4月のペルー内政と外交の主な動きは以下のとおり

2019/6/24
【概要】
(内政)
●デル・ソラール内閣が国会で信任された。
●汚職疑惑でクチンスキー前大統領が逮捕され,自宅軟禁措置を受けた。
●汚職疑惑でガルシア元大統領が留置措置を受けたが拘束前に自殺した。
●政府による政治改革法案が国会に提出された。
●運輸通信大臣及び住宅建設上下水道大臣が交代した。
(外交)
●ポンペオ米国務長官がペルーを訪問した。
●グアイド・ベネズエラ暫定大統領が反マドゥーロ体制蜂起を呼びかけたことを受け「リマ・グループ」が緊急会合を行った。
 
【本文】
1 内政
(1)デル・ソラール内閣の信任
4日,デル・ソラール首相が閣僚とともに国会本会議に出席し,統合と汚職対策,統治のための制度強化,公正かつ競争力のある,持続可能な経済成長,社会開発と国民福祉,発展のための地方分権を5つの柱とする所信表明演説を行った。約16時間にわたる審議を経て5日未明,賛成多数により信任されデル・ソラール内閣が正式に発足した。報道では,内閣は信任されたものの信任賛成票が過去の内閣に比べて少ないことから厳しい船出となったことが指摘された。
(2)クチンスキー前大統領の逮捕,自宅軟禁措置
ア 10日,司法府がペドロ・パブロ・クチンスキー前大統領に対し「ラバ・ジャト」事件と関わる資金洗浄の疑いで10日間の留置(detencion preliminar)措置及び同前大統領が所有する不動産に対する家宅捜索を命じた。具体的には,クチンスキー前大統領が設立した投資コンサルタント会社(Westfield社及びFirst Capital社)がオデブレヒト社からコンサル料の名目で受け取った資金の出所及び資金の移動につき不審な点があり,資金洗浄が疑われたもの。裁判所の命令を受け同日,クチンスキー前大統領は警察に伴われてリマ市内の自宅を出,メディカルチェックを受けた後,リマ市内の留置場に移送された。
イ 27日,司法府はクチンスキー前大統領に対する自宅軟禁措置を命じた。検察庁は当初,留置に続き36か月の勾留(prision preventiva)措置を司法府に請求したが,同前大統領が体調不良によりリマ市内の病院に入院したことを受け,自宅軟禁措置に切り替えたもの。
(3)政府による政治改革法案の提出
11日,政府が憲法改正を含む12の政治改革法案を国会に提出した。本件政治改革法案は,ビスカラ大統領の諮問機関として設置された「政治改革ハイレベル委員会」(通称トゥエスタ委員会)が3月20日に提出した改革の草案に基づくもので,12法案のうち4法案は憲法改正を伴う。同日ビスカラ大統領は国民向けメッセージを発出し,本件法案審議の緊急性を訴え,可能な限り早期に法案を可決成立させるよう国会に強く求めた。報道によれば,当初ハイレベル委員会の草案には二院制への復帰が含まれていたが,昨年末の国民投票の結果を受け政府の判断で本件の国会への上呈は見送られた。
(4)ガルシア元大統領の自殺
17日,司法府は「ラバ・ジャト」事件に関与した疑いでアラン・ガルシア元大統領に対し10日間の留置(detencion preliminar)措置及び家宅捜索を命じた。ガルシア元大統領とオデブレヒト社を巡っては,リマ・メトロ1号線,太洋間横断道路建設等の事業における汚職がかねてから疑われていた。同日早朝,検事及び警察がガルシア元大統領を拘束するために同宅へ赴いたところ,同元大統領は寝室に篭もり拳銃で自身の頭を撃ち抜いた。その後,同元大統領はリマ市内の病院に緊急搬送され応急措置を受けたが,数時間後に死亡した。同日,首相府は17~19日を国喪期間とする旨発表した。他方,政府は遺族に対し国葬の可能性を打診したが遺族はこれを断った。なおモラン内務大臣はガルシア元大統領の拘束に向かった警察官に落ち度はなかったと弁明した。
(5)運輸通信大臣及び住宅建設上下水道大臣の交代
ア 14日,トルヒーヨ運輸通信大臣及びブルース住宅建設上下水道大臣が辞任した。トルヒーヨ運輸通信大臣は,ラス・バンバス鉱山紛争が発生する原因の一つとなった鉱山周辺の道路建設の遅延,車両火災で多くの死者を出したバスターミナルに運輸通信省が営業許可を出していた問題等で責任を追及されていた。また,複数の国会会派がトルヒーヨ大臣に対しチンチェロ国際空港(クスコ州)の新規建設計画等の事業につき説明を求めるとして,同大臣の国会喚問に向けて署名を集めていた。ブルース住宅建設上下水道大臣(兼与党議員)を巡っては,北部の犯罪組織との関係を疑う報道が出たことで,アバロス検事総長が同大臣を含む5名の国会議員と北部の犯罪組織との関係につき60日間の予備捜査を開始していた。デル・ソラール首相は両大臣の辞任はビスカラ大統領の支持率低下とは全く関係がないと説明した。
イ 26日,新運輸通信大臣及び新住宅建設上下水道大臣が任命された。両名の氏名,略歴は以下のとおり。
・新運輸通信大臣
マリア・ハラ・リスコ(Maria JARA Risco)
私立カトリカ大学法学部卒(弁護士),同大学院修士課程修了(知財法)。NPO法人「トランシテモス財団」代表,Jara Consulting Groupチーフコンサルタント。元運輸通信省陸運総局長。運輸事業監督庁(SUTRAN)長官。リマ市都市交通課長,国家オンブズマン機構公共サービス部門長などを歴任。
・新住宅建設上下水道大臣
ミゲル・エストラーダ・メンドサ(Miguel ESTRADA Mendoza)
国立工科大学(UNI)卒(地理情報工学)。東京大学大学院博士課程修了(社会基盤工学博士)。国立建設技術訓練センター(SENCICO)長。元日ペルー地震防災研究センター(CISMID)所長。元国費留学生。国内外での教歴多数。
(6)ビスカラ大統領支持率(括弧内は特記ない限り前月のもの)
ア ダトゥム社:6~8日実施,全国(対象1214名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:49%(56%) 不支持:44%(36%)
イ イプソス社:10~12日実施,全国(対象1212名),誤差±2.8%,信頼度95%
支持:44%(56%) 不支持:45%(31%)
ウ IEP:18~24日実施,全国(対象1252名)誤差±2.8%,信頼度95%
支持:42%(44%) 不支持:46%(43%)
 
