ペルー政治情勢 2016年
2月の内政と外交
1 概要
大統領・国会議員選挙
(1)在米企業による人民勢力党への資金提供がクローズアップされた。
(2)ケイコ・フジモリ人民勢力党候補のアレキパ州訪問時,同党幹部が反対デモ参加者に攻撃的な態度を示す映像が流出した。
(3)大統領候補選出に至るまでの党内手続きに不備があったことを理由とするグスマン「全国民よペルーのために」候補の立候補の可否につき,特別選挙管理委員会(JEE)はグスマン候補の立候補を認める決定を下した。
(4)14の州の「全国民よペルーのために」の国会議員候補者リストが受理されていないことが明らかとなった。
(5)クチンスキー「変革のためのペルー国民」候補陣営の選挙参謀が交代した。
(6)アクーニャ「ペルーの進歩のための同盟」候補による修士論文の剽窃疑惑,修士論文指導教官の著作の盗作疑惑が指摘された。
(7)アクーニャ候補が選挙キャンペーンで金銭の受け渡しを行ったとの報道を受けたJEEが,事実関係の調査を行う意向を表明した。
(8)「ペルーの進歩のための同盟」のライ第二副大統領候補が立候補を取り下げた。
内政
(1)ウマラ大統領に収賄疑惑が浮上した。
外交
(1)ロイサガ・パラグアイ外相が当地を訪問し,ウマラ大統領及びサンチェス外相とそれぞれ会談を行った。
(2)エルドアン・トルコ大統領が当地を訪問し,ウマラ大統領と会談を行った。
(3)カテリアーノ首相がパラグアイを訪問し,カルテス大統領,ロイサガ外相,マルティネス国防相とそれぞれ会談を行った。
(4)ウマラ大統領がキューバを公式訪問し,ラウル・カストロ議長と会談を行った。
(5)オランド仏大統領が当地を公式訪問し,ウマラ大統領と会談を行った。
2 大統領選挙・国会議員選挙
(1)ケイコ・フジモリ人民勢力党候補
ア ケイコ候補は,有罪判決を受けたことがある国会議員候補者3名の立候補を取り下げる意向を示した。14日付「エル・コメルシオ」紙は,有罪判決を受けたことがある人物が国会議員候補者リストに名を連ねているのは人民勢力党だけではなく,人民勢力党以外の政党・連合でも同様の例が確認されるとしている。
イ 5日付「ラ・レプブリカ」紙は,人民勢力党が米国所在の企業から昨年6万5,000ドルの資金提供を受けたことを報じた。同企業の代理人を務める在米ペルー人のルナ氏は,2011年から現在までに個人として総額約14万5,000ドル相当を人民勢力党に提供している。
ウ 13日,ケイコ候補が選挙キャンペーンのため南部アレキパ州を訪れた際(11日),人民勢力党幹部のラミレス幹事長及びフィガリ法務代表が反対デモ参加者を罵倒したり,追い回したりする様子がメディアに流出した。ケイコ候補は,国民がデモを行う権利は認めつつも,反対デモ参加者の攻撃から身を守るためにやむを得ない行動であったとして,両幹部を擁護した。
エ 26日,ケイコ候補はフランス人広告業者のジャック・セゲラ氏の招へいを検討していることを明かした。セゲラ氏は,ミッテラン元大統領やサルコジ前大統領,独裁者と評されるニャシンベ・エヤデマ前トーゴ大統領に協力していたことで知られる。
(2)グスマン「全国民よペルーのために」候補
ア グスマン候補が与党国民主義党のイベントに出席していた際の写真が出回ったことをきっかけに,グスマン候補が隠れた与党の候補ではないかとの指摘がなされた。グスマン候補が,ウマラ政権で短期間であるが首相府官房長や生産省中小企業・工業担当副大臣を務めていたことなどから注目が集まったが,グスマン候補は報道内容を否定している。
イ 24日,大統領候補選出に至るまでの党内手続きに不備があったことを理由とするグスマン候補の立候補の可否につき,特別選挙管理委員会(JEE)はグスマン候補の立候補を認める決定を下した。立候補受付後,9件の異議申し立てが受理され,現在審議が行われている(注:3月4日,JEEは異議申し立てを受け,グスマン候補の立候補を取り消す判断を下した。グスマン候補は同決定の再審を求めると同時に法的手段に訴える意向を示している。同日,グスマン候補の呼びかけにより,同候補の支持者がリマ市内の広場で抗議デモを行った。)。
