境,イノベーション及び科学技術,小規模・中小企業,社会開発,研究者交流といった分野における太平洋同盟国間の協力の促進,活性化及びこれに要する資金の提供を目的としており,各国は初期投資として25万ドルを同基金に出資する。


イ 25日,太平洋同盟枠組条約追加議定書を批准する大統領令が公布された。同追加議定書の発効時には,92%の品目にかかる関税が撤廃され,残り8%の品目については3年から17年をかけ関税が撤廃される。砂糖及び砂糖関連品目については特例措置が適用される。同追加議定書の全文及び発効日は後日官報に掲載される。

 


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