2 外交
(1)ポンペオ米国務長官の来訪
13日,ポンペオ米国務長官がペルーを訪問し,ビスカラ大統領及びポポリシオ外務大臣と二国間会談を行った。会談ではペルーにおける汚職対策,麻薬,資金洗浄,違法鉱業,森林伐採,密輸,人身売買,テロ等の対策における協力,ペルー・米国FTA,ベネズエラ避難民問題,ペルーのOECD加盟希望等が議題にのぼった。また会談後の共同記者会見でポポリシオ外相は,ベネズエラ情勢に対するリマ・グループのコミットメントを強調した。ポンペオ長官からは,ペルーがベネズエラ問題への対応においてリーダーシップを発揮しておりまた多くのベネズエラ避難民を受け入れていることを賞賛する旨の発言があった。
(2)ベネズエラ情勢
30日,グアイド・ベネズエラ暫定大統領の呼びかけにより反マドゥーロ体制蜂起が起き治安当局との衝突が生じたことを受け,「リマ・グループ」が緊急外相会合(ビデオ会議)を開催し,「リマ・グループ」として改めてグアイド暫定大統領を支持し,ベネズエラ国軍に対しマドゥーロ体制から離反するよう呼びかける旨の12か国共同声明を発出した。ポポリシオ外相はペルーメディアの電話インタビューに応じ,ペルーとしてグアイド暫定大統領への完全な支持を改めて表明するとともに,今般の事態はマドゥーロの違法な独裁体制の終わりの始まりである旨コメントした。