ウ 29日の報道で,14の州の「全国民よペルーのために」の国会議員候補者リストが受理されていないことが明らかとなった。「全国民よペルーのために」は,現在異議申し立てを行っている。
(3)クチンスキー「変革のためのペルー国民」候補
ア 9日,トレド政権時代のブラジル企業による大洋間横断道路建設工事の不正受注疑惑(ブラジル企業が公共事業の入札を有利に進めるためブラジルやペルーの政府関係者に贈賄していたとされる一連の汚職事件(通称「ラバ・ジャト」事件)のうちの一つ)に関し,国会「ラバ・ジャト」事件調査特別委員会に出席し証言を行った。クチンスキー候補は本件への関与を改めて否定した。
イ 11日,クチンスキー候補は,選挙参謀をビオレタ同党国会議員候補からビスカラ第二副大統領候補に変更し,巻き返しを図ることを明かした。ビスカラ副大統領候補は政策の内容は変更せず,より平易な表現で政策方針を発信するとしている。さらに,ロスピグリオシ元内相が国会議員候補及び渉外部長を退き治安政策チームに協力すること,また,ブラジル人広告業者2名の解任も明らかとなった。
(4)アクーニャ「ペルーの進歩のための同盟」候補
ア 1月に発覚した博士論文剽窃疑惑に続き,アクーニャ候補の修士論文の剽窃(2件),アクーニャ候補の修士論文指導教官であったアルバラード氏による著作の盗作疑惑が指摘された。アクーニャ候補がアルバラード氏の著作の盗作疑惑の追及を免れるため文書を偽造したとの報道もなされている。
イ 15日,アクーニャ候補が選挙キャンペーン中に金銭の受け渡しを行ったとの報道を受けたJEEは事実関係の調査を開始した(注:3月4日,JEEはアクーニャ候補の立候補の取り消しを決定した。アクーニャ候補は同決定の再審を求める見込み。)。
ウ 23日,ライ第二副大統領候補(兼国会議員候補)が立候補を取り下げたことが明らかとなった。表向きには一身上の都合による辞退と説明されているが,元牧師で前国会倫理委員長であり,倫理面に厳格なライ副大統領候補がアクーニャ候補の不正疑惑に耐えられなくなったと見られる。さらに28日には,アクーニャ陣営の広告業者であったファブレ氏が同陣営から撤退することを発表した。
(5)ガルシア「人民同盟」候補
1日,「人民同盟」の国会議員候補者の顔ぶれが発表され,全ての候補が当選前から議員特権を放棄するとのアピールを行った。また,ガルシア候補は,大統領に当選した場合,恩赦も減刑も行わないとの発言も行っている(注:ガルシア第二次政権中に行われた麻薬関連犯罪者の恩赦・減刑問題(通称「ナルコインドゥルトス」)につき,同政権関係者の汚職が指摘されており,ガルシア候補の支持が伸びない一つの要因とされている。)。
(6)主要大統領候補予想得票率(括弧内は前回数値)
ア ダトゥム社:5日〜8日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
ケイコ候補 35%(35%)
グスマン候補 17% (4%)
クチンスキー候補 11%(14%)
アクーニャ候補 8%(10%)
ガルシア候補 4% (6%)
イ イプソス社:13〜18日実施,全国(対象1815名),誤差±2.3%,信頼度95%
ケイコ候補 30%(33%)
グスマン候補 18% (5%)
クチンスキー候補 9%(13%)
アクーニャ候補 6%(13%)
ガルシア候補 5% (8%)
ウ CPI社(第2回):19〜23日,全国 (対象1650名),誤差2.4%,信頼度95.5%
ケイコ候補 33.7%(34.1%)
グスマン候補 18.3%(14.1%)
アクーニャ候補 7.3%(12.6%)
クチンスキー候補 6.8% (7.7%)
ガルシア候補 6.4% (6.2%)
エ GfK社:2月27日〜3月1日実施,全国(対象1552名),誤差±2.5%,信頼度95%
ケイコ候補 34.6%(32.6%)
グスマン候補 16.6%(10.4%)
クチンスキー候補 6.9% (9.5%)
バルネチェア人民行動党候補 5.1% (0.5%)
ガルシア候補 4.3% (6.5%)
3 内政
(1)ウマラ大統領の収賄疑惑
「ラバ・ジャト」事件に関するブラジル国内での捜査で,ウマラ大統領の収賄疑惑が浮上した。ブラジル警察の捜査報告書によれば,ブラジル建設大手のオデブレヒト社が,決選投票を控えた2011年4月頃,ウマラ大統領に300万米ドル相当を贈賄した可能性がある。
(2)ウマラ大統領支持率(括弧内は1月数値)
ア ダトゥム社:5日〜8日実施,全国(対象1200名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持 18%(17%) 不支持 79%(79%)
イ CPI社:5〜9日,全国(対象1650名),誤差2.4%,信頼度95.5%
支持 18.9%(22.3%) 不支持 77.2%(76.3%)
ウ イプソス社:13〜18日実施,全国(対象1815名),誤差±2.3%,信頼度95%
支持 17%(18%) 不支持 75%(75%)
エ GfK社:2月27日〜3月1日実施,全国(対象1552名),誤差±2.5%,信頼度95%
支持 15%(12%) 不支持 80%(83%)
4 外交
(1)ロイサガ・パラグアイ外相の当地訪問
1日,ウマラ大統領及びサンチェス外相が,当地を訪問したロイサガ・パラグアイ外相とそれぞれ会談を行った。ウマラ大統領との会談では,主に二国間関係,経済・通商,太平洋同盟,科学技術協力などが話題となった。サンチェス外相との会談では,二国間関係,インフラ開発,物流・港湾施設の利用に関する協力の可能性,太平洋同盟,メルコスールが話題となった。
(2)エルドアン・トルコ大統領の当地訪問
2〜3日,エルドアン・トルコ大統領が当地を訪問し,ウマラ大統領と会談を行った。同会談では,二国間関係及び協力の強化,貿易の増加,二国間FTA交渉が話題となった。また,二国間技術協力,中小企業間協力,両国国際協力庁の協力,リマ商工会議所とトルコ海外経済評議会の協力,両国国営通信社の協力に関する合意文書にそれぞれ署名がなされた。両国企業関係者が出席したビジネス・フォーラムでは,ウマラ大統領が,二国間貿易が大きく成長する可能性を秘めているというメッセージを発出した。
(3)カテリアーノ首相のパラグアイ訪問
11日,カテリアーノ首相がパラグアイを訪問し,カルテス大統領,ロイサガ外相,マルティネス国防省とそれぞれ会談を行った。カルテス大統領との会談では,二国間経済関係,貿易の増加が話題となった。ロイサガ外相との会談では,両国外相及び国防相からなるペルー・パラグアイ「2+2」政策協議を発足させることが決定された。同政策協議では,治安と国防がメインテーマとなる予定。マルティネス国防相との会談では,紛争地域に派遣される兵士の訓練,人材育成面での協力が話題となった。
(4)ウマラ大統領のキューバ公式訪問
18日,ウマラ大統領はキューバを公式訪問し,ラウル・カストロ議長と会談を行った。同会談では,キューバと米国の外交再開,経済・通商分野における相互協力の深化,キューバが得意とするバイオ・セキュリティ分野における協力,ペルー人がキューバに留学するための奨学金プログラムの導入が主な話題となった。
(5)オランド仏大統領の公式訪問
23日,ウマラ大統領は,当地を公式訪問したオランド仏大統領と会談を行った。同会談では,国際情勢や世界経済が話題となった。また,ペルー教育省国家奨学金プログラムとフランス政府留学局の協力,ペルー環境省と仏エコロジー省による環境及び生物多様性保全に関する協力,学位の相互認定,犯罪人の相互引渡,ペルー・フランス特恵パートナーシップ樹立に関する合意文書にそれぞれ署名がなされた。両国企業家が出席した仏ペルー経済フォーラムでは,ウマラ大統領が二国間貿易及び投資拡大の可能性についてスピーチを行った。